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20200215102533

Nicolas Almagro

ニコラス・アルマグロ

 生年月日: 1985.08.21 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  ムルシア(スペイン)
 身長:   183cm 
 体重:   86kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  Joma 
 シューズ: Joma 
 ラケット: Völkl Organix Super G 10 Mid 320 
 プロ転向: 2003 
 コーチ:  なし  

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 強力なサーブとパワフルかつ粘り強さや安定感も兼ね備えた弱点の少ないストロークを武器に、クレーコートで絶大な強さを発揮する個性豊かなベースラインプレーヤー。06年にバレンシア(250*)で予選上がりからツアー初優勝を遂げたことをきっかけにブレイクすると、以降毎年着実にタイトル数を積み上げる活躍を見せている。10年に2度目のトップ20入りを果たしてから4年間その圏内を守った実力に疑いの余地はなく、08年、09年に達成したアカプルコ(500)の2連覇などビッグタイトルも十分に持ってはいるが、どちらかといえば格上のいない大会を確実に制しているのが彼の特徴で、そうした意味では「平場のクレーキング」とでも称したい存在だ。年間の約半分はクレーの大会にエントリーする特異なスケジュールの組み方に、彼がいかにクレーを好んでいるかということが表れている。クレーを得意とするという意味ではスペイン人の典型といえるが、守備力や粘り強さが際立つタイプではなく、むしろ彼の場合クレーでの攻撃力を追求してきたプレーヤーで、フォア、バック両サイドともに高い打点から一直線に打ち抜く球威が持ち味という一味違った魅力を持つ。プレースタイル的には速いサーフェスでも活躍できそうだが、これまでのキャリアにおける数多くのタイトルと準優勝はすべてクレーの大会と成績も偏っている。とはいえ、ここ数年はクレー以外のサーフェスでの戦闘力も着実に上げてきており、とりわけスローハードでは十分に強豪と呼べる力を発揮できるようになっている。

両サイドから一直線に打ち抜く球威が脅威となるストローク

 ストロークは、いわゆる“クレーコーター”の代名詞ともいえる、相手を徐々に追い込む強烈なトップスピンボールではなく、切れ味抜群のフラット系のショットが主体であり、ダイナミックな攻めでウィナーを連発する。テイクバックの大きい独特なフォームで打つシングルバックハンドは彼の最大の武器で、試合を組み立てる軸となるショットである。そこからの攻撃力はツアー屈指で、ナダルのフォアとのマッチアップでもそれが少しでも甘ければ逆襲できる高い能力がある。中でもダウンザラインへの強打は彼自身が自信を持って打っている印象で、威力・精度ともにトップクラスを誇る。クロスのラリーでしっかりと打ち合って優位に立ち、相手の足を止めてからストレートへ展開するため、決定力は非常に高い。また、相手に読ませないために、打つ瞬間までコースを隠す技術に優れているのも強みの1つである。フォアハンドもまた強力で、一見手打ちにも見える何気ない打ち方だが、鋭いスイングと強烈なインパクトでボールに威力を与える。全体的には“剛”のイメージが強いアルマグロだが、意外にもドロップショットが得意で、絶妙なタッチとタイミングで相手を惑わす。技術的な弱点としては、スライスボールに対してのショットの精度が落ちる点で、低いボールを自在に操るプレーヤーとは相性が悪い。

「勝つためには攻撃あるのみ」という超攻撃的なテニス

 思考としては「勝つためには攻撃あるのみ」という超攻撃的なタイプであり、サーブ、リターン、ストロークどこからでも絶えずウィナーを狙っていくのはもちろん、守備局面においてもスライスで凌いだり、元のポジションに戻る時間を稼ぐために高い軌道を使うといった姿勢もほとんど見られない。ただ、クレーでは生きる大振りスタイルが、他のサーフェスでは逆に弱点となり、早いタイミングで返されると不十分な体勢で打たざるを得ず、ミスを出すことが多い。彼の攻撃力はしっかりと振り切るスイングがあってこそのもので、それが継続的にとれない速いサーフェスでは強さを発揮しきれない。それを改善すべく最近は意識的にハードでの強さを求めているようだが、速い展開に合わせてややコンパクトに矯正したスイングが、今度は彼本来の良さである豪快さを消した部分もあり、クレーでの強さに陰りが見える。しばらくはそのあたりのバランス調整に時間がかかりそうだ。また、ショットの緩急や巧みな技に支えられた攻撃力ではなく、猛烈な球威で相手を押し込むスタイルであるため、ひとたび確実に対応され、深く返球されると打開策に乏しい。自分が強く打ちすぎるあまり次の返球への対応が遅れ、ミスが出てくるのが悪い癖で、とりわけ守備力の高いプレーヤーとの対戦時にこの傾向が顕著に表れる。強打に頼りがちな速い攻めに緩急が加われば、更なる強さを手に入れられるだろう。

クイックモーションからエースを量産するサーブ

 クイック気味のモーションから繰り出されるサーブも彼の武器の1つで、1stのフラットサーブは常に200km/hを超える。他のプレーヤーよりもクレーの試合が占める割合が多いにもかかわらず、1試合平均のエースの数や1stのポイント獲得率で上位に位置しており、データからも彼のサーブの強さが証明できる。

速い打ち合いで露呈する未熟なフットワーク

 守備力の弱さは彼の大きな弱点で、フットワークに多少の難がある。速い打ち合いでは半歩足りない状態からの無理な強打でミスをして崩れていくケースが多く、クレーでの成績が良いのもフットワークの弱さが球足の遅いサーフェスなら緩和されるからという見方も可能である。

ベストコンディションなら再びトップ10に挑戦できる

 ここ最近はすっかりトップ20に定着してきたアルマグロだが、まだまだ同胞のナダルフェレールの影に隠れていて、地味な印象が強い。上位陣からの勝利、つまり番狂わせが少ないのも理由の1つかもしれない。ただ、テニス自体はド派手と称するにふさわしく、ベースラインからの凄まじい強打が連続して入っている時は、どんなに堅い守備をも崩しうる威力を誇る。プレーの柔軟性や守備能力、メンタル面のムラなど改善すべき課題も多く、また14年以降は怪我による離脱の影響もあって成績は下降傾向にあるが、本来の調子を取り戻せば再びトップ10の壁に挑戦していくだけのポテンシャルは持っている。

 

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Janko Tipsarevic

ヤンコ・ティプサレビッチ

 生年月日: 1984.06.22 
 国籍:   セルビア 
 出身地:  ベオグラードセルビア
 身長:   180cm 
 体重:   80kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  FILA 
 シューズ: FILA 
 ラケット: Tecnifibre T-Fight 320 
 プロ転向: 2002 
 コーチ:  Dirk Hordorff, Rainer Schuettler 

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 ベースラインから展開するタイミングの早い強打の波状攻撃と粘り強さが際立つ守備力を併せ持つ、バランスの整ったテニスを持ち味とするセルビアのNo.2プレーヤー。プレースタイル的には優れたフィジカルを活かしたパワー系のストローカーに分類されるが、その実、相手の出方に対応しつつ攻守を出し入れできる知的なプレーが強さのベースになっているという、二面性を持ったタイプである。彼の名を聞いてしばしば思い出されるのは08年全豪3回戦におけるフェデラーとの一戦で、4時間半近い激闘の末敗れたものの、トップを撃破する潜在能力の高さを備えた危険なプレーヤーであることを十分に印象付けた。その後もしばらくは燻っていたが、11年に全米でベスト8に進出し、クアラルンプール(250)では念願のツアー初優勝を飾るなど一気にブレイクを果たした。実際のランキングこそ上昇気流に乗ってきたのはその時期であるが、デビスカップではセルビア代表として00年以降常に名を連ねる経験豊富なプレーヤーであり、10年には母国を悲願の初戴冠に導く立役者の一員となった。以降自らのプレーに自信が持てるようになり、同郷で親しい友人のジョコビッチの活躍に影響されたように急速に実績を積み上げ、一時期はトップ10としての地位を確固たるものとしていた。また、同じく11年に飛躍を遂げた錦織が5戦全敗を喫した「天敵」としてや、腕や背中に日本語でタトゥーを彫るなど、日本でも馴染みの深いプレーヤーである。加えて、オフコートではかなりの知性派で、ニーチェドストエフスキーが愛読書という、テニスプレーヤーとしてはやや変わり種でもある。サングラスはティプサレビッチのトレードマークで、ボールが見やすいという理由からプレー中はいつでも着用している。ハードコートを最も得意とするが、他が苦手ということはなく、どの大会でも安定した力を発揮する。

体の軸回転で放つフルスイングの強打が武器のストローク

 ストロークはフォアハンド、バックハンドともに体の軸の回転を使ったフルスイングが特徴であり、主な球筋はスピンとフラットのちょうど中間あたりで、威力と安定感のバランスがうまく保たれている印象。とはいえ、しっかりと構えた状態から前に踏み込んで放つショットはフォア、バックに関係なく凄まじい威力を誇る。ラリー中の基本的なスタイルとしては、ベースライン後方からはゆっくりと繋ぎ、相手の攻めに対して粘り強く返球、そしてチャンスと見るや一気に早いタイミングでストレートへ強烈な打球を打ち込む形を得意とする。緩いボールに対しては同じく緩めのボールで付き合い、相手がペースを速めてくればフラット系のショットで応戦する形が目立つ。つまり、自らリスクを背負ってどんどん打ち込んでいくよりは、ラリーの中で相手との間合いを計りながら機を見てウィナーを狙う堅実なテニスといえる。ゆえに彼の試合では、相手のレベルに関わらずニュートラルな好ラリーが展開されることが多い。中でも精度が高いのはバックで、完成度の高いダウンザラインが大きなポイント源になっていることはもちろん、膝付近の低い打点からでも強烈なショットを繰り出せる柔軟性も兼ね備える。トップとの激しいハードヒットの打ち合いをまったく苦にせず、変化を付けられるよりはむしろそういった真っ向勝負の方が彼のテニスは輝きを放つ。ラリーで優位に立てばネットプレーに転じることが多く、そこから繰り出されるボレーも別段うまさがあるわけではないが、無難にこなす確実性がある。

タイミングとパワーで相手を押し込むクイックサーブ

 決して上背のあるプレーヤーではないが、クイック気味の早いモーションから繰り出されるサーブも彼の武器の1つで、対戦した多くのプレーヤーは彼のサーブに苦しめられたと語る。アドバンテージサイドでは他のプレーヤーよりもセンターから離れた立ち位置から打つため、ワイドの非常に厳しいコースにもスピードを落とさず、フラットで入れられるという特徴がある。また、相手の意表をつくサーブ&ボレーの織り交ぜ方も効果的で、勝負所で選択することも多い。

