↓クリックをお願いします/↓優良スコア配信サイト 

20200215102533

Andy Murray

アンディ・マレー 生年月日: 1987.05.15 
 国籍:   イギリス 
 出身地:  グラスゴースコットランド
 身長:   191cm 
 体重:   82kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  CASTORE 
 シューズ: UNDER ARMOUR 
 ラケット: HEAD Radical Pro 
 プロ転向: 2005 
 コーチ:  Ivan Lendl 

f:id:Kei32417:20191231004207p:plain

 巧みな戦術性と重いフォアハンド、自由自在なバックハンドを中心とする多彩なストロークを基盤に、卓越した守備力を駆使して相手の攻撃をいなしながら反撃のタイミングを耽々と狙う典型的なカウンタープレーヤー。06年に文字通り無敵状態を誇っていたフェデラーが年間で敗れた2人のうちの1人が当時19歳のマレーで、シンシナティでの番狂わせはツアーに衝撃を与えたが、彼自身が現在に至るようなトップの地位を手中に収めたのは08年のことで、夏場以降のマスターズ2大会優勝と全米での決勝進出を機に、いわゆる「ビッグ4」という構図を作り出した。そこからグランドスラム初優勝の悲願までには4年を要し、ようやく成し遂げたのが12年全米のタイトルであった。そして16年にはシーズン後半の驚異的猛追の末、ATPツアーファイナルズ決勝でジョコビッチに打ち勝って名実ともにNo.1の座を奪取。29歳で初めてNo.1というのは、74年に30歳で頂点に立ったジョン・ニューカム以来の年長記録となった。元々フットワークに優れたプレーヤーで将来を嘱望され、強力なサーブやストロークを持ちながら、あまりエースを狙わずリスクの少ないプレーを中心に組み立てる「駆け引き上手」なテニスで世界のトップに上り詰めたわけだが、加えてメンタル面とフィジカル面が徐々に改善されるのとあいまって攻撃力・守備力双方に磨きがかかり、今となってはイギリス人として2000年前後に活躍したヘンマンを超える実績を残すプレーヤーにまで成長した。彼が最も強さを発揮するのはハードコートだが、フィジカルの向上に伴い元々は苦手としていたクレーでの戦闘力も上がり、相変わらずの芝での強さを含めて、結果の面で年間のアップダウンが減ったことがNo.1を常に視野に入れられるようになった直接的な要因だ。兄ジェイミーはダブルスのスペシャリストとして活躍するレフティーのプレーヤーで、アンディよりも一足先にNo.1を記録し、ATP史上初となる兄弟1位の快挙を達成している。多くのタイトルを獲得している彼のキャリアの中でも唯一無二の価値を誇るのは、12年ロンドン、16年リオにおける五輪連覇で、シングルスでは男女を通じて史上初となる2つの金メダルホルダーとなっている。

多様なスイングから重いボールを操るフォアハンド

 テイクバック時に右手首を伸ばすことで、リストを柔らかく使ったスイングを可能にしているフォアハンドは、クロスコートに強烈に振り抜く決定力抜群のハードヒットを得意としている。以前は中ロブにも似た緩いトップスピンショットや時に回転のあまりかかっていないボールでラリーを長く続け、相手の攻め疲れによるミスを誘ったり、強引なアプローチを打たせてパスで抜いたりという受け身の戦略を基本に、相手がゆっくりしたペースに付き合い始めると、一転してベースライン内側に入って早い打点でボールを叩いてエースを狙いにいくスタイルであった。しかし、過去に攻撃的なストロークでトップに君臨したレンドルがコーチに就任した12年からはムーンボールはほとんど見られなくなり、よりベースラインに近い位置でボールを強く捉える攻撃的なスタイルに変化を遂げた。ラリーの中でも多様なスイングから非常に重いボールを操るため、相手とすると対応が難しい。もちろん以前の守備的な戦略も健在で、とりわけ押し込まれたラリーをイーブンに戻すためにダウンザライン方向のコーナーへ放つループ気味のトップスピンが非常にいやらしいショットであり、攻守の切り替えの中にこれらをミックスさせてより相手を混乱させる。ただし、ハイテンポのラリーでややボールが浅くなる傾向があり、安定感の面でも相手を追い込む攻撃力の面でもバックに劣るため、相手にとってマレー攻略の糸口の1つとなっていることは否定できない。逆にこのフォアが冴え渡っている時は圧倒的な攻撃力で相手を一蹴するため、彼のバロメーターともいえる。

