↓クリックをお願いします/↓優良スコア配信サイト 

20200215102533

Thomaz Bellucci

トーマス・ベルッチ

 生年月日: 1987.12.30 
 国籍:   ブラジル 
 出身地:  チエテ(ブラジル)
 身長:   188cm 
 体重:   82kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  Uomo Sport 
 シューズ: adidas 
 ラケット: Wilson Pro Staff 97 
 プロ転向 : 2005 
 コーチ:  Thiago Alves, German Lopez 

 左腕から繰り出す重く鋭い強烈なフォアハンドを軸としたベースラインからの波状攻撃を持ち味に、クレーコートで絶大な強さを発揮するブラジルのストローカー。デビュー以来母国の英雄クエルテンの後継者と言われて久しく、内に秘めたポテンシャルの開花を期待されてきたが、メンタル面での勝負弱さなどをなかなか克服できず、それほど目立った結果を残すことはできていない。それでも南米人プレーヤーらしくクレーのスペシャリストとしての存在感はコンスタントに示しており、09年グシュタード(250)でのツアー初優勝や、マレーやベルディヒを破ってベスト4に入り準決勝ではシーズン無敗を継続していたジョコビッチをあわやというところまで追い込んだ11年マドリード(1000)での躍進を含め、時折トップ10級を相手に番狂わせを起こす意外性と底力は持っている。

長くしなやかな四肢を活かすダイナミックなストローク

 彼がクレーを得意とする大きな理由に挙げられるのは、長くしなやかな四肢を活かして、ゆったりとダイナミックな構えを作ってこそ生きるストロークであり、爆発的なインパクトで強力なスピンを生み出す独特な打球センスを備える。とりわけフォアハンドは肩から顔にかけての非常に高い打点からボールを叩いていけるのが強みで、軌道を上げたヘビートップスピンショットは相手が誰であれベースライン後方に押し込むことのできる重さと深さがある。そのショットを単発で繰り出してウィナーを狙うのではなく、一手ずつ相手を追い詰めるように絶え間なく強打を続けて、確実にポイントに繋げていく重厚な組み立てが彼のスタイル。最後にトドメを刺すフォアのドロップショットのタイミングも絶妙でその精度も高い。テンポが速いわけではないため、相手としては時間的な余裕はあるが、その分一球ごとに十分に構えてパワフルなショットを打たれるため、コースは読みにくく、疲労感も蓄積されやすいというのが対ベルッチの特徴といえよう。バックハンドは外側から巻き込むようなスイング軌道を描くのが特徴で、クロスには厳しいアングルをつけられる点で有効だが、ダウンザラインへの攻撃はあまり見られず、ややコースが読まれやすいのが玉に瑕だ。

強烈なキックサーブで相手を崩す

 パワーで押すことも変化で相手を崩すこともできるサーブも武器の1つ。200km/hを超えるフラットサーブとレフティー特有のスライスサーブに加え、特にデュースサイドで多用し、エースを奪うこともしばしばあるワイド方向への強烈なキックサーブが非常に魅力的である。

極めて繊細な精神面を改善できればトップ20は狙える

 飛躍の妨げとなっているのは一にも二にもメンタルの部分で、極めて繊細な精神面が積年の課題とされる。表面的には闘志を前面に押し出しつつ、大きな声を上げながらプレーするタイプなのだが、試合を決める大事な局面や格上とのとりわけ接戦では目に見えて硬さや詰めの甘さが出てしまう。ここを改善できれば少なくともトップ20は狙える実力を備えているというのが大方の見方。その意味では年齢的に落ち着きが出てくるであろう今後に期待が持てそうだ。

 

Holger Rune

ホルガールーネ

 生年月日: 2003.04.29 
 国籍:   デンマーク 
 出身地:  ゲントフテ(デンマーク
 身長:   188cm 
 体重:   77kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Babolat Pure Aero VS 
 プロ転向 : 2020 
 コーチ:  Lars Christensen 
       Patrick Mouratoglou
 

 ベースラインから早いタイミングで繰り出すストローク強打を中心にネットも絡めたオールラウンドな攻撃的テニスを武器に戦うデンマーク超新星プレーヤー。グランドスラムデビューとなった21年全米1回戦でNo.1のジョコビッチとの対戦を引き当てて1セットを奪いその名を世界に知らしめると、ツアーへ本格参戦した翌22年に快進撃が始まる。ミュンヘン(250)で挨拶代わりのツアー初優勝を飾ると、全仏では優勝候補の一角チチパスに土をつけてベスト8。しかしそのクレーシーズンの躍進すら霞むセンセーションを巻き起こしたのは終盤のインドアハードシーズンだった。驚異的な4週連続決勝進出を果たし、特にその仕上げとなったパリ(1000)ではフルカチュ、ルブレフ、アルカラス、オジェ・アリアシム、ジョコビッチを連続で撃破してマスターズ初制覇を成し遂げる。1大会内で5人のトップ10に勝利するというのは史上初の快挙であった。19年全仏ジュニアを制するなどジュニア時代にNo.1の経歴を持つ逸材であることは紛れもない事実ながら、まさかこれほど早期にトップへの階段を駆け上がると予想する向きはなかった。同年代のアルカラスがグランドスラム優勝を含む異次元の活躍によりNo.1に到達したシーズンであったために、少なくとも年末まではルーネが陰に隠れる形となってしまったが、19歳でのこの飛躍は恐ろしく、まだ若手の域にいる少し上の世代も含めて彼の存在に戦々恐々としているのがツアーの現状である。経験が少なく怖いもの知らずで臨めるメンタリティが後押しした面がいくらかはあろうが、決して勢いだけで勝っているわけではないことは、攻守に隙のない技術・戦術を備え、そこに10代のうちから肉体増強に取り組んで手に入れたフィジカル的なパワーを上乗せしたスケールの大きなテニスを見れば明らかだろう。指導を仰ぐムラトグルーの存在によって否が応でも漂うダークな雰囲気も今後彼の代名詞となっていくかもしれない。

最短距離で走り込み正確に芯で捉えるストローク

 打点に対して大回りせず最短距離で直線的に走り込むフットワークと、激しい打ち合いでもスイートスポットを外さない正確なラケットワークが光るストロークは彼の最大の武器である。一見無理をしている余裕のない動きのようで実際はそうではない。その証拠に何でもリスクの高い攻撃のショット選択をするわけではなく、トップスピードの中でも高さや角度を出して相手のリズムと体勢を崩す、意図を持った球種を頻繁に繰り出していく。無論いたずらにラリーを長引かせる考えはなく、チャンスと見るやライン際を狙って突き刺すその豪速球こそが第一の魅力だ。

小さな引きで爆発的なインパクトを作る類稀なフォアハンド

 爆発的なインパクトで抜群のショットスピードを実現するフォアハンドだが、その独特なフォームが目を引く。かなり早い時点で半身の体勢を作り、そこを起点にもう一度ラケットを引く動作を加えてうまくリズムを取りながらスイングに向かう。NextGenの典型とは異なり、テイクバック自体は脇を開けず非常にコンパクトで上下の動きも少ないため、とにかくポジションを下げずにテンポの速いライジング対応で次から次へと強烈なハードヒットを浴びせていく。相手の球威を自分のショットにうまく還元するタイプといえ、そのゆえもあり高い位置というよりは膝から腰にかけての高さの打点に”ツボ”を持つ。コートの中央付近から放つものも含めて、逆クロス方向へ突き刺す低弾道の直線的なショットは対応不能な彼の必殺ショットだ。

ダウンザラインの逆転能力に長けたバックハンド

 スイング軌道が非常に美しいバックハンドもフォアに劣らぬ高い決定力を誇る質の高いショットである。ラケットの重みとキレのある体の軸回転を巧みに組み合わせたフォームを持ち、ベースラインの内側に猛然と踏み込んで叩くフォアに対して、このバックはやや押し込まれ気味にも見える展開を1本のダウンザラインで逆転する能力に長けた武器となっている。また、バック側はドロップショットの仕掛けが非常に多いのも見逃せない特徴だ。特にクレーで増える傾向にあり、必ずしも適切な場面とは思われない判断や失敗も多い点は相手に付け入る隙を与えかねない面もあるが、感覚良く打てている日には大きな飛び道具として機能する。

再現性の高いフォームが特筆に値する安定したサーブ

 安定して200km/h台を記録して有利な展開を作り出すサーブも強みと言っていい。トスアップの安定性が際立ち、上半身の捻りも申し分なく、全体に再現性の高いフォームを身につけている点が特筆に値する。3球目を捉えるタイミングの早さも突出しており、サーブ単体よりもコンビネーションによる速攻を得意としている。現時点ではトッププレーヤーの平均的な数字に留まっているものの、技術的な欠点はなくベースに不安はないだけに、有効な配球を覚えつつ各球種の精度を徐々に磨けば盤石なサービスゲームを構築する力は十分にある。