下半身の粘り強さがファイターたる所以

 最後まで諦めず粘り強く返球するコートカバーリング力もまた持ち味の1つである。体勢を崩されても確実かつ強いボールが打てるのは、彼の身上である下半身の粘り強さによるものである。一方、スライドの技術があまり高くないため、左右に大きく振られると踏ん張り切れず、体が流れてしまい次の動きが一歩遅れてしまう傾向があり、欠点となっている。バックハンドはそもそもオープンスタンスを使わないため、とりわけバック側で顕著に見られる。

怪我の回復を信じて懸命に現役を続ける姿が感動を誘う

 劣勢に置かれると闘志が空回りして冷静さを失う悪い癖がある点や、プレーにやや緩急を欠く点など、細かな課題はあるものの、全体が整っている分大きな上積みは見込みにくい。今の実力を考えれば現状を維持することが当面の目標となりそうだが、もとより彼のテニスはそれほどリスクを負うことなく総合力で勝負するタイプであり、そもそも予想されていなかったトップ10定着を実現していることから、好調時のテニスを継続させる力はすでに実証済みだ。14年以降、左足踵部分に発症した腫瘍からの回復に長い時間を要し、復帰後もペースを抑えての大会出場が続いているが、彼自身は自分の全盛期はまだ先にあると信じて懸命にテニスへ取り組んでおり、成績はともかく彼が元気にプレーする姿を見るだけでファンとしては感極まる思いである。

 

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David Ferrer

ダビド・フェレール

 生年月日: 1982.04.02 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  ハベア(スペイン)
 身長:   175cm 
 体重:   73kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  lotto 
 シューズ: lotto 
 ラケット: Wilson Blade 98 (16×18) 
 プロ転向: 2000 
 コーチ:  Francisco Fogues  

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 どんなに厳しく振り回されても決して諦めることなく粘り強く最後まで追い続ける堅牢な守備力と、精度の高いストロークで相手を追い込む確かな攻撃力を併せ持ち、決して恵まれているとは言えない体格ながらも屈強なフィジカルで長年世界のトップとして活躍するスペインのNo.2。ツアー本格参戦の03年から着実に力をつけてきた中、07年に全米でナダルを破って準決勝進出、勢いそのままに出場権を勝ち取ったマスターズカップでも並み居る強敵を相手に圧倒的なフォアハンドでウィナーの山を築いて準優勝に輝き、名実ともにトップの仲間入りを果たした。持ち前の敏捷かつ粘り強いフットワークと、体力勝負で彼の右に出る者はいないと言われる無尽蔵のスタミナを武器に、ベースライン付近に踏みとどまって中程度のスピードのボールを確実に左右に散らして相手を振り回し、チャンスと見るや一瞬にしてポジションを上げて攻勢に出ていく彼のスタイルは、単純なだけに打ち破り難く、対策も立てられないため、どんなプレーヤーでも打倒するのが非常に難しい。ミスをほとんど出さない手堅いショット選択と、それを実現する技術と体力をすべて備えた、まさにストロークの要塞である。中でも相手の一瞬の隙を見逃さない抜け目のなさと巧みな判断力が彼の攻撃を支える重要な要素となっている。日本では、07年のAIGオープン(500)制覇に加え、08年全米3回戦や12年ロンドン五輪、14年の4度の熱戦など錦織がキャリアのあらゆる節目で対戦していることでも馴染み深いプレーヤーである。スペイン人であるがゆえ、最も得意とするサーフェスはクレーで、13年全仏のファイナリストであるが、全豪や全米でもベスト4に複数回入るなどハードでの強さにも定評があり、どのサーフェスでも堅実なテニスで上位に進出している。かつての彼は「ハードでも強さが落ちない」という評価だったが、今や「すべてのサーフェスで強い」という言葉に置き換えた方が適当だろう。また、実戦の中でコンディションを上げていくタイプで、トップの割に出場大会数が多く、試合間隔が短いのも彼の特徴といえる。

鋭角の逆クロスが抜群の決定力を誇るフォアハンド

 フォアハンドは身長の不足分を補うため、良い体勢で打てる時は少しジャンプしてボールを捉える。全体的に自分のパワーではなく、相手のショットのパワーを巧みに利用した打ち方で、高く弾むボールに対しても的確に対応する。主にミスの少ない強めのトップスピンをかけたショットで深く返球し、チャンスをじっくり待つことが多いが、フラット系の威力のあるショットも持ち合わせており、これら球質の異なるショットを使い分けて“空間”をうまく利用することで相手に的を絞らせない。ひとたびラリーで主導権を握れば、絶対に手放さないとばかりに深いボールを連発し相手を苦しめる。当然トップレベルにおいては反撃に遭う場合もあるが、自らチャンスをみすみす逃すようなことは滅多にない。その攻撃的なプレーにおいて最も鍵を握るのが、彼の最大の武器である回り込みフォアから鋭角への逆クロスであり、主な得点源となっている。このショットにおいてはパワーやスピードで一気にウィナーで決め切ることも、回転やコントロールで相手をコート外へと追い出し、そこを起点としてネットプレーに繋げたり、大きく空いたオープンコートにバックのストレートを叩き込んでポイントを奪うこともできる。彼が守備力を持ち味にしていることは疑いようのない事実であるが、決して守備的なプレーヤーではない。

ポイントを締める正確なネットプレー

 ネットプレー自体の技術もストローカータイプの割には高く、特にじっくりと組み立てることのできるクレーの試合ではラリーを優位に進められるため、積極的にネットにつき正確なボレーでポイントを取る。その決定率の高さにはネットへ出る際の非常に素早いフットワークが貢献している。

柔軟性を活かした対応力が際立つ安定感のあるバックハンド

 バックハンドは両手打ちながらフォロースルーで左手を離して大きなパワーを生み出しているのが特徴であり、その軌道はフォアに比べてフラット系が多い。突出した威力はなく、ウィナーを頻発する類のものではないが、高い打点からでも広角にコントロールする能力で、相手に与えるダメージは大きい。また、走っている時の重心の低さそのままに、右膝が地面に着きそうな程低い体勢からでもミスなく安定して返球できる柔軟性は特筆に値する。良くない時は浅いボールに踏み込めず必要以上に打点が落ちてしまう分、持ち上げきれずにネットにかけるミスが増えてくる傾向がある。

一発の怖さではなくダメージの蓄積が最大の強み

 彼のテニスの最大の強みは、切り札となる一発のショットや特定のポイントパターンではなく、ボールの深さによる相手へのダメージの蓄積である。ベースライン後方では高い軌道で深いボールを打って相手からの反撃を許さないラリーを展開し、ベースライン上では自分と相手の状況を見極めながらチャンスを窺い、またチャンスメークできるボールを打って展開する。そしてベースライン内側に入るとネットを積極的に窺いトドメを刺すショットを使う。このようにコートを3つのゾーンに分け、自分のポジションでショットを選択する。

敏捷かつ粘り強いフットワークと無尽蔵のスタミナ

 フットワークは彼のテニス全体を支える必要不可欠な要素であり、アジリティー能力の高さはナダル以上とも言われる。一発のカウンターを喰らうという恐怖感は小さい相手だが、どれだけプレーしてもダメージを与えられないという蟻地獄のような守備力を究めたプレーヤーであり、それもまた別の意味で心理的な圧迫となる。また、フットワークの基盤となる体力面でも非常に突出しており、ロングラリーが終わった後でも膝に手をついて息を整えるといった姿をほとんど見せない。通常クレーでの試合では、プレーの堅実さを求めてベースラインから下がってプレーするものであるが、彼の場合、得意のフットワークを活かしてクレーでもベースラインからあまり下がることなく、あえて高いポジションを維持することで、守備から攻撃へのスムーズな切り替えを可能にしている。ただ、スライドの技術に多少の不安を残しており、その点が改善されればさらに脅威は増すはずだ。返球能力の高さとその安定感はバックサイドの方が上であり、フェレール攻略の鍵は右利きのプレーヤーであればバックのダウンザライン。彼はこのショットを武器にしているプレーヤーに苦しめられている印象が強い。

2ndの質の高さで懸命に弱さをカバーするサーブ

 サーブは以前に比べれば、特に1stの威力が増したことでエースやフリーポイントの数も増えている。3球目を内側に入って攻める形を作るサーブが打てている時はそう簡単にブレークは許さないが、とりわけトップレベルではラインを狙ったサーブが少し内に入ったり、ボディ狙いが少し外れることが多く、容易に鋭いリターンを返されて守勢に回らされるケースが見受けられる。しかし、2ndの精度は高く、一方的に攻め込まれてポイントを落とすようなことはあまりなく、スピンの効いたサーブでしっかりとラリー戦に持ち込むことはできており、2ndのポイント獲得率は上位に位置する。テニスのスタイル的にももう少し1stの確率を上げられれば御の字だろう。

跳ねるサーブの返球技術が天下一品のリターン

 リターンにおいてはジョコビッチ、マレーと並んで世界最高の技術を持っており、相手のサーブに対して十分な重圧を与えられている点で大きな武器といえる。1stに対してもスライス系のリターンを選択することはほとんどなく、一瞬にしてラケットの面を合わせ、深さや角度をコントロールする技術に長けているが、とりわけ際立つのは2ndのリターンの精度の高さ。高く跳ね上がるスピンサーブに対してのリターンが天下一品で、力の入りにくい頭の高さのボールを苦もなくライジングで体重を前に乗せて綺麗に返球できる。そのうまさはしばしば同世代のフェデラーが絶賛するところで、実際リターン関連のスタッツでは常にトップクラスに位置する。したがって、サービスキープができる試合であれば、勝ちを計算できるということである。

相手や状況に関係なくひたむきさを貫く強靭なメンタル

 彼自らが自信を持っていると話すメンタル面の強靭さも特筆すべき長所の1つで、とりわけ根気強さは現役ナンバー1といっても過言ではない。自分自身を盛り上げていくのがうまいプレーヤーで、声を出して一球一球気持ちを上げていく。ゆえに、大事なポイントでも硬くなることが少なく、良いプレーをすることができる。相手が格上でも格下でも、勝っていても負けていても、試合の始めから終わりまで自分がやるべきことを見失わず、ひたむきに実践し通せる点も精神力の強さの証だろう。

