Holger Rune
生年月日: 2003.04.29
国籍: デンマーク
出身地: ゲントフテ(デンマーク)
身長: 188cm
体重: 77kg
利き手: 右
ウェア: NIKE
シューズ: NIKE
ラケット: Babolat Pure Aero VS
プロ転向 : 2020
コーチ: Lars Christensen
Patrick Mouratoglou
ベースラインから早いタイミングで繰り出すストローク強打を中心にネットも絡めたオールラウンドな攻撃的テニスを武器に戦うデンマークの超新星プレーヤー。グランドスラムデビューとなった21年全米1回戦でNo.1のジョコビッチとの対戦を引き当てて1セットを奪いその名を世界に知らしめると、ツアーへ本格参戦した翌22年に快進撃が始まる。ミュンヘン(250)で挨拶代わりのツアー初優勝を飾ると、全仏では優勝候補の一角チチパスに土をつけてベスト8。しかしそのクレーシーズンの躍進すら霞むセンセーションを巻き起こしたのは終盤のインドアハードシーズンだった。驚異的な4週連続決勝進出を果たし、特にその仕上げとなったパリ(1000)ではフルカチュ、ルブレフ、アルカラス、オジェ・アリアシム、ジョコビッチを連続で撃破してマスターズ初制覇を成し遂げる。1大会内で5人のトップ10に勝利するというのは史上初の快挙であった。19年全仏ジュニアを制するなどジュニア時代にNo.1の経歴を持つ逸材であることは紛れもない事実ながら、まさかこれほど早期にトップへの階段を駆け上がると予想する向きはなかった。同年代のアルカラスがグランドスラム優勝を含む異次元の活躍によりNo.1に到達したシーズンであったために、少なくとも年末まではルーネが陰に隠れる形となってしまったが、19歳でのこの飛躍は恐ろしく、まだ若手の域にいる少し上の世代も含めて彼の存在に戦々恐々としているのがツアーの現状である。経験が少なく怖いもの知らずで臨めるメンタリティが後押しした面がいくらかはあろうが、決して勢いだけで勝っているわけではないことは、攻守に隙のない技術・戦術を備え、そこに10代のうちから肉体増強に取り組んで手に入れたフィジカル的なパワーを上乗せしたスケールの大きなテニスを見れば明らかだろう。指導を仰ぐムラトグルーの存在によって否が応でも漂うダークな雰囲気も今後彼の代名詞となっていくかもしれない。
最短距離で走り込み正確に芯で捉えるストローク
打点に対して大回りせず最短距離で直線的に走り込むフットワークと、激しい打ち合いでもスイートスポットを外さない正確なラケットワークが光るストロークは彼の最大の武器である。一見無理をしている余裕のない動きのようで実際はそうではない。その証拠に何でもリスクの高い攻撃のショット選択をするわけではなく、トップスピードの中でも高さや角度を出して相手のリズムと体勢を崩す、意図を持った球種を頻繁に繰り出していく。無論いたずらにラリーを長引かせる考えはなく、チャンスと見るやライン際を狙って突き刺すその豪速球こそが第一の魅力だ。
小さな引きで爆発的なインパクトを作る類稀なフォアハンド
爆発的なインパクトで抜群のショットスピードを実現するフォアハンドだが、その独特なフォームが目を引く。かなり早い時点で半身の体勢を作り、そこを起点にもう一度ラケットを引く動作を加えてうまくリズムを取りながらスイングに向かう。NextGenの典型とは異なり、テイクバック自体は脇を開けず非常にコンパクトで上下の動きも少ないため、とにかくポジションを下げずにテンポの速いライジング対応で次から次へと強烈なハードヒットを浴びせていく。相手の球威を自分のショットにうまく還元するタイプといえ、そのゆえもあり高い位置というよりは膝から腰にかけての高さの打点に”ツボ”を持つ。コートの中央付近から放つものも含めて、逆クロス方向へ突き刺す低弾道の直線的なショットは対応不能な彼の必殺ショットだ。
ダウンザラインの逆転能力に長けたバックハンド
スイング軌道が非常に美しいバックハンドもフォアに劣らぬ高い決定力を誇る質の高いショットである。ラケットの重みとキレのある体の軸回転を巧みに組み合わせたフォームを持ち、ベースラインの内側に猛然と踏み込んで叩くフォアに対して、このバックはやや押し込まれ気味にも見える展開を1本のダウンザラインで逆転する能力に長けた武器となっている。また、バック側はドロップショットの仕掛けが非常に多いのも見逃せない特徴だ。特にクレーで増える傾向にあり、必ずしも適切な場面とは思われない判断や失敗も多い点は相手に付け入る隙を与えかねない面もあるが、感覚良く打てている日には大きな飛び道具として機能する。
再現性の高いフォームが特筆に値する安定したサーブ
安定して200km/h台を記録して有利な展開を作り出すサーブも強みと言っていい。トスアップの安定性が際立ち、上半身の捻りも申し分なく、全体に再現性の高いフォームを身につけている点が特筆に値する。3球目を捉えるタイミングの早さも突出しており、サーブ単体よりもコンビネーションによる速攻を得意としている。現時点ではトッププレーヤーの平均的な数字に留まっているものの、技術的な欠点はなくベースに不安はないだけに、有効な配球を覚えつつ各球種の精度を徐々に磨けば盤石なサービスゲームを構築する力は十分にある。
天性の当て勘の鋭さで一撃を見舞うリターン
高いポジションに構えてエース級の一撃を狙うリターンも大きなプレッシャーを与える。天性の当て勘の鋭さと小さな引きで破裂的なインパクトを作る類稀なセンスに与る部分が大きく、どちらかといえばギャンブル寄りの戦略であるため、返球率はさほど高くないが、数字以上に相手にとっては心理的な脅威となっている。返球重視のブロックリターンとの使い分けが確立してくれば鬼に金棒だろう。
集中力のアップダウンを改善していきたいメンタル
気性が荒く、集中力のアップダウンが激しい精神面は弱点となっている。納得のいかないプレーが続くと、自陣営や審判に八つ当たりして悪循環に嵌っていく傾向があり、怒りや苛立ちをいかに制御し、うまく発散し、プラスのエネルギーに変換していくかが課題といえる。現状は同僚プレーヤーからも子供じみた態度を叱責される始末であり、それを意に介さないあたりは大物感も醸し出しているが、時間帯によってプレーの質が露骨に落ちることは事実であり、経験を重ねるに伴って改善されていくことに期待したい。ただし、勝負におけるメンタルが総じて弱いとはいえず、ピンチの場面で普段以上に攻撃を貫いて凌ぐ姿勢や、一方でブレークチャンスの場面であえてループの多用などペースを落として相手に駆け引きを迫る姿勢に只者ではない凄みを感じさせる。
圧倒的なスピードテニスと確かな勝負眼で新時代を築くか⁉
圧倒的な球速で押し込むスピードテニスをベースに、試合全体を俯瞰して仕掛け時を見極める確かな勝負眼によって奥深い戦いも見せるルーネ。驚愕の成長曲線を描く早熟な才能ではあるが、秘めたる潜在力はまだまだ今後発揮されるはずである。姿を見る度に体が大きく逞しくなっている印象があるため心配は杞憂だろうが、ポイント毎に若干息の上がりやすい体力面を鍛え、長く厳しいツアー生活に慣れた暁には、各大会の優勝争い常連に名を連ねる新時代のトップランナーになるだろう。