天性の当て勘の鋭さで一撃を見舞うリターン

 高いポジションに構えてエース級の一撃を狙うリターンも大きなプレッシャーを与える。天性の当て勘の鋭さと小さな引きで破裂的なインパクトを作る類稀なセンスに与る部分が大きく、どちらかといえばギャンブル寄りの戦略であるため、返球率はさほど高くないが、数字以上に相手にとっては心理的な脅威となっている。返球重視のブロックリターンとの使い分けが確立してくれば鬼に金棒だろう。

集中力のアップダウンを改善していきたいメンタル

 気性が荒く、集中力のアップダウンが激しい精神面は弱点となっている。納得のいかないプレーが続くと、自陣営や審判に八つ当たりして悪循環に嵌っていく傾向があり、怒りや苛立ちをいかに制御し、うまく発散し、プラスのエネルギーに変換していくかが課題といえる。現状は同僚プレーヤーからも子供じみた態度を叱責される始末であり、それを意に介さないあたりは大物感も醸し出しているが、時間帯によってプレーの質が露骨に落ちることは事実であり、経験を重ねるに伴って改善されていくことに期待したい。ただし、勝負におけるメンタルが総じて弱いとはいえず、ピンチの場面で普段以上に攻撃を貫いて凌ぐ姿勢や、一方でブレークチャンスの場面であえてループの多用などペースを落として相手に駆け引きを迫る姿勢に只者ではない凄みを感じさせる。

圧倒的なスピードテニスと確かな勝負眼で新時代を築くか⁉

 圧倒的な球速で押し込むスピードテニスをベースに、試合全体を俯瞰して仕掛け時を見極める確かな勝負眼によって奥深い戦いも見せるルーネ。驚愕の成長曲線を描く早熟な才能ではあるが、秘めたる潜在力はまだまだ今後発揮されるはずである。姿を見る度に体が大きく逞しくなっている印象があるため心配は杞憂だろうが、ポイント毎に若干息の上がりやすい体力面を鍛え、長く厳しいツアー生活に慣れた暁には、各大会の優勝争い常連に名を連ねる新時代のトップランナーになるだろう。

 

Hyeon Chung

チョン・ヒョン

 生年月日: 1996.05.19 
 国籍:   韓国 
 出身地:  水原(韓国)
 身長:   188cm 
 体重:   89kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: adidas 
 ラケット: YONEX VCORE Pro 97 
 プロ転向 : 2014 
 コーチ:  なし 

 恵まれた体格を活かしてベースライン後方に堅牢な守備壁を構築し、相手に無理を強いりながら重く深いパワフルなストロークで反撃に転じる攻防一体型のプレースタイルで、日本の西岡とともに次世代のアジア勢を牽引する韓国の新鋭。15年に19歳で初めてトップ100に入るなどチョリッチと並んで同年代の中では最も早くランキングを上げてきたプレーヤーであり、その後一度下位に沈んだが、17年にツアーレベルで本格ブレイクを果たすと才能豊かな若手プロモーションの一環で開催されたNext Gen ATPファイナルズの初代王者に輝き、名実ともに次の時代を担う主役の1人であることが証明された。18年に入っても勢いは止まらず、全豪ではA.ズベレフやジョコビッチを撃破して鮮烈なベスト4進出を果たした。倒した面々を見るだけでも彼の実力に疑問はないが、まさしく真っ向勝負を挑んだ中でトップシードを下した戦いぶりは一気の飛躍すら予感させる凄みを放っていた。これによりイ・ヒュンテクの持つ韓国人最高位を更新、錦織がそうであったようにここからはアジアの枠を飛び越えた活躍が期待されている。ハードコートを最も得意とするが、ベースが安定しているためサーフェスを問わず実力を発揮できるタイプである。なお、幼少期に悪化し始めた視力を維持するために本格的にテニスに取り組むようになったこともあり、現在も眼鏡は彼のトレードマークとなっている。

競輪選手並みの逞しい太腿に象徴されるフィジカルの強さ

 ベースラインからのストロークは彼自身の憧れであるジョコビッチをまさに彷彿とさせるような柔軟性を活かしたオープンスタンスでの粘り強い返球や攻守の切り替えが際立ち、自ら先に展開するというよりは相手の攻撃を受け止める中でカウンターの機会を耽々と窺うのが彼の戦い方。それを支えているのは競輪選手並みの太さが目を引く逞しい太腿をはじめとしたフィジカルの強さであり、トッププレーヤーの怪我が相次ぐ昨今のツアー環境においては1つ大きなアドバンテージになりそうだ。

攻守にわたり強度の高いラリーを展開するフォアハンド

 打点の高低を問わず早い段階でボールの軌道にラケットを入れて構えることにより線で捉えることを可能としているフォアハンドは、指の先までまっすぐに伸びる左手の使い方が特徴的で、ラリーの応酬では執拗にクロスコートで対抗することが多いが、甘いボールに対してはダウンザラインへ綺麗に引いていくコース変更のうまさも併せ持つ。インサイドアウトのスイング軌道は相手に対してストレート方向を強く意識させられる分、クロスのアングルを突くショットで逆を取れる場面が多く、本当のチャンスを見極めて最も得意なストレートや逆クロスの強打を放ってくる。守備面では、押し込まれても下半身や体幹の強靭さ、リーチの長さによってしっかりと背中側にラケットを振り切ってボールを捉えることで打ち合いのインテンシティを落とさないのが彼の凄さである。また、相手のウィナー級のショットに対してスライドを駆使して追いつき、スライス面で返球する感覚の良さが守備力の高さに大きく寄与している。

癖を克服して安定性とパワーが増したバックハンド

 バックハンドも攻守の安定性と一撃のパワーを兼ね備えた大きな武器で、以前はラケットが波打つような非常に癖のあるテイクバックであったが、最近はシンプルな引き方に矯正し対応力がさらに増した印象がある。ダウンザラインを得意とし、スライスなどの低いボールを重心を落としてストレート方向へ切り返すウィナーは彼の最大の魅力といってもいい。また、弾むボールに対して地面を強く蹴って跳び上がりながら押さえ込むショットが光り、深いボールに対しても攻撃的な展開に持ち込めるのも強みだ。

タイミングが秀逸な小技が戦術に厚みを持たせる

 基本的には“剛”の色が濃いのがチョンのテニスだが、鋭いストロークで相手をベースラインに釘付けにすると特にフォアの精度が高いドロップショットで意表を突いたり、前に出てきた相手の頭上を抜くトップスピンロブや自らがネットに出た時のボレーの技術もそつがない。繰り出すタイミングが秀逸なこれらの小技は戦術に厚みを持たせるうえで重要な要素となっている。対戦相手とすれば、前後左右の振り回しや球種の変化などあらゆる選択肢を使って何とかチョンのバランスを崩したいのだが、どうしても引き離すことができず逆に自分が心身ともに追い詰められるというパターンが多い。

3球目の対応力にやや課題を残すサーブ

 膝の屈伸を使い全身の力をボールにぶつけるサーブは実際のスピードよりも圧力を感じ、フリーポイントを確実に計算できるクオリティがある。少しトスが背中側に流れる分、着地で体勢が乱れるために相手のリターンに対する3球目の対応力がラリー中のストロークに比べて落ちる傾向があり、2ndの弱さを克服するためにはフォームの安定が鍵となりそうだ。現状フラットからスライス系が軸となっているが、彼のパワーをもってすればスピンサーブを武器といえるレベルにまで磨き、バリエーションを増やすことも今後の課題となるだろう。

恐ろしく「強い」プレーヤーになる可能性を秘める

 驚異的なコートカバーリング力で相手の攻撃の芽を摘みつつ、的確な判断でネットプレーも含めたアグレッシブさを出していくという効率的かつ洗練された戦いぶりは若手の中では間違いなく抜きん出ており、さらにここ最近は雄叫びを上げる頻度も高まり、プレーヤーとしての迫力も増している。力強いストロークをミスなく打ち続ける韓国人らしいプレーの一貫性と、常に冷静な判断力と高い集中力で戦うメンタルの安定性を兼備した彼のテニスは、この先全体のスケールアップが図られると恐ろしく「強い」プレーヤーに成長する可能性を秘めており、今後の飛躍に大いに期待したい。

Maxime Cressy

マキシム・クレッシー

 生年月日: 1997.05.08 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  パリ(フランス)
 身長:   198cm 
 体重:   84kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: New Balance 
 ラケット: Babolat Pure Aero 
 プロ転向 : 2019 
 コーチ:  Romain Sichez, Juanjo Climent 