ウィナーの球筋が美しい最高レベルのバックハンド

 現在のツアーの中では最高レベルのクオリティを誇るバックハンドは彼の最大の武器であり、フォームや球筋の美しさは他の追随を許さない。スイングと同時に体重移動するのが大きな特徴で、これにより高い打点からボールをフラット気味に打ち込むことが可能となっている。ベースライン後方からのショットはキレの鋭いスライス回転を交えながら、徐々にラリーで自分優位な形勢を作り出す。そのスライスも同じフォームから多種多様に使い分け、相手のリズムを狂わせる。とりわけ芝では本来の武器である強打をさらに活かす効果もあるスライスの割合が近年急増している。ただし、彼はバックを打つ際にやや上半身が突っ込む癖があり、低いボールを持ち上げきれないケースがあるために、相手のスライスに対してはほとんどスライスで返球するため、あまり怖さがない点など少なからずネガティブな側面もある。ベースライン内側に入ると、フォア同様タイミングを一気に早めたカウンター気味の強烈なフラットショットを叩き込む。以前はクロスへの強打でウィナーを取ることが多かったが、ここにダウンザラインという選択肢も加わり、相手にとってはよりコースを読みにくくなっている。また、攻守の局面を問わず厳しい角度を突くアングルショットを得意とするが、意図的に芯を外してラケットの先端で捉え、勢いを殺したボールを打つことで、失速して落下し、弾んでこないショットとなるため、ネットプレーヤーは非常に手を焼く。同じスイングから強烈なパスも打てるため、その対応はさらに困難となっている。得意な腰の高さに安定的に打点を取れている時は、マレー主導の展開になりやすく、そうなると畳み掛けるようにして攻撃力抜群のスピードボールを連発する。そうさせないために相手としては、スピンボールを使って高いところで捕らせたり、スライス系のボールで膝付近の打点を強いる必要があり、最近はこの対策がプレーヤーの間で徐々に浸透している印象がある。安定感は抜群でミスはほとんど期待できないが、一方で驚くようなカウンターも基本的には飛んでこないという認識に立って、マレーのバックとの勝負ではとにかく我慢強く攻め続け、本当のチャンスボールを取捨選択しながらポイントに繋げていくというのが唯一の考え得る戦略だろう。

戦略・戦術・パワー・技術の四拍子揃った完成度の高いテニス

 ボールのコースを変えていく幅広い展開力を活かし、相手に自由に打たせない戦術性の高い配球や、パワーヒッターにはあえて打たせながら、その攻撃を凌ぎ切ることで無効化し、相手の戦意を奪いつつ反撃に転じる戦略性、正面からの打ち合いでも負けないパワー、センス溢れる繊細なタッチショットなど、テニスの完成度の高さはツアー屈指を誇る。相手を前後左右に振り回し、タイミングを早めてボールの勢いを自分のパワーに変えたり、時には自分から打ちにいってネットに詰めたり、オープンスペースを突いたりしてトドメを刺すのが彼のテニスであり、「こうすればポイントが取れる」という手本のようなテニスが強さのベースとなっている。基本的に戦い方は受け身で守備的だが、守っていてもラリーの主導権は自分の方にあり、すべてをコントロール下に置いているのが彼の凄さといえる。悪い時の傾向としては、あまり意図が感じられないようなただパワーに頼って強打をする展開に終始してしまう分、サイドラインの幅で相手に対応される攻撃が目立ってきたり、逆にうまさで攻撃をかわしていこうという志向が強すぎるあまりプレーに積極性や主体性が消えたりと、あらゆる技術・戦術を備えているからこその悩みだが試合の中でのパワーと技のベストバランスに模索の余地がある。また、基本的に相手の強打に対して守りを固めていくというスタイル上、ある程度動きながらのプレーでリズムを得るタイプであるため、軌道の高いスピンボールなどを使って力を溜めて打つような状況を作られると、逆にミスが出やすいという戦術的な弱点がある。