若手にとって最高の模範、ベテランにとって勇気をもらう存在

 ツアー屈指の安定感を誇るテニスは三十路を超えた現在も健在で、いまだ年を追うごとに進化を続けている。12年にはパリ(1000)で念願のマスターズ初優勝を果たすなど、ハード、インドアハード、クレー、芝すべてを含む7タイトルを獲得しており、年間を通してのツアーでの存在感はビッグ4にも引けを取らない。弱点を挙げるとすれば、自分よりもポジションが高く、タイミングの早い攻撃を仕掛けてくる相手に対して苦手意識がある点だが、逆に言えばそうでもしなければフェレールに勝つのは困難ということ。年齢的な衰えがないわけではなく、最近は脚力の低下や反応の鈍さが顕著となり、パワーやスピードで押し切られての敗戦や、珍しく苛立って感情的になることもやや増えているのが気がかりで、パワフルな若手がツアーを賑わす中で苦しい時期を迎えている。元々リーチの長さはなく、足を使って展開をかき回すことで相手に打ち勝ってきた彼にとって、敏捷性の衰えは致命傷だ。それでも16年からは長年慣れ親しんだコントロール系からよりパワーを出せるラケットに変更して戦うなど、勝利への飽くなき闘争心は消えていない。オンコートでは常に一球一打に全身全霊を注ぎ込む姿勢が、オフコートでは非常に謙虚な立ち居振る舞いが、それぞれ今後トップを目指す若手にとって最高の模範であり、ベテラン勢にとっても勇気をもらえる存在であろう。ファンからもプレーヤー間でも尊敬されるプレーヤーなだけに、再びトップ10に返り咲き、あるいはビッグタイトルに手をかけるようなシーンを期待したい。

 

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Grigor Dimitrov

グリゴール・ディミトロフ

 生年月日: 1991.05.16 
 国籍:   ブルガリア 
 出身地:  ハスコヴォ(ブルガリア
 身長:   191cm 
 体重:   81kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Wilson Pro Staff 97(18×17) 
 プロ転向: 2008 
 コーチ:  なし 

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 ジュニア時代からその才能とテニスセンスを高く評価され、次世代王者の筆頭候補として世界中からの巨大な期待を背負うブルガリアのスタープレーヤー。多様な球種を操りながら相手を揺さぶって崩すことも、スピードとパワーで振り切ることもできる、極めて多彩なオールラウンダーであり、創造性溢れる華麗なプレーはすべてにおいてフェデラーと共通する点が多く、“ベイビー・フェデラー”の異名を持つが、ディミトロフ自身は自分のスタイルを確立したいとして、そこからの脱却を目指している。また、一時期はシャラポワの恋人としてコアなテニスファン以外にも知名度がアップした。いずれも相当重いプレッシャーを伴う肩書きだったが、彼はまさにこれを力にして勢いづいた印象で、13年終盤にフィジカル強化に定評のあるラシードをコーチに迎えるとストックホルム(250)でのツアー初優勝を皮切りに、14年にはアカプルコ(500)で連夜の激戦を乗り越える驚異のタフさを見せてタイトル獲得、ウィンブルドンで前年覇者のマレーを一蹴してグランドスラム初のベスト4を記録するなど、堂々のテニスでトップ10入りも果たした。しかし、そこで勢いが頭打ちとなり以後スランプと言ってもいい長い低迷に突入してしまう。あまりにテクニックがありすぎるために各局面でプレー選択に迷いが生じ、気持ちの面で攻撃的になれなかったことが大きな原因だった。それでも16年後半にようやく本来の姿を取り戻し、17年には全豪でベスト4に進出、惜しくも4時間56分の大熱戦の末ナダルに敗れたものの、真の実力を発揮できればグランドスラム優勝も紙一重のところまで来ていることを強くアピールした。同年シンシナティ(1000)では成熟度の高い安定したテニスで自身初のマスターズ優勝、彼も含めてフレッシュな顔ぶれが揃ったシーズン最終戦ATPファイナルズのタイトルも獲得し、文字通りキャリアのベストシーズンに華を添えた。台頭してきた頃は間がしっかりとれるクレーの方が戦いやすそうな雰囲気があったが、本来は芝やハードコートを得意としており、テニスが完成形に近づくほど速いサーフェスでの好成績が続いてくるようになっている。

ボールを打ち抜く能力の高さはツアー屈指の一級品

 ストロークは全身をしなやかに使ったダイナミックなフォームが特徴。自分のスイングで作ったエネルギーをインパクトの一点に集中させてボールを加速させるという能力は、プロでもその巧拙に差が出るものだが、彼のそれは一級品と呼べる質の高さを誇る。ストローク戦での思考としては、しばしば比較されるフェデラーが3~5本の短いポイントで勝負を仕掛けるのに対し、彼は強靭かつ柔軟なフィジカルを存分に活かして少し長いラリーでゲームをしっかりと組み立ててからの展開を得意としている。

長い腕が鞭のようにしなる切れ味鋭いフォアハンド

 滑らかな動きの中でというよりは力を溜め、長い腕をムチのようにしならせながら一気に解放することでスピードのあるボールを打ち込むフォアハンドは彼の最大の武器で、攻撃的なテニスの生命線となるショットである。元々フォーム的に長い溜めが作れるうえに、ラリー戦では打点をワンテンポ遅らせて強い回転を操るため、一打ごとに相手の動きを止められるのが強み。また、高い打点からボールを叩く能力に秀でており、攻撃に出た時の一撃の切れ味の凄まじさが大きな魅力だ。しっかりと構えてフルスイングで放つ時はもちろん、スイングスピードが速いためハイテンポの打ち合いでもすべてのショットが滑るような軌道でバウンド後に伸びていく。右足で力強く踏ん張り、外側から巻き込むスイングでクロスコートに引っ張る強打の伸びは特に突出しており、追い詰められても強いボールを返球する感覚はツアー屈指といえる。また、逆クロス気味のストレートでコーナーを突く形も得意としているが、さらに最近レパートリーに加えているのはラリー中の一瞬の判断で斜め前に飛び込みながらショートバウンドで処理し、その動きの流れでネットに詰めてボレーで仕留めるパターン。押され気味の打ち合いを一球でひっくり返すこのライジングカット戦術はまさに鮮やかの一言に尽きる。改善したいのは回り込んで打つ際の判断力で、なるべく多くフォアを使おうという意識は評価できるが、有効打を打てないにもかかわらず回り込んで処理すると、相手に対して逆サイドに隙を与えることになってしまう。高速ラリーの中で攻撃できるボールか否かの見極めがラリーを制する鍵になりそうだ。

多彩な展開力の生命線となるシングルバックハンド

 シングルハンドで放つバックハンドは早めのセットから深く膝を曲げて長い溜めを作り、そこからその膝をインパクトに向けて伸ばしていくことでパワーを出していくフォームが特徴で、肩の可動域の広さを最大限に活かした振り抜きの良さが持ち味。フォアに比べると軌道の高いスピン系が多く、バックは基本的に多彩さを前面に出した組み立てや展開のショットになっているが、相手のボールが甘くなればフラットに叩いて鋭いウィナーを奪うことも十分にできる。また、スライスのキレが抜群で、かつコントロール性能も高い。これをラリーの中に効果的に使えるようになってからは、組み立てから崩しにかけてのバリエーションが大幅に増加した。今のツアーにおいてスライスだけで相手を幻惑し、完全に崩し切ることのできる数少ないプレーヤーの1人だ。同じフォームからドロップショットも多用してコートを広く使い相手を翻弄する。課題としては、フォーム的な特徴で後ろ重心になりやすいためにパワーロスや短い返球が目立ち、また弾むスピン系のボールは打てても、速い展開を使いづらくなっている点か。スライスでの散らしは効果的とはいえ、それが中心となるとライジングのハードヒットがあまり得意でない弱みから怖さが半減する可能性もある。鋭く滑る攻めのスライスとは別に、ゆったりと深く返球するようなスライスを覚えてディフェンスを安定させるとともに、インサイドアウトのスイング軌道でボールを上から叩く技術を改善し、ダウンザラインへの決定打の頻度と精度を向上させることが、更なるレベルアップには必要不可欠だろう。

高速フラットが高いポイント獲得率を生むサーブ

 リラックスしたフォームから放たれるサーブも武器の1つで、年々その威力は増している。特別長身というわけではないが、高い打点から叩きつけるような角度が相手を苦しめる要因の1つで、とりわけ彼が得意とするのは1stで放つ最速220km/hを超えるフラットサーブ。スピンサーブやスライスサーブももちろん持っているが、基本的に1stはフラット気味にライン際へエースを狙いにいく戦術をとっており、極めて高いポイント獲得率を誇る。2ndの精度にムラがあるのがサーブにおける弱点で、特に大事なポイントでダブルフォルトを重ねる傾向だけは早急になんとかしたい。この点さえ改善できれば盤石なサービスゲームを手に入れられるはずだ。

瞬発性と持久性を高度に兼備する驚異的なフィジカル

 突出した足の速さは彼のスピーディーなテニスを攻守両面で支える絶大な強みである。フットワーク自体はまだまだ洗練の余地があるが、瞬発性と持久性を高度に兼ね備えたタフなフィジカルを駆使した直線的なスピードとコートカバーリングの広さは驚異的で、とりわけフォアサイドの守備範囲とカウンター能力は目を見張るものがある。また、身体も非常に柔らかく、大きく開脚したり深く重心を下げた状態での返球が印象的で、時折見せるアクロバティックなプレーもこの柔らかさあってのものである。こうした運動能力の高さが前面に出た身のこなしや、大事なポイントでの大胆な思考、派手なガッツポーズなど、意外とジョコビッチ的ともいえる部分が多い。ただ、ボールに入る足運びが安定しておらず、特にバックのスピンを打つ際にドタバタとした慌しさがあり、打球時の上下動や上体のブレも散見される。全体的に1歩踏み込みが足りないということが多く、ボールを待ちすぎることで畳みかけるような攻撃にならず、決定打を放つ機会を自ら逸しているために、想定外のロングラリーが増えてしまう。また、自らが打つボールのペースやスピードに自分がついていけない場面が時折見られ、フットワーク技術と大きなフォームとの関係の修正が求められていたが、スランプから復活した勢いを更なる成長に繋げた17年の充実した戦いぶりはまさにこの点を解消したことが大きな要因ともいえ、得意のスライスで意図的にペースを落として主導権を握り、自分と相手の状況を見ながら攻勢に転じるテニスへシフトした感があり、長所である非の打ちどころのない技術力をより前面に出せるようになった。これによりいまひとつだったハードコートでの戦い方が特に向上し、強靭なフィジカル、ショットの威力、戦術のバリエーションなど、様々な要素が絶妙なバランスで折り重なったことが今のディミトロフの強さに繋がっている。

