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Novak Djokovic

ノバク・ジョコビッチ

 生年月日: 1987.05.22 
 国籍:   セルビア 
 出身地:  ベオグラードセルビア
 身長:   188cm 
 体重:   77kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: asics 
 ラケット: HEAD Speed Pro (18×19) 
 プロ転向: 2003 
 コーチ:  Goran Ivanisevic 

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 正確無比かつ凄まじく伸びるストロークを主体とする攻撃的なテニスを展開しつつ、真骨頂であるスピードや並外れた体の柔軟性を駆使したコートカバーリングにも非常に優れ、“勝つ”ことにおける無駄をすべて削ぎ落としたような洗練された完成度の高いテニスを持ち味とするセルビアの英雄。史上最長のランキングNo.1在位期間(373週)を誇り、未だ衰えを見せず円熟味を増した実力と並々ならぬ記録への野心を携えて、グランドスラムの最多優勝を主眼にあらゆる記録の塗り替えを目論む。引き出しの多さを活かし相手によってプレーを変えられる強みを持つが、戦術的に常に一貫しているのは相手の最も得意なプレーを潰しにかかることであり、心理面で優位に立つ強かさが際立っている。06年頃から頭角を現し、07年には全米準優勝やマイアミとモントリオールでのマスターズ優勝など、若手らしい勢いと成熟した質の高さが共存したテニスで瞬く間にフェデラーナダルを脅かす存在となり、以降常に彼らに次ぐ「第3の男」として君臨し続けていたが、一方で暑さへの弱さや途中棄権の多さなどから脆さも指摘されていた。しかし、11年にグルテンフリーの食事療法により呼吸障害を克服したことでフィジカル面が飛躍的に向上し、動きに躍動感が生まれ、守備面の強化はもちろん攻撃面でもバリエーションを増やし、年初からの驚異的な連勝記録(41)を打ち立て、ウィンブルドン初優勝とともに遂に念願のNo.1の座を射止めた。そうして勝利を積み重ねていくうちに自信をつけ、どんな場面でも自分自身を信じ続けるハートの強さを身につけたことが、向かうところ敵なしの状態を生んだ。また、グランドスラム3大会とマスターズ6大会での優勝という15年に見せた凄まじい強さは11年を上回る歴史的快挙で、ビッグ4の一角というよりジョコビッチ1強時代という図式を作り出し、フェデラー同様に主にナダルの壁に阻まれ続け王手をかけてから5年を要したが、16年にはようやく全仏のタイトルを獲得して男子史上8人目のキャリアグランドスラムを達成すると同時に、それは年を跨いだグランドスラム4大会連続優勝でもあり、いわゆる「ノール・スラム」を成し遂げた。ハードコートを最も得意とし、グリップの効いた環境でのフットワークや身のこなしは歴代最高の呼び声も高いが、どのサーフェスでも特別何かを変えることはせず自らのプレースタイルを貫く点で、ある意味“サーフェス”というものを超越した戦いを手に入れた感もある。190cm近い長身でありながら、170cm台のプレーヤーのような自在さとスピードで手足を動かせるのが絶大な強みである。また、いとも簡単にベーグルでセットを取ってしまう好調時の集中力の持続性はまさに異次元のレベルにあり、特にビッグマッチになるほど試合開始に集中力のピークを持ってきて一気に流れを手繰り寄せるロケットスタートは見慣れた光景となっている。

強靭な体軸から放たれる球質が多様なフォアハンド

 フォアハンドはフォロースルーの大きさでショットの長さをコントロールするのが特徴で、体に巻き付くようなしなやかなスイングでボールを捉える。大きく背中側にラケットを引いて体の後ろに隠し、ギリギリまで引き付けてから一気に振り出すため予測が難しく、また体の回転と腕のスイングが必ずしも連動しているわけではないため、体の開きだけで判断するとクロスに打つように見えて、実はストレートに打っていることが多々ある。強靭な体軸を活かして放たれるショットは球質が多様で、バウンド後に低く伸びるフラット系の直線的な弾道と高く弾むスピン系の山なりの弾道を局面に応じて同じフォームから巧みに打ち分ける技術によって相手を惑わす。キャリアを振り返ると、若手時代には能動的なラリー展開の中でフラット系のショットが中心であったが、最強へと上り詰める過程では相手の攻撃を受け止めて跳ね返し長い打ち合いで崩す形へと変化し、フォアの球種は後ろ足に体重をかけて打つ強烈かつ複雑なトップスピンのかかったショットを軸に据えるようシフトした。もちろん相手の返球が甘くなれば持ち前のフラットショットでウィナーを取るケースは依然多く、攻撃面でも着実に進化を遂げてきた。最近では、鉄壁のディフェンス戦術は不動のまま、一方で不必要にポイントを長引かせない狙いから再び淀みのない直線的なスピードボールが増えた印象もあり、主導権を握って攻撃しているはずの相手がジョコビッチの攻守が完全に一体化したテニスによってスピードで振り切られるという現象が起きる。また、フォアにおいてはサービスラインの遥か手前に落ちるアングルショットからの展開が際立つ。クロスへのショットはボールの外側を確実に捉えて打つため、バウンド後にさらにコート外へと逃げるような軌道を描く。これを他のショットとほとんど変わらないスイングから何気なく繰り出すことで、苦しい体勢で打たせて相手の攻撃の芽を摘みながら、自らは楽にオープンコートに打ち込んでポイントを取るのが、彼の中で計算された1つの勝ちパターンとなっている。

