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20200215102533

Lleyton Hewitt

レイトン・ヒューイット

 生年月日: 1981.02.24 
 国籍:   オーストラリア 
 出身地:  アデレード(オーストラリア)
 身長:   178cm 
 体重:   77kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  athletic DNA 
 シューズ: YONEX 
 ラケット: YONEX VCORE Tour 97 (330g) 
 プロ転向: 1998 
 コーチ:  Tony Roche, Jaymon Crabb   

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 強靭な足腰を活かしてどんな球にも喰らいつく機敏なフットワークとツアー屈指のリターン、安定感のあるストロークなどディフェンス能力に秀でたテニスを持ち味に、史上最年少記録となる20歳8ヶ月でNo.1に上り詰めた21世紀におけるオーストラリアテニスの英雄。非常に早熟な才能の持ち主であり、98年に故郷アデレード(250*)で弱冠16歳にしてツアー初優勝の快挙を成し遂げると、00年に19歳でトップ10入り、01年全米では準決勝のカフェルニコフ戦と決勝のサンプラス戦で圧倒的なパフォーマンスを発揮しグランドスラム初制覇を果たした。それ以降、02年末までにマスターズカップ連覇やウィンブルドンのタイトルも獲得しており、名実ともに王者と呼ぶにふさわしい活躍を見せていた。また、00年にはミルニーとのペアで全米覇者となり、こちらも史上最年少のグランドスラムダブルスチャンピオンとなるとともに、現役では唯一単複でのメジャータイトル保持者となっている。2000年代前半に全盛期があったということで、90年代のビッグサーバーの時代から、現在まで続くテニスのスピード化、アスリート化への変化の最前線にいたプレーヤーと言っていいだろう。06年頃から膝や股関節に故障を抱えることが多くなり、複数回の手術の影響などでペースダウンし、近年では毎年のように引退の噂が出るが、闘志はまだまだ衰えておらず、その都度復帰しては力強い姿を見せる。彼の場合、テニス強国であるオーストラリアの伝統を背負うという意識が人一倍強く、個人戦よりもデビスカップで最高のパフォーマンスを見せるのはよく知られた話で、実際に99年と03年には母国の優勝に大きく貢献している。そうした姿勢は根強い人気を生んでおり、トミックら若手が台頭してきた今もオーストラリア国内ではヒューイットに対する贔屓がとりわけ強い。闘志を表に出しすぎて、一部のラテン系のプレーヤーとは不仲だったが、近年では彼の個性として認められているようで、彼のコート上のパフォーマンスを肯定する声も増えている。彼のテニスに対するひたむきな姿勢は、若手の手本となるのはもちろん、同世代のベテランに多大な影響を及ぼしている。最も得意とするサーフェスは芝で、毎年とりわけ芝のシーズンになると存在感を発揮する。その他ではハードコートに強いが、パワーよりも技巧派寄りのカウンターパンチャーである点でクレーは厳しさを露呈する。1年を通したフル稼働が見込めなくなったいま、ランキングを上位に戻すことは本人も望んでいないが、逆に上位陣にとってはまさに迷惑ノーシードの代表格であり、グランドスラムの早期ラウンドで最も当たりたくないプレーヤーの1人となっている。ニックネームは映画のキャラクターに似ているという理由で元コーチのダレン・ケーヒルが付けた「ラスティ」。

フラット系の正確性と一瞬の判断力が生命線のラリー戦

 ベースラインからのストロークは概してフラット系の低い球筋を操り、ショットの威力は不十分だが正確性は極めて高く、今やそれが生命線となっており、正確にベースライン際に深くコントロールされるボールによって、相手の自由を奪うことが可能。以前は繋ぎのボールが中心で、相手がミスをするまで打ち粘るというスタイルであったが、近年はパワー化したテニスの中で生き残る道として、強打力を向上させつつネットプレーをより多く絡める前陣速攻に近いスタイルも習得した。元よりポイントの組み立て方や状況に適したショット選択は頭脳的であったが、能動性を高めたテニスを実践する中においては巧みなポジショニングや一瞬の判断力といったものがより分かりやすく立ち現れる格好となっている。

外側に切れていく独特なバックの逆クロスが十八番のショット

 フォアハンドは広めのオープンスタンスと大きなテイクバックから上半身を被せるようにしてボールを押さえ込む。バックハンドは向かってくるボールに対してシンプルにまっすぐラケットを引き、インパクトも後ろから前へしっかりと押すスイングで捉える。フォアは力負け防止を、バックは速い展開における隙のない対処能力を、それぞれ主眼に置いたフォームと解釈できる。クロスコートで長く打ち合って徐々に優位をとるのが基本スタイルであり、中でも鍵を握るバックのクロスは何気ないショットに角度がある分、相手を追い込み攻撃の起点になることも多い。一方で、フォア、バックともにコート中央付近から逆クロス方向に流して打つショットを得意とし、特にバックは横からボールを切るような軌道でスイングするため独特な回転がかかり、“スライスの強打”というようなイメージでバウンド後外側に逃げていく。デュースサイドのワイドサーブとこのショットのコンビネーションは崩しおよび決めの一手として非常に効果的に機能している彼ならではの技だ。

驚異的なコートカバーリングと伝家の宝刀トップスピンロブ

 さすがに全盛期のような威圧感さえ与えるスピードは消えたが、足の速さを活かしたコートカバーリングと、厳しく振られてもバランスを崩さず強いボールで応戦するカウンター能力は依然としてトップレベルにある。ボールへの予測と反応に優れるうえ、股関節が柔らかいためフットワークの最後の一歩を大きくとって力強く踏ん張れるのが強み。伝家の宝刀にして彼のトレードマークでもある両サイドからのトップスピンロブは世界最高との呼び声も高く、ネットに出てきた相手を嘲笑うかのように「芸術品」の如きスピードのあるロブで美しく抜いていく。彼自身もロブウィナーへのこだわりは強く、判断を誤り難しすぎるロブの選択をしてしまうこともあるが、それでもネットに出てきた相手の足元に巧妙に沈めるパッシングショットも質の高いものを持っているため、相手にとっては上下左右かなりの幅に意識の網を張る必要に迫られることもあり対応が非常に難しい。彼のディフェンスを打ち破るために必要なことは辛抱と決心の2つで、無理をして隙を見せると反撃に遭うため攻め急がずに確実にチャンスを作る必要があり、しかし一方ではヒューイットの牙城である根比べを回避するために少ない決定機を逸することも許されない。

実はツアー屈指の技術力を備えるネットプレー

 彼自身のネットプレーも実はツアー屈指と言って過言ではない技術力を備えている。守備に特化したプレーヤーとはいえ、ストロークに一発の威力を持たない分、攻めの展開では最終的にネットでポイントを取りたいのが彼のテニスで、それが速いサーフェスに強い要因のとなっている。ボレーのスタイルは強く厚く当ててオープンコートに流し込む基本に忠実な技術をベースにしつつ、特にバックボレーでは短く落とす絶妙なドロップボレーも鮮やかにこなす。また、スマッシュも秀逸で、不十分な体勢からでも際どいコースにミスなく打ち込むことができる。

サーブ&ボレー時代に引導を渡した卓越したリターン

 読みの良さと反応の速さが際立つ卓越したリターンも武器で、ビッグサーバー相手でもコンスタントにブレークを奪うことができる。1stではベースライン後方に立ちつつも、前に入り込みながら確実に鋭く返球し、2ndになると一転して回り込みなども多用しながら一気に攻勢をかけることも多い。僅かでもコースが内側に入れば必ずと言っていいほどエース級のリターンを通されるという感覚に相手を陥れるのが凄さであり、対ネットプレーの迎撃のうまさと並んで彼がテニスのサーブ&ボレー時代に引導を渡したと言われる所以だ。