僅かな隙を見逃さないカウンター攻撃

 守るべき場面ではしっかり守るのと同時に、様々なボールを交ぜて相手の攻撃の起点を潰し、相手が少しでも隙を見せると、すかさず鋭いカウンターショットで逆襲する。191cmというのはツアーでは十分に長身の部類に入るが、その事実を忘れさせるような動きの良さと驚異のスタミナが生み出すこの世界最高レベルのカウンターショットやランニングショットこそが彼の真骨頂であり、相手に多大なる脅威を与える。また、ボールに強烈な回転をかけて相手の頭上を鮮やかに抜く高速トップスピンロブも最近では彼のトレードマークとなっており、相手が2m級の長身プレーヤーでも、また斜め後方に下がりながらの苦しい体勢からでも、簡単にロブウィナーを奪ってしまう絶妙なタイミングと精度の高さは驚異的である。ただし、ややそのロブで相手の上を抜くことにこだわりすぎるきらいがあり、ショット選択には改善の余地を残す。とはいえ、後ろで打ち合っていてもポイントが取れず、前に出ても強烈なパスで抜かれたり精緻なコントロールショットで足元に沈められたりと、相手にとってはなかなか勝機を見出しにくいプレーヤーといえる。

威力抜群のサーブだが弱点も露呈

 長身から生み出される高さとスピードが武器のサーブは、大きく体を反った状態から力みなく振り抜き、左手が後ろに跳ね上がるフォームが特徴で、勝負所で特に威力を発揮する。1stはデュースサイドではワイド、アドバンテージサイドではセンターへ放つ、曲がり幅がかなり大きいスライスサーブを得意とし配球の軸となっているが、そのコースを1試合通して武器として機能させるためにバロメーターになるのは、各サイドでスライス系とは逆のコースに打つ最速220km/hにも届くフラットサーブで、これが高確率で入っている時には圧倒的なサービスゲームを展開できる。逆に、エースを狙うフラットが入らないと、武器になるサーブを持ち合わせていながらキープするのに四苦八苦することもしばしば。2ndの弱さがその原因で、遅いスピード、甘いプレースメント、変化の少なさを突かれて強烈に叩かれるケースがあまりにも目立ち、またプレッシャーをかけられ続けた末にブレークポイントダブルフォルトということも多く、トップレベルとは大きく水をあけられていた。それでもスピードをなるべく落とさずに厳しいコースに入れる2ndを習得すべく我慢強く継続的に取り組んできた結果、最近は非常に質の高い2ndが随所に見られるようになり、No.1奪取の大きな原動力の一つとなった。

詰めの判断が絶妙なネットプレー

 ネットプレーは特別得意というわけではなく、プレーの安定感を求めてリスクを負ってまで実行することはないが、展開への組み込み方が効果的であり、かつ繊細なラケットタッチを持っているため、器用にそつなくこなす。とりわけバックのスライスアプローチのキレ・精度が突出しており、高い決定率を生んでいる。最近はラリーでの基本ポジションがよりベースラインに近い位置になった分、ネットとの距離が縮まったことで、結果的にボレーで仕留めるポイントが増えている。一時期、過去にダブルスNo.1の実績を持つビョルクマンをコーチに迎えたことやデビスカップでダブルスに出場する機会が増えたことの影響も少なからずあるだろうが、ネットへ詰める判断力がなんとも絶妙で、相手の予測していない場面で鋭く縦に動き出す姿は純正のネットプレーヤーと錯覚してしまうほどだ。課題としてスマッシュを筆頭に高いロブへの対処に不安定なところがあり、チャンスボールを決め損なう場面も散見される。彼の中では数少ない技術的な弱点といえ、今後の強化ポイントとしては見逃せない。ドロップショットは得意とするショットの1つで、ここ最近多くのプレーヤーが使うようになったクロスの浅いところに落とすショットは彼が先駆けと言ってもいい。特にクレーの試合で使用頻度が高く、相手の状況をしっかりと見極める判断力と強い回転を与えながら短くコントロールする正確性により決定率は高いが、なかなか決められない状況にしびれを切らして逃げたような使い方をする傾向も時折見られ、その点は見直すべきである。