精密機械の如く乱れることのない世界最高のバックハンド

 世界最高とも称されるバックハンドは試合を組み立てるうえで軸となるショットで、あらゆる状況下でも非常にコンパクトなスイングで強烈なショットを広角に打ち分ける。守から攻へのトランジションが生命線となる彼のテニスにおいて、このバックハンドは特に重要なショットで、圧倒的な守勢からでも一本のカウンターでライン際に切り返してポイントを奪うことができる。攻撃の局面では右足をクローズドに踏み込み肩をしっかり入れるため、構えの段階でダウンザラインを相手に強く意識させるが、ベースになるのは鋭く上体を回転させてクロスに引っ張るショットで、高い打点からまさに突き刺すようなショットを連発して簡単に相手を追い込んでしまう。球筋がフラット系であるにもかかわらず、ミスをほとんど出さない安定性があり、クロスへは信じられないようなアングルに持っていくことができる。また、自身が最大の武器と語るダウンザラインは抜群の決定力を誇り、決まり出すと手がつけられない。一方、このショットが調子のバロメーターと言われるのは、悪い時はミスを恐れてか置きにいくためスピードが出ず、有効なショットとして機能しないからである。相手の厳しい攻撃にも手首の返しと柔らかい関節をうまく駆使して強いボールを打つことができるため、守備的なスライスはほとんど使わない。スライスは確実性という点ではやや不安定な面があり、そのキレには波があるが、強打の多い彼のバックにあって時折放たれるスライスはそれ自体が相手を翻弄する効果的なアクセントとなっている。

相手をベースライン後方に釘付けにするストローク

 彼のショットは、フォアは鞭のようなスイングに、バックは上半身の捻りに隠れて、ラケットヘッドが遅れて出てくるため、相手にコースを読みにくくさせ、反応を遅らせるというメリットがある。そのうえ、どのショットも深くライン際にコントロールされるため、対戦相手はベースライン後方に文字通り釘付けにされ、ポジションを高く保つジョコビッチのペースで終始ラリーを進められてしまう。その正確性は強引に前に出て打つことさえ許さないほど。速い展開にも遅い展開にも的確に対応できる点は彼の長所の1つであるが、中でも高く跳ねるスピン系のボールを上からフラットで叩いて厳しいコースに打ち続ける技術は、現在のツアーの中では間違いなくナンバー1である。強風や相手の巧みなスライスにより思うように強打ができない状況になると苦戦するのが課題といえ、得意のアングルショットやドロップショットも強打あってこその戦術であり、いわゆる技だけで崩し切るほどのうまさは持ち合わせていない。また、元々が守備的なプレーヤーであるからか、どちらかと言うと構えて打つ余裕のあるショットでミスを連発して不調に陥っていくタイプで、相手が繋ぎ重視のスタンスで攻めて来てくれない時に調子が狂い始める傾向がある。相手とすればこの小さな弱点を見抜き、遅い展開の中でループ系のボールを辛抱強く配球することがジョコビッチ対策としては有効だ。