ピンポイントでラインを射抜く精度が光るサーブ

 彼の強さを語るうえではサーブの良さも外せない要素だ。デュースサイドからのフラットサーブが特に質が高く、身長が高くないためエースになるコースは狭いのだが、だからこそ「ここしかない」というゾーンをピンポイントで射抜く精緻なコントロール力が光る。確率が悪いのが積年の難点ではあるが、とりわけ全盛期にはピンチで絶対に1stを外さない凄みを感じさせた。最近はサーブ関連のスタッツが陰りを見せ容易にブレークを許す試合が増えたことが、数字上は低迷の主な要因になっている。

忍耐強さ・打たれ強さ・勝負強さは最大級の賛辞に値

 決して体格には恵まれておらず、強烈なパワーショットを持つわけではないが、そのハンディを補って余りあるのが強靭なフィジカルとメンタルである。絶対的なウイニングショットがなく決め手に欠ける一方で、なかなか決めさせない粘り強さを持つため、当然1ポイントにかかるショット数が多くなり、試合時間も長くなるのが道理である。普通なら体力的に厳しくなるが、彼にとってはそれがスタンダードで、驚異的なスタミナで乗り切っている。同じ守備型でも例えばナダルジョコビッチのようにパワーがあり守っていても一撃で決められるプレーヤーならともかく、彼はカウンター含めてどこにも一発はなく非力感は隠しようもない。その中で絶えずボールを追い回し、自分のチャンスボールまで引き出す忍耐力は規格外そのもの。どんなに打ち込まれても屈することのない打たれ強さ、最後まで試合を諦めない心の強さ、ここ一番の勝負強さは最大級の賛辞に値する。そして彼の象徴である大事なポイントを取った時の「Come on!!」の雄叫びとガッツポーズ、これが相手としてはトドメを刺されたように堪えるのである。これだけ多彩な技術を有するプレーヤーがそれにもかかわらず泥臭さをセールスポイントにしているという事実にこそ、彼がテニス界の頂点を極めた理由が凝縮されていると言えよう。

満身創痍でも常に全力プレーを止めない姿がテニスファンの心を打つ

 体調とプレーの調子が万全な状態の時はそう簡単に負けることはなく、大物食いも頻繁にやってのけるのが最近のヒューイットであり、近年のベテランプレーヤーの奮起の波に乗り遅れることなく、彼もまたツアーで存在感を示している。また、デビスカップでは主にシングルスの座を後進に譲りつつダブルスでチームを牽引しており、精神的支柱としての役割も含めると彼の存在意義は少しも霞んでいない。現役では数少ないグランドスラム優勝経験者の1人としてはプライドもあるはずだが、そうしたプライドを良い意味で捨て去ってランキングが落ちても常に全力プレーでファンの心を打つヒューイットから今後も目が離せない。

 

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Bernard Tomic

バーナード・トミック

 生年月日: 1992.10.21 
 国籍:   オーストラリア 
 出身地:  シュツットガルト(ドイツ)
 身長:   196cm 
 体重:   91kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  Mizuno 
 シューズ: Mizuno 
 ラケット: HEAD Radical MP 
 プロ転向: 2008 
 コーチ:  Sara Tomic  

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 懐深くから球筋の読みにくい独特なフラット系のショットとスライスをコート奥に辛抱強く配球しながら、巧みにカウンターチャンスを生み出し、浮いたボールを強打で攻める、ストローク主体の変則的なプレースタイルを持つ長身プレーヤー。ジュニア時代から将来のオーストラリアを背負う存在として期待され、当時16歳にしてワイルドカードにより出場した09年全豪で1回戦を突破し大会史上最年少勝利記録を更新するなど、周囲の声に応える形で10代の頃からツアーで結果を残してきた。ツアーレベルを主戦場とし始めたのは11年で、それでも十分に早い本格化といえるが、すでにその年のウィンブルドンダビデンコやソダーリングといった上位シードを下してベスト8を記録したことが彼の才能の大きさを物語る。怪我の影響もあって一気にトップへということにはならなかったが、13年にシドニー(250)でツアー初優勝を果たすなどまずまず着実に成長を遂げている。本人曰く、必要ならパワーにものを言わせるテニスもできるそうだが、テニスセンスに溢れ多彩なショットを持っているせいか、若さに似合わず老獪な駆け引きを使う技巧派としての顔の方が強く出ている。そうした技術力に優れたテニスが最も生きるサーフェスは芝であるが、彼自身が得意としている以上に、相手が芝における彼のテニスを嫌がっている印象の方が強い。また、グランドスラムなどの大舞台や地元開催でより力を発揮する傾向にあり、この歳にしてプレッシャーを味方につける術を習得している点も、ファンの期待が高まる要因である。

技術・戦術どこを切っても特殊な唯一無二のフォアハンド

 フォアハンドはテイクバック、ボールの軌道、ショット選択などすべてにおいてツアーで唯一無二ともいえるショットで彼の最大の武器となっている。スイングの鋭さはそれほど感じられず、むしろゆっくりと振っているようにすら見えるのだが、手首のスナップをうまく使ってボールに伸びとスピードを与えている。明らかに個性的なショットではあるが、向かってくるボールの軌道に早めにラケットを入れて線で捉えるという確実性の観点や、あるいは打球時の脱力の観点で見ると、お手本にしたい打ち方ともいえ、癖の強さの裏面にありがちな弱点を炙り出しにくい点が相手目線では試合を難しくさせる。繋ぎや組み立ての段階では、緩いスイングで様々な回転を自在に操りながら的確に広角に打ち分け、相手がしびれを切らして無理をしてきたところで、逆にカウンターを仕掛けてポイントに結びつけるのが彼の形。繋ぎのショットがまさに曲者で、相手が全力で強打してきたボールを無力化するように無回転に近いボールをベースライン深くに返球したり、バックサイドからはことごとくスライスを続けたりして、相手のミスを誘発させる。一方、相手の虚を突く巧みな判断も光る強打の質も高く、距離を長く取れるクロスコート、とりわけ大きく回り込んでの逆クロスは不十分にも見える体勢からでも精度の高いショットを繰り出し、ウィナーに転換してしまう。たとえ一本で決まらなくとも上から被せるような独特のスイングから繰り出されるボールはシュート回転がかかっており、相手とすると対応に手を焼くショットであることに変わりはない。また、グリップチェンジをせずに厚いグリップのまま放たれるサイドスピンを効かせた独特なドロップショットも精度が高く、一部ではその彼固有の技は”Fade-away Dropper”として親しまれており、試合のどの場面で飛び出すのかは見どころの1つだ。

相手のショットを吸収して散らすスライスが武器のバックハンド

 バックハンドも本人が最も得意と話す低く滑るスライスを軸に、相手に難しいボールを打たせて徐々に攻撃チャンスを作り出すうまさが際立つ。スライスでアンフォーストエラーを犯すことはほぼ皆無で、しっかりと相手のショットを包み込むように吸収して何ともいやらしいコースに散らしていく。ただし、スライスのキレ自体は鋭く、スライスの打ち合いではほとんど負けない一方で、テイクバックが早く大きいため、相手に慣れられるとボレーでカットするなどの策を講じられて、歯が立たなくなる傾向がある。ゆえに、最近はスライスの割合を若干減らして戦っている印象があるが、強打の質も水準以上のものを持っており、新たな一面を見せている。また、バックに限らず13年からはチャンスではできるだけ強打して攻めていく本格派のテニスへと変貌を遂げつつある。より身長を活かすテニスになったと言うこともできるかもしれない。

豊富な技を駆使した老獪な駆け引きで崩す技巧派テニス

 パワーテニスが席巻する今の男子テニスにおいて、彼のように豊富なショットを駆使した緩急で相手のリズムを狂わせて勝っていくプレーヤーは稀である。ラリーの中で何気なく打っているように見えて、いつの間にかトミックのペースになっているというのが彼の強みであり、タイミングの取りづらさを物語っている。対戦相手としては自分がフラット系の速いショットを打てば打つほど良いショットが返ってくるため、トミックに先に打たせるような配球を交ぜていかなければ苦しくなる。ただし、様々な球種やコースを使いながらじっくりと組み立てていくテニスは、多くのプレーヤーにやりにくさを覚えさせる一方で、特定のトップとの対戦ではショートカットされてポイントを失うケースが目立つ。この勝ち味の遅さを解消しなければ世界の頂点への道のりは険しいと言わざるを得ない。