 長身から放たれる威圧的なビッグサーブと猛然とネットへのラッシュをかけボレーで仕留めるプレーを武器とするアメリカのサーブ&ボレーヤー。苦労を重ねながら大学テニスで実力の基盤を整えたうえでプロに転向すると、22年にブレイクの時期を迎える。年頭のメルボルン(250)で予選から快進撃を見せて決勝に、直後の全豪では4回戦に進出する活躍でトップ100の地歩を固めると、最も得意と話す芝のシーズンに一層の強さを発揮、ウィンブルドンではトップ10のオジェ・アリアシムを破る番狂わせを起こし、ニューポート(250)ではツアー初優勝を達成している。クレッシーの台頭がATPツアーに新風を吹かせた理由はやはりそのプレースタイルにある。ベースラインでの攻防が大半を占めるようになった現代テニスにおいて、サーブ&ボレー一筋、サービスゲーム以外でもネットプレーをほとんど唯一の得点源とするプレーヤーが現れたこと、そしてそのプレーヤーがしっかりとトップレベルで結果を残していることが非常に新鮮であり、彼自身サーブ&ボレーの復権を牽引したいとの思いを述べている。

1stと2ndの別なくパワー全開でエースを量産するサーブ

 198cmの長身を活かして高い打点から叩き落とすサーブは彼の最大の武器である。しっかりと体を捻るフォームであるためコースが読みづらく、両サイドともにセンター・ワイドに200km/hを優に超える威力あるサーブでエースを量産する。1stと2ndの別なく常にパワー全開でライン際を狙う姿勢もリターナーに脅威を与える特徴である。その裏返しでダブルフォルトの数がツアーでも断トツで多い事実はあるものの、サーブ後にラリーに移行する意図が皆無で、すべてボレー対パスの勝負を挑む彼にとって、サーブミスによるダメージはそれほど大きくないといえる。実際、エースの数が大幅に上回り、及第点である1st確率60%以上や十分に高い2ndのポイント獲得率を実現している点を見ても、取り立てて弱点と指摘すべき要素ではない。

オープンスペースに強く弾く切れ味鋭いボレー

 そしてサーブとのコンビネーションでポイントを積み重ねるネットプレーがもう1つの代名詞となっている。回転をかけて繊細にコントロールするというよりは、オープンスペースに向かってシンプルに強く弾く切れ味鋭いクラシカルなボレーを打てるため、パワーサーブとの相性も良い。サービスダッシュ、リターンダッシュストローク戦になりかけても強引にでも早めに切り上げてネットに詰める姿勢は相手に心理的な窮屈さを与える。足元に沈められたボールの処理にも欠点はないのだが、あと一歩足が出ればノーバウンドで決定打となるボレーが打てそうな場面で躊躇することがあり、ハーフボレーでの対応を増やし過ぎる傾向が少し見られる点は要改善の課題だろう。

一発の怖さはあるも技術的な未熟さは否めないストローク

 ベースラインでの戦いは全般的に苦手にしている。反応や動きに鈍重さが否めず、また打点直前のフットワーク調整に難があるため、十分に追いつけたボールに対してもアンフォーストエラーを出してしまう。薄めのグリップから回転量が少なく弾道の低いスピードショットを繰り出すフォアハンド強打、返球重視の緩いスライスで粘りながら万全の体勢を確保できたときにのみ放つバックハンド強打は、それぞれ一発の怖さがあるものの「当たれば強い」の域を脱してはいない。もちろんストロークはあくまでネットに移行するまでの急場凌ぎに過ぎないが、であればこそトップ定着のためには安易なミスを減らす方面で強化していきたい。

要所での一撃に賭けるギャンブル的なリターン

 ストローク以上に一撃で優位を奪う志向が強いのがリターンである。1stに対してベースライン上、2ndに対して1m以上コート内側に踏み込んで積極的に叩く選択をとる。リスクは大きく効果的なリターンを打てる確率は低いが、タイブレークなど要所で1つ通った時のインパクトは大きい。典型的なビッグサーバーの戦略と言っていいだろう。

純正サーブ&ボレーヤーとして茨の道を往く

 強烈なサーブをはじめとするビッグショットで押し込みネットで仕留めるスタイルを貫き、さらに進化を追求する姿勢は非常に清々しい。華麗さというよりも良い意味でアメリカンな剛健さが前面に出ているのも魅力といえる。カウンター能力に総じて秀でるトッププレーヤーたちの間で純正サーブ&ボレーヤーとして今後トップ20以上を目指すのは茨の道だが、いずれにしても強い信念と大きな野心を持って突き進む彼の姿からは目が離せない。

 

Mischa Zverev

ミーシャ・ズベレフ

 生年月日: 1987.08.22 
 国籍:   ドイツ 
 出身地:  モスクワ(ロシア)
 身長:   191cm 
 体重:   88kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: HEAD Speed MP 
 プロ転向 : 2005 
 コーチ:  Alexander Zverev Sr.,
       Arthurs Kazijevs, Mikhail Ledovskikh 

 確率の高いキレのあるサーブから即座にネットに詰めて柔らかいタッチで操るボレーで勝負する、現代テニスでは実に珍しいレフティーのサーブ&ボレーヤー。分類としては間違いなくネットプレーヤーだが、対照的に徹底して守りを固める戦法も持ち合わせており、猛然とネットへ仕掛ける威圧的なスタイルから丁寧にコースを散らして相手の根負けを誘う老獪なスタイルまで、戦術の幅がかなり広いのが彼の特徴である。元々ジュニア時代にはマレーらとトップを争ったプレーヤーで、09年にはトップ50を経験しているが、その後怪我などもあり長く低迷の時期に入り、15年にはランキング喪失の危機にも瀕したが、ちょうどその頃からツアーでの活躍が見え始めた10歳年下の弟サーシャに刺激を受けたこともあり、ここに来て存在感を増している。これを復活というべきかブレイクというべきかは見方の分かれるところだが、いずれにしても16年秋以降の活躍は目覚ましく、上海マスターズ(1000)でベスト8、バーゼル(500)ではバブリンカを破ってベスト4、そして17年全豪では4回戦で果敢なネットプレーを貫き通した末にNo.1のマレーを撃破する衝撃のアップセットを演じ、自身初のグランドスラムベスト8に進出した。サーブ&ボレーを主体とするプレースタイルであるため、高速系サーフェスで強さを発揮する傾向にあるが、一方で読みの良さを存分に活かしたベースライン後方での堅いディフェンス力により意外にクレーでも勝てるタイプのプレーヤーである。

一級品のネットプレー、距離の詰め方が自身の証

 彼のテニスにおける最大の武器にして、最終的に自分からポイントを取る形としては良くも悪くも唯一と言ってもいいのがネットプレーであるが、それだけにやはり技術力の高さは一級品である。足元に鋭く沈んでくるパッシングショットを浮かさずに処理する1球目のローボレーやハーフボレーの質がまずは非常に高く、またその後にネットとの距離を極端に詰めることによって相手へのプレッシャーを増すとともにボレーの決定率も高めている。当然頭上を抜かれる可能性や強烈なパスにラケットが弾かれるリスクも上昇するが、相手のフォームを見極めた鋭い読みと反応の速さに驚異のタッチ感覚が加わってまさに壁の如き連続ボレーで跳ね返す。フレーム気味の当たりでネット際に短く落ちるウィナーが多いのも、かなり前のポジションに立つ彼ならではの特徴といえる。

美しいフォームから得意のネットに繋げる確率の高いサーブ

 ネットプレーとの関連では体を反るフォームやスイングの形が非常に自然で美しいサーブも武器の1つで、特に左利きの有利さを活かしたワイドに切れていくスライスサーブからネットに出るアドバンテージサイドのコンビネーションは、リターン側とすれば読んでいてもポイントに結びつけるのが難しい。球種の軸はスライス系で、エースよりも確率を重視している面もあるが、それでもピンチの場面で確実に1stを入れて得意のパターンに持ち込む強かさは特筆に値する。ひとたびリターンのタイミングを掴まれると、ネットに走り出す姿が哀れに映るほど連続で横を抜かれサービスキープが覚束なくなることもあるが、彼自身が「自分にプランBはない」と話しており、こうした点も彼の個性と認識すべきだろう。