脆さを露呈するメンタルが最大の弱点

 トップとの対戦を数多く経験して、少しのことでは動じないメンタルの強さを手に入れつつあるが、未熟な点も残っており、とりわけリードした場面で硬くなって肝心なポイントをダブルフォルトや簡単なミスで落とすシーンが目立つ。テニスの調子が悪くなくても、1つブレークを許したりセットを落としたりすると、一気に崩れてしまう脆さも覗かせる。また、ラリーが長くなってくるとドロップショットに逃げる悪い癖もメンタル面から来る問題である。こうした課題を一息に取り払える可能性があるのがまさしく「自信」であり、質の高いプレーにコンスタントな結果が伴った時、それが彼の本物の実力となってビッグ4時代を変えていく存在となるのだろう。

アップダウンは激しくても実力に疑いの余地はない

 期待の割にはなかなか戦績が伸びず苦労したうえでの飛躍とその後の転落、3位まで上り詰めた後の長い低迷。彼のキャリアは安定しない激動のサイクルを繰り返しているが、回り道をしながらも不調を脱した際にはいつもより一層強くなった姿を披露しており、実力の衰えなどというものがあるわけでは決してない。年々過酷さを増すツアーにおいては怪我が少なく、ロングラリー、ロングマッチをものともしないフィジカルの強さも大きなアドバンテージになってくるだろう。まだまだ好不調の波の激しさは払拭できていないが、錦織やラオニッチらいわゆる“Young Guns”世代の象徴として今後のテニス界を背負って立つべき特大の才能の持ち主なだけに、ビッグタイトルを獲ったことをきっかけにトップ定着への道を切り拓きたい。

 

Yoshihito Nishioka

西岡良仁

 生年月日: 1995.09.27 
 国籍:   日本 
 出身地:  三重県(日本)
 身長:   170cm 
 体重:   64kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  YONEX 
 シューズ: YONEX 
 ラケット: YONEX VCORE 98 
 プロ転向: 2014 
 コーチ:  Yasuo Nishioka 

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 ツアーの中ではとびきり小柄な体格ながら、抜群のスピードを誇るフットワークで前後左右どんなボールにも喰らいつき、粘り強さと創造性の豊かさを兼ね備えるストロークの展開力でラリー戦を制していく日本期待のレフティー。14歳でアメリカのIMGアカデミーに留学し、以降ジュニア時代から着実に結果を残してツアーレベルへとステップアップしてきており、こうした経緯も含めて日本国内では「ポスト錦織」の最有力候補として注目されているが、ATPのプロモーションにおいて未来のテニス界を担って立つ“NextGen”の1人として紹介されるなど世界的にもその存在が浸透し始めている。本格的なブレイクとして17年初頭からの試合を追うごとの成長は著しく、アカプルコ(500)では直近の大会での優勝で乗っていたハリソンとソックを破りベスト8に進出し、翌週のインディアンウェルズ(1000)でもラッキールーザーながらベルディヒから大逆転金星を挙げるなど旋風を巻き起こしベスト16に入った。それぞれナダル、バブリンカに敗れはしたものの、あと一歩のところまで追い詰める非常に内容の濃い試合を演じた。その後膝の大きな怪我で1年近くを棒に振ったが、18年にはスムーズな戦線復帰に成功し、秋には深圳(250)で予選勝ち上がりからツアー初優勝を果たした。オンコートでは熱い心を前面に出すファイターである一方で、会見での発言などからは極めて冷静に自分と相手のプレーを客観的に分析し、それを明晰な文章で表現している印象があり、頭の良い一面が垣間見える。

相手の弱点に付け込む頭脳的な戦略と高度な技術力

 相手コートにボールを返す技術力の高さと俊敏性を活かした驚異的なコートカバーリング力をベースにとにかくしつこくラリーを続け、相手の状況を的確に見ながら巧みに攻守を出し入れしてミスを引き出したり、あるいは自らハードヒットしてポイントを奪うこともできる、多彩で頭脳的なストロークは彼の最大の武器である。単純なパワーでは劣る分、先に打ち込まれるケースが増えるため、基本的には受け身から始まる打ち合いが多いのだが、本人が話す通り打たれる展開には人一倍慣れており、そうした時間帯ではポジションを下げてラリーのペースを落とし速い攻めを許さず、次第に難しいところに返していく。そうするうちに対戦相手はポイントパターンを失い、気がつけば西岡のペースに嵌っているというのが彼のテニスの不思議な魅力であり、相手とすれば掴みどころが見えない厄介な点である。もちろん粘りの中でチャンスを見出せば、自ら踏み込んで攻撃に転じるプレーも持ち合わせており、間合いをとる感性やそこからの切り替えのスピードと判断が強さの要因となっている。このように自分のプレーの良し悪しではなく、相手の考えに入り込んだうえで弱点に付け込む戦略を選択していけるクレバーな思考は勝負において非常に重要であり、体格的なハンディを背負う彼ならではの魅力ともいえる。

持ち前の組み立て能力に強打力が加わって進化したフォアハンド

 左利きであることの利点を最大限に活かしたショットメークで相手を苦しめるフォアハンドは、オープンスタンスのコースが読みにくいフォームから軌道の高さや球速の緩急で非常に幅の広い変化を出せるのが強み。ラケットヘッドにボールを引っ掛けてトップスピンで緩くショートアングルを突く崩しはトップレベルの試合ではあまり見られない類の技巧的なショットで、その対応には多くのプレーヤーが手を焼く。主な球種はスピン系だが、一方でこのところ威力アップが目覚ましいのが体全体を使ってライジングでボールを押さえ込むフラット系の強打であり、ツアーで上位に位置するレフティーと比較しても遜色のないスピードとキレを習得したことによって、相手に対する脅威度は確実に増し、ストレートから逆クロス方向には効果的にウィナーを重ねることができるようになっている。課題としては、フォアのダウンザラインで相手を追い込んだ次のショットをクロスのオープンコートに打つ際にコースが甘くなる傾向がある点で、攻め急がずにじっくりと組み立てるのは長所とはいえ、決めるべきボールではしっかりと決め切る意識を高めたい。

力負けせずに巧みなカウンターを放つバックハンド

 地面を力強く蹴り上げることでパワーを生み出し、逆に上半身のコンパクトな回転により軸がぶれず安定感もあるバックハンドは本来彼が得意としているショットで、低めのテイクバックと鋭いスイングから早いタイミングで捉えて強いボールを連続で返す能力はフォア以上のものがある。ジャックナイフも含めて高い打点から深く突き刺すようなショットに対しては相手もなかなか前に入ることはできず、そのうえ浅く鋭角にコントロールされたアングルショットも交ぜられるため、動く範囲も広くなってしまう。強烈なショットを器用に跳ね返していく守備面に問題はなく、今後はウィナーを狙うダウンザラインの精度を向上させたいところだろう。

得意なラリー戦に持ち込む確実なリターン

 リターン返球率の高さも彼のプレースタイルにおいては重要な要素の1つで、一本で攻撃していこうという意図はさほどでもないが、速いサーブでも跳ねるサーブでも確実にラリーに持ち込めるリターンはとりわけビッグサーバーに対して有効で、実際にその系統のプレーヤーからコンスタントにブレークを奪うことに成功している。

あらゆる工夫で弱さを覆い隠したいサーブ

 逆にサーブの弱さは今後の躍進に向けて改善が不可欠な課題である。まずは配球の大部分を占める左利き特有のスライスサーブにより磨きをかけることに重点を置き、その先プラスアルファでフラットサーブを組み込むことができれば、ストロークからは多様な形を持つだけにある程度安定したサービスキープは実現できるだろう。

強烈な攻撃にも屈しないタフなフィジカルとメンタル

 まだまだこれから先の伸びしろが十分にあるとはいえ、フィジカルとメンタルの強さはすでに大きな武器となっている。特に下半身の強靭さが試合を通して振り回しに屈しない堅い守備力を生み、またフィジカル的に苦しくなっても最後まで決して勝利を諦めない精神力や闘争心で何とか踏みとどまる戦いぶりが印象的で、その振る舞いが自然と観客を味方につけることにもなっている。時折若さを露呈して崩れることもあるが、フラストレーションを日本語で吐き出す独り言なども含めて彼の興味深い個性といえる。パワー強化もやはり重要で、現状でもオーバーパワーを狙ってくる相手に対して十分粘れてはいるが、それを一週間あるいは年間通してキープするのは厳しい。したがって、自分からポイントを奪うショットや戦術の選択肢を増やし、1ポイントにかける体力をいくらか減らしていきたい。

泥臭さを厭わない根性と天性のテニスセンスの融合体

 ミスを出さないショットの正確性と体力や根性があってこそ実現できるのが我慢強さを真髄とするスタイルであり、その中にあって天性の才能を感じさせるようなテクニックも突然飛び出してくる西岡のテニスは大いに魅力に溢れている。一発の大砲はなくても、有効な手を休みなく繰り出せば主導権を握って勝つことができることを証明して余りある。ポイントを自ら掴み取るプレーを得意とする錦織とはまた異なる意味で抜群のセンスを持ったプレーヤーであり、今後成長を続けていけば自身の憧れであり各ショットのフォームも近いものがある元No.1のリオスのように、小柄でもトップに定着できる素質は間違いなく秘めている。錦織の活躍にも引っ張られながら若手特有の勢いを発揮して更なる飛躍を西岡良仁には期待したい。

 

Diego Schwartzman

ディエゴ・シュワルツマン

 生年月日: 1992.08.16 
 国籍:   アルゼンチン 
 出身地:  ブエノスアイレス(アルゼンチン)
 身長:   170cm 
 体重:   64kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  FILA 
 シューズ: FILA 
 ラケット: HEAD Radical MP 
 プロ転向: 2010 
 コーチ:  Juan Ignacio Chela, Alejandro Fabbri 