エースも量産できる安定したサーブ

 低いトスからクイックモーションで繰り出すサーブも、ストローク同様コースを隠す技術に優れ、派手さはないもののビッグサーバー並のエースを量産していく。また、確率の高さやダブルフォルトの少なさも特筆に値し、そう簡単には崩れることのない安定感を誇る。

才能任せを脱却し球際の粘り強さが欲しい

 ボールに対する優れた予測能力や他の大型プレーヤーにはない小刻みな足運びなど、トップを目指すうえでの明るい材料をすでに備えている一方で、球際の粘り強さに欠ける点は現状大きな弱点となっている。力ではなく技を駆使して辛抱強く崩す今のスタイルを続けていく以上、緩慢なフットワークというのは致命的で、最終的には体力勝負ともいえる根比べのようなラリー戦で勝ちを拾っていきたいのであれば、その戦術とのバランスでは機敏に動く意識を徹底したいところだ。元々重心を下げてショットの精度を高めるタイプではなく、長いリーチと繊細な手の感覚によって手先だけで打つのが彼にとっては当たり前で、それでどこにでもコントロールできてしまうのだからものすごいセンスと言うほかないが、良い意味で才能任せを脱却ししっかりと打点に入るフットワークを身につけることによって、より攻撃していける場面が増やせるだろう。

大人の自覚を持って「テニス界随一の問題児」からの卒業を

 性格的な問題なのか、貪欲さに欠けるきらいは以前からあったが、劣勢になるとあからさまに試合を投げるような態度を見せたり、謙遜や他人への敬意というものを知らない自信過剰な発言、オフコートでの警察沙汰などによって幾度となくファンや関係者の顰蹙を買ってしまい、オーストラリア国内ではそれまで彼を庇ってきたデビスカップチームからも見放されかけた。これらは若くして注目されすぎた反動ともいえるが、真面目にテニスに取り組まなければ恐ろしい回り道になるという自覚が要求されている。キリオスらさらに若い世代の台頭で尻に火がついたのか、14年後半あたりからは一皮剥けたようなハイレベルなパフォーマンスで存在感を取り戻し、エースとしてチームを牽引するデビスカップでは頼もしささえ窺えるようになった時期もあり、その姿勢に対しては過去に彼のことを叱った同胞の先輩ヒューイットも肯定的な態度を示していた。しかし、根の部分は全く変わっておらず、17年には「テニスに飽きた」と発言し、以後ツアーからはほとんど姿を消している。こうした”悪行”は枚挙にいとまがなく、本人に悪びれる様子もない中においては、国内外を見渡しても彼を擁護する声などもはや皆無だ。とにかくまずは精神面で成熟しテニスに真剣に取り組む姿勢で周囲の信頼を獲得したうえで、「若手」からは卒業となる今後数年のうちにインパクトのある活躍を期待したい。

 

Andy Roddick

アンディ・ロディック

 生年月日: 1982.08.30 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  オマハアメリカ)
 身長:   188cm 
 体重:   88kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: Babolat 
 ラケット: Babolat Pure Drive Roddick Plus 
 プロ転向: 2000 
 コーチ:  Larry Stefanki 

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 絶対的な武器であるビッグサーブと目にも留まらぬ強烈な打球を放つフォアハンドの両刀を駆使して敵を蹴散らす攻撃型スタイルのテニスで、デビュー当初から常にトップでの活躍を続けているアメリカの元No.1プレーヤー。ジュニア時代の輝かしい実績を引っ提げてプロツアーに参戦すると、1年目から3タイトルを獲得するなど特大のポテンシャルを示す形で一気に躍進。その2年後の03年には夏の北米ハードコートシーズンに凄まじい勢いを見せ、モントリオールシンシナティでマスターズ2週連続優勝、そして全米では準決勝のナルバンディアン戦でストレート負けの窮地から相手のマッチポイントを切り抜けて勝利を掴むと、決勝でフェレーロを圧倒してグランドスラム初優勝を成し遂げた。同年終盤にランキング1位を記録し、その後すぐにフェデラーにその座を奪われたものの、以後現在に至るまで常にトップに君臨し続けている。各部に大小の怪我を抱えた影響もあり、トップ10に定着しながらもなかなか上位陣には勝てない中だるみの時期もあったが、以前のような強打一辺倒の猪突猛進型のテニスから徐々に緻密な試合巧者へと大きく変貌を遂げたことにより、これまでとは別の強さを身につけている。フェデラー全盛期の最大の被害者としても知られ、もし彼の存在がなければ少なくともあと数個はビッグタイトルを獲得していたはずで、実際に4度のグランドスラム準優勝で涙を呑んだその相手はいずれも彼であり、対戦においては明確な戦略をいまだに見出せずにいる。クレーを苦手にしており、全仏などクレーの大会では早期敗退も目立つが、それでも上位をキープできるのは、サーブの威力が最大限に活かされるハードと芝で安定して好成績を残しているからである。本人的にもクレーでの戦いは半ば諦め交じりで、今後戦闘力の強化に努めるつもりもないようだ。少しサイズの大きめのウェアを着用し、ポイント間に両袖を捲し上げる仕草が彼のルーティンである。また、アメリカ人らしい陽気なジョークを振りまく性格もファンから愛されており、エキシビションなどで重宝されるプレーヤーでもある。

問答無用でエースを量産する史上最強クラスのビッグサーブ

 破壊的なパワーに技術力の高さが上乗せされたサーブはロディックの代名詞。躍動感溢れるフォームから繰り出されるクイック気味のサーブは、腕のプロネーションを強烈に効かせることで全身のパワーを最大限にボールに伝えており、スピード・キレ・安定感すべての要素においてその完成度が現役プレーヤーの中で群を抜いている。1stは最速249km/hを記録したこともある強烈なフラットサーブを軸にしつつ、スライス系やスピン系も織り交ぜて的を絞らせず、エースを含めフリーポイントを量産する。そこまで球速が出ていなくても食い込まれることが多いのが特徴で、バウンド後のボールの加速感、すなわち初速と終速の差が少ないことが大きな強みと言っていい。また、2ndで頻繁に使うキックサーブは他のプレーヤーのそれよりもさらに高く跳ね上がるため、リターンから攻め込まれることも少ない。高いサービスキープ力を実現しているのはこれらが大きな要因である。ここ最近はサーブに関連する数字に陰りが見られるのが不安材料で、サーブを確実に返球されるとストロークに突出した武器がないため、劣勢に立たされるケースが目立つ。

極めて速いスイングから繰り出す爆発的なフォアハンド

 ギリギリまで引き付けた状態から繰り出されるフォアハンドもスイングスピードが極めて速く、彼の強力な武器の1つである。基本的にクロスにはスピンを強めにかけた繋ぎのショットを使い、攻勢に出る時には思い切って回り込んで逆クロスへフラットドライブ系のショットでウィナーを狙いにいく。特に若き日のフォアは当時誰も止めることはできず、ボールの破裂を心配するほど、また打球は速すぎて見えないほどの勢いがあった。しっかりとした基本に裏付けられてはいるが、天性の瞬発力の高さによる部分も大きく、ハマると圧倒的な力を発揮する強みを持つ一方で、コントロールされたボールをコンスタントに打ち続ける能力はやや不足しているのが弱みだ。また、ほとんどのショットがバウンドの落ち際で捉えて打つため、パワーはあるが相手にとっては時間的な余裕も生まれやすい。もちろん厚いグリップから巻き上げるようにして放たれる重く鋭いスピンショットが功を奏す場面もあるが、ラリーの中で相手を圧倒できるような展開を手に入れるためには、タイミングの早い打点で叩く機会を増やすことが不可欠である。

