↓クリックをお願いします/↓優良スコア配信サイト 

20200215102533

Roger Federer

ロジャー・フェデラー

 生年月日: 1981.08.08 
 国籍:   スイス 
 出身地:  バーゼル(スイス)
 身長:   185cm 
 体重:   85kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  UNIQLO 
 シューズ: On 
 ラケット: Wilson Pro Staff RF97 
 プロ転向: 1998 
 コーチ:  Ivan Ljubicic, Severin Lüthi 

f:id:Kei32417:20191231001539p:plain

 正確無比なサーブ、一撃で仕留めるリターン、ベースラインからの高速ライジングアタック、華麗なネットプレー、それら無限の武器を駆使し、対戦相手を畏怖させるほどの超攻撃型プレースタイルで、35歳を過ぎた今なおトップに君臨する史上最高のテニスプレーヤーとの呼び声も高いスイスの英雄。01年ウィンブルドン4回戦で8度目の戴冠に向けて死角なしと言われたサンプラスを破ったことで知名度を上げると、02年ハンブルクでのマスターズ初優勝でトップ10入りを果たし、03年のウィンブルドン初優勝を機に長きに亘る絶対王者時代を築き上げた。驚異的なペースでメジャータイトルを積み上げていった彼にとって唯一全仏が獲れずに苦しんだが、過去4年その夢を阻み続けたナダルが早期敗退を喫した09年大会を七難八苦に耐え抜いて制覇し、悲願の男子史上6人目となるキャリアグランドスラムを達成している。また、14年にはついにデビスカップのタイトルも獲得し、残すビッグタイトルはオリンピックの金メダルのみとなった。フェデラーが史上最強と呼ばれる所以は、大舞台での勝負強さと究極の完成度を誇るオールラウンドなテニスにある。非常に自然で鮮やかなフォームから放たれるショットはいずれも強烈で精度が高く、球種や角度でリズムに変化をつけたストローク戦や、ネットプレーを多く織り交ぜた創造性豊かで多彩なゲームメイクによって相手を駆逐する。動き自体のスピードにやや衰えが見える最近は、時には相手に気持ち良く打たせないような巧みな配球術で勝っていく、ベテランらしい老獪さも垣間見せており、サーフェスや対戦相手などによってこれらの戦術を使い分ける器用さは他の追随を許さない。ラリーが続けにくいならサーブとリターンの一発で主導権を握り、その次のボールで決めてしまう。一方、ロングラリーでも相手を崩すための手札を数多く持ち、自らはバランスを崩さない。これをトップのレベルで実行するのは恐ろしく難易度が高く、彼ならではといえるだろう。とはいえ、あくまで彼が標榜するのは「展開の速いテニス」であり、その実現のための技術・戦術をキャリアを通して追求してきた。体力の消耗を最小限に抑えて速攻の嵐で襲い掛かる戦略から、”Federer Express”という異名も持つ。技術面・フィジカル面・メンタル面いずれにおいても欠点はほとんどなく、その強さはとりわけ芝とハードコートで際立つが、特定のサーフェスを苦にすることはなくすべてのサーフェスで輝かしい成績を残している。インドアでの強さにも定評があり勝率が一層跳ね上がるが、その一方で豊富な経験からか風を利用した戦い方にも秀でるなど異常コンディションへの順応性も高い。

超速の中で七色の手札を操る圧倒的な技術力

 ストローク戦ではフォア、バックともにあくまで強打という姿勢を貫き、パワーとスピードの凄まじい迫力で相手の守備壁を粉砕することも、緩急やコース、球種などに変化をつけてミスを誘い出すこともできる硬軟自在な引き出しの多さと、それらの手札をトップスピードの中で切っていける技術力の高さが最大の魅力。息を呑むショットの鋭さ、僅かな隙を逃さない洞察力によって相手に休むことを許さない高速テニスに対して、とりわけ初対戦のプレーヤーは面食らってしまい、為す術なく敗戦ということも少なくない。バックの良し悪しに目が行きがちだが、やはり何といっても生命線はフォアのフィーリングだ。最近はバックのハードヒットの割合を増やしつつ、スライスをより戦術的に使用することで、相手には効果的な反撃を許さず、自らがコートの内側に入ってボールを叩く展開に持ち込んでいる。前後左右高低緩急を幅広く使った動きのあるテニスが、トップの中でも群を抜いて見ていて面白いとの評判を得る。