独特のいやらしさは隠れた武器と言って過言ではないストローク

  一気呵成のネットラッシュを主な得点源とする彼だが、ストロークにも対戦相手の調子を狂わせる独特のいやらしさを備える。一発のビッグショットは皆無で、ベースラインからのウィナーはほとんどないが、それだけに戦略は徹底されている。相手がバランスを崩さずに繋いでいる時には同じく繋ぎのラリーに徹し、ロングラリーを嫌がって無理に打ってきた瞬間に逆サイドのコーナーを突いてネットに仕掛けるのが彼のパターン。フォアハンドはほとんどテイクバックをとらずに飛んでくる相手のショットをラケットで“はたく”ように合わせるのが特徴で、あまり前へ踏み込まずオープンスタンスで対応するフットワークもあいまって、返球されるボール自体は非常に勢いに乏しいが、逆にそれが相手のストロークのリズムを崩壊させる。バックハンドはコントロールに優れる低く滑るスライスが中心で、これも自ら攻撃できない分を補うために相手に攻めることは許さないという一貫した戦術上重要なショットだ。スピンを打つのはカウンターやパスの際に限定されるが、その精度は十分な高さを誇る。ストローク全体を通して地味ではあるが凄さといえるのが滅多にミスを出さないという点であり、決してボールに威力があったり深さがあるわけではないが、多くのプレーヤー曰く各ショットのプレースメントが絶妙でとにかくやりにくいらしい。対ズベレフで鍵になるのは我慢強さと、一方で思い切ってサイドライン際を狙ったショットを判断良く繰り出していくことだ。したがって、とりわけカウンターを主体とするプレーヤーにとってズベレフのストロークは天敵といえるだろう。とはいえ、彼自身の課題としてやはりフォアの弱さは指摘せざるを得ない。特に打点直前の足運びがほぼノーステップで膝の屈伸を使った体重移動のタイミングもややずれているのが問題で、攻撃を意図したショットに力が伝わらず、相手にプレッシャーを与えるに至らないのでは苦しい。ところが、ここ最近はストローク力も強化され、フォア、バックともに絶妙なタイミングで斜め前に切れ込んで強打しウィナーを奪うシーンも増えており、特にクレーではネットプレーはここ一番に取っておき、かなり後方にポジションをとってラリー戦を挑み、カウンターチャンスを虎視眈々と窺う戦い方を選択するようになっている。

早いタイミングで合わせる攻撃的なリターン

 見逃されがちだがリターンのうまさも彼の強みで、特に1stに対して巧みにコースを読んでベースライン上で合わせるリターンは一打で相手を追い込めるスピードがあり、積極的なリターンダッシュ戦術を可能にしている。ストロークの際には弱点になりがちなフォアも相手のサーブに球威がある分早いタイミングで叩くと強烈なボールに転換され、相手に大きなダメージを与える危険なショットと化す。タイミングに加えて、自らの振りの鋭さを要する2ndリターンの質を高めることで、より相手へのプレッシャーを増していきたい。

絶滅危惧種のサーブ&ボレーヤーとしてツアーを賑わせてほしい

 コールシュライバーやマイヤーなどドイツは個性派のベテランを多く擁する印象があるが、コートのどのポジションで戦っても他には見られない特異なプレースタイルで渡り合う彼のテニスにも不思議な魅力が詰まっており、その意味では今後不気味な存在としてツアーを賑わせそうな雰囲気がある。センセーショナルな活躍で注目の的となったことで彼への対策の研究が進み、それがツアー全体に浸透してきた最近は勝ち星を減らしており、少し投げやりな態度を見せるなどメンタル的なエネルギー量が低下しているのが心配だが、コーチでもある両親の下、兄弟で切磋琢磨しながらツアーを回るズベレフファミリーの動向からは目が離せない。

 

Carlos Alcaraz

カルロス・アルカラス

 生年月日: 2003.05.05 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  エルパルマル(スペイン)
 身長:   183cm 
 体重:   74kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Babolat Pure Aero VS 
 プロ転向 : 2018 
 コーチ:  Juan Carlos Ferrero 

 強力なフォアハンドを軸とするテンポの速い攻撃的なストロークでベースラインの勝負を制し、さらにはドロップショットなど小技系統による仕掛けにも抜群に優れるスペインの超逸材プレーヤー。彼の持つ才能が破格であることは16歳でのツアーデビューやチャレンジャーレベルでは物足りないと言わんばかりの成績に明らかであったが、21年に本格的にツアーに殴り込みをかけると全米でNo.3のチチパスを敗退に追いやる鮮烈な活躍を見せてベスト8に進出、そして18歳で迎えた22年にはマイアミ(1000)とマドリード(1000)でマスターズ優勝、全米でグランドスラム初優勝を飾るとともに、ヒューイットの持つ記録(20歳9か月)を大幅に塗り替える史上最年少19歳4か月でNo.1到達の快挙を達成と、止まることを知らない成長スピードは衝撃の一言だ。特にマドリードでは準々決勝でナダル、準決勝でジョコビッチを撃破し、この二大巨頭をクレーの同大会中に破った史上初のプレーヤーになる偉業を成し遂げた。全米も3試合連続で深夜のフルセットマッチを勝ち抜いた道程など驚くべき心身の強さを証明した大会であった。近年ようやく世代交代の様相も見え始めたATPツアーの中でもとびきり若い彼が一気に世界を席巻するかのようなセンセーショナルな雰囲気を醸している。また、18歳2か月で獲得した21年ウマグ(250)での初タイトルは08年デルレイビーチの錦織圭以来の若いチャンピオンということでも話題になった。伝統的な強豪国スペインからの人材という意味では、実はナダル以来途絶えていた大器が約20年の時を経てついに台頭してきたと言っていいのだろう。プレースタイルとしてはベースラインを中心としながらもストローク偏重ではなくネットにも積極的に仕掛ける攻撃型のオールラウンダーであり、ストロークに限っても何でも強打するのではなく回転やコースを使い分けながら機を見てウィナーを狙う戦術思考の強さが堅い実力の要因となっている。もちろん鍛え抜いた大きな肉体から放たれるショットそれ自体の質も一級品で、パワーとスピードが魅力であることは言うまでもない。そうしたテニスの型、およびハードコートでの強さが本来得意なクレーコートと同等である特徴からしても、同じスペインの先輩格ではナダルよりもフェレーロやモヤの系譜といえる。

驚愕のスイングスピードで相手を蹴散らす脅威のフォアハンド

 驚愕のスイングスピードと爆発的なショットスピードを備えながら、スピン量や軌道や緩急の状況に応じたコントロールにも優れるフォアハンドはアルカラスの最大の武器である。屈強な下半身で広めのスタンスをとって踏ん張ることで体の軸を極めて安定させ、上体はしっかりと捻ってコースや球種を隠し、肘を伸ばして前方の打点をとるフォームを特徴とし、これはボールに最大限のパワーを伝えるとともに、テンポの速い攻撃的なテニスを実現する鍵ともなっている。第一に強調すべきは打ち合いの基本となるクロスラリーにおける凄まじい破壊力。後方からラリーを開始しても一本打つたびに斜め前にポジションを上げながら相手を追い詰める。呼吸を整える余裕を与えずに当たりの厚い打球の球威で畳み掛け、クロスコート単体でウィナーにまで繋げられる攻撃力は脅威そのものだ。駆け引きの中であえてフォア側のスペースを広めに空けておき、そこに打たれるのを待ち構えて大股のステップでボールに飛びつきながら放つカウンターショットは一撃必殺と称するにふさわしい。相手はその正面突破とも言うべきクロスのスピードラリーに対抗するのが精一杯であり、さらに隙と見るや即時ストレートを狙う展開の速さを見せられては置き去りを食らうのも無理はない。また、回り込みフォアによる崩しからフィニッシュの形も洗練されている。特にこのサイドの逆クロスではループ系のトップスピンや浅いアングルを突いて相手を走らせる意図が強く見てとれ、確実なチャンスボールを巧みに引き出してから100mph超の豪快なウィナーを叩き込む。回り込みフォアにおいて向かってくるボールに対して体を絶妙に逃がす動きのリズム感は非常にフェデラーを彷彿とさせる。そしてフォアの極めつけは忘れかけた頃に必ず交ぜてくるドロップショットの質の高さだ。逆クロス方向のネット前に勢いを殺して落とす繊細なタッチは驚異的で、ビッグポイントでも平然とミスなくポイントを締めることができる。万が一返球されても次を今度は鮮やかなトップスピンロブで仕留める形も十八番としている。

ライジングで捉える感覚が抜群のバックハンド

 前後の体重移動と鋭い体軸の回転を組み合わせて強烈なフラットドライブを安定的に繰り出すバックハンドも大きな武器としている。バウンド後のトップを捉える感覚が抜群に優れ、アングルクロスやダウンザラインに目にも留まらぬウィナーを突き刺していく。守備に回った際の対応力もすでにトップクラスであり、開脚で強く踏ん張って強いボールを返すこともできれば、やっとラケットが届くようなピンチをスライス返球でイーブンに戻すプレーなど片手バックハンドのプレーヤー顔負けのうまさも見せる。ダウンザラインはコートの外側から入れる軌道を得意とし、一方で中央寄りからやや逆クロス気味にコースを狙う場合は少し精度が落ちるが、これもすぐに改善されてくるだろう。