低く鋭く伸びるスライスを中心に丁寧に散らすバックハンド

 バックハンドは攻撃力よりも安定感や正確性を重視して、強打ではなくスライスを多用する。インパクト後にラケットをぴたりと止めるようなイメージのそのスライスは低く鋭く伸びていくキレのある秀逸なショットで、相手を前後左右に揺さぶる場面やディフェンス時の粘り強い返球、アプローチショットなど様々な局面で使用することから、彼のテニスを支える重要なショットといえる。とはいえ、コンパクトなスイングで繰り出すライン際への強打も質が高く、豪快なフォアを警戒してバック側にボールが集まってくると、相手の虚を突いたダウンザラインが有効な決定打として機能し始める。プレーヤー間でもやはりロディックといえばフォアのイメージが強いようで、予想に反してバックの強打が来るとバランスを崩すことが多い。

自慢のパワーを攻守に使い分けるラリー戦術

 本来彼は明らかに攻撃型のプレーヤーではあるが、そのスタイルでさえテンポの速い打ち合いを得意とするタイプではなく、自らの立ち位置も下げつつ、相手からの速い振り回しを回避する中で自慢のパワーショットによる一発を見舞い相手を震撼させてきた。近年はその土俵を守備寄りにアップデートし、パワーを継続的に使って相手を押し込む戦略的思考が前面に出ている。迫力は完全に消えたが、トップらしい強かさを身につけたロディックはさながら別人のようである。

パッシングショットも得点源の1つ

 パッシングも彼の得意とするショットで、現役ナンバー1とも言われるリストの強さを活かした鋭いスイングで、年々精度を増してきている。元々フォアのパスには定評があったが、近年はバックのパスにブロックショットというレパートリーが増えたことで、大振りによるミスの減少やコースを読まれにくいといった利点に繋がっている。

年を重ねるごとに進化するネットプレー

 ネットプレーは特別うまさがあるわけではないが、攻撃的であるがゆえにネットに出る頻度は非常に高い。以前は強引なアプローチでネットに出る傾向があったため、長短のボールを巧みに操る上位陣はこの傾向を利用して、あえて浅いボールを配球し彼をネットに連れ出して簡単にパスで抜いてきた。しかし、コナーズの指導もあってまずは機会が増加したネットプレーが、ステファンキがコーチに就任して以降は質が改善され、このような相手の罠に嵌ることも少なくなり、ラリーを続ける中で生まれる本当のチャンスではじめてネットにつくことでポイント獲得率が上がった。技術的にはフォアボレーはシンプルに強く深く、バックボレーはサイドスピンを効かせるのが特徴。一本で決まらなくとも、最後にスマッシュで豪快に叩き込む形が多い。

動きの欠点は意識改革だけで改善できる

 動きにも見逃せない欠点があり、一見追い付けそうなボールでもすぐに諦めてしまうことが少なくなく、相手にプレッシャーを与えるためには、たとえ拾えなくとも全力で追うべきだという声が強い。追いついたボールを確実に返球する能力は決して低くなく、勝負所では驚異的な粘り強さを見せることからも分かるように、フットワーク自体の問題ではないのは明らかで、意識改革1つで改善できるはずだ。

些細なことに難癖をつけ始めると黄色信号

 起伏の激しいメンタル面は個性ではあるが、どちらかといえばマイナスの作用することが目立つ要素。意外にも基本的には静かにひたむきにプレーをしているのだが、審判の判定に難癖をつけてイライラが募り、冷静さを失って自滅するパターンもしばしばあるなど、1つの小さなきっかけから崩れる傾向が強い。逆に、元々短気な彼があまり声を上げず、黙々とプレーに集中できている時は非常に怖い存在となる。

かつての痛快スタイルと近年の大人びたスタイルの融合を目指せ

 年齢的にもベテランの域に入り、それとともに約8年間維持していたトップ10からも外れてしまったため、限界説も囁かれているが、それは「今までのスタイルでは」という条件付き。上位相手であるとどうしても後手に回ってしまい、本来の攻撃力を発揮できないまま悲壮感とともに散る試合が増えてきている。依然各ショットの強さに綻びはほとんど見られないが、問題はそれらをどう活かすか。持ち前の爆発力が戦術的テニスに埋もれてしまった印象は拭えず、かつての一か八かのような痛快スタイルと近年の頭脳的な大人スタイルの融合を試みてほしい。少なくとも得意とする芝での強さは現在でも間違いなくトップクラスであるだけに、高いモチベーションを保ち、アメリカテニスを引っ張る存在としてまだまだ健在であるところをアピールしたい。

 

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Michael Llodra

ミカエル・ロドラ

 生年月日: 1980.05.18 
 国籍:   フランス 
 出身地:  パリ(フランス)
 身長:   191cm 
 体重:   80kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  SERGIO TACCHINI 
 シューズ: asics 
 ラケット: Wilson Six.One 95 (16×18) 
 プロ転向: 1999 
 コーチ:  Yann Llodra  

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 ダブルスを主戦場としながらも、シングルスでも時折ファンの印象に深く残る活躍を見せるフランスのベテランレフティーにして、現ツアーの中では唯一の生き残りといえる純正のサーブ&ボレーヤー。彼のキャリアの主軸であるダブルスではサントーロと組んで03年、04年の全豪連覇や05年マスターズカップ制覇、クレマンと組んで07年ウィンブルドン優勝、12年ロンドン五輪では経験不足のツォンガをリードする形で銀メダル獲得などの輝かしい経歴を持つ、パートナーを選ばない実力に定評のある世界的に名高いスペシャリストとして知られている。一方で、08年ロッテルダム(500*)でのビッグタイトルや、ジョコビッチダビデンコら強豪を一蹴し、準決勝でもソダーリングを相手にマッチポイントまで迫った10年パリ(1000)での大躍進など、高速系サーフェスを中心にシングルスでも侮れない力の持ち主である。類稀なタッチセンスがベースとなった多彩なテクニックを駆使し、常に創造性溢れるショット選択で観客を楽しませることを忘れないユニークなプレーヤーであり、どこで何が出てくるか分からないプレーは、見る側のファンとしてはこれ以上ないエンターテイメントであるが、対戦相手としてはどこか不気味ささえある存在といえるだろう。また、今や数少ない縦横ともにナチュラルガットを張るプレーヤーとしても知られ、彼がハードヒットよりも繊細なタッチを重視していることを象徴する事実となっている。

時代を超越する代名詞のネットプレーは天才の領域

 読みの良さ、反応の鋭さ、タッチの感覚、コース判断とそれを忠実に実現するコントロール力、あるいは前への動きのスピードなど、すべてにおいて超一流の技術を備えるネットプレーの質は間違いなくツアーナンバー1であり、ロドラのテニスの大部分を占める代名詞的なプレーとなっている。現代テニスでは到底考えられない形でネットに出ていくのが特徴で、ほとんど100%に近い確率で行うサービスダッシュや、相手のサーブの質あるいは自分のリターンの質を問わず前に詰めていくリターンダッシュストロークの中でも常にネットを取る姿勢を崩さない。たとえ不利な状況でネットについてしまったとしても、持ち前の巧みなボレー処理で高確率でポイントに繋げてしまうのだから驚きだ。相手がトップ10級であると、リターンが浮いてくることが少なく、ハーフボレーや体が伸び切った状態でのローボレーを強いられることも多くなるが、それでもほとんど乱れないコントロールはもはや天才の領域と言っても過言ではなく、強烈なパッシングショットを文字通り包み込むような柔らかいタッチで短く落とす絶妙なドロップボレーや、強く低く球足を伸ばすアングルボレーなど、自由自在に相手を翻弄する。