常軌を逸した守備力と反撃能力

 堅固なディフェンスから流れを作り出すだけあって、フットワークも非常に粘り強く、彼のセールスポイントである精密なショットはすべてこのフットワークに支えられている。どんなに左右に振られても決してバランスを崩さず、できる限りオープンスタンスで踏ん張って返球し、さらに次のボールにも対応しようとするのが特徴だが、それを実現する秘訣がポジショニングと内股である。深いボールが来ると判断したら瞬時にポジションを下げることで、時間とスペースを確保して力負けすることなく体重を前にかけられる環境を整え、そしていざボールを打つ際には膝が外側に流れないため、下半身の力をキープしたまま最後までラケットを振り切ることができ、厳しい状況からでもパワフルに打ち返すことができる。このスライディングとその後の戻りの速さが、驚異のコートカバーリングと反撃力の真髄となっている。ダッシュした体を一気に止めるため、身体への影響が懸念されるが、そこは彼独特の体の柔らかさと脚力でカバーしている。さらには前後の球際にも強く、ドロップショットの処理も低い姿勢をキープする分正確性が高い。以前は機動力を活かして、どこに打たれてもボールを拾い、そこからの組み立てで戦っていたが、今は守備的なポジションからでも一気に攻めに切り替えるテニスを構築している。それを可能にしているのが、どんなに後方に下げられても精密機械のように相手コートのベースラインに乗せるボールの深さである。つまり、彼のディフェンスの凄さは返すだけでも難しいウィナー級のショットをオープンスペースの深いところに鋭く返球することで、連続して相手に良いショットを打たせないことである。ネットに出てきた相手の横を低い弾道で鮮やかに抜くのはもちろん、相手の足元にピンポイントで落とす技術も身につけ、より磐石で究極のディフェンスを確立している。とりわけバックサイドは深いボールが来ても守るのではなく、スライドしながらオープンスタンスでフラット系のカウンターで攻撃に転じるケースが多く、その威力・精度は同じく神懸かり的なカウンターショットを繰り出すナダル以上のものがある。フォアサイドからも強烈なカウンターを繰り出すことがあるが、バックに比べて幾分脇が開きやすいため対パワーの許容度がやや低く、フォーストエラーが増える傾向にある分、独特なワイパースイングでストレート方向にループボールを打って形勢を戻すプレーを多用する。したがって、あくまでバックとの比較における安定性の面に限った話ではあるが、対ジョコビッチの勝機の1つはサーブも含めてこのフォア側への攻撃が挙げられるだろう。もう1つ彼の能力で見逃してはならないのが常軌を逸した読みの良さ、そして恐らくはそれを実現する眼の良さである。打球のコースに先回りして返球する場面が相手のサーブ時やチャンスボールを打ち込む際にしばしば見られる。構えて打つショットほどコースを読まれるという相手にとっては戸惑いを通り越して恐怖を感じる武器といってもいいだろう。ジョコビッチのディフェンスはいわば「知能を備えた壁」といったところか。芝をやや苦手とするのは、彼の特徴であるこのスライドと開脚を駆使した“Stop&Go”のフットワークの機能性が落ちるのが1つの要因である。

必要なすべてのスキルを備えたリターン

 驚異の正確性でサーブ側の優位性を一瞬にして奪い去るリターンは、広いスタンスと低い姿勢で構え、どんなサーブに対してもポジションを下げず早いタイミングで返球するため、相手の時間を完全に奪うことができるのが強み。時にスライスで、時にフラット系で、ラインに乗るようなサーブ以外はとにかく相手コート内に収め、サーブのプレースメントが少しでも甘くなれば、たとえそれが200km/hを超えるようなサーブでも難なくエースにしてみせる。絶対的なボディバランスにより、相手がどんなにボールの高さや角度を変えても、体が泳ぐことなく強いリターンを返してくるが、中でも際立つのはリーチの長さで、やっと届いたような逃げていくワイドサーブをショートクロスに切り返す形がしばしば見られる。戦術的には、無理をしてまでリターン1つでポイントを奪おうとはせず、基本的にはコートの中央、つまり相手の足元に深く強いボールを返球し、自分有利な形勢を作り上げていく。特にビッグサーバーに対してはいかに早い段階でイーブンな打ち合いに持ち込めるかが攻略の鍵となるが、彼は4球目の返球ですでに相手の攻撃の流れをリセットさせる恐ろしい能力を持っている。勝負所でのコースの読み、ボールに飛びついた時のバランスの良さ、バランスを崩された時の面だけで返球する感覚は天下一品で、これらあらゆる力の総合が相手に巨大なプレッシャーを与える原因だ。