洗練されたフットワークが精密なストロークの秘訣

 ベースラインのストローク戦での圧倒的な強さの秘訣としてフットワークを挙げないわけにはいかない。ボールの軌道を予測して最適なポジションと打点に入る動きが非常に滑らかで正確であることが、厳しい局面でも高精度のショットを打ち続けられる要因だ。コートを縦にゾーン分けし自分の立ち位置によって攻撃と守備のショットを適切に使い分けるスペイン仕込みの戦術眼も十二分に身につけており、たしかに獰猛で烈しいプレースタイルではあるものの、実は1つ1つのプレーに無謀な判断は見られない。

守備に頼って迫力が消えては試合は暗雲

 むしろ理詰めの展開を意識しすぎるあまり消極的なプレー姿勢が現れることがある点が課題といえる。類稀な運動能力を攻撃に還元したテニスこそが彼の真骨頂である。たしかに一見不可能なボールに並外れた脚力で追いついて逆襲するコートカバーリングは驚嘆に値するが、それに頼る雰囲気が出ると彼本来の良さは隠れてしまう。ましてやロングラリーを嫌がって両サイドからドロップを連発した挙句、その失敗が増えてきた時は試合の雲行きが怪しいと見ていい。迫力の灯は絶対に消してはいけない。これが最重要のテーマだろう。

ネットプレーのクオリティも申し分ない

 旺盛な攻撃意欲の自然な帰結として高い頻度で敢行するネットプレーも彼のテニスに欠かせない要素の1つだ。相手をスピードで振り切りにかかったフォアのストレートやバックのクロスとのコンビネーションで前に詰めることが多く、その出色のダッシュ力により1本のボレーで決め切ることができる。難しい対応を強いられても、アングルに短く落とす柔らかいタッチボレーや強く叩くスマッシュの技術力も申し分ない。

読まれても攻略させないキックサーブには絶対の自信

 全身のバネを大きく使いながらも乱れることの少ない効率的なフォームから戦術的に多彩なパターンを使うサーブも特徴的だ。絶対的な信頼が置けるのは、特にアドバンテージサイドで配球の中心に据える強烈なキックサーブである。時折サーブの立ち位置をサイドライン側にずらすこともあり、相手からすればある程度外に弾ませる球種を張って準備するのだが、それでも彼のサーブの圧倒的なキック力はそう簡単に攻略されることがない。トッププレーヤーの条件とも言われる2ndの高いポイント獲得率を実現している要因だ。このワイドキックとデュースサイドのスライスサーブを駆使してサーブ&ボレーでシンプルにポイントを量産できるのも大きな強みとなっている。最速で220km/hにも届くフラットサーブをすでに備えていることを考えれば、そのパワーサーブをいかに高確率でラインに乗せてエースの数を増やしていけるかが今後の課題となるか。決して威力だけに頼ったサービスゲームを遂行しないことが長所といえるが、ツアーの頂点を見据えると最も伸びしろが計算できるのはサーブだろう。

確実性と一撃の決定力を兼備するリターン

 高いブレーク率を誇るリターンゲームの強さもトップへの躍進・定着の原動力となっている。1stに対してはベースラインから3m以上下がったポジションをとるが、力があるためしっかりとスイングをして球威のある返球を深い位置まで飛ばすことができる。後方からの確実性重視のリターンが基盤にあるだけに、コートの内側に踏み込んで早いタイミングで捉える2ndリターンは、実際以上に距離を詰められた威圧感をサーバーに与える。逆に悪い時には目一杯下がって打ったにもかかわらず、それが大きく抜けてロングするミスを繰り返す傾向がある。2ndに対して下がる戦略の有効性を過信せず、可能な限り前で叩くことに徹してほしい。

王者の称号に値する強靭なフィジカルと不動のメンタル

 チャンピオンの資質を計るうえではテニスの技術的な能力以上に重要なのが身体の丈夫さと勝負強さであるが、若さに似合わぬ強靭なフィジカルと全く動じぬメンタルこそまさに彼の強さの真髄である。すでにトップ5級の実力者といくつもの名勝負を演じているが、ティーンエイジャーの時期から肉体改造に取り組んで手に入れた見るからに分厚い身体はスタミナ面で劣勢に立たされることはなく、試合の痺れる場面で弱気を覗かせるようなこともほとんどない。また、コート上でネガティブな感情を表に出さないのも成熟した一面である。

GS複数優勝&No.1君臨を断言したいほど非の打ち所がない超逸材

 コートを所狭しと駆け回る機動性、規格外のストロークを打ち続ける速射性とその精密性、創造力に富んだ技術と戦術の多様性、度胸満点・大胆不敵なメンタリティ。どこを切っても能力に非の打ち所がない完成されたプレーヤーがアルカラスだ。その才能に惚れ込んで自ら指導を志願したという元No.1のフェレーロがバックアップする体制は心強く、また今や倒すべきライバルの1人とはいえナダルという最高のロールモデルが近くにいて、プレーはもちろん不屈の闘争心やトップの心構えを肌で感じられるのも強みである。練習熱心で素直な青年であると言われ、人間性の面にも難はない。勝負の世界に予断は禁物だが、それでも彼は間違いなくグランドスラムを複数回獲りNo.1に君臨すると断言したいほど衝撃的な実力を持っている。少し上の有望な世代を一気に追い抜くように実績を積み上げる活躍は「アルカラス包囲網」の形成を促す可能性もあるが、それを突破してさらなる進化を遂げる過程も大いに楽しみたい。

 

Tommy Robredo

トミー・ロブレド

 生年月日: 1982.05.01 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  オスタルリック(スペイン)
 身長:   180cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  SERGIO-TACCHINI 
 シューズ: asics 
 ラケット: Wilson Blade 98 (16×18) 
 プロ転向: 1998 
 コーチ:  Jose Luis Aparisi 

f:id:Kei32417:20220211195221p:plain

 全身を使った躍動感溢れるストロークと常に全身全霊で相手に立ち向かう持ち前の闘争心を武器に、スペインの伝統を受け継ぐタフなストローカーとして早くから期待され、また結果も残してきた元No.5プレーヤー。03年全仏でNo.1のヒューイットと3度の全仏覇者クエルテンを破ってベスト8に進出し、準々決勝では前年優勝のコスタにフルセットで敗れたが、上位シードが早期に散る荒れ気味の大会にあって勢い溢れるロブレドの躍進は鮮烈な印象を残した。06年ハンブルクでの優勝が彼のキャリアでは最も輝かしいタイトルで、これはビッグ4時代が始まる前の時期であり、さらには当時の2強フェデラーナダルが欠場した大会だったとはいえ、現役では数少ないマスターズ優勝の実績を得たという意味でその価値は非常に大きい。30代に突入する頃から下半身や手首などに故障が続くようになり、12年には手術に踏み切ったことでランキングを400位台まで落としたが、不屈の闘志を見せつける形で翌年には見事なカムバックを遂げた。プレースタイルはまさに典型的なクレーコーターのそれで、大きく弾ませて相手を外に追い出すスピンサーブの多用やベースラインを境にゾーンを強く意識した攻守にメリハリのある戦い方をする。しかし、意外にもテニスを始めたのはクレーではなくハードコートという経歴があり、実際ハードでも十分な実績を残しており、クレー以外でも戦闘力が落ちないスペイン勢としてはフェレーロやモヤなどと並んでその先駆けの1人と言ってもいい。また、チャリティーにも熱心で、車いすテニスへの支援で知られている。