巧妙なペースチェンジが脅威となる戦略的なストローク

 当然相手としては彼をネットに来させないために、深いストロークでベースラインに釘付けにしようとするが、ストローク能力も決して低くはなく、粘り強くかつ戦略的な返球から最終的にはアプローチショットに繋げていくことができる。持ち球はフラット系で、今時のプレーヤーの中ではかなり薄めのグリップから多彩な展開を使う。基本的には攻撃局面でも守備局面でもキレのあるバックハンドスライスを広範囲に散らして相手に打ち込ませず、浮き球を誘い出せば一気に攻撃のスイッチを入れて豪快に叩き込むのが大きなポイントパターン。握りの薄いフォアハンドでも、低い位置からラケットが出てくる独特なシングルバックハンドでも遜色なくウィナーを奪える点は、相手に大きなプレッシャーを与えている。また、多少強引にでもドロップショットを放って、得意のネット際の接近戦に持ち込む形も1試合の中で何度も見られる展開だ。

抜群のキレを誇る左利き特有のサーブからの展開

 左利きの利点を最大限に活かしたサーブも彼の武器で、サーブ&ボレーを貫く彼のプレースタイルにあってはテニスの生命線となっている。とりわけアドバンテージサイドからワイドに鋭く切れていくスライスサーブでオープンコートを作って、逆サイドにボレーで決める展開は分かっていても止められず、また200km/hを超えるセンターへのフラットサーブの効果もあいまって、ポイント確率は非常に高い。したがって、1stが高い確率で入っている時のサービスゲームは、どんなにリターン巧者であれブレークするのは困難を極める。一方で、2ndになるとさすがの彼でもサービスダッシュを自重することも多く、長いラリーに持ち込まれて思うような形に持ち込めないシーンも多々ある。

リターンダッシュの形も多種多様

 キャリアを通じてネットでのポイントの取り方を頑なに追求してきただけあって、リターンダッシュのバリエーションも非常に豊富なのが特徴。相手のサーブが2ndになると、不意を突いて思い切ってフラットに叩きエースを狙うこともあれば、スライスを低く短くプレースメントして相手に難しい体勢でパスを打たせたり、または鋭いパスを打たせないためにブロック気味の緩いボールをベースライン際に深く打って前に詰めるといった引き出しも持ち合わせている。こうしたリターンは奇襲的な側面が強いため、決してブレーク率は高くはないが、相手に対しては十分に脅威を与えられている点で軽視は禁物だ。

華麗なネットプレーでツアーを盛り上げる"最後のサーブ&ボレーヤー"

 “最後のサーブ&ボレーヤー”という立場の下、華麗なネットプレーでツアーを戦い抜いているということは、その事実だけで称賛されてしかるべきだろう。ネットプレーが絡む彼の試合は、ストローク全盛時代にあっては非常に新鮮かつスリリングなものが多く、特に地元フランスでは絶大な人気を誇る。単複二足の草鞋を履きこなすのは難しい年齢になってきてはいるが、少しでも長くツアーで活躍を続けてくれることを期待したい。

 

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Mikhail Kukushkin

ミハイル・ククシュキン

 生年月日: 1987.12.26 
 国籍:   カザフスタン 
 出身地:  ヴォルゴグラード(ロシア)
 身長:   183cm 
 体重:   72kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  HEAD 
 シューズ: asics 
 ラケット: HEAD Speed Pro 
 プロ転向: 2006 
 コーチ:  なし  

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 フォアハンドから絶え間なくライン際にフラット系の鋭いショットを突き刺してウィナーを量産していく積極果敢なプレースタイルを持つ攻撃型ストローカーの実力者。厳しい経済環境で育ち、大会を転戦するだけの余裕もなかった彼に転機が訪れたのは08年、テニスの発展に向けて各国から有望株を募っていたカザフスタンに国籍を変更し、以後同国協会から全面バックアップを受ける中、期待に応える形でツアーで存在感を示し、またカザフスタンを強豪国に引き上げた。10年秋にデビスカップのワールドグループを賭けたプレーオフのスイス戦で格上のバブリンカに勝利して自信をつけると、翌月のサンクトペテルブルク(250)では決勝で当時10位のユーズニーを破りツアー初優勝を果たした。元々コーチを務めていた女性と結婚し、その後も長く彼女の指導の下でプレーを続けてきたというユニークな一面も持つ。彼自身のプレースタイルは十分に能動性の高い積極的な部類といえるが、フォア、バックともにツアーで最も回転量の少ない打球を操るプレーヤーの1人だということも関係して、相手目線ではククシュキンからの返球が浮いてこず常に低い位置で捕らされる分だけ振り切れない感覚があり、粘り強い守備型のプレーヤーと捉えられることもある。テニスのスタイル的に彼の力が最大限に発揮されるのはハードコートで、特にインドアなど高速系サーフェスでは高い勝率を誇る。

美しくコーナーに吸い込まれる低弾道のフォアハンド

 体の開きを抑えてパワーを溜め、大きなテイクバックから厚いインパクトでダイナミックに振り抜く球持ちの長いフォアハンドは彼の最大の武器で、打ち込むボールの深さが相手の自由を奪い、ラリー回数が増えるにつれて主導権を引き寄せる。とりわけダウンザラインへの強打の精度は目を見張るものがあり、糸を引いたような美しい弾道でコーナーに吸い込まれていく。打球時に上体の軸がほとんどぶれないため、返球されたボールの強弱を問わずしっかりと叩けるのが強みで、彼に構えて打つ状況を作らせてしまうと危険だ。とはいえ、相手のショットの力を利用する能力もまた高く、ハードコートでは膝を柔らかく使って急停止するフットワークもあいまって、強烈なカウンターショットも大きな魅力である。

"変化球"を操る極めて特殊なバックハンド

 ボールの出所が読みづらく、ラケットヘッドを落とさずにボールを斜め下から払うような格好のフォームが特徴のバックハンドは、ツアーでもトップクラスに特殊な回転と軌道で飛ばすショットであり、相手とすれば”変化球”と言っても過言ではないそのショットに慣れるまでに少し時間を要する。その特殊性とはすなわち無回転系かつナチュラルにスライスして左側に曲がる点にあり、とりわけバウンドの低いサーフェスで抜群の効果を発揮する。ウィナーを稼ぐほどの決定的な威力は持たないが、左右に確実に散らして走らせるコントロール力はいやらしく、加えて回転量が多めのスライスで緩急もつけながらラリーを展開するため、回り込みフォアへの警戒も含めて対ククシュキンのラリーでは慎重にならざるを得ない。

低い位置で捕らせて自らの連続攻撃に繋げるラリー戦

 どのコースに打つにも概して軌道の低いフラット系でスピード重視のショットをネット上ギリギリの高さを通過させて相手を押し込んでいくストロークは、攻撃力と安定感を高度に兼ね備えており、連続して質の高いショットを繰り出すことで相手を防戦に立たせることができる。課題があるとすればネットプレーに自信がないために、本来ならアプローチを打ってボレーで決めたい流れでも強引にストロークウィナーを狙わざるを得ず、どうしてもミスが増えてしまう点で、ボレーの改善によって確実に決めるパターンを習得したいところだ。

強烈に叩かれる2ndを改善したいサーブ

 攻撃的なテニスにあってはサーブがまだまだ改善の余地がある課題といえる。確率重視の中である程度のフリーポイントも取れる1stはともかく、容易に回り込みからフルスイングでのリターンなどを許してしまっている遅い2ndは大きな弱点で、特に勝負所でコースが甘くなる傾向はどうにかしたい。

曲者の強豪の地位は盤石、さらに上を狙える力もある

 半端なパワーやスピードで振り切ろうとすれば、逆に反撃に遭って苦戦を強いられるというのがククシュキンとの対戦の特徴で、トップ10級であっても侮れない曲者の強豪なのは間違いない。不気味な存在ではあるが、一方で重要な局面におけるあと一押しが足りない印象もあり、やや物足りなさが窺えるメンタル面で一皮剥けて威圧感のようなものが出てくると、さらに上を狙えるポテンシャルは持っている。

 

Miomir Kecmanovic

ミオミル・ケツマノビッチ

 生年月日: 1999.08.31 
 国籍:   セルビア 
 出身地:  ベオグラードセルビア
 身長:   183cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  DUNLOP 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: DUNLOP SX 300 
 プロ転向: 2017 
 コーチ:  Wayne Black 