世界最高の完成度を誇る美しいフォアハンド 

 流れるような美しいフォームから放たれるフォアハンドは彼の最大の武器で、パワー・精度・バリエーションなど、あらゆる面で世界最高の完成度を誇る。ラケットを薄く握り、極力リラックスした状態から上半身の開きを抑え、インパクトの瞬間にのみパワーを集約させて打つ技術に長けており、身体で力むのではなく手首のスナップと飛び出すボールを追い越すかのようなイメージさえある驚異的なラケットヘッドの走りでボールにスピードをつける点が美しさの要因とされる。厚い当たりでスピードを出すフラット系のショットが主な持ち球だが、それでも実はかなりの回転量があるため、吸い込まれるようにライン際でボールが落ちるのが特徴である。その完成度は誰もが認めるところで、それゆえに徹底したバック攻めが対フェデラーの常套戦略となっている。特にクロスのラリーから斜め前に切れ込んで放つストレートと、向かってくるボールに対して身体を逃がしながら絶妙な距離感で捉える回り込みの逆クロスは抜群の決定力を誇る。逆に、回り込みフォアを安易にストレートに引っ張ってクロスのオープンコートにカウンターを取られるのが悪いパターンだ。一発の切れ味に加えて、強打の応酬の中で突然柔らかいインパクトに切り替えて厳しいアングルを突いて崩したり、フォアサイド深くから鋭いスライスによるディフェンス、いわゆる「スカッシュショット」を放ったりと頭脳的なショットセレクションも光る。また、追い込まれた相手が中ロブ気味のボールで返球したと見るや、忍び寄るようにポジションを上げてドライブボレーを叩き込むパターンは、一瞬の隙も逃さない洞察力とリスクの高いダイレクト返球を平然とこなす技術力あってのものである。最近では状況によってリバーススイングを多用することで一段と展開のスピード感が増し、さらにこれまで以上に鋭く重い強打を打つ意識を高めて攻撃性に磨きをかけている。ただし、不必要にラケットを振り上げてしまう場面が増えているのが気がかりでもあり、それが腕力の低下なのか動体視力の衰えなのか原因は定かではないが、明らかに距離感を誤って手打ち気味の軽いインパクトになり勢いのない弱い返球になるシーンが散見される。手首の故障による一時的な影響であればいいが、恒常的な弱体化であるとすれば彼のキャリアにとって厳しさは増してくるだろう。