ビッグサーバー攻略法を知り尽くした秀逸なリターン

 ビッグサーバーの攻略法を知り尽くしたようなリターンも大きな武器で、1stに対しては突出した返球成功確率を実現し、2ndには規格外の攻撃力を発揮する2つの強みを持つ。1stには手の届く範囲なら面をきっちり作り、ブロックリターンでまずは返球することを重視する。ある程度攻められても守り切れるという心理的余裕とそれが生み出す相手の焦り、そして何といっても相手の3球目の攻めをショートクロスや中ロブ気味の深い返球など状況を瞬時に見極めた秀逸な対応でかわす技術が光っている。また、試合の流れからコースを読む能力も高く、相手が打つ前に動くということもしばしばあるのが彼の特徴。一転して2ndになると大きくベースラインの内側に入り、とにかく早いタイミングで叩いて相手の足元に打ち徐々にラリー戦で仕留める形をとったり、時にはサイドライン際へエースを狙いにいく。高く弾むキックサーブを封じ込める、この2ndに対するリターンの凄まじい攻撃力はツアーで間違いなくトップに位置し、サーブ側の優位性は完全に失われる。マレーのリターンへの対策の立て方は、いかに1stの確率を高めるかに主眼を置くべきで、攻撃させない2ndを打つというのはほぼ不可能に近く非常にリスキーでもある。

強さの理由は凌ぎ球の質に凝縮されている

 相手の打つ方向を読んでカバーする能力はビッグ4の中でも群を抜いて優れており、この読みの良さと前傾姿勢でのダッシュが特徴的なフットワークが粘り強くチャンスを待って逆襲するカウンター戦術を可能にしている。ドロップショットなどで予測の裏をかかれ、一歩目を逆に踏み出してしまってもボールに追いつく脚力は圧巻と言うほかなく、どんなにコートを広く使って攻め立てても崩れないマレーに対して大抵のプレーヤーは手札を使い果たして敗れ去っていく。追い込まれていてもゆったりとしたスライスなどを駆使して相手に攻めさせないボールのつくり方は天下一品で、その時間を利用して自らはポジションを取り戻すため、相手とするとどうしても無理を強いられる展開になりやすいのが特徴であり、このような球速を落とす凌ぎ球の質の高さに彼の強さの理由が凝縮されていると言ってもいい。また、普通なら諦めてもおかしくないスマッシュを何度となく懸命にラケットに当てて高いロブを返球することで、相手に数本余分に打たせる。相手からすれば決して常に難易度の高いスマッシュを強いられるわけではないが、時間と体勢に余裕があっても、というより余裕があるからこそコースを読まれるのではという余計な考えが脳裏をよぎりがちになる。実際にスマッシュをカウンターでエースにしてしまうシーンもあるが、それ以上に相手として堪えるのは試合を通してこの姿勢を貫かれることであり、次第にプレッシャーが積み重なって大事なポイントでミスを誘発されてしまう。ただ、滑るコートでのフットワークには問題点があり、厳しいボールに対してハードヒットで返球する際、スライドをあまり使わないため、打球後一歩余分に踏み出してしまう傾向があり、わずかな差でラリーの勝敗が左右されるトップレベルの試合ではややその弱点が露呈しやすい。しかし、だからこそクレーでは守る時はループボールやスライスを軸に遅いボールで徹底的に守り、一方で攻めの展開は早くするという緩急やメリハリ重視の方面で強化した結果が、15年以降のクレーシーズンの躍進に繋がったともいえる。

ベースラインからの離れすぎに注意

 相手の隙をじっくりと窺うためベースラインの3m以上後ろにとっていたラリーの基本ポジションを、最近では1m程度に止め、より攻撃性を重視した戦い方を選択しており、長年指摘の対象とされてきた守備的戦術の殻をようやく破りつつある格好だ。ただし相手に攻め込まれる展開になってくると、どんどんベースラインから離れていってしまう癖はまだ完全には拭い切れていない印象で、今後も継続して取り組むべき課題であることに変わりはない。