 頑健な足腰を活かして強く踏ん張るディフェンスとミスの少ない安定したストロークを基盤に受け身のラリーからパワーで押し込む堅実かつ力強いプレースタイルを持ち味とする、強豪国セルビアの次世代を担う旗手として期待を背負う若手プレーヤー。オンコートで醸し出す落ち着いた雰囲気も含めて彼のテニスはすでに非常に整ったバランスを持っており、NextGenの中では良くも悪くも若手らしくないことが個性といえる。ツアーへの参戦は19年からだったが、まだツアーレベルわずか1勝の中、ラッキールーザーとしての出場となったインディアンウェルズ(1000)でベスト8を記録、そこで得た確かな自信の下、年間を通じて十分にトップに通用する実力を証明する形であっさりとトップ50入りを果たしたあたりはさすがジュニア時代No.1といったところ。地面を強く踏みしめることでボールにパワーを伝えるタイプであることもあり、ハードコートが最も相性の良いサーフェスである。

強靭な下半身を活かした反撃能力が光るフォアハンド

 下半身の踏ん張りとぶれない体幹が芯のある強力なショットに還元されるフォアハンドは彼の最大の武器である。後ろ側ないし外側にある右足でしっかりと壁を作り、広いスタンスから重心を低く体重を少し後ろに残して打つのが特徴。スピン系で高い軌道のため安定しており、特にクロスに引っ張る系統のショットの球威、その中でもバウンド後の勢いが突出している。回り込みフォアを駆使して逆クロスへ攻撃を仕掛ける積極性もあり、一発の破壊力というよりも絶えずハードヒットしてダメージの蓄積を狙う戦略は堅実さの表れ。また、守勢からカウンターを放つ場面でもラケットヘッドを利かした振りの速さとショットの精度・威力がまったく落ちない点も強みであり、トップレベルの展開スピードが体に染みつき、反応速度などが上がって追いつけるボール自体が増えてくれば、今後さらに反撃能力の脅威が高まるはずだ。

クロスに叩く強打が武器のバックハンド

 コンパクトな鋭いスイングでボールを捉えるバックハンドは距離を出すショットを得意とする。クロスに気持ち良く叩き込む強打に深さと角度が両立しているのが強みで、相手の予測の上を行くコースへの配球で多くのウィナーを奪う。フォア同様にカウンターも盤石で、オープンスタンスで跳ね返す際に最後の左足の一歩を大きくとってパワーを出す打ち方は錦織やジョコビッチにも共通する高度な身のこなしだ。現状の課題は主導権を握った局面でのダウンザラインにやや精度を欠き、決定打としての有効な使い方になっていない点か。

ブロックリターンの多用が特徴の質の高いリターン

 安定した返球確率と攻撃性を兼ね備えるリターンも武器の1つとしている。1stに対してはフォア、バック両サイドともにスライス系のブロックリターンを多用するのが彼のスタイルで、両手打ちのバックのプレーヤーとしては少し珍しい特徴といえるが、ポイントをニュートラルな形で始めるうえでこのリターンが機能している。一転して2ndになるとコートの内側に踏み込んで叩く姿勢を見せ、実際にポイント獲得率もツアー上位に位置している。

球際に強く手堅い戦術を遂行するのが強さであり個性

 決してテニスに華があるとは言い難いが、体が丈夫で球際に強く、派手さは求めず手堅く戦術を遂行していく首尾一貫した戦いぶりは紛れもなくケツマノビッチの強さであり、またセルビアの伝統を継承した有望なプレーヤーであることを印象付けている。技術面では1stサーブのパワーアップを実現することができれば、数年以内にトップ10を窺う存在になれるポテンシャルを秘めている。「ジョコビッチの後継者」という巨大なプレッシャーを背負わせてしまうのは気の毒だが、高みを見据えて一歩ずつ着実に成長する姿を見守っていきたい。

 

Philipp Kohlschreiber

フィリップ・コールシュライバー

 生年月日: 1983.10.16 
 国籍:   ドイツ 
 出身地:  アウクスブルク(ドイツ)
 身長:   178cm 
 体重:   70kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  Mizuno 
 シューズ: Mizuno 
 ラケット: Wison Pro Staff 97 
 プロ転向: 2001 
 コーチ:  Markus Hipfl  

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 178cmと決して体格には恵まれていないものの、飛び跳ねるような身のこなしや軽い動作でボールに勢いをつけ、かつコントロールする能力が高く、豊富なバリエーションを武器に攻撃的なテニスを展開する、ハースとともに並び称されるドイツが生んだ天才系プレーヤー。華麗なプレーを持ち味とする一方で、球際に強いタイプなうえ、我慢強く戦うメンタルも兼ね備え、小気味良い動きで最後までボールを追えるため、上位陣であってもそう簡単には勝たせてもらえないしぶとさがある。07年ミュンヘン(250*)でのツアー初優勝以降、安定して30位前後をキープする息の長い強豪だが、技術力や駆け引きで勝負させればその実力は間違いなくツアー屈指。トップ10との対戦でも常に数ポイントが勝敗を分ける接戦を演じるが、一方でいつも惜しいところで敗れている印象も強く、「善戦はするのだが」という評価を覆し、12年ウィンブルドンでのベスト8という大きな大会での自身最高成績を更新するためには、何か決め手を持ちたいのも事実だ。パワーよりもテクニックで勝負するテニスはクレーと芝での戦績が良いものの、ハードが苦手というわけではなく、どのサーフェスでも不利が出ない器用なタイプで、これは極めて多彩な技術と戦術を持っていることが大きな理由であるが、どちらかといえばやや遅めの条件の方が彼のテニスには合っている。

あらゆるバリエーションを駆使して相手を翻弄するストローク

 ストロークは我慢強くボールを繋ぎ続けることもできれば、意外性のあるカウンターを放ったりと、緩急を自由自在に操れるのが持ち味。加えて、自分のポジションも盛んに変えながら、コートを横にも縦にも、あるいはボールの軌道の変化で上下にも広く使って相手を翻弄する。ベースライン3m以上後方から内側まで幅広いポジションでラリーを展開するが、それぞれの立ち位置に応じたショットの選択が巧みで、一定のリズムで相手に打たせない。ハードヒットしてくる相手にはある程度打たせながら、待ち構えてカウンターを取る形を得意とするが、これは彼の予測力と“打たせ球”を作るセンスがあってこそのスタイルで、コールシュライバーならではといえる。フォアハンド、バックハンドともにスピン系とフラット系の両方を駆使しながらラリーを支配していく。

アングルスピンと思い切った強打のバランスが絶妙なフォアハンド

 跳び上がりながら打つフォアは、高い打点からフラットに叩いて一気にウィナーを取ることも、同じ打点から強烈なスピンの効いたアングルショットをクロスや逆クロス方向に打って相手のバランスを崩すこともでき、両者を絶妙に配合することで相手に容易な予測を許さない。最近では特にフォアの強打の爆発力が増しており、一撃の切れ味は凄まじいものがある。

とりわけ多彩な技が光る代名詞的な片手バックハンド

 一方、シングルハンドで放つバックはボールを強くヒットするというよりは、丁寧なスイングでボールを運ぶというイメージが強い。肩の入れ方や頭の傾きが特徴的なフォームだが、独特に見えて体の軸をぶらすことなく大きな遠心力を利用するという力の伝え方はシンプルで、その理に適った事実がショットの鋭さを生んでいる。相手のショットに威力がある時は無理して振り切らず、ブロックして面を押し出すような形でそのボールの力を借りて、正確にコース変更をしていけるのが強みである。ボールを押さえつける技術が高く、本来片手打ちの弱点とされる肩より高い打点を強いられても、逆にチャンスとばかりにクロスの鋭角に鮮やかなウィナーを取っていく。クロスラリーで強烈なトップスピンの効いたループボールを執拗に打って相手を釘付けにすることで、広く空いたストレートに流し込むダウンザラインも非常に美しい軌道で決まる。スライスの織り交ぜ方も秀逸で、上から切るような回転量の多いゆったりとした球種でリズムを変えることができる。また、同じフォームから放つドロップショットも得意で、比較的低い軌道でネットを越してくるため、一歩目の反応が遅れてしまっては対応できない。