驚異の進化を遂げた攻撃力抜群のシングルバックハンド

 リストを柔らかく使うシングルバックハンドも独特の美しさを持つ武器であり、スピネーションを最大限に使うことで強烈なスピン回転を可能にし、強力な球威を保ったまま広範囲に打つことができる。以前はベースラインよりも後ろで打っていたが、近年は深いショットに対してもほとんどハーフボレーのようなタイミングで捉えて展開していく能力を新たに習得した。これは左足重心でも押し込まれず、身体の内側にまで打点を引き込んで強打や厳しいアングルショットでいとも簡単に切り返す、常識外れの技術に支えられている。非常にリスクが大きく、不調時にはミスヒットを連発することもあるが、感覚良く打てている時はフォアにも劣らない威力と精度で圧倒的な支配力を見せる。バラエティーに富んだ球種を繰り出せるのが片手打ちの利点と自負するように、右と左の肩甲骨がつきそうなほど振り抜きの良いトップスピン、変幻自在のスライス、スピードで相手にトドメを刺すフラットを繰り出す。クロスラリーでスピンとスライスを駆使して高さと角度に変化を与えることで相手を揺さぶり、決定力の高いフォアに回り込んで先に展開する基本の形だが、最近は前に入り込みバウンド後の上がりばなを確実に胸の高さで捉えて叩き下ろしていくショットのクオリティが飛躍的に向上したことで、バックのハードヒットを完全に武器として使えるようになり、クロスの打ち合いを早々に切り上げ次々とダウンザラインに攻撃を仕掛けていくような戦術にシフトした。また、今まではスライスで逃げていた場面でも良い意味で少し無理をして踏み込み、クロスの鋭角にフラット系の高速ショットでウィナーを突き刺すシーンも増えており、ベースラインからの単純なストロークウィナーの数ではフォアを上回ることも多くなっている。こうした進化に通底するのは、ショットのスピード上昇と低弾道化であり、より強く叩くことで攻撃力アップを実現するとともに、回転を少し減らしフラットにボールを押す意識を高めたことは安定感向上にも寄与している。一方で、彼本来の持ち味である多様な回転で相手のペースを狂わせるスライスはツアーでも唯一無二の完成度を誇り、時には戦略としてバックハンドの5割近くをスライスにして相手の武器を封じ込める。技術的には、縦に低く滑る攻めのスライス、サイドスピンを効かせてチャンスを作るスライス、長い滞空時間とバウンド後のブレーキが特徴の時間を稼ぐスライスなど、多種多様な球種を状況に応じて使い分ける。高い軌道を描くトップスピンと地を這うようなスライスによって縦の変化に富んだ彼のバックは対戦相手からすれば非常に捉えにくく感じるはずだ。以前は片手打ち特有の弱点である高い打点への集中攻撃を受けてプレーを乱されることが多かったが、ナダルに執拗にこの弱点を突かれて苦しんでいた時代の不安定さはもはやなく、このところはバックに集めすぎるとむしろ彼のペースに持ち込まれる可能性が高くなっている。今の彼の威圧的な攻撃力を止めるためには、ややボールへのフットワークに乱れが生じやすく、またフィジカル的にも最も負担のかかるフォアサイドへの振り回しを使ってバランスを崩すのが有効な対抗策だ。

ライジングショットを可能にする天性のタッチ感覚

 「ゴッドハンド」とも称される天性のタッチ感覚を持ち、幅広い打点に対応する能力で精密かつ多彩なショットを生み出している。山なりの軌道でベースライン際に緩く返球するスライスのディフェンスは他に類を見ない空間察知能力の賜物といえ、またバックサイドからのスライス系のロブや信じられない手首のフリックで逆襲するカウンターショットに見られるように、追い込まれた状態でもラケットに届きさえすれば面を合わせるだけでどこにでもコントロールし、ピンチを一瞬にしてひっくり返す。一方で、どのショットの際にも打球後まで打点に目線を残すのが特徴で、上体の開きを抑える効果があるとともに、しばしば最高の模範に推される要因の1つでもある。ボールの上がり際を叩く攻撃力抜群のライジングショットはまさに巧みなラケットタッチによるもので、彼はストロークの大半をショートバウンドで捉えるため、速いテンポで打ち返すことで相手に考える余裕すら与えることなく畳み掛けることができる。ストロークにおいてボールスピード自体で彼を上回るプレーヤーは少なからずいるが、テンポの速さを含め実際に相手に与える圧力で彼の右に出る者はいない。現在ツアーで最強の守備力を持つジョコビッチにスピード勝負を挑める唯一のプレーヤーであるという事実がその証明だ。長期の休養期間を経て復帰した17年頃からは、ライジングで打っているにもかかわらず返球が直線的ではなく、手首を柔らかく使い強烈なトップスピンにより角度をつけてエースを取ることもできるようになった。今まで以上に卓越した技術の習得により立体感を増した新しいテニスの開拓を後押ししているといえよう。また、ドロップショットも得意なテクニックの1つで、技術的には球足の長いアプローチを匂わせるように前進しながら打てる点や、スライス面でしっかりと上からラケットを振りつつ強いショットの威力を吸収できる点が特徴で、虚を突く判断力もあいまって相手を完全に欺くことができるため、まるで一瞬時が止まったかのような印象さえ与える。それゆえ成功率はフォア、バックともに高く、相手が前の動きに難があると見れば1試合の中で何度も放つ。頭上を越された時など非常時に見せる“Tweener”もまたフェデラーを象徴するショットで、これまでに幾度となく伝説的なポイントを生み出してきた。ボールキッズとのやりとりなどポイント外での巧みなラケット捌きも隠れた見どころの1つである。