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 170cmという身長は現役では日本の西岡と並んでツアーで最も小さな部類に入るが、そのハンディを補って余りある素早いフットワークでコート上を激しく駆け回り、パワー系のプレーヤーにも打ち負けずにボールを深く打ち返し続ける力強いストロークを軸に相手を追い詰めていく、攻守のバランスに長けたアルゼンチンのハードワーカー。14年にチャレンジャーレベルで5勝を挙げてトップ100に入ると、以後スムーズに主戦場をツアーレベルへと移すことに成功し、16年にはイスタンブール(250)においてディミトロフの3度のラケット破壊によるゲームペナルティーで試合が終わるというある意味では記憶に残る決勝を制しツアー初優勝を飾るなどブレイクを果たした。17年に入っても進化のスピードは衰えず、モントリオール(1000)でのベスト8や全米ベスト8などマスターズ格以上の大会で結果が残せるようになり、ツアーでの存在感は日を追うごとに増している印象だ。18年にはリオデジャネイロ(500)でビッグタイトルの獲得も成し遂げている。最も得意とするのはクレーであるが、トップクラスのスピードで相手に差をつけることができるのはむしろハードコートの方で、俊敏な動きでどんなボールにも喰らいつく粘り強いプレースタイルはいかなる条件下でも相手を苦しめる。陽気で人懐っこく、また一方で非常に紳士な人柄が話題に上ることも多く、誰からも愛される微笑ましいプレーヤーでもある。

高い打点から叩く感覚に優れる力強くも多彩なストローク

 シュワルツマンのテニスの生命線であるストロークは、ミスを最小限に抑える安定感を強さのベースとしつつも、打ち合いの中で軌道の高さやスピードの緩急、深さや角度に変化をつけながら相手を崩していく多彩さも併せ持ち、ラリーの主導権を引き寄せる能力が高いのが特徴。リーチは長くないが驚異のアジリティー能力を駆使したコートカバーリングの広さを活かして、どこからでも強気な選択で攻撃的なショットを何本でも繰り返せる再現性の高さが強みだ。フォアハンドは力負けを防ぐためにスタンスを広くとってフォームも大きく構えるのが彼のスタイルで、このあたりはヒューイットに近い感覚といえるかもしれないが、中でも高いボールを捌くのがうまく、小柄ながら体の軸がぶれることなく肩口の打点からどんどん叩いていくことができる。回り込みフォアの逆クロスを最も得意とし、どんな状況でも執拗に右利き相手のバックハンドを深く狙い撃ちできるコントロール能力は目を見張るものがある。相手をコート後方に押し留める弾道を上げた強烈なトップスピンとコートの内側に入って打ち込むフラット系の判断が良く、それが守りと攻めの出し入れのうまさに繋がっている。また、走りながらのカウンターも武器の1つで、彼の中では数少ない一発の怖さを備えたショットである。盛んにネットへの姿勢も窺わせるが、その際の浅く低いボールに対するフォアの処理がうまく、相手に効果的なパスを許さない。逆にミドルコートで高い打点から放つショットが狙いよりも甘いところに入って決め切れないケースも多く、その精度には改善の余地を残す。基本的には早いタイミングで捉えていくバックハンドは、彼の身長からは考えにくいような厳しい角度をつけたクロスへの鋭いアングルショットのウィナーを多く奪う攻撃力が光る。一方で、スピンボールを弾ませて対応の難しい高い打点を強いられた時には飛び跳ねて返球するなど自在性の高さも強みとしている。

コンビネーションで弱さを補いたいサーブ

 勝敗に直結する部分での課題といえばやはりサーブになってくる。エースはなかなか計算できない分、スピンサーブを多用する工夫は見てとれ、決してサーブ自体が弱い印象はないだけに、いかに得意のストロークとのコンビネーションを磨いていくかが今後の焦点だろう。

ツアーのトップを常に争うリターン力の高さ

 サービスキープ率が平凡な彼がトップ20に入る位置まで来られたのは、他方でリターンゲームの圧倒的な強さがあってこそであり、読みと反応の良さやベースライン後方からでも深さを出す正確性、加えて前掛かりになった相手の3球目攻撃を確実にオープンコートへと切り返すディフェンス力によってサーブ側に対して特大のプレッシャーを与え続ける。リターン関連の数字においてジョコビッチやマレー、ナダルらと常にツアーのトップを争っているという事実が彼のリターン力の高さを裏付ける何よりの証拠といっていいだろう。

小柄だがそのスタイルはさながらパワーヒッター

 体格には恵まれていないが彼のプレーの中に非力さというのはほとんど感じさせず、小柄であることが弱点にはまったくなっていない。サイズの小さなプレーヤーがトップで活躍する場合、いわゆる技巧派もしくは粘り型がその大半を占めるが、彼はそうした特徴を備えつつも基盤は真っ向勝負大歓迎のさながらパワーヒッターであるという点に凄さがある。常に冷静さと1ポイントに対するひたむきな姿勢を維持し、突出した足の速さとコートを広く使ったセンス抜群の頭脳的な戦術でポイントを重ねるテニスは油断すれば上位陣も思わぬ苦戦を迫られる。大型化の進むツアーにあって極めて小さな身体で懸命に戦う魅力ある個性的なプレーヤーであり、現在の年齢や勢いを考えれば今後が非常に楽しみだ。

 

Stan Wawrinka

スタン・バブリンカ

 生年月日: 1985.03.28 
 国籍:   スイス 
 出身地:  ローザンヌ(スイス)
 身長:   183cm 
 体重:   81kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  YONEX 
 シューズ: YONEX 
 ラケット: YONEX VCORE Pro 97 330 
 プロ転向: 2002 
 コーチ:  Magnus Norman 

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 世界最高のシングルバックハンドを軸としたベースラインからの強力なストロークによる重厚かつ攻撃的な組み立てと、その中でトドメを刺す豪快なビッグショットを持ち味とするスイスのNo.2プレーヤー。プレースタイル的には大きな弱点はなく、様々なプレーを織り交ぜつつ総合力で勝負する正統派のオールラウンダーといえるが、やはり最大の魅力であり相手にとって脅威となるのは凄まじいキレとパワーである。また、驚異のスタミナを誇り、経験に伴って手に入れた鋼のメンタルとともに、「Stanimal」という異名にあるような彼の野性的な強さを支えている。他にも「Stan The Man」という愛称もあるが、これも彼の強靭さを表すものである。彼にとって最初のブレイクイヤーは08年で、ローマでのマスターズ初の決勝進出によりトップ10の仲間入りを果たすと、北京五輪の男子ダブルスではフェデラーと組んで金メダルを獲得した。その後数年は思い通りに成績が伸びず苦しんだが、13年にノーマンがコーチに付くと特大の潜在能力が覚醒。そうでなくともスイス出身のプレーヤーの中では歴代屈指の強豪であったが、フェデラーという高すぎる壁の前でその存在は隠れがちだった。しかし、14年全豪では2強とも言われたナダルジョコビッチを破ってのグランドスラム初戴冠という偉業を成し遂げ、世界的な人気や知名度が急上昇した。また、15年全仏ではキャリアグランドスラムに向けて死角なしと言われ、実際にあと一歩に迫ったジョコビッチを決勝で一蹴しての初優勝を果たし、ビッグ4の牙城を崩す勢いを見せている。一方デビスカップにおいては、フェデラーが参加に消極的だった時期でも、エースとしてチームを牽引していたことは非常に高い評価を得ており、14年にはついにフェデラーとの二頭体制でスイスに初タイトルをもたらした。基本的にはクレーを得意とするタイプであるが、球威で勝負するハードヒット主体のテニスは、ハードコートでも絶大な強さを発揮する。左腕に刻まれたフランスの劇作家サミュエル・ベケットの名言“Ever tried. Ever failed. No matter. Try again. Fail again. Fail better.”のタトゥーが有名で、これは彼のテニスあるいは人生における哲学であると話している。また、最近は試合の要所で見せる右手人差し指で自らの額を指さすポーズが彼のトレードマークとなっている。

広角に散らすパワーショットと戦略的な組み立て

 ストロークはフォアハンド、バックハンドともに溜めの長いテイクバックから非常に速いスイングスピードで鋭いボールを打ち込む。威力を落とさずとも非常に広角にボールをコントロールできる点が強みで、角度をつけるショットは本来技巧的な側面が強いが、彼の場合両サイドともにコートを鋭角に抉るような「豪快なアングルショット」を大きな武器としている。彼に先制攻撃を許して守り切れるプレーヤーはツアーでも数少なく、とりわけベースライン付近に留まってストロークを打ち、ネットにも盛んに仕掛けることができている時の彼を止めるのは困難を極める。逆に悪い時の彼は、ベースライン後方に取ったポジションからなかなか内側に入ってこない傾向がある。一発のショットの破壊力に目が行きがちだが、ラリーの組み立てのうまさも兼ね備えており、バラエティーに富んだショットを相手や試合状況によって使い分けて、常に理詰めのプレーができる戦術派の一面も持つ。また、サーフェスによって戦い方を変えるのも特徴で、ハードコートではパワー重視のショット選択が多い一方、クレーでは前後のポジション取りを強く意識したより戦略的な組み立てを実践する。かなり後方で構えてもその分だけボールを飛ばせるのが彼の特徴で、ボールに回転をかけてネット上の高い位置を通すことで相手のペースを落とし、その後に自分のタイミングでペースを上げる。この流れに嵌ってしまうと相手とすると有効な対抗策はほとんどないに等しい。このように、戦術として強引にでも攻撃することを意図している時は別として、ラリーでは忍耐強く落ち着いた組み立てを見せる。

史上最高との呼び声高いシングルバックハンド

 クロスでもストレートでも打点を相当前に取りつつ体軸をダイナミックに回転させながらインサイドアウトの横振りスイングを正確に実現する、独特なフォームから繰り出され史上最高との呼び声も高い強烈なシングルバックハンドはバブリンカの絶対的な武器であり、その抜群の威力と精度から美しい軌道を描いてウィナーを量産する。ラリーの中で普通に打っているクロスのショットが常にウィナー級というのが、相手にしては恐怖を感じるところで、スライスなども交えて何とかその感覚を狂わせたいのだが、並のスライスでは簡単にオープンコートへ強烈なウィナーを打ち込んでくる。とはいえ、彼自身無理な攻めで自ら崩れることは少なく、コントロール重視のスピンショットや安定感のあるスライスを駆使して、メリハリをつけながらチャンスをじっくり待ち、相手がしびれを切らしてペースを上げてきたところを逆にカウンター気味に鋭く展開する。特にダウンザラインやコート中央部から逆クロス気味に放つショットは彼が最も得意とするところで、決まり出すと文字通り手がつけられない。上半身にパワーがあるため、通常なら力の入りにくい膝や顔の高さまでどの打点からでも、またベースライン遥か後方や外側に追い出されたところからでも同じように強烈なショットを打ち抜ける極めて特異な能力を持ち、相手としては常に警戒していなければならない。