全身のパワーを余すことなく使う強力なサーブ

 小柄ながらサーブを武器にしている点も彼のテニスにおける強みの1つである。上半身を大きく捻り、全身を使ってパワーを出すのが特徴で、エースを多く奪う200km/hを超えるフラットサーブに加え、展開を優位に進めるためのキックサーブやスライスサーブの質も高く、1stの段階から状況に応じてこれらを使い分けることで的を絞らせない。ダブルフォルトの少なさも特筆に値する点で、2ndの強力さも高いサービスキープ率の実現に寄与している。

状況に応じて使い分ける多様なリターンの選択肢

 リターンもやはり多様性が光り、早いタイミングでコンパクトに合わせて弾き返したり、大きく下がって力強いスピンを打って押し込んだり、また相手がトスを上げた瞬間に一気に前進して叩きそのままネットに仕掛けたり、相手の特性や試合状況に応じて様々なパターンを使い分ける。

堅実で粘り強いメンタルが強さの秘訣

 技術的には天才型だが、そのタイプにありがちな淡白さは見られず、むしろメンタルの粘り強さは彼の強さのベースになっているとさえいえる。メンタル的に堅実派という点は、プレーヤーとして完成までにやや時間を要した理由であるのかもしれないが、その分年齢的にはベテランに差し掛かった時期にキャリアで最も安定した成績を残すようになったことも頷ける。また、地元の大会で決まって好成績を残す点や5セットマッチフルセットでの勝率が高い点も特徴だ。

弱点を突く戦術眼は一級品、攻撃性アップが今後の鍵

 対戦成績があまり芳しくない一定以上のパワーを持つプレーヤーやハイテンポのラリーから頻繁にネットプレーを絡めてくるプレーヤーに対する対抗策を見出すことができれば、マスターズ格以上の大会でも上位争いを演じられるポテンシャルは十分にある。ポジションの前後幅、ショット軌道の上下幅、回転量やコース取りなど、彼ほど様々な変化を出せるプレーヤーは他におらず、それだけにどの選択肢を切っていくか迷いが生じる場面もあるが、いずれにしても相手に気持ち良くプレーさせない戦術眼は一級品。ベースライン後方からの展開が基軸でテンポアップが少なめなため、純粋なショットのクオリティで勝負せざるを得ない点が、彼が上位陣目線で怖さが限定的な理由といえ、ストロークにおいて巧妙な組み立てで引き出したチャンスボールに踏み込む積極性とそれを決め切るショットの威力と精度がもう少し上がると、まだ彼のテニスに上積みあるいは新たな側面も期待できそう。才能の開花が遅めだった分、30代半ばになっても衰えることなく若々しさを保って活躍を続けてきたタフネスぶりは称賛されてしかるべきだろう。さすがに最近は俊敏性や脚力が低下し淡白な戦いに終始する試合も出てきたが、それだけに今まで以上に攻撃性を高める中で今後もドイツテニスを引っ張る存在としてツアーで存在感を示してほしい。

 

Ugo Humbert

ユーゴ・アンベール

 生年月日: 1998.06.26 
 国籍:   フランス 
 出身地:  メス(フランス)
 身長:   188cm 
 体重:   73kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: LACOSTE 
 ラケット: Wison Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2016 
 コーチ:  Jeremy Chardy, Thierry Ascione  

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 球種のバリエーションと配球範囲の幅広さが光るサーブ、滑らかな技術が攻守両面に生きたストロークの展開力を武器に、NextGenを代表するサウスポーとして日増しに存在感を高める若手プレーヤー。フランステニス連盟が12歳から手塩にかけて育成してきた逸材であり、加えて伝統的なテニス強豪国ながらこの10年、すなわち90年代生まれの台頭に乏しかったフランスにあってアンベールに懸かる期待と重圧は大きいものがあるが、本格的にツアーに参戦した19年にしっかりと結果を残してNextGen ATP Finalsに出場し同世代からも決して後れをとっていないことを示すと、翌20年オークランド(250)でツアー初優勝を飾り、今まさに飛躍の予感を漂わせるプレーヤーの1人だ。ハードコートを最も得意とし、恐らくはその中でも速い環境との相性が良いタイプ。逆に高い打点からパワフルに叩くテニスではない分、クレーは厳しい戦いを強いられるかもしれない。

多彩な回転を操りラリーの主導権を放さないフォアハンド

 非常に体に近い位置までボールを引きつけてインパクトすることで、相手に打つコースを読ませず反応を遅らせる場面が目立つフォアハンドはラリーの主軸となるショット。打点も少し落として外側から巻き込み横の変化量を上げて大きな角度をつけるスピン系のクロスコートはいかにも左利きらしい崩しのパターンであり、加えてストレートから逆クロスには早いタイミングでラケットを真っすぐ当てて押すフラット系の打球に切り替える確かな技術力がある。緩急と軌道のメリハリが数多くの打ち合いで主導権を握ることのできる要因と言っていい。課題は速いボールへの対応に脆弱性がある点。かなり打点を引きつける特徴は長所である一方で、振り遅れて差し込まれる弱点にもなっている。ラケットのセットの早さや引きすぎない位置は問題ないのだが、そこからの始動がやや遅く、これは将来的な怪我の懸念もあるため少しずつ矯正すべきだろう。また、コートの中でボールを持ち上げる処理でミスになるケースが散見される。ネットに出る意識は感じられるうえボレーもそつなくこなせるだけに、アプローチショットの精度を向上させたいところだ。

コートに吸い込まれるような伸びやかな軌道が魅力のバックハンド

 左足を深めに踏み込んだところから鋭く上体を回して放つバックハンドはフォア以上に高い評価を得る大きな武器である。膝を折った低い姿勢から非常に伸びのある低い軌道のショットを連発するのが特徴で、特にクロスに引っ張ったボールが吸い込まれるようにコーナーを捉えるコントロール力が魅力。ラケットを合わせる感覚に優れるため、コート後方からのカウンターウィナーも多く、守備時の耐久性も十分に備える。高く弾むボールで後ろに押し込まれる展開を回避する技術や戦術を身につければ、さらに質の高いバック側のラリーを実現できるはずだ。

角度・スピード・キレの三拍子揃った躍動感のあるサーブ

 クイック気味の躍動感あるフォームから繰り出され、高い割合でフリーポイントに繋げる強烈なサーブも武器にしている。まず際立つのは210km/hを超えてくる高速フラットであり、レフティ相手で外に切れる球種に意識が行ったその警戒を掻い潜るように速いサーブで突破していく。一方でスライスサーブも申し分ない回転のキレがあり、またスピードの抜き方、言い換えればフラットとの球速差も理想的であるため、リターンの体勢を崩して速い展開の攻撃に繋げることができる。身長こそ今のツアーでは平均的だが、彼のサーブは非常に高さを感じさせ、縦横の角度が相手の対応を難しくさせているといえる。

フィジカルの強化次第で明るい未来が開ける

 元々持っていたしなやかさとフランス人らしいオールラウンドなテニスにここ最近は力強さも加わってきた印象で、ポテンシャルに結果が追いつき始めた段階だ。それでもまだまだ身体の線は細く、フィジカルの完成により球際の粘り強さを手に入れるとともに、持ち前の器用さが小さくまとまってしまうことのないよう全体のスケールアップを図ることに成功すれば、彼の目の前には輝かしい未来が開けてくるだろう。

 

 

Jiri Vesely

イリ・ベセリ

 生年月日: 1993.07.10 
 国籍:   チェコ 
 出身地:  プルシーブラム(チェコ
 身長:   198cm 
 体重:   94kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  lotto 
 シューズ: lotto 
 ラケット: Wison Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2009 
 コーチ:  Jaroslav Navratil, Dusan Lojda  