躍動感溢れるストロークで相手の弱点を的確に攻略

 ストロークは厚いグリップから繰り出す振り抜きの良いフォアハンド、下からこすり上げるようにボールを捉えるシングルバックハンドともに、守った時に高いループ軌道で展開をリセットするうまさが光り、強烈なスピンのかかった重いボールを的確に深く打ち続け、徐々に相手の体勢を崩してから、最終的にはより高い攻撃力を誇るフォアを軸にアングルをつけた思い切りの良い攻めでポイントを取る形が多い。若手の頃は「あんなにダイナミックに身体を使い続けていたらもたない」と言われたこともあったが、ベテランになった現在でも飛び跳ねるような身のこなしからのストロークは健在だ。イーブンなラリーから一本でウィナーを取れるほどの威力や迫力はないが、逆にどんなにスピーディーな展開で振り回されても、読みの良さと驚異の脚力でなんとか返球し、簡単にポイントを取らせない。基本的にはボールを強く叩いて押し込んでいくオーソドックスなタイプであるため、相手としてはそれほどやりにくさや怖さを感じることはないが、一方で弱点らしい弱点もなく、なかなか決定打を浴びせられないという意味では、プレッシャーは多大なものがあるだろう。とはいえ、豊富な経験に裏打ちされた戦術的な幅の広さも持ち合わせており、試合の中で相手の弱点を的確に見抜いたうえで、球種やリズムに変化をつけて手玉に取っていく。試合序盤は相手のパワーに圧倒されて明らかな劣勢になることも少なくないが、彼自身焦りの色は見せず、大きな声を出しながら自分を鼓舞していき、相手の隙を突いて徐々に流れを呼び込む試合巧者ぶりが、2セットダウンからの大逆転勝ちを幾度となく演じられる要因だ。また、豊富なスタミナとプレッシャーに強いメンタルも一流の域にあり、とりわけ5セットマッチのファイナルセットの成績が歴代でも屈指の高率を誇るのは、これらの要素が大きく貢献している。

動きの素早さが安定感抜群のテニスの源

 粘り強いフットワークは彼の安定感抜群のテニスのすべてと言っても過言ではなく、ひたむきにボールを追ってコートを縦横無尽に駆け回る姿は非常に印象的だ。単純な動きのスピードはもちろんだが、動き出しの早さもストローク他すべてのプレーの精度を高めている要因である。とりわけドロップショットへの反応の速さは目を見張るものがある。

駆け引きのうまさが際立つリターンゲームの戦術

 リターンゲームの強さも大きな武器の1つだが、特徴的なのはそのポジションで、ベースラインから大きく下がってなるべく自分のスイングができるところまでボールを呼び込む。志向としてはリターンから攻撃を仕掛けるというよりは、相手に難しいボールを取らせつつもまずはラリーに持ち込むというもの。特に2ndのリターン時にはそれが顕著で、目一杯後ろに下がってフォアでもバックでも軌道の高い強烈なスピンボールを相手コート深くに返球する。当然相手はサーブ&ボレーを多用するなどして対抗してくるが、そうなれば今度はネット際相手の足元にピンポイントで落としたり、その横を鮮やかに抜く得意のパッシングショットを見舞う。その一瞬の切り替えと判断力は特筆に値する。また、ハードコートでは積極的に踏み込んで叩くリターンも多用するなど、状況に応じて様々なプレーを選択し、相手に容易な対応を許さない。

ツアーレベルから脱落しても現役を続行する姿勢は尊敬に値

 他のベテランプレーヤーの目覚ましい活躍に触発されたかのように12年のハースに続いて大復活を遂げたロブレド。三十路も半ばを迎えるとさすがに実力的な衰えは隠すことができず、ここ数年はツアーで彼の姿を見ることがほとんどない状態になってしまったが、一度トップ5に入ったプレーヤーが何年にも亘りチャレンジャーレベルを地道に回って現役を続行している事実それ自体が大変な尊敬に値する。テニスのスタイルは地味でも、屈指の実績と経験を持つ彼が、今後どこまでレベルを維持して現役で戦えるのか要注目だ。

 

Joao Sousa

ジョアン・ソウザ

 生年月日: 1989.03.30 
 国籍:   ポルトガル 
 出身地:  ギマランイスポルトガル
 身長:   185cm 
 体重:   74kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  Joma 
 シューズ: Joma 
 ラケット: Wilson Ultra 100 
 プロ転向: 2008 
 コーチ:  Frederico Marques 

f:id:Kei32417:20220206180937p:plain

 身軽な体と高い運動神経を活かしたスピード感溢れる小気味良いフットワークを基盤とするキレのあるストロークを武器に、着実に実力をつけ安定してトップ50に位置するファイタータイプの中堅プレーヤー。決してテニスが盛んではない母国ポルトガルからジュニア時代にスペインに拠点を移し、16歳でプロデビューした経歴を持ち、スペイン育ちということもあってジュニアでの目立った戦績はなく、完成にも時間を要したが、地道に自らのテニスをビルドアップしてきた結果、13年あたりから本格化しツアーでの活躍が見られ始めた。第1シードのフェレール撃破とともに実現した13年クアラルンプール(250)でのツアー初優勝は、同時にATPにおけるポルトガル人プレーヤーの初タイトルという快挙でもあった。クレーコートを得意とするが、フットワークに優れるため、ハードや芝でもほとんど遜色のない実績を残している。

軽快なフットワークからフォアの逆クロスで攻め立てるストローク

 ストローク戦ではベースラインから下がらないスピードを活かした軽快なフットワークを軸に、テンポよくキレのあるボールを連続して打って相手を追い込んでいくのがソウザのスタイルである。中でも振り抜きの良いフォアハンドが大きな武器で、軌道の高いトップスピンを駆使してクロス、逆クロス、あるいはセンターからでも厳しい角度をつける能力が高く、相手に長い距離を走らせる中で自分は徐々にポジションを前に上げていく。ショットに突出したパワーやスピードがない分、このアングルショットの精度が彼の攻撃力のバロメーターといえる。最近は以前よりもフォアに回り込む頻度を増やしたり、積極的にフラット系で逆クロスに打ち込む場面も多くなってきており、より一層自らの長所を前面に出したテニスへ進化している印象もある。また、相手の浅いボールに対して一瞬にしてポジションを上げるその判断力とスピードが抜群であり、オープンコートを突いて最終的にはボレーやスマッシュで決めるポイントも多い。どちらかというと包み込むような柔らかいタッチからすべてのショットが繰り出されるが、ボールは非常に鋭いというのが強みとなっている。そのタッチの感覚の鋭さはバックハンドのスライスやドロップショットにおいて存分に発揮されている。現状硬さが残り攻撃面での機能が限定的なバックハンドにおいて明確なポイントパターンが出てくると、相手に対する脅威はもう一つ増しそうで、そのあたりが今後の課題といえる。

気合い漲るプレーは若手にも引けを取らない勢い

 一球ごとに大きな声を上げながらショットを放つなど、気合の漲ったプレーは観客の声援とともに乗ってくる傾向にあり、また正面からのラリー勝負では簡単に崩れない安定感で上位陣にとってもタフな難敵となっている。年齢的にはすでに中堅からベテランだが、勢いのあるプレーぶりは若手にも引けを取らない。サービスキープ力を強化できればトップ30入りも見えてくる。

 

Juan Martin del Potro

フアン・マルティン・デルポトロ

 生年月日: 1988.09.23 
 国籍:   アルゼンチン 
 出身地:  タンディル(アルゼンチン)
 身長:   198cm 
 体重:   97kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Wilson Pro Staff 97 
 プロ転向: 2005 
 コーチ:  なし 

f:id:Kei32417:20220206144335p:plain

 弾丸の如きスピードとパワーで相手を震え上がらせる圧倒的なフォアハンドや角度のある強烈なサーブに加え、守備面におけるリーチの長さなど、すべてのプレーにおいて198cmというツアー屈指の長身を余すことなく利用したパワーテニスで世界のトップの座を狙う稀代の大型プレーヤー。08年夏場にシュツットガルト(500*)でのツアー初タイトルを皮切りに4大会連続優勝の凄まじい勢いを見せて一気にトップ10入りを果たすと、09年にはマスターズでのコンスタントな上位進出に加えて早くも20歳でグランドスラムを制し、ビッグ4の筆頭対抗馬としての地位を確立した。全米優勝の過程ではグランドスラムで初めてナダルフェデラーを同一大会中に破ったプレーヤーとなる快挙も成し遂げている。元々はアルゼンチン人らしくフォアの強さを前面に押し出しつつも粘り強く戦うクレーコート向きともいえる守備的なプレーを展開していたが、ハードコートにも対応すべく積極的にエースを奪いにいくスタイルに変化を施した結果、攻撃力では右に出る者はいないと言われるほどのテニスを完成させ、躍進の原動力となった。パワーで相手をねじ伏せるスタイルを身上としていながら、テクニックを駆使して徐々に相手を追い込むうまさも持ち合わせている点が更なる強さを生んでいる。本来はしっかりと間の取れる球足の遅いアウトドアハードやクレーを得意としていたが、近年は速いサーフェスでの成績が際立っており、ビッグ4を食って大きなタイトル獲得があるとすればビッグサーブとフォアのハードヒットがより効果を増す芝やインドアハードになる可能性も高そうだ。次期王者候補と囁かれ始めた矢先の10年こそ右手首の怪我によりシーズンの大半を棒に振りランキングを大幅に落としたものの、完全復活を果たした11年にはシーズン序盤から徐々に彼本来のフォームを取り戻し、瞬く間にトップ10までランキングを上昇させた。13年にはトップ5に入るも、今度は左手首に重症を患い、2度の手術で復帰には2年以上を要した。16年にその試練の期間を乗り越えカムバックした姿には多くのテニスファンが心を打たれたが、中でもデビスカップ決勝において1勝2敗の追い込まれた状況、さらにはチリッチを相手に2セットダウンの窮地から奇跡的な逆転勝ちを収め、母国アルゼンチンに悲願のデビスカップ初優勝を届けたシーズン締め括りは、用意されたシナリオがあったとすればそれを超える最高のドラマだった。感情豊かで人当たりの良い性格も多くのファンを惹きつける要因の1つで、試合においてはそれが裏目に出ることもあるが、観客の声援に感極まってコート上で涙を流したこともあるなど、彼の人柄が滲み出たエピソードは枚挙にいとまがない。