劇的進化を遂げた強打のフォアハンドでバック頼みを脱却

 フォアハンドは厚いグリップとややオープンスタンスで、本来ならばテンポを上げるショットを打ちづらいが、彼の場合はそこからでも早いタイミングでボールを捉えることもできる。ここ最近はフォア強化の過程で、テイクバック時にラケットヘッドを立てて構えることで、上から叩いてポイントを取ろうとする意識が高まり、チャンスにはしっかりと左足でステップインして打つようになった結果、バックにも引けを取らない破壊力を備えるようになり、攻撃的なテニスに新たな武器が加わった。とりわけフォアのクロスの打ち合いに強く、十分な深さと角度で相手を攻め立てると、甘くなった返球に対して逆クロスへの強打を叩き込む形もバックに劣らず決定力が高い。

揺さぶりや変化に耐える柔軟性が課題

 ベースラインでのハードヒットの打ち合い、すなわち真っ向勝負における強さは間違いなくツアーで一、二を争うレベルであるものの、前後の揺さぶりやペースの変化によって翻弄されると、彼本来の良さを消されてミスが増える傾向がある。また、対戦相手の特徴に合わせて用意してきた1つの作戦に少し固執しすぎるところがあり、試合の中でプレーを切り替える戦術的な判断力や修正能力に磨きをかけたい。今後はどんな相手にも対抗できる柔軟性を身につけるとともに、自らも前後の組み立てを有効に使えるようになりたいところだ。

屈強な肉体から繰り出すパワフルなサーブ

 全身バネのような屈強な肉体を活かすため、あまり上半身を捻らずシンプルにボールに力を伝えるフォームが特徴的なサーブは、最速220km/hを超えるツアー屈指の高速フラットサーブを武器にエースやフリーポイントを連発する。以前は精度や配球にムラがあり、威力の割に効率良くポイントを取れないケースが目立っていたが、最近はとりわけワイドへのスライスサーブの精度が増したことで、サーブからの攻撃のバリエーションも増え、サービスキープ率が上がってきた。加えて、スピードを抜いたサーブも交ぜてくるため、リターン側としては速いサーブにタイミングを合わせるのは容易なことではない。全体的に確率が悪く、確かにいつ入ってくるか分からないという部分で1stポイント獲得率が高い側面はあり、それほど確率に関係なく盤石なサービスゲーム運びができるタイプのプレーヤーであるとはいえ、不用意なブレークを許さないためには安定感アップが必要である。ただし、2ndになっても容易に攻撃を許さないのが彼の強みでもあり、スピード・深さ・回転量のいずれも高次元で備え、ポイント獲得率もとりわけ近年はツアーでも上位に位置する。

両サイドで思考の異なる巧みなリターン

 リターンでは速いボールに対して面を差し出して合わせる感覚に優れ、とりわけデュースサイドではベースライン付近でスライス系のブロックリターンを使うことが多い。一方アドバンテージサイドでは、ポジションを目一杯下げたところから軌道を上げたトップスピンで返球することが多く、当然これは確実性を重視してのことなのであるが、同時にそれを攻めの一手としても機能させることができるのは、パワーのある彼特有の特徴である。こうしてリスクをある程度軽減しながら攻撃的にいくことができるのが大きな強みだ。ブレークポイントなどでは積極果敢にフォアの回り込みを使って、リターンエースを狙っていく姿勢も見せる。

お手本にしたい基本に忠実なネットプレー

 ダブルスでの実績が証明するように、ネットプレーも高いレベルでこなせるため、ラリーの中で相手を押し込む展開に持ち込めれば、頻繁にネットに詰めてボレーで決める。驚くほどの柔らかさや天才的なタッチがあるわけではないが、リターン同様反応が速く、確実にコースへコントロールする基本に忠実なボレーは手本にしたい部分だ。また、ドロップショットなどで前に出された時の対応にも難はなく、中でも逆にロブで相手の頭上を越すプレーを得意とする。

ビッグマッチで生きる無尽蔵のスタミナと攻撃的メンタリティ

 基本的にコート上では淡々とプレーを続けるが、性格は意外と短気で、重要なポイントでの際どいジャッジや不甲斐ないミスには声を荒げて怒りを表す。また、勝敗を左右するポイントでは一打ごとに声を出し、決まると雄叫びとともにガッツポーズを見せる。すでに長年に亘って安定してトップ30には位置していた彼を、もう1つ上のレベルに押し上げることとなった要因がフィジカルとメンタルの向上である。競ったセットを落とすと明らかに戦意を喪失したような姿を晒してプレー全体が雑になったり、アンフォーストエラーが出始めると続いてしまったりといった悪い癖が複数あり、停滞を生んだ最大の要因であったが、13年あたりからその気配は消えつつある。逆に、ピンチでも我慢強く戦い、それを凌ぎ切ることでメンタル的に相手を追い詰めていくことさえできており、今までは上位陣にとって“危険なプレーヤー”の域を出なかったが、ついに本当の意味でトップと肩を並べられる存在になったといえるだろう。この無尽蔵のスタミナとぶれることのない攻撃的なメンタリティが特に生きてくるのが5セットマッチ、すなわちグランドスラムで、序盤に劣勢に立たされても体力勝負に持ち込みながら自らは凄まじい集中力の中でパワフルに打ち抜くスタイルを貫いて徐々に差をつけていくことができる。また、環境の変化を新たなモチベーションにして結果に結びつけるのがうまいプレーヤーであり、10年夏のラングレン招聘直後のグランドスラムでの躍進、あるいは13年よりコーチに迎えたノーマンの下では大事な試合でのパフォーマンスとプレーの継続性が飛躍的に向上した。

歯車が狂うと自滅する一方、ハマると誰よりも強い

 近年彼のテニスは相手に覚えられてきたことで、これまでとは打って変わって、バックで粘りフォアで攻めるスタイルにモデルチェンジを施し、13年に入って実を結ぶ形となった。それまでは最大の武器であるバックのダウンザラインに頼る展開が多かったのが、フォアの強打という新たな武器が加わったことで、バックは“ここぞ”という肝心な時にとっておけるようになったのだ。ただし、14年以降はビッグタイトルを獲得する反面、格下に呆気なく敗れての早期敗退や不可解な逆転負けも多く喫するなど、好不調の波が非常に激しいところが見られる。特にグランドスラム以外の大会では疲労感を感じさせる覇気のない戦い方が散見され、モチベーションの維持に苦しんでいるようだ。テニスの面では、好調だからこそ決まっているショットを不調時にも無理に打とうとしてミスを連発する傾向は治り切っておらず、劣勢な試合展開やあるいは逆にリードが広がりすぎた時のパフォーマンスに不安を抱えるなど、試合運びのうまさという部分で更なる成熟が求められている。歯車が狂うと相手に関係なく自滅する一方で、ハマると誰よりも強い。そんな魅力を携えた彼がノーマンとの良好な関係の中でキャリアの充実期を歩み、内面とともにテニスが強化・完成されていけば、今後さらにグランドスラムの優勝を積み重ねる可能性は決して低くない。故障を抱えた17年半ば以降は成績が下降しており、若手の突き上げも著しいツアー環境にあっては完全復活への道のりも険しいが、再びトップレベルで激しく争う彼の存在感を期待せずにはいられない。

 

Karen Khachanov

カレン・ハチャノフ

 生年月日: 1996.05.21 
 国籍:   ロシア 
 出身地:  モスクワ(ロシア)
 身長:   198cm 
 体重:   87kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Wilson Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2013 
 コーチ:  Jose Clavet, Vedran Martic  

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 長身から繰り出すビッグサーブやフォア、バック両サイドから放たれる豪快なストロークウィナーなど、一発の魅力に溢れるスケールの大きな攻撃的プレースタイルを持ち味とし、“NextGen”世代の代表格としてATPもその将来を嘱望するロシアが生んだ新星プレーヤー。ツアーへの本格参戦を開始したのは16年だったが、ツアーレベルでの経験がまだほとんどなかったその年に成都(250)で格上を次々と撃破する快進撃を見せて初タイトルを獲得し、キリオスとA.ズベレフに続く同年の20歳以下での優勝者となった。その後、着実なスケールアップを経て18年後半に覚醒、パリ(1000)でのマスターズ初優勝はイズナー、A.ズベレフ、ティーム、ジョコビッチとトップ10を4連続で倒すなど、更なる飛躍を期待させるには十分すぎる見事な戦いぶりであった。彼自身としてはしっかりと間のとれるクレーやスローハードを得意とするが、破壊力抜群のテニスは芝や高速ハードでも乗せると怖いというタイプだ。

高い軌道の強烈スピンが相手の自由を奪うフォアハンド

 オープンスタンスの構えと脇を大きく開いてテイクバックを高くとった時にラケットの打球面が裏を向く独特なフォームが目を引くフォアハンドは、ベースライン後方からでもウィナーを量産できる爆発力を備えた強力な武器である。ラケットを引いてセットした状態を作りながらボールを追うのも彼の特徴で、状況を問わず常に長い溜めを作ることでコースを読ませない強みがある。高い軌道のボールが唸るような強烈なスピンによってベースライン深くに入っている時が好調の証で、こうなると相手は自由を奪われ防戦一方に立たされる。一方で弱点となっているのはスライス系の低く滑ってくるボールに対する処理で、最大限のパワーをショットに転換するために厚いグリップとダイナミックな打ち方を選択していることの弊害でインパクトの正確性にはムラが出てしまい、ややミスヒット気味の甘い返球が増える傾向にある。相手としては勇気をもって遅いスライスなどを交えながら左右に揺さぶり、彼が最も心地良くパワフルに打ち抜ける腰から胸にかけての打点を回避することがハチャノフへの有効な対策といえるだろう。また、比較的重心が後ろに残りがちなフォームであるため、深く厳しいボールを打たれると返球が抜けるように大きくオーバーしたり、逆に腕だけが力んでボールが持ち上がらないといったシーンも多く、相手を震え上がらせるパワーとエラーの山を築いてしまう精度という意味で、現状はまさに“諸刃の剣”という表現が似合うショットでもある。そうした悪癖は間違いなく改善の方向に向かっており、またフィジカルが備わってきたこともあり動きながらでも常に強烈なショットをオープンコートに展開できるようになってきた。