低迷からの再浮上を期して手に入れた鮮やかかつ力強いネットプレー

 ネットプレーにも非凡さが発揮され、その質の高さは現役プレーヤーの中では一・二を争うレベルにある。自らの攻めの展開で積極的にネットを突くことはもちろん、相手の一瞬の隙を見計らってボレーカットに入る場面も多く、ネットに詰める縦の動きのスピードが突出している。絶妙なタッチで相手を翻弄するハーフボレーやドロップボレーは天性の才能によるところが大きく、強烈なパスを短く落とす柔らかいタッチは誰にも真似できない。また、ファーストボレーから次、その次とネットとの距離を徐々に詰めていくことで相手へのプレッシャーを増していくが、鋭いパスに対する反応に自信を持っていなければできることではない。当然相手とすれば頭上が狙い目ではあるのだが、バックのハイボレーや下がりながらのスマッシュなども力強くかつ鮮やかにこなす。ボレーではしっかりとアンダースピンをかけてボールを浮かさないのが特徴で、その技術をベースに強く弾き返すことも繊細なコントロールもできる。14年からはデビュー当時のプレースタイルであったサーブ&ボレーを基本オプションとして再び使うようになり、よりフェデラーらしさが発揮されるようになっている。ネットプレーを劇的に増やしたことは、ストローク戦で優位性を確保することにも一役買っており、ネットへ先に仕掛ける展開を作ることで、バックハンドに集められて相手に展開されるという、これまで苦しめられてきたパターンの頻度が激減した。相手からのストレスを減らしながら、自分から主導権を握るテニスを新たに手に入れたのだ。

特有の対ネットプレー戦略

 一方でネットプレーヤーを相手にした時の対応も実に秀逸だ。アプローチショットに対してコートの中で待ち構えることがまず極めて特殊で、予測の良さと準備の早さを兼ね備える彼にしか実行できない戦法。そこから瞬き一つ許さないライジングで、あるいは少しスライスアプローチが浮いてきた場合にはバウンドさせずに打つことすらあるパスは、相手のネット前でのスプリットステップを完全に狂わせる。特にバックハンドは直線的なスピードボールではなく、やや軌道の高いスピンボールを使うため角度がつきやすく、また相手は一瞬目線が上がりタイミングを外されてしまうため、効果的なボレーを打つことができない。ストロークで不利になっても、自らネットに仕掛けたり浅めのスライスで相手をネットに誘き出してポイントを稼ぐという選択肢が残っているのが彼の強みの1つといえるだろう。

限りなく読みづらい正確無比なサーブ

 サーブも同様に美しく無駄のないフォームから精緻なコントロールを武器に相手を追い込む。短いポイントで一気に畳み掛ける攻撃性を貫くうえでその生命線となるのがサーブの質であり、サービスポイントが多いのはもちろんだが、サービスダッシュも含めた3球目の速攻で決める「サーブ+1」戦術の名手としてあらゆるパターンを備えることで、いわゆるビッグサーバーにも引けを取らない高いサービスキープ率を実現している。身長やスピードは平均レベルで決定的な威力こそ持たないが、的を絞らせない巧みな配球と勝負所で狙ってエースが取れるのが強み。トスアップの段階でコースや球種が読めないというのはトップレベルでは当然の技術だが、彼の場合どのサーブを打つにしてもインパクト後ボールが飛び出すその一瞬までフォームに差が表れないと言われ、これこそが対応が至難となる最大の要因である。一方で最近は、意図的にトスの位置や打点のタイミングを変えて相手を惑わす狙いも見てとれ、更なるバリエーション増加を模索しているようだ。1stは200km/h前後のフラットサーブと170km/h台のスライスサーブが中心となるが、常に回転やスピードに微妙な変化を与えることでリターンミスを誘うことができる。デュースサイドからのサーブには絶対の自信を持ち、凄まじいキレを誇るワイドへのスライスサーブを多用して相手に意識させ、大事な場面では逆にセンターフラットでエースを奪う。アドバンテージサイドはセンターラインを僅かに掠めるような速めのスライスサーブを得意としている。とりわけ大事な場面で圧巻の質の高さを発揮する2ndも大きな武器で、ポイント獲得率は常にツアーのトップに位置しており、多彩な球種と幅広い配球範囲を活かし、並のプレーヤーならダブルフォルトのリスクを懸念して狙えないような際どいコースにコントロールできる。特に強烈な斜めの回転をかけて横方向に高く弾ませるキックサーブを得意とし、2ndであっても相手の体勢を崩しオープンコートを空けると、3球目でフォアに回り込んで即時攻撃というのが彼の目指す理想型であり、サーブに対して最大限の集中を保てている時には、どんなにリターンの良いプレーヤーを相手にしても、1st・2nd問わずストローク戦に持ち込むことさえ許さない威圧感がある。また、サービスゲームを短い時間で片付けられている時の彼は気持ちの面で乗っていくことができ、プレー全体のリズムが良くなる傾向がある。逆に、1stが連続して入らなくなるのが崩れる時の兆候であり、1試合の中で確率に波がある点が唯一相手としては付け入る余地のある隙といえる。また、サーブの調子を見るうえでバロメーターとなるのがアドバンテージサイドからのワイドフラットで、このコースが高い精度で打てている時はしっかりと高い打点から叩くように打つことができている証明である。