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 角度のある高速サーブと強引にねじ込むような重く鋭いストロークを武器に力強さが前面に出たテニスで近い将来のトップ10入りを目指す強豪国チェコ期待の有望株レフティー。198cmの長身でビッグサーブを放つイメージからテニスも大味と思いがちだが、プレースタイルそのものは決してパワー一辺倒というわけではなく攻守のバランスを重視した堅実なものであり、また意外にアイディア豊富なテニスを見せるなど、油断のならないプレーヤーとして上位陣が警戒するプレーヤーの1人である。11年に全豪と全米のジュニアを制した実績を持つ逸材で、ツアー参戦後も13年にATP新人賞獲得、15年にオークランド(250)で初優勝と徐々にではあるが着実に成長を遂げている。サーフェスによる戦力の偏りはないタイプだが、1つ特筆すべきは芝での強さ。ウィンブルドンで過去にティームやA.ズベレフを早期ラウンドで敗退に追いやった実績があり、トップ10級とも互角に渡り合う実力を持っている。

爆発力と安定感を高次に兼ね備えるビッグサーブ

 ラオニッチに似た膝の曲げ方や薄いグリップで癖のないフォームから繰り出すサーブは彼の最大の武器で、230km/hを超えることもしばしばあるフラットサーブの威力はツアー屈指。モーションがシンプルなため大崩れすることも少なく、確率も比較的高い数字を維持することができたり、2ndも威力を落とさずに打てる強みを持つ。ただ、左利きの特権ともいえるアドバンテージサイドでワイドに切れるスライスサーブの質がいまひとつで、センターフラットを読みながらでも反応で十分に対応されてしまっている。このあたりがビッグサーバーの割にサービスキープ率が伸びてこない原因で、更なる進化のためには改善が求められる。

どっしりと構えて重いボールをねじ込む力強いストローク

 ストロークは強靭な下半身の踏ん張りによって溜めたパワーをショットに転換していくのが特徴で、それが球威と安定感を併せ持つ彼の強みを生んでいる。左利き特有の懐の深さがあるフォアハンドはラケットヘッドが落ちずにインパクトに向けて上から一直線に出てくる分常に厚い当たりを実現できており、とりわけフラット系のダウンザラインは抜群の破壊力を誇る。フォーム的にも相手としてはストレート方向を意識させられるが、しっかりと上半身を回してクロスにスピン系で引っ張ることもでき、そうなると逆を突かれることが多いのもベセリのフォアの特徴である。体格の印象通りフットワークは鈍重と言っていい部類に入るが、一歩の幅が広くリーチも長いため、特にこのフォア側は体勢が崩されても強いボールを返球する感覚を持っており、決して守備力に弱点があるとはいえない。バックハンドはコンパクトなスイングでカウンター気味に展開していくが、加えて前に入って高い打点から打ち込めている時は好調の証明だ。バックからは精度の高いドロップショットを仕掛けるポイントパターンも確立しており、速い打ち合いの中で有効なアクセントとなっている。課題といえばベースライン後方でボールを待ちすぎる傾向がある点で、内側に入れる甘いボールには積極的に前で処理する判断が身につけば、さらに自慢の強打が生きてくるだろう。

攻守のバランスは崩すことなく攻撃の形を磨きたい

 大柄ながら一発だけではない器用さや粘り強さを持ち、守りを固めながらもボールの強さで相手を押し込む彼のテニスの理想形としては「左のデルポトロ」といったところか。レフティの有利さを活かすことをテーマに個々のショットの向上を図りつつ、それらがコンビネーションとして結び付いてくれば飛躍的に攻撃力がアップしそうな雰囲気が漂う。16年モンテカルロでNo.1のジョコビッチを撃破し話題となったが、潜在能力からすればまだまだ存在感を示し切れてはいない。その意味ではそろそろ大きな大会での好結果が欲しいところだ。

 

Pablo Andujar

パブロ・アンドゥハル

 生年月日: 1986.01.23 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  クエンカ(スペイン)
 身長:   180cm 
 体重:   80kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: Prince 
 ラケット: Prince 
 プロ転向: 2003 
 コーチ:  Marcos Esparcia 

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 コートを縦横無尽に激しく動き回る機動性をベースに、スペイン伝統の粘り強さを受け継ぎつつ、さらにフラット気味に叩いて相手を押し込む攻撃的なストロークを加えたテニスを武器に、クレーコートでの強さに定評があるベースラインプレーヤー。11年、12年のカサブランカ(250)連覇に加え、13年マドリード(1000)における格上を次々と破ってのベスト4や15年バルセロナ(500)での準優勝、クレーで何度も王者ナダルと接戦を演じるように、クレーでの彼の実力は疑いなくトップ20級である。ハードコートではその強さが大幅に落ちるのが現状で、芝ではまったく強みが出せていないが、逆にそれもスペシャリストらしい個性といえる。16年からの2年間は肘の故障により長期離脱を余儀なくされたが、18年に復帰するとプロテクトランキングを行使して出場したマラケシュ(250)でタイトルを獲得、98年アデレードで550位のヒューイットがツアー初優勝を記録して以来最も低い395位での優勝ということでも話題になった。また、4度のツアー優勝のうち3つがモロッコの大会と不思議な相性の良さを見せているプレーヤーでもある。

高いポジションからの波状攻撃が魅力のストローク

 あまりベースラインから下がらず、膝を折った低い姿勢からライジング気味に捉えていくストロークは、スペイン人にしてはスピン量が少なめで、跳ね上がりの球威というよりは伸びやかな球筋を重視しているのが特徴。気持ちも含めてプレーが波に乗り始めると、インパクトから一気に加速するようなショットがどんどん厳しいコースに入ってくるため、これは上位陣でもなかなか止められない。技術的にはミドルコートでのボールの処理が抜群にうまく、ベースラインでのラリーで相手を崩せば、次々に前に入って波状攻撃を仕掛けることができる。振り抜きの良いフォアハンドはストレートから逆クロス方向への強打やカウンターショットで数多くのウィナーを放つが、一方でバックハンドもフォアに劣らない質の高さを誇り、ダウンザラインからクロスのアングルまで早いタイミングで広範囲に正確に打ち分ける。特に長いラリーの末に、バックのクロスを鋭角にコントロールしてポイントを取る形で相手を苦しめる。また、両サイドともにコート中央付近から逆クロス気味に放つショットを得意とする。打球時には盛んに跳び上がってボールを捉えるため、上背の割に上から押し込むようなショットが多く打てるのが強みである。そして、相手をベースライン後方に追いやったうえで、裏をかいたドロップショットを使ってポイントを締めるのも1つの形だ。ミスを出さない堅実なストロークは、基本的なタイプとしてはフェレールに似ているといえるが、彼の方がよりリスクを冒してライン際を狙っていく攻撃的なショット選択が目立つ。

遠くも近くも巧みな身のこなしで叩き返すリターン

 打点に入っていくリズミカルなフットワークと、遠くのボールに飛びついて返球した時のバランスの良さが、強力なストロークや攻撃力の高いリターンを生んでいる。特にリターン力という点では数字の面にも表れるように、ツアー屈指の強さを持っている。彼の場合、トップレベルの中ではサービス力が著しく劣り、ブレークを許す確率が高い分、リターンゲームの強さでそれを補っているといえる。ボディ寄りに来たサーブに対して体を逃がしながら強く返球する技術の高さや、積極的に回り込んで叩く2ndのリターンが、相手にかなりのプレッシャーを与えている。

弱点のサーブを改善してトップ30を目指したい

 運動能力やストロークなどテニスのベース部分がしっかりと固まっている分、弱点であるサーブをすべての面で改善し、安定したサービスキープができるようになれば、クレーに限定されている強さがハードでも発揮される可能性は十分にあるだろう。常にトップ30がアンドゥハルにとって1つの壁となってきた雰囲気があるが、そこを突破しグランドスラムでシードが付くようになれば、さらに面白い存在となれそう。キャリアの締め括りも意識し始めるベテランの年齢になったが、上位と対等に渡り合う力は衰えておらず、まだまだ活躍を期待したい強豪だ。