対応力でフォアに優る質の高いバックハンド

 体に近い打点から軸回転で強烈なフラット系のショットを連打する能力を持ったバックハンドも、どこからでもエースが取れる攻撃テニスには欠かすことのできない大きな武器となっている。基本的には長身の利点を活かして上から押し込んでくるような伸びのあるショットが持ち味だが、加えて彼の場合は膝付近の低い打点からでも難なくダウンザラインに切り返していくことができる。そのため、スライスで変化をつけられても動じることはなく、低弾道の高速ショットを繰り出すことができる。フォームは一見硬さがある印象だが、対応力の面ではフォアに優る部分が大きく、その意外性に富んだハードヒットが相手にとっては脅威となる。

単発でもコンビネーションでもポイントを重ねられるサーブ

 2m近い身長を活かした角度のあるサーブは、爆発的な威力でエースを連発していくことも、3球目の強打とのコンビネーションでポイントを多く生み出すこともでき、特に最近はそれらを柔軟に使い分けることができるようになってきたことがサービスキープ率の跳ね上がりに繋がっている。特に得意なのはデュースサイドからワイドサーブを放ち、次をフォアのストレートで決め切るパターン。横の角度をより厳しくつけるためにデュースサイドではセンターマークから離れた位置に立つのが珍しい特徴でもある。また、最速で約210km/hを記録するフラットサーブやフラット寄りのスライスサーブが浅い位置に落ちるのも彼の特徴で、これにより相手に高い打点の難しいリターンを強いている。ただし、このサーブが調子のバロメーターあるいは更なる躍進に向けた強化ポイントであることも事実で、球種や球速のバリエーションが必ずしも多くないのが1つの課題で、加えて主軸のパワーサーブもコースが甘いことが多いというのがいま1つの課題。スピードを求めるのか、曲げてタイミングを外すのか、弾ませて体勢を崩すのか、その意図が明確に見えてくるとより安定したサービスゲームを展開できるはずだ。

豪快なイメージとは裏腹に堅実な戦術的判断が光る

 本格ブレイクを果たした大きな要因の1つはフィジカル強化だった。以前は先に攻められるのを嫌って強引さが出ることがあったが、受けに回っても耐えられる頑丈さが身につき予測も向上した分、打ち合いにおいて焦らずチャンスを待つことができるようになった。技術的にも、幅広い打点に対応したりオープンスタンスで鋭いカウンターショットを飛ばしたりとディフェンス面の強化が目立っている。戦術的な判断として少し引いて構えることで、逆に思い通りの強打を打ち込む形が増えたと言っていい。暴れ球気味のフォアを中心に豪快なイメージが先行しがちだが、実は元々堅実なプレースタイルを持ったプレーヤー。自らの守備範囲を理解し適切なポジショニングを維持したうえで適量の攻撃を確実に当ててくる。自分の武器を「打てる場面で打つ」のではなく、「打つための組み立て」を主体的に作り上げる意図が非常に感じられる。最近は苦手としていたボレーの技術も改善著しく、徐々に弱点を埋めながらスケールアップを遂げている。

ロシアテニスの再興を担う大器

 すべてのプレーにビッグショットを持つテニスの特性やまだまだ上位に対しても挑戦者でいられる心理状態などの点から、いつトップ10級を破るアップセットを起こしてもおかしくない雰囲気を持ったプレーヤーである。基本的にハードヒット一辺倒で、ショットの精度や細かなテクニックの面で不安定さがあるのは事実だが、間違いなく経験の積み重ねとともに向上するはずだ。キャリアの駆け出しの時期に、スタイル的に同系統のラオニッチをトップに育て上げた実績を持つブランコに指導を仰いだというのは非常に心強い。カフェルニコフにサフィングランドスラムチャンピオンを輩出した90年代後半から2000年代前半、ダビデンコやユーズニーなどトップに複数人を擁した2000年代後半に比べると低迷期にあった直近のロシアテニスだが、その望ましくない流れに風穴を開けるポテンシャルを秘めた大器ハチャノフの今後の飛躍に注目したい。

 

Gael Monfils

ガエル・モンフィス

 生年月日: 1986.09.01 
 国籍:   フランス 
 出身地:  パリ(フランス)
 身長:   193cm 
 体重:   85kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  ARTENGO 
 シューズ: ARTENGO 
 ラケット: TR960 Control Tour 18×20 
 プロ転向: 2004 
 コーチ:  Gunter Bresnik,
       Richard Ruckelshausen 

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 長い手足と超人的な身体能力を活かした驚異的なコートカバーリングを最大の持ち味とする守備的なプレースタイルで、伝統あるフランステニスの中でもとりわけ大きな個性を振りまくプレーヤー。ジュニア時代の04年に全豪・全仏・ウィンブルドンの3冠を達成し、鳴り物入りでデビューを果たすと、05年には18歳にしてすでにソポト(250*)でツアータイトルを獲得するなど将来の華々しいキャリアが予想されたが、長くメンタルの弱さを克服できず、現在に至って最大のタイトルがATP500の16年ワシントンと19年ロッテルダムというのは彼のポテンシャルを考えればあまりにも寂しい。試合中に度々魅せる野性味溢れる動きやアクロバティックなプレーで自然と観客の目を奪ってしまうのが彼の最大の魅力であり、ある意味では最も惹きつけられるプレーヤーといえる。ゆえに地元フランスでの人気も高く、非常に大きな声援を受ける国内の大会は、気分がテニスにダイレクトに反映される彼にとって最高の舞台であり、実際に全仏では08年の準決勝進出を含む4度のベスト8以上、パリマスターズ(1000)でも09年と10年にファイナリストに輝くなど、他の大会に比べて相性の良さを見せている。「フランス以外での試合は仕事という感じがして好きじゃない」というのはいかにもモンフィスらしい愛嬌あるコメントだ。とはいえ、基本的には遅いクレーから速いハードコートまで、芝を除けば少しずつプレーを変えながらサーフェスを問わず強豪らしい強さを発揮できる。注目すべきは何といってもスピードで、サーブやストロークの単純なボールスピード、コートを縦横無尽に駆け回る動きのスピード、意を決してボールを叩きにいく時のスイングスピードなど、スピードと名の付くおよそすべての要素を彼は見どころにしてしまう。それでいて、フランス人プレーヤーらしい繊細なテクニックも数多く持っているため、次に何が出てくるか予想がつかない楽しさも彼の試合の魅力になっている。天賦の身体能力ゆえ怪我に悩まされることが非常に多いが、その潜在能力に疑いの余地はなく、勝ち試合をいたずらに長引かせてしまう癖を解消し、好調が大会単位で続くようになれば、本気でグランドスラムを狙えるはずだ。また、大会ごとに変わるヘアスタイルやポイント間における1つ1つのしぐさ、背中に描かれた守り神の意味を持つ翼のタトゥーなども要注目ポイントだ。

キャリアを通じて攻守のベストバランスを模索し続ける

 ストロークは基本的には丁寧な繋ぎの中で相手のミスを引き出したり、もしくはじっくりとチャンスを待ってから爆発力のある強打でウィナーを狙っていくスタイル。デビュー当時は野放図ともいえるほど攻撃志向が強く、非常にリスクの高いパワー重視のハードヒットを多用していたが、成長していく段階で繋ぎのショットを覚えてミスが減ったのと同時に、テンポの緩急でより効率的に攻めるテニスへと変わっていった。ただし、相手も同じように繋いでくるのであればそのペースに付き合い、ハードヒットしてくる相手には同じく強打で応酬する傾向があり、許容範囲が広いと言うこともできるが、もう少し主体性がほしいのも事実である。その点、最近は試合展開によっては自分からの速い攻めでポイントを重ねようという姿勢も見られ、守備一辺倒からの脱却に取り組んでいる。恵まれた体格を活かして打ち込むダイナミックなストロークは、両サイドともにベースラインの遥か後方からでもエースを奪える破壊力があり、彼自身にその意識があるかは別として、強打してくるタイミングが定石とは大きく異なるため、相手としては度々不意を突かれる形となる。豪快なハードヒットテニスと丁寧にコースを突く手堅いテニスの両方を持つが、その中間に当たる攻撃力と安定感を両立したテニスができないのが難点で、いまだに攻守の出し入れの判断力にはムラがあり、常にそのベストバランスを模索しながら戦っている。

リストの強さと柔らかさがパワフルかつ多様なショットを生む

 厚いグリップから放たれるフォアハンドは、広いスタンスでしっかりと腰を落としつつ上半身を捻って溜めを作り、リストの強さと体の軸回転を最大限に利用するのがフォームの特徴で、左右高低の球筋が非常に読みにくく、軌道を上げた強烈なスピンの強打でもショットに相当なスピードが出るためウィナーが多い。トップスピンを多めにかける確率重視のショットは相手からすれば一見すると浅いチャンスボールなのだが、無理に仕掛けに転じようとすればそれはモンフィスの思う壺で、そうした誘いに乗ると反撃に遭う可能性が高い。そのほか、ラケットヘッドに引っ掛けて角度をつけるカウンター気味のアングルショットや時に180km/hを超えてくるフラット系の凄まじいハードヒットなど、変化に富んだ球種をほぼ同じ構えから繰り出すことができるため、相手にとっては緩い打ち合いでも気が抜けない。柔らかなリストワークを使って放つしなやかなバックハンドもパワーと配球範囲の広さを活かした攻撃力やオープンスタンスで粘る返球力の高さはフォアにも劣らない。パッシングの精度に磨きをかければより怖さが増してくるだろう。

サーブもまた剛柔を兼ね備える

 ロディックに似た狭いスタンスで両足を揃える独特なフォームから繰り出される威力抜群のサーブも彼の武器の1つで、1stは最速220km/hを超えるフラットサーブを備え、どんな相手も苦しめることができる。また、アドバンテージサイドからセンターを狙って放つスライスサーブは抜群のキレを誇る。2ndもかなり思い切って打っていくのが特徴だが、ダブルフォルトの多さは致命傷にもなりかねない大きな欠点だ。加えて、威力の割にポイント獲得率など数字の面が伸びてこないのは、サーブとそれ以降の攻めに連動性を欠いているのが大きな原因だが、最近は決して得意ではないが効果的にサーブ&ボレーを組み込んだり、3球目の攻撃性を高めたりと、サービスゲームを意識的に短い時間で終わらせようという工夫が見える。