確実性重視の中にも豊富なバリエーションが光るブロックリターン

 リターンにも隙はなく、ビッグサーバーの高速サーブにも素早く反応し、かつコンパクトなスイングで的確に対応する。ブレーク率自体はトップの中ではそれほど高くないが、セットを奪うには1つのブレークで十分な彼の場合、試合を通して感覚が合っていることよりも、むしろ1ゲームにまとまって良いリターンを繰り出せるかが勝敗の鍵を握る。本来強力なサーブをどう返すかという受け身の側面が強いはずのリターンだが、彼はすでにリターンの一打で主導権を握れるのが大きな強み。その最たる例がバックサイドからスライス系のボールを浅く低い位置に落として難しい対応を強いり、次の一球で即座に仕留めるパターンだ。同じ短いフォロースルーからインパクトの瞬間の押し・切りを自在に操る“捌きの妙”により生み出される長短のスライスリターンを多用するが、しっかりとタイミングが合えば面を合わせて強烈に突き刺すようなフラット系のリターンをしていくこともあり、後者を軸にできている時には相手とすると手がつけられない。10年夏にアナコーンに師事して以降、またエドバーグとコンビを組んでからはそれ以上に、2ndに対するリターンの攻撃意識が高まり、フラットに叩いてエースを狙う、チップ&チャージでネットに出て圧力をかける、一気に決めにいくドロップショットを放つといった場面も増えた。とりわけ相手のスピンサーブの回転をそのまま利用するドロップショットはまさに対応不可能な妙技だ。15年にはSABR(Sneak Attack By Roger)と名付けられた、2ndに対してサービスライン付近まで猛烈に前進し、ショートバウンドで捕ってネットに詰めるという半ば反則的なリターン戦術を編み出し、相手のサーブに特大の脅威を与えている。近年のリターン力の向上は目覚ましく、SABRという分かりやすい武器だけでなく、以前は良いプレーの流れに水を差すことの多かった簡単なリターンミスはほとんどなくなり、特に休養明けの17年からはリターンポジションを大幅に上げてバックハンドで強く叩く技術に磨きをかけている。ミスを軽減し確実性を増しつつ、それでいてタイミングを早めて攻撃性も上げていくことで、試合全体の流れをテンポアップさせ、極力ロングマッチを避けるというベテランらしい狙いも見てとれるが、その意図を考えられないほどのハイレベルで実現しているのが今のフェデラーといえるだろう。課題とすれば本人も自覚しているところだが、ブレークポイントを獲り切ることができない点で、どうしても積極性と慎重さのバランスが噛み合わない。