相手のリズムを崩す攻守のメリハリ

 マレーのテニスは基本的に確率重視で、とにかくメリハリの効いたテニス。もちろんどのプレーヤーもある程度はやっていることだが、彼の場合ベースラインを境にして忠実に、しかも極端なほどにメリハリをつける攻防分離型のテニスを実行している。打ち合いが始まれば少し下がってスライスを交ぜながら受け流し、チャンスと見るや一気にペースを上げて強打を叩き込む。その鋭い攻守の切り替えに相手はリズムを崩して不必要にミスを出す、といった形で好循環を生み出していくのが彼の勝ちパターンだ。また、頭上を越された時に放つアイディアに富んだショットの数々や、細かなプレーにおける技術力の高さはまさに天才的で、少なからずフェデラーに通ずる部分もある。

レンドル効果が最も大きな変化を生んだメンタル面

 メンタル面においてはトッププレーヤーにしては未熟な部分が残っており、納得のいかないプレーやちょっとした外部の環境に苛立ちを募らせ、冷静さを失うこともある。メンタル的に落ちる時間がやや長い点も懸念材料で、数ゲームで留めておきたいところを1セット、場合によってはその試合中立ち直れないケースもある。また、相手のレベルに合わせたプレーをしてしまうところがあり、好調なプレーヤーの勢いを止めるうまさがある一方で、相手の不調に付け込めず、ミスに付き合う形で泥仕合を演じてしまうことも。ナダルフェデラージョコビッチ相手に実力では互角かそれ以上で渡り合えるのだが、重要な大会での対戦になるほど劣勢の展開になるのはこのあたりが関係している。とはいえ、レンドルによって叩き込まれた“勝者のメンタリティ”は着実に効果を発揮しており、12年ロンドン五輪での金メダル獲得や全米制覇、そして何より13年に成し遂げた地元イギリス人としてフレッド・ペリー以来77年ぶりのウィンブルドン優勝はまさに精神面での成長を感じさせるものであった。その過程で今まで一番欠けていた自分のプレーに対する信念が生まれたことで、内面的にも強さに磨きがかかった印象だ。彼の場合、感情の起伏が激しいことが必ずしも弱みであるとは感じさせず、ポイント間での独り言の多さや、ポイントを奪い「Come on!」「Let’s go!」と吠えて自らを鼓舞することによって、試合の雰囲気を自分のものにするのはある意味強かさの一部ともいえる。普通であればあれだけ頻繁にプラスにもマイナスにも感情を露にすればスタミナ切れの心配も出てくるはずだが、常人離れした体力でその懸念を吹き飛ばしている。

復活への道は困難も彼なら不可能を可能にできる

 集中力の低下が招くプレーのムラを筆頭とするメンタル面の不安定さや、守備的なスタイルなど課題もあるが、それらを克服し、好調時のプレーを長く持続させることができるようになれば、さらにグランドスラムでの優勝を増やしていく可能性は十分にある。一度レンドルとの関係を解消して以降は腰の手術からの回復に時間を要した影響もあり、ポジショニング、ショットの選択などが明らかに積極性を欠き、守備的な戦い方にシフトしてしまったことで、上位陣との対戦でかなり苦しくなっていたが、モレスモを新コーチに招聘した新しい陣営の体制が噛み合い始めた15年には再び輝きを取り戻し、「ビッグ4」から彼を除いた「上の3人」に変化しつつあったツアー内の認識を完全に覆した。そして再びレンドルとタッグを組み、独走状態で難攻不落と思われたライバルのジョコビッチをトップの座から引きずり下ろした。追われる立場になって真価が問われる状況となったが、過酷なツアーの中で肉体が悲鳴を上げて股関節の故障が深刻化すると、以降は長期に亘る戦線離脱を余儀なくされ、ついには19年全豪で引退を示唆する涙の会見を開くまでに至り、テニス界を驚かせた。それはいかに復帰への道が困難を極めるかを物語って余りあるものであったが、彼自身決して完全に諦めたとは発言しておらず、実際にその直後には金属の人工股関節を入れる手術を受けて夏にはツアーに出場、シーズン終盤にはアントワープ(250)で劇的な優勝を飾った。完全復活を果たしたわけではなく、いつ戻れるという保証もないが、ビッグ4の一端を担うスターとして意地もあるはず。体にメスを入れ、鞭を打って闘うマレーの姿を、ファンとしては優しく見守りつつ、一方でやはり再び頂点を争うことも期待したい。