男子テニスで最も"一撃必殺"の表現に合致する驚愕のフォアハンド

 彼の最大の武器であるフォアハンドは威力・精度ともに世界最高レベルを誇り、相手が誰であれ問答無用でポイントが取れる点から、現在の男子テニスで最も“一撃必殺”という表現がふさわしいショットとも言われる。スイングスピードが極めて速く、エースを狙いにいった時のショットスピードは、歓声と変わらないほどに大きな驚嘆のどよめきが漏れるほどで、規格外の反撃能力の高さで世界のトップを走るジョコビッチやマレーが唯一切り返せないショットがデルポトロのフォアと言っても過言ではない。イースタンに近い薄いグリップから、テイクバックを高くとった時にラケットの面が打球方向を向く独特なフォームで繰り出されるが、円を描くようにラケットを引いてトップが決まるとそこから一直線にインパクトに向けて振り出すことでフラット系の軌道と爆発的な威力を生み出す。際どいコースに打てなくともパワーで押し込むことができるため、ラリーの中でフォアを打つたびに形勢が彼優位に変わっていくというのが強みで、ある程度ラリーをしながら最終的にサイドライン際に吸い込まれるような精度の高いウィナーで仕留めるのが彼の志向。一発の魅力という意味ではフォアサイドからクロスコートに引っ張る豪快なショットが一番だが、相手としては彼のフォアが強いからといってバック側に集める戦術は必ずしも効果的ではなく、一瞬の隙を見てひとたび回り込みフォアを使われると、そこから逆クロス方向へ強く深いショットとコート外に追い出すアングルショットを織り交ぜた怒涛の連続攻撃を受け、粘り強く返球しても最終的に広く空いたストレートにコースを変える得意のパターンに持ち込まれてしまう。この回り込みフォアからダウンザラインに展開するショットが左側に切れていかないのが技術的に突出した点である。また、カウンターショットも魅力の1つであり、タイミングが合った時のランニングフォアは目の覚めるような凄まじいパワーとスピードで相手コートを射抜いていく。まさに1ポイント以上のダメージと恐怖感を与えて相手の気持ちすら一気にへし折ってしまうようなショットである。ミスを誘う浅めのスライスを継続的に打たれても精度が落ちない強さも持ち合わせ、低い打点からでもしっかりとウィナーが取れるため、弱点は皆無に近い。それでも彼の堅いテニスを乱すには球速の緩急をつけながら前後左右に揺さぶり、このフォア側への振り回しも一定割合で交ぜることが不可欠であるのだが。

スライスも含めた返球の安定性が突出したバックハンド

 バックハンドにおいても上がりばなを叩くハードヒットにはパンチ力があり、相手を追い込むのに十分な威力を備えているが、フォアほどリスクを冒して攻める性質のものではなく、むしろ柔らかさや安定感の方が際立っている印象だ。相手のボールに慣れるまではクロスにしか返球しないため、試合の序盤から中盤にかけてはややコースを読まれやすいものの、回転をあまりかけない低い弾道の球種を操っていながらコーナーへ確実にコントロールし回り込みを許さない守備の堅さは抜きん出ている。パワーを持ち味とするプレーヤーは裏を返せば強打一辺倒になりがちであるが、彼の場合その傾向はあまり見られず、スライスを多用するなどアクセントとなるショットも交えて相手のペースを狂わせる。ダウンザラインへの攻撃的な展開を増やせれば、ポイントを取るパターンの増加に繋がるだろう。両手首の手術を経験して以降は、強打することに不安があるのかスライスでの対応やスライスアプローチを選択する割合が大幅に増え、スピンにしても緩い返球で攻撃の流れを止めてしまうシーンも目立つが、スライス自体の質は離脱前よりも明らかに高く、深さやスピードを巧みにコントロールしつつミスはほとんど出さないため、バックは辛抱強くラリーに耐えようという姿勢が相手にとって意外に厄介なものとなっており、フォアの一発とのメリハリが生まれたのは怪我の功名といえるかもしれない。現状クロスにしか返さないスライスをストレート方向に打てるようになれば、その次のショットを得意のフォアで攻撃できる確率が高くなるはずで、このパターンを習得したい。とはいえ、クロスに飛んでくるこのスライスをうまく処理することができないプレーヤーにとってはデルポトロとの対戦はこの上なく嫌なものだろう。クロスに返すだけではスライスの無限ループに陥り、かといって安易にストレートに流せば恐ろしいフォアのカウンターが待っている。本来は早めにデルポトロをフォア側に振って一発逆転のカウンターを狙わせ、それを待ち構えてバックサイドに展開、プラスアルファでネットプレーという形が最も有効な対抗策だが、それを実行するためには何本かフォアの一発を食らっても挫けない強気なメンタルが必要になるため難しい。

高いトスから体重をぶつけていく速くて重いビッグサーブ

 高いトスからゆったりとしたフォームで体重をぶつけるサーブもまた彼の攻撃的なテニスを支える強力な武器となっている。以前は1stでもスピンをかけて入れていくサーブが中心であったため、確率は良かったもののサーブ一本で相手を圧倒できるレベルには達していなかった。しかし、躍進を遂げた08年以降は封印していた高速フラットサーブを多用するようになり、エースの数が格段に増えている。両サイドともにセンターへのサーブが得意で、とりわけデュースサイドからのセンターへのフラットサーブが生命線となっている。また、サーブの次のショットの攻撃性が非常に強く、相手のリターンが少しでも甘くなればすぐさまウィナーを狙いにいく姿勢を見せるため、相手のリターンに与えるプレッシャーをさらに増すことができている。ただし、意外にもスタッツの面では目立った数字があまりなく、強さの割にあっさりとブレークを許す場面も多い。サーブ関連の数字が上がってくれば、安定した勝ち方ができるようになるはずだ。

ラリー戦で光る相手との距離の取り方・詰め方

 ツアー随一の破壊力を持つフォア、とにかく安定して乱れないバック、強烈なサーブ、これらそれぞれのバランスが噛み合えば文字通り桁外れの強さを発揮し、誰にもその勢いを止めることはできない。彼のショットの大きな特徴はバウンド後にボールが滑ってくることで、すべてのショットがラインに乗った時のような鋭さを伴って飛んでくるため、相手はなかなか思い通りのスイングをさせてもらえない。振られた中で辛うじて届いて打ったボールでさえ浮くことはなく、直線的な軌道で飛んでくるため、デルポトロ相手に連続で攻め立てることは非常に困難を極める。また、ラリー戦で光るのは距離や間合いの取り方・詰め方であり、相手が攻めてくれば冷静に守りを固め、繋ぎに入ったと見るやタイミングを早めて展開することで、相手に対して打ち合いではどうにもならないという感覚を植え付けられる数少ないプレーヤーの1人である。

前に踏み込んで叩く技術を高めて脅威度を増したリターン

 リターンもバックハンドを中心に返球の確実性が極めて高く、長身を活かして縦横の変化にもバランスを崩されずに対応することができる。以前はバック側に高く弾む2ndに対して攻撃できない点で相手に心理的な余裕を与えてしまうため、特にビッグサーバー相手だと持ち前の攻撃力が出せず改善の余地ありとされていたが、最近は1歩踏み込んで前で叩く技術に磨きをかけ全体的な質を高めており、もちろんフォア側に甘く来ればストローク同様に容易くリターンエースを奪ってしまう。今や隙はなくなったと言って差し支えないだろう。