流麗なフットワークが颯爽としたすべてのプレーの根底

 彼自身が自らの最大の武器に挙げるフットワークは軽やかだが力強く、一歩目の反応の早さや展開の先を読む予測力もあいまって、自分が攻撃している時は激しく動き回っても決してバランスを崩さない。マッケンローに「ピンが落ちる音が聞こえるほどに静か」とまで言わしめた流麗なフットワークは、彼の魅力である颯爽とした一連の動きの基盤となっているため、調子のバロメーターと言ってもいいだろう。劣悪なコートコンディションでも滑ったり転倒することがほとんどなく、怪我が少ないのもこのしなやかなフットワークがあればこそだ。特にサーブを打った後バック側を狙われたリターンに対して、コートの内側に留まったうえに回り込んでフォアで処理するフットワークはまさしく世界一のスピードだ。細かくステップを踏みつつ、打点に入る最後の一歩を跳ぶように広くとるのも大きな特徴の1つ。一見するとナダルのような球際の力強さやマレーのような素早さは感じないが、逆に凄みを感じないことこそが魅力ということもできる。強いボールを打ち込まれてもベースラインから下がらず、むしろ前に入って対応するのが特徴であり、凌ぎ切る守備ではなく攻撃的な守備を意識している。こうしてコーナーを突くボールに対して一直線に近づくことで自らの移動距離を短縮すると同時に相手の時間も奪う、「先に仕掛ける」ことを徹底的に追求した中で辿り着いた超攻撃的なプレーの象徴ともいえる。また、ラリー中に決して休まないことが相手への圧迫感を極限まで高める要因であり、コートのかなり後方に押し込まれても粘り強い守備で1本甘い返球を引き出すと繋ぎを挟むことなく瞬く間にアプローチショットを放って攻めに転じていく。「気がついたらフェデラーがネットにいた」とは文字通り実態を映した表現と言ってよい。年齢から来るフットワークの衰えはもはや隠せず、とりわけフォア側のオープンスペースの対応力には低下が目立つが、その不足分を補うべくベースライン上を平均台に乗っているかのように走る、とにかくポジションを下げないテニスを完成させたことで、展開そのものは格段に高速化した。

実はフィジカルこそが超一流

 大きく取り上げられることはそう多くないが、フィジカル面の強さも超一流で、彼が長年世界のトップでプレーし続けられる最大の要因となっている。勝っている試合でも相手より走行距離のデータが長く出ることが多く、誰よりも素早い動きでコートを駆け回る豊富な運動量が試合を支配するベースにあるのは今も昔も変わらない。プロツアーに出始めた98年から現在に至るまで数ヶ月単位の長期離脱がほとんどなく、また一度も途中棄権をしたことがないという事実がそれを物語るとともに、「一旦コートに出たら最後まで戦う」という王者としての信念も感じられる。豊富な経験から自分の身体と相談しながらトレーニングを積む調整法も知り尽くしているようだ。

ポーカーフェイスの裏には並外れた負けず嫌い精神

 メンタル面の強さもフェデラーを語るうえでは特筆すべき要素である。基本的にプレー中はポーカーフェイスを貫き、常に冷静な判断力を備え、大事な局面での集中力の高さが大舞台での勝負強さに繋がっている。近年はフラストレーションを露にすることもあるが、逆に重要な場面ではポイントごとに雄叫びを上げて自らを鼓舞するなど、いまだに衰えない勝利への飽くなき闘志の表れという意味でポジティブに捉えるべきだろう。セット間でのメンタルのブレが少なく、たとえ接戦でセットを落としても素早く頭を切り換えて、逆に次のセット序盤でギアを上げることで流れを一気に自分の側に引き込む強かさを持つ。駆け引きのうまさという意味では大事なポイントで意図的にラリーのペースを落とせるところに凄さが表れている。普通は欲しいポイントでは攻めを急ぎがちで、攻撃型のフェデラーであれば尚更だが、相手の緊張を見抜きあえてプレーをさせることで甘い返球を引き出したりする。そうかと思えば、あるゲームでは急にネットプレーを増やしたりと、色々な攻撃を見せることで相手を困惑させる。最近は試合の締め方に不安定な部分があり、勝利を確信したようにプレーが軽くなって不用意に相手にカムバックを許すシーンが散見される点は解消したい。本来は頑固な気質の持ち主で、キャリア初期は試合中に癇癪を起こしたりするなど、冷静さを保つのが難しいプレーヤーであったが、地道なメンタルトレーニングの積み重ねによって改善されている。戦術として相手の得意なコースにあえてボールを集めて、そこを打ち破ることでポイントを重ね、心理的に優位に立とうとする姿勢には、彼の頑固な一面が見え隠れする。また、普段の人柄が良い意味でプレーには影響しないのが強さの秘訣ともいえ、ネット際の接近戦で容赦なく相手の体めがけて打ち込んだり、実力差のある相手を無慈悲なまでに退けるあたりに勝負師の姿を見ることができる。彼が30代半ばになってなおトップレベルを維持し、情熱を失うことなく戦い続けられるのは、彼自身が話すように単純にテニスへの愛情があり、ツアー生活を楽しめているということだけでは到底説明がつかず、誰よりも勝利に貪欲で「やられたらやり返す」負けず嫌いの精神が、表向きには出さないが裏での相当なトレーニング量を生んでいるからだろう。