技術的な穴が見つからない盤石なサーブ

 サーブは以前、安定感がなくそこからプレーが崩れていくことがあったが、肘の角度など細かなフォームの修正により現在は精神面とともに改善され、完全に武器といえる程にまで進化している。彼のサービスゲームはまさに穴がないという表現が当てはまり、不得意な球種やコースというものがまったくないため、1stから200km/h前後の強力なフラットサーブとスライスサーブ、スピンサーブを織り交ぜて、相手に的を絞らせない。ストローク戦でほとんど主導権を取れるため、確率が落ちるリスクを背負ってまでエースを狙う必要はないが、それでも進化の過程でワイドへの精度が増したことで狙ってエースを取れるようになり、またブレークピンチでは最も得意とするセンターへの切れ味抜群のスライスサーブ一本で乗り切ることが多い。数年前までは彼のサーブといえばトスの左右幅が10cm台とほぼ無に等しくコースが読めなかったが、ここ最近は右側へのトスを増やしつつ、そこから定石と異なるフラットを打ったり、逆に真上のトスからスライスを打ったりと、リターン側を惑わせる意図が明確に感じられる。陣営に迎えたイバニセビッチの効果だろうが、クイック気味にフォームを改良したことや一段と足の蹴りが強くなり球威が増したこともあいまって、過去にはなかったエースを量産する試合が激増している。加えて、近年のサービスゲームで特筆に値するのはサーブ&ボレーの多用。ボレーを含めネットプレーが決して得意でない彼が今なおステップアップを模索してサービスダッシュを基本オプションに組み込もうとする挑戦にまず驚かされたが、短期間でそのクオリティは目覚ましく上昇し、ライバルたちは未だ有効な対抗策を見つけることができていない。2ndの質の高さはトップレベルでも群を抜いており、ほとんど1stと変わらないスピードを維持しつつ、非常に深くサービスライン際にコントロールできるため、リターンから一方的に攻め込まれることは極めて少ない。技術的な特徴としては、強烈な縦回転をボールに与えて相手に決定的なリターンを打たせないことが挙げられ、自分が攻めるためにオープンスペースを空けるという意図よりは、3球目で即座にニュートラルな状況に戻すことを意識している印象がある。年々サーブのクオリティは進化を遂げており、最近は特にトップとの対戦で1stの確率を80%近くまで高めて付け入る隙を与えない集中力が光っている。他方で、1stで簡単にポイントを取る能力を高めたことは、意外な副作用も生んだように見える。すなわち、自覚の有無はさておき、テニスにおけるサーブ依存度が高くなったことで、入りが悪くなった時に必要以上の焦りが生じ、ラリー戦でらしからぬミスを出す傾向である。相手としてはこうした僅かな綻びをどうにか突いていきたい。

タッチショットの感覚は武器である一方で課題も

 ベースラインからの打ち合いで試合を支配する展開が多い一方で、このところはラリーの中で相手の隙を見つけるやいなや自らネットに詰めていく意識が高まっている。ネット際では非常に予測能力が高く、シンプルかつ繊細なラケットタッチも年々洗練されてきている。ネットプレーにおける課題はポジショニングと足運びの不安定さにあり、ボレー自体の技術は良いのだがアプローチからネットに付く一連の動きには改善の余地がある。一方で、彼の場合は守備の局面でも感覚の鋭さが発揮できるのが強みで、ネットに出てきた相手の頭上を鮮やかに抜くトップスピンロブは、両サイドともに傑出した技術力を備える。最近その使用率が高まっているのは間違いなくネットプレーを増やしたフェデラーへの対抗策というのが理由だが、これにより相手に下がる動作をさせて体力の消耗を狙っている。また、バックサイドから放つドロップショットは、ベースラインからでもネットに近い位置からでも強烈なバックスピンの効いたボールをストレートにクロスにと自由自在にネット際に浅く落とせるため、使用頻度が高いにもかかわらず相手に読まれることは少なく決定力が高い。元々ドロップショットを非常に好んでいることもあり、以前はとても感覚が良いとは言えない日でも試合序盤から惜しげもなく放っていたが、現在は自分の方に流れが来ている時に多用する傾向が見られる。速いボールに対するボレーや大事な場面でのスマッシュにはまだまだ改善の余地があることも確かで、今後No.1の座を維持しつつ、更なるレベルアップを図るためには見逃せない点である。

「打倒フェデラー&ナダル」を形にした最強テニス

 フェデラーナダルに後塵を拝し続けていた時期は、自分は不運な存在だと自嘲気味に語っていたが、一方では彼らを倒すためには何が必要か、自分の何が武器になるのかを考え抜き磨き上げてきた。圧倒的な機動力でボールを追いかけ、ただ拾うだけでなくカウンターで切り返す守備力と反撃力は、フェデラーの多彩な攻撃を想定してのものであり、高く跳ね上がるボールを全身で押さえつけてウィナーにしてしまう強力なストロークは、ナダルを相手に戦うための能力であろう。テニス史上に残る王者2人に勝つために作り上げられたこれらの要素に、彼本来の持ち味でもある発想の豊かさと読みの鋭さ、強烈な集中力がプラスされる彼のテニスは今やどこにも隙がなく、結果はほぼ彼のコンディション次第となっている。