ベースはあくまで守備型、フォアの爆発力は最終兵器というのが実像

 攻撃面での強烈なショットの数々が印象的なテニスであるが、彼が最も居心地良くプレーできるポジションはベースラインから2m程下がった位置であり、基本的には攻撃と守備のバランスを重視したスタンスをとっている。実は彼のテニスのベースが守りにあることはデータを見ても明らかで、ほとんどの試合においてウィナーもアンフォーストエラーも相手より少ない。それでも攻撃性が失われないのは、1つ1つのショットのパワーが上回っているからということだろう。デビュー当初の粘り一辺倒のスタイルから爆発的なフォアとサーブを身につけ文字通り覚醒、そこからよりベースラインから下がらずあくまで強打という姿勢を高めることで攻撃力アップに成功したが、怪我の影響があるとはいえ現在の彼はまさに守備力だけでも勝負できるベースラインでの強さに最終兵器としてフォアの爆発力が付属しているという見方の方が実像に近く、戦い方には余裕あるいは貫禄すら窺える。性格的には内気であるが、意外にも試合では派手なガッツポーズやパフォーマンス的意味合いの強いトリッキーなショットで観客を楽しませることも多い。

やや鈍重なフットワークはトップ相手に弱点として露呈しやすい

 フットワークに関して一歩目の動き出しが悪く、振り回しに弱いという点が課題に挙げられる。コーナーからコーナーへ相手に手堅く振り回されると、大柄な体格ゆえに息が上がってしまいミスが出やすい。ある程度左右に振られると、スプリットステップを省略する傾向にあるため、ドロップショットや逆を突くショットの餌食になってしまう。ただ、致命的な弱点とはなっていないのは、長い手足を活かして長い距離を少ない歩数で追いつくことができるためであり、ディフェンシブな状況でもしっかりと意図を持った質の高いボールを返球する。こうした高い守備力を基盤とする安定性を武器にトップ10へと駆け上がったわけだが、多彩なプレーで彼を崩しにかかるトップとの対戦を考えれば、やはりやや鈍重ともいえるこのフットワークはある程度克服しなければならない。また、フィジカルの持久力という意味で懸念があることは疑いようのない事実であり、1試合単位では誰に勝とうが不思議はないが、グランドスラムを筆頭に長丁場となる大会では勝ち上がりの過程で消耗戦を強いられると精神力も含めてダウンしてしまう傾向がある。

故障癖を克服し「怪我さえなければ・・・」との評価を返上できるか⁉

 世代的にはジョコビッチやマレーの1つ下で、まだまだ成長が期待できるデルポトロだが、実力的にはすでにいつ彼らの牙城を崩してもおかしくないところまできている。ただし、基本的に慎重で、目立つことが嫌いだという性格面からの要素でもあるようだが、相手のプレーで自信を砕かれるとそこで開き直れずに自滅することがある点や、落胆の表情や疲労感を垣間見せて相手に弱みを晒すなど、メンタル面は極めて繊細で起伏が激しく、物足りなさが否めない。格下相手に苦戦を強いられることが多いのも、どうしてもメンタル的に受け身になってしまうことや、相手のレベルに合わせたテニスをしてしまうことが要因となっている。そのあたりにもう少し図太さが加わり、ややプレーがワンパターンになる点を改善し戦術面に幅広さが生まれればまさに鬼に金棒だ。14年から約2年間は怪我により全休に近い長い離脱を余儀なくされ、また19年半ばに膝の故障が深刻化して以来コートに戻ることができておらず、輝かしいキャリアに水を差す形となってしまったが、実力は過去の実績ですでに証明済みで、「怪我さえなければ・・・」と後々言われないためにもなんとか故障癖を治し、同世代の錦織らと熾烈なライバル関係を築いてテニス界を盛り上げてほしいものだ。

 

Lorenzo Musetti

ロレンツォ・ムゼッティ

 生年月日: 2002.03.03 
 国籍:   イタリア 
 出身地:  カッラーラ(イタリア)
 身長:   185cm 
 体重:   78kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: HEAD Boom Pro 
 プロ転向: 2019 
 コーチ:  Simone Tartarini 

f:id:Kei32417:20211205190244p:plain

 軽やかなフットワークでコート上を舞い、強烈なストロークから柔らかいタッチまで極めて多彩な技術と戦術を駆使して主体的なラリー戦を展開する、特大の潜在能力を秘めたイタリアの逸材プレーヤー。ムゼッティの名を世界に知らしめたのは、バブリンカと錦織を撃破する衝撃のマスターズデビューを飾った20年ローマ(1000)だった。そして21年にはアカプルコ(500)での劇的なベスト4で19歳にしてトップ100入りを果たすと、これまたグランドスラムのデビュー戦となった全仏で4回戦まで進出し、敗れはしたもののNo.1ジョコビッチから2セット先取して追い詰める鮮烈なプレーを披露した。ベースライン後方に構えてスピンボールで組み立てるプレースタイルは当然にクレーコートとの相性が最も良いが、いわゆるクレーコーターに抱かれがちな土臭いイメージが彼にはなく、当代の「クレー版・華のあるテニス」の体現者と称したい。その華麗なテニスは色気のあるルックスともぴったりな印象で、ツアーに定着してくればファンも増えていきそうだ。

最上級のセンスを持った美しいシングルバックハンド

 随一の美しさを誇るシングルバックハンドは軌道の高低、速度の緩急、打点のタイミングなど、あらゆる変化を出すことのできる魅力的な武器である。近年は片手打ちと言っても厚い握りで体の近くまでボールを呼び込むフォームも主流になりつつあるが、彼はクラシカル寄りのしなやかなフォームを特徴とし、打点を前にとって大きなフォロースルーでボールに推進力を加えるタイプ。高い軌道を軸にラリーを組み立てる戦術が抜群にうまい点も含めて、ガスケ並みの最上級のセンスを持ったショットと言っていい。非常に強いトップスピンによって相手を押し込む形を強みとするが、これはインパクト後に手首を返すタイミングを少し遅らせることでスピンでもラケット面に厚く乗った強い打球になることが要因に挙げられる。また、ダウンザラインへの一撃も脅威で、踏み込んでライジングで綺麗に流し込むことも、相手が少し角度をつけてきた際にコート外側から逆転のカウンターで仕留めることも得意としている。さらには、スライスの質が高い点も特筆に値する。低弾道から途中で少し浮き上がるような滞空時間の長い球種を操ることができるため、ペースを落とす手段として主に守備の粘りや安定に貢献している。1つ1つのショットの質が高いうえにどの球種にも的を絞らせないため、打ち合いが長く続くほどに主導権を手繰り寄せていく。

ストレートに攻め込むショットが光るフォアハンド

 フォアハンドは基本的には回転量を上げて安定性を重視するが、一方で甘い返球に対してウィナーを狙うショットでは一気にスピードを出すこともでき、その決定力は申し分ない。とりわけストレートのコーナーにやや外から巻いてくるような軌道で攻め込むショットの精度が高い。また、チャンスにドロップショットを選択することも多く、その感覚の鋭さや接近戦における駆け引きの巧妙さも光っている。ただし、深いボールを続けられ体重を前に乗せづらい状況になるとやや当たりの弱いチャンスボールを供給してしまったり、ポジションがかなり後ろであるために角度をつけられると対応できない場面があったり、現時点ではバックに比してフォア側に多くの弱点を抱えている。

豊かな発想と秀逸な技術で幅広い戦術を操る

 相手との間に長い距離をとり、しっかりと構えて打つ時間を作ったうえで、落ち着いて広角に打ち分ける中で徐々にショットのクオリティで上回っていくストローク戦は、彼の凄さが最も発揮される領域である。強打の応酬に動じず対抗しつつ、豊かな発想と秀逸なラケットワークで技巧的な戦術を使いこなす姿はとても10代とは思えない。特にフォア側で見られるように遠くに振られた時に速すぎる返球をしてしまいオープンコートに穴が生まれる点、クレー的な遅いラリーに持ち込めずスピーディーな振り回しに遭った時に著しくショットの質が落ちる点など、いくつかの課題があるものの経験とともに十分に改善していけるだろう。

エースを奪う力を強化したいサーブ

 サーブは1stからスピン系を主体とするため確率は良く、ストローク戦の布石としてはある程度思い通りに機能している。ただ、エースやフリーポイントを奪うには威力不足の感が否めず、今後とりわけ速いサーフェスでも結果を残していくためにはおそらくこのサーブが最重要の強化ポイントになるだろう。

計り知れない才能を秘めた変幻自在の芸術的なテニス

 明らかにフィジカルが未完成にもかかわらずツアーレベルで活躍を始めていることが、彼の計り知れない才能を物語る何よりの証左だ。躍進に沸く近年のイタリアテニス界だが、その中でも次世代を背負って立つ存在として将来を嘱望されるのがシナーとムゼッティである。プレーヤー像を喩えるならば、1つ年上のシナーが高出力の精密機械、ムゼッティが変幻自在の芸術家といったところか。いずれにしてもスタイルの異なる彼ら2人が双璧となってビッグトーナメントを賑わせるATPツアーとなっていくことを大いに期待したい。