紳士的な人柄が世界中での絶大な人気を支える

 ファンによる人気投票で17年連続トップという揺るぎない事実が表す通り、観客を虜にする華麗なテニスに限らず、謙虚で紳士的な態度や常に進化を追求する向上心は、世界中どこに行ってもファンから絶大な人気を誇り、あるいは地元のプレーヤー以上の声援を受けるなど、アウェイな雰囲気になることは滅多にない。あまりに熱狂的なファンが相手のミスに歓声を上げるといった場面が物議を醸すことすらあるほどだ。

究極の攻撃的戦術はまだまだ洗練される

 近年は年齢的な問題で疲れが残ったまま次の試合となると大きくパフォーマンスを落とすなど、ごまかしが利かなくなっているのは事実で、大会または試合を通して集中力を保ち続けることが難しくなってきている。単純なスタミナという面でも不安があり、勝ち上がりの中でロングマッチを強いられると、その大会の優勝は厳しいと言わざるを得なくなっている。しかし、好調時であれば全盛期以上の迫力でどんな相手も圧倒できる力を持っており、特に躊躇なくリズムを早められるハードコートでの強さは今でもツアー随一だ。逆に、クレーでの戦いを中心にベースライン後方での打ち合いを余儀なくされる条件では、アンフォーストエラーが増える厳しい状況が浮き彫りになっており、そのあたりは打開策が必要か。13年には怪我の影響もあり年間を通して不調を抜け出すことができず、様々な連続記録が途切れたことでついに斜陽かと思われたが、思い切ったラケット変更や自身の憧れであるエドバーグのコーチ招聘といった環境変化を新たなモチベーションとして14年には再び華麗なプレーを取り戻した。その過程においては、長い打ち合いで先にミスが出る状況を打破しようと、守りを固めるという考え方を捨て、攻撃一辺倒のテニスを構築することでトップに返り咲いたが、盟友ルビチッチを陣営に迎えてからはもう一度ストロークの強化に努め、エドバーグが遺したネットプレーとのベストミックスに向けて微妙にテニスをチューニングしている。16年は年頭に膝に負傷を抱え、シーズンの半分以上を棒に振るという彼にとっては初と言っていい苦しい戦線離脱を強いられた。それまでに数多の限界説を払拭してきたとはいえ、年齢が年齢なだけに完全復帰を疑問視する声もあったが、その不安をかき消すかの如く、復帰戦となった17年全豪では決勝のナダル戦を含む4人のトップ10、3つのフルセットマッチを見事に勝ち抜き、35歳にして5年ぶりにグランドスラムタイトルを手にした。「王の帰還」を思わせる頂点奪回は多くの人々のノスタルジックな感動を喚起したが、それが一過性の輝きではないことをアピールするように、3月の北米マスターズ2連戦も制し11年ぶりとなる「サンシャイン・ダブル」を達成、ここで思い切ってクレーコートシーズンはスキップして得意の芝に照準を合わせると、ウィンブルドンでは圧倒的な強さでセットを落とさず前人未到8度目となる優勝の快挙を打ち立てた。これにより「G.O.A.T.」論争には終止符が打たれたとの見方もあるが、いずれにしてもまだまだ健在どころか年々進化を遂げ、今がキャリアで最も速く、強く、美しいテニスをしている印象さえあるフェデラーが今後さらに究極の攻撃的戦術を洗練させ、さらにビッグタイトルを積み重ねる姿をすべてのテニスファンが期待している。