バネのような肉体を駆使した驚異的なコートカバーリング

 軽快で躍動感溢れるフットワークはストローク戦での粘り強さを支える彼の最大の魅力である。全身バネのような強靭かつ柔軟な肉体を余すことなく使い、縦横無尽にボールを追う姿はまるで豹が疾走しているかのようにスピーディー。ラリー中の基本ポジションをベースラインから3m近く後方に取り、あらゆるウィナー級のショットに対してことごとく返球する守備力はまさに圧巻の一言で、クレーはもちろんハードコートでも柔軟性を活かし、激しいスキール音を伴うスライドフットワークを駆使して、不可能ともいえるほど広大な範囲をカバーし反撃に結びつける姿から「スライダーマン」の異名をとる。また、逆を突かれた時に見せるダイビングショット、バックサイドの厳しいボールを後ろ側の左手一本で返球するディフェンス、信じられないような跳躍力から繰り出すダンクスマッシュ、相手のスマッシュへの対処で見せるジャンピング股抜きショットなども彼ならでは即興プレーで、それらを行なって実際にキャリアを彩るようなスーパーポイントを数限りなく生み出している。ただし、やや無駄ともパフォーマンスともとれる動きも多いが、そうした要素が彼のテニスを語るうえで欠かせないものとなっている以上、ある程度のスタンドプレーを維持したままトップレベルで戦い抜くためには、ポイント後に肩で息をすることのないようスタミナ面を向上させたいところだ。またそれらの反動か、両膝に深刻な故障を抱えてしまい、年間通しての活躍は見込めなくなってきている。

プレー中の喜怒哀楽は魅力も自滅癖は克服したい

 メンタル面はまだまだ未熟な部分があり、現在の状態ではトップレベルに達しているとは決していえない。元々プレー中表情に喜怒哀楽がはっきりと表れるプレーヤーで、特に「Allez!」の雄叫びでスイッチを入れ、観客を巻き込んで流れを掴んでいく一連の戦いぶりは高く評価できる。しかし、勝負所でそれまで打っていなかったショットを突然織り交ぜて自滅する、一旦崩れ出すとミスが止まらなくなる、無駄にトリッキーな打ち方をするなどといった悪い癖が頻繁に見られ、全体的にはやはりマイナスに傾く要素が多い。格上を瀬戸際まで追い詰めながら勝ち切れなかったり、自らのサービスゲームで40-0からあっさりと逆転されたり、ツアーで準優勝が非常に多いのも、少なからず心理面が影響している。年間通じて安定した成績を残し続けるためには、自分のメンタルをコントロールできるように改善することが不可欠である。

観客を楽しませながら勝つのことを美学とするエンターテイナー

 自分のテニスを1つのエンターテイメントとして捉え、観客を楽しませるプレーをして勝つのを美学として持っていることでも知られ、生粋のエンターテイナーであると同時に、それはある意味ではプロ意識の高さともいえるかもしれない。これまでは時に楽しませることが先に出て、結果に執着できず勝ちを取りこぼすこともあったが、長期離脱という苦い経験を経て、再び上を狙う強い気持ちも出てきている模様。コーチであるティルストロムの下、かつてない猛練習に励み、ハイレベルなパフォーマンスを年間通して発揮してキャリア最高の6位を記録し、ATPツアーファイナルズ初出場も果たした16年のプレーぶりはまさしくそうした心意気が生んだ賜物といえるだろう。その時々の体調や気分次第で結果が読みにくく、ツアーの不確定分子として、またテニスの常識を超越した奇想天外なプレーヤーとして今後も目が離せない。

 

Roberto Bautista Agut

ロベルト・バウティスタ・アグート

 生年月日: 1988.04.14 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  カステリョン・デ・ラ・プラナ(スペイン)
 身長:   183cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: Mizuno 
 ラケット: Wilson Pro Staff 97 (18×20) 
 プロ転向: 2005 
 コーチ:  Daniel Gimeno-Traver,
       Tomas Carbonell 

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 上背に恵まれない分を幼少時にサッカーで鍛え抜いた抜群の脚力で補い、相手からの攻撃を粘り強く跳ね返しつつ、フォア、バック両サイドから大きな角度をつけたショットで相手を振り回した末にラリーをものにするしぶといストロークを持ち味とするベースラインプレーヤー。同郷のフェレーロを憧れの存在と話すように、彼もまたフォアの強さを軸としたダイナミックな展開力で勝負するタイプ。テニスのスタイルとしては比較的堅実さが強みとなっている分、決して派手さはないが、14年にマドリード(1000)で初のマスターズベスト4進出を果たして以降はトップらしい非常に安定した成績を残し続けている。当初彼のトップ20入りというのはあまり予想されていなかっただけに、14年にそのシーズンで最も成長したプレーヤーに贈られるATPの賞に選手間投票で選ばれたことも頷ける。早いタイミングでボールを捉えて回転量の少ないフラット系のショットを打ち込んでいくテニスは、慣れ親しんだクレーよりもむしろ高速系サーフェスで強さを発揮する傾向にある。14年のツアー初優勝を見ても芝のスヘルトーヘンボス(250)とスペイン人にしては珍しい実績があり、また特にハードコートではベルディヒやデルポトロ、ツォンガといったパワー系プレーヤーに対して相性の良さを見せており、ツアーで軽視禁物の存在となっている。16年の上海マスターズ(1000)では準決勝でジョコビッチに競り勝つアップセットを演じ、最終的には準優勝に輝くサプライズを提供した。さらに一段階スケールアップした19年には全豪でベスト8、ウィンブルドンでベスト4とグランドスラムでの上位争いにも絡み始めており、キャリアの充実期を迎えている。

ボールを払う独特なスイングで繰り出す伸びやかなフォアハンド

 薄めのグリップでボールを下から払うようにしてしなりを効かせた独特なスイングによって繰り出されるフォアハンドは彼の最大の武器で、上体がぶれない分、精度が非常に高いことに加え、球筋がかなり読みにくく、かつ深いショットがバウンド後に伸びてくるため、見た目以上に相手に与えるダメージは大きい。フォームとの関係で最も力強いショットが打てるのは太腿から腰にかけての高さだが、軽やかなフットワークと読みの良さを駆使して常にその打点で捉えられることが、ミスを出さずに強烈なショットを一発ではなく連射できる高い能力を生んでいる。また、コートの大部分をフォアでカバーできることが攻撃的な展開を可能にしている要因でもあり、鋭い振り抜きからクロスコートに引っ張る強打やバックサイドあるいはコート中央付近からの逆クロス、長いラリーからのカウンターストレートなど決定打を多数備えている。非力に見えて実は少々打点が詰まっても力強くもっていく技術とパワーがあることに加え、ラケットが長く見えるほどリーチが長いという特徴を持ち、とりわけ基本ポジションとするベースライン後方でその能力が活かされている。それほど積極的にコートの中に入ってプレーするタイプではないが、それでも攻撃力が落ちずウィナーを多く取れるのは、フォアに安定して深さを出す正確性だけでなく、力感のないスイングからは想像もつかないような突出したショットスピードがあればこそで、相手としてはたとえベースライン後方であっても彼に構えた状態でフォアを連続して打たれると展開が苦しくなる。

テンポアップと大胆さが課題のバックハンド

 バックハンドはクロスに角度をつけるのを得意とするが、ややクロス一辺倒になって先に展開されるケースが多く、ストレート方向への攻撃を増やすなど、もう少しフォアのような大胆さが求められる。技術的にはボールの落としすぎや待ちすぎの傾向があり、彼の中では確率を上げるための手段なのかもしれないが、結果的にそれがパワーと精度の両面を犠牲にしてしまっている。また、スライスを交ぜて変化を加えようとする姿勢自体は評価できる一方で、その質が伴わないために相手にチャンスボールを供給してしまうことが多いのが現状だ。それと関連するところで、とりわけ格上との対戦において長いラリーから仕留めにかかる場面でフォア、バック両サイドからドロップショットを多用するが、彼のストローク力をもってすれば決して得意ではない技巧的なショットで自分から仕掛けるよりは、むしろひたすら打ち粘って相手側の根負けを狙った方が結果的にポイントを取れる確率が高まりそう。自らテンポを上げていくショットが見られず、打点の高低や緩急の揺さぶりについていけないシーンも散見されるこのバックは改善の余地が残されている。

脚力と予測力を活かしたツアー屈指の粘り強さ

 粘り強い返球をしながら耽々とチャンスを窺う中で、持ち前の予測力も活かして徐々に形勢を守から攻へと切り替えていき、最終的に自分からライン際へ打ち抜いてポイントを取っていくのが基本的なパターンで、それほど一発のカウンターの怖さはないが、相手としては速い攻めを仕掛けているにもかかわらずロングラリーが増えるという展開に引き込まれると非常に厄介というのが彼のテニスの特徴といえ、彼との対戦ではある程度の心身の消耗は覚悟しなければならない。近年は両サイドともにディフェンス局面において確実にボールをクロスに戻す正確性が高まったことで、より一層しつこさに磨きをかけており、自分の返球が厳しい分だけ主導権を握って攻撃する機会も増えている。

安定感のあるテニスを支える確率重視のサーブ

 平均で70%近くを記録する確率の高いサーブも、安定感のあるプレースタイルに大きく寄与している要素の1つである。フルパワーでエースを取りにいく類の1stではないとはいえ、ある程度フラット系を軸に、ライン際を狙って相手を崩すことのできるサーブでツアートップクラスの高確率を誇っていることは特筆に値する。今後はいかに確率の高さを維持したまま、サーブ一本でポイントを取るような形を作っていけるかが課題となる。

容易にフリーポイントを与えない確実なリターン

 確実性に秀でるリターンが彼の安定性を支えている面も見逃せない。ラリーやサーブ同様にエースを奪われる怖さは決して大きくないが、速さに屈せず変化にも崩れず、なかなかフリーポイントをくれない嫌らしさがある。バックハンドの厚い握りでサーブを待つ姿勢がフォア側の対応力をやや低下させている面も否めないが、引きつけた打点で打ち返せるフォアハンドの特徴がそれを補っているともいえる。

更なる上積みを狙うならばプレーの選択肢の増加が鍵

 ナダルより下の世代から伸びてくる人材に乏しかったスペインにあって、14年に本格化したバウティスタ・アグートの存在は同国にとって光となった。すでに若いとは言えない年代であるが、持ち前の年間を通したタフさに衰えは見えず、精力的に大会に出場しては虎視眈々と上位を窺っている。格下のプレーヤーにはほとんど負けないというあたりは彼の堅実なテニスをよく表しているが、トップ10級を破っていくためには、素早いフットワークとフォアの強打を基盤とした攻撃の切れ味に磨きをかけるべくポジションをもう少し上げて戦いたい。また、プレーの選択肢を増やす必要もあり、その意味で今後はサーブ、リターン、ネットプレーなどストローク以外の要素が飛躍の鍵を握りそうだ。