常人の理解を超越するメンタルコントロール

 メンタルの強さはもはや人間離れしていると言っても過言ではない。生来の情熱的な一面も作用して試合中感情を露にすることは少なくないが、それで崩れることはなく、むしろそうしてイライラを一息に吐き出すことで、頭の中をリセットしすぐに次に切り換えることができる。どんな状況でも自分のプレーさえすれば勝てるという信念を持てているからこそ、表面的には喜怒哀楽がはっきり表れても、メンタルの根底は決してぶれることがない。このメンタルの安定性とコントロール力が、彼の強さの原動力となっていることは言うまでもない。疲れが溜まってくると明らかに覇気や集中力を欠いた姿を垣間見せることがあるが、それでも近年では試合の中で何とか立て直し、勝ち切れるようになったところに成長を感じる。その強さは瀬戸際まで追い込まれた状況でこそ発揮され、開き直って攻撃的になった時の彼の勢いは誰にも止めることはできず、これまでにビッグマッチで幾度となく記憶に残るような大逆転勝ちを演じている。勝負所でギャンブルに近い思い切ったプレーができるのも大きな魅力の1つだ。ただ、緊張した場面ではサーブ前にボールをつく回数が10回を超えることも珍しくなく、デビスカップでは対戦国の観客から野次を飛ばされたこともある。

人物像はフェアなエンターテイナー

 時折ラケットを破壊したりウェアを引き裂くことがあるが、それを除けば非常にコートマナーが良く、相手のビッグプレーには拍手を送り、審判のジャッジに誤りがあれば自ら相手にポイントを譲ったり、試合に負けても笑顔で相手の勝利を称えたりという清々しい姿が世界各国での高い人気に繋がっている。ファンの間では「ノール」の愛称で親しまれる彼は、エンターテイナーとしても一流で、ファンサービスも旺盛なため、練習コートは常に大賑わい。優れた観察力からエキシビションなどでは、マッケンロー、サンプラスフェデラー、ヒューイット、ナダルロディックシャラポワらのモノマネで観客を喜ばせる。

 それでも総合的な実力は頭一つ抜けている

 11年には間違いなくテニス史に残る記録ずくめの華々しいシーズンを送り、翌年以降もまさしく王者と呼ぶにふさわしい安定した戦いを見せつつ、テニス自体は進化を続けている。あまりに完璧なテニスでNo.1へと上り詰めたため、サーブでフリーポイントを増やしていく以外にこれ以上の上積みが難しいのが不安材料とされていたが、どうやらその心配はなさそうで、年々ベースアップを図りつつも、パワーテニスからより理詰めの展開を使うクレバーなテニスにモデルチェンジを施すことで、ハイレベルな“省エネテニス”を実現している。14年からは更なる向上を目指して、絶大な信頼を置くバイダに加え、サーブやボレーの技術、アグレッシブな思考などを学び得ようと元No.1ベッカーを陣営に迎え入れた。ライバル達も確実に力を伸ばしてきたツアーの状況ではあるが、特定のパワー系プレーヤー相手に受け身になる以外に弱点が皆無に等しいジョコビッチのテニスは、やはり現状で頭一つ抜けていると言わざるを得ない。16年は他を寄せ付けない強さを誇った充実のシーズン前半から一転、全仏制覇で燃え尽きたのか、テニスの調子というよりは明らかにメンタル的に試合に入り込めない時期が続き、さらに左手首の故障も重なって最終盤にはマレーにNo.1の座を明け渡した。冷静に考えればそれまでの数年の成績がむしろ異常だったと見るべきだが、彼の口から久しく聞いていなかった弱気なコメントが出てきたことが心配された。勤続疲労による種々の怪我が深刻化していた中、陣営の総入れ替えなども含めて何とか精彩を取り戻そうともがいていたが、18年前半までの間は悪い流れを断ち切るどころかさらに深い沼に落ちていく一方で復調の兆しは見えなかった。しかし、彼のことを最もよく知るバイダがコーチに戻ったことをきっかけに状況は一変、ウィンブルドン優勝で復活の狼煙を上げると、以降は他を引き離す勢いで勝ち続け、瞬く間にNo.1返り咲きを果たした。21年にはグランドスラム3大会を制して通算優勝回数を20の大台に乗せた。各種記録の更新など名誉への渇望を公言して憚らないジョコビッチであり、コンディションさえ維持できればテニスの実力からいって今後も彼はビッグトーナメントでタイトルを獲得・ディフェンドし、数々の記録を塗り替え、当然のように「G.O.A.T.」論争の主軸に立っていくことになるだろう。