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Kei Nishikori

錦織圭

 生年月日: 1989.12.29 
 国籍:   日本 
 出身地:  島根県(日本)
 身長:   178cm 
 体重:   73kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  UNIQLO 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Wilson Ultra Tour 95 
 プロ転向: 2007 
 コーチ:  Michael Chang, Max Mirnyi 

 類稀なテニスセンスがベースとなった卓越した技術力とそれらが織り成す多彩なゲームメイクを武器に世界と渡り合う日本テニス界の至宝。08年にデルレイビーチ(250*)で当時18歳ながら予選勝ち上がりからツアー初優勝を飾ると、初出場の全米では第4シードのフェレールを破る番狂わせを起こして4回戦に進出するなど鮮烈なデビューを果たしATPの新人賞を獲得。以後数年間は度重なる怪我に苦しみ、不遇の時を過ごしたが、ついに11年終盤に潜在能力を本格開花させ、上海マスターズ(1000)で準決勝進出、バーゼルではNo.1ジョコビッチから大金星を挙げると、勢いそのままに松岡修造の持つ日本人最高位を大幅に更新した。さらに14年には全米でラオニッチ、バブリンカをフルセットで下し、準決勝ではジョコビッチを圧倒して決勝に進出したほか、マスターズでベスト4以上が3大会、ATPツアーファイナルズでも初出場でベスト4を記録するなどセンセーションを巻き起こし、日本人やアジア人といった枠を完全に超越し、まさにツアーを席巻した。その後もトップ10としての実力を証明するようなハイレベルなパフォーマンスを維持し、16年にはリオ五輪で日本勢としては熊谷一弥以来96年ぶりの表彰台となる銅メダルを獲得した。精度が高く球種が豊富なストロークを主体に、ラリーをコントロールしながら徐々に自分の形に持っていき、相手の隙を見逃さずにポイントを取る、非常に頭脳的かつ計算高いプレースタイルが強さのベースとなっており、今やラリーで最も強いプレーヤーとの呼び声も高い。どんなショットも軽々しく打つ点や随所で見せるイマジネーションに富んだショットセレクションは、生まれ持った才能によるところが大きく、体格で他に劣る錦織が世界で活躍できる大きな要因となっている。ポジショニングと機動力を武器とする彼にとって、最も力を発揮しやすいのはやはりハードコートであるが、他のサーフェスに特別苦手意識は持っておらず、特にフォアの強烈なスピンボールなどはクレーとの相性が良く、さらにクレーでの試合であることを忘れさせるテンポの速いプレーは革命的と言われ、世界に衝撃を与えている。

早めのセットでボールを十分に呼び込みコースを隠すフォアハンド

 非常に厚いグリップから放たれるフォアハンドは本来の彼の最大の武器であり、多彩なショットを自由自在に操ることができる。早めにラケットを引いてセットを完了させることで、ボールを呼び込む懐の深さが生まれ、そこから振り抜くスイングスピードも極めて速いため、相手とするとコースがまったく読めない。強打で相手を押し込むことも、アングルに打って走らせることもでき、ストローク戦の主導権を巧みに手繰り寄せる。こうしたフォアの強さにはジュニア時代から定評があり、それを嫌がる相手からはバック側にボールを集められることもあるが、そうなった時こそ彼の真骨頂が表れる。回り込んでのフォア強打やそこからのフォアのドロップショット、あるいはバックのダウンザラインなど、元々多いプレーのバリエーションの中でも特にこのバック側からの攻撃はどんな相手をも苦しめる。また、チャンス時にウィナーを狙って放つフォアのジャンピングショット、いわゆる“Air-K”は彼固有の技である。ただし、相手として突くべき弱点がフォア側にあるのも事実で、外側に逃げていく軌道の強いボールへの対応でややラケットが弾かれたり打点がぶれて泳ぐようなシーンが散見され、押し込まれた時のフォアには改善の余地が残されている。

ツアーで最高評価を得る自在性抜群のバックハンド

 ツアーではフォア以上にその強さが高い評価を得るバックハンドは威力、安定感、自在性が非常に高い次元でバランスよく融合しており、とにかくコンパクトなスイングでボールを捉えるテンポの速さ、そしてあれほど滑らかかつ強力にコントロールし続けられるプレーヤーは他にいないと言われる配球範囲の広さを活かして、ラリーの中で常に優位に立つことができる。スピンをかけてライン際に落とすために、テイクバックでラケットヘッドをしっかりと下げて、インパクトの瞬間に一気にそれを返すことで、コースの読みにくいフォームを実現している。スクエアとオープンのスタンスや、打点の高低を問わず、悪い体勢からでも常にカウンター気味のショットで安定して深さを出したり、角度をつけて正確にアングルに打てることが最大の強みで、勝負所では彼の身長からは考えにくいようなショートクロスや、コートの内側に踏み込んでの強烈なダウンザラインなど、いわゆるスーパーショットも多いが、それ以上にフォアのアングルやデュースサイドからのワイドサーブで相手を崩した後、オープンコートのクロスにしっかりと引っ張り、正確にコントロールして平然とエースを奪ってしまうのが本当の凄さである。ただし、彼の中で最も信じられるポイントの取り方がバックのクロスコートである分、重要な場面ほどそのラリーを選択することが多く、ほとんどの相手にはそれで優位に立てるのだが、バックが強いプレーヤーを相手にしてそれがうまくいかないと苦戦する傾向はある。ドロップショットはフォアからはボールの勢いを殺してネット前に落とす球種を選択し、そのままウィナーになるケースが多いが、バックでは浅いスライスを打つような形でバウンド後に低く滑る球種を操り、拾われたボールを次で確実に決めるパターンを好む。

両サイドに確実に打ち分けるコース変更の技術

 ストローク全体を通して感じるのはコース変更のうまさであり、通常なら難しいボールにも無理をすることなく、スムーズに展開することができる。そのためラリー戦ではコートを縦に3分割した時に真ん中のゾーンへのプレースメントが極めて少ないのが特徴で、相手にカウンターのチャンスを与えない精度の高さは驚異的だ。また、相手との間の取り合いの中で、リズムを変えるために突然ループやドロップショットを交ぜて相手を崩していくあたりに、ツアー屈指の技術力を垣間見ることができる。特にグリップチェンジを完全に隠して放つドロップショットは、相手の読みを外すコース取りの多彩さもあいまって高確率でポイントに繋げる。今の彼より速いリズムでラリーを展開できるのはフェデラーぐらいで、だからこそ彼自身フェデラーを「最大の壁」と認識しているのだが、容赦なくテンポを上げて相手を振り切っていくハードコートでの戦い方はそう簡単には打ち破られない。

頻度が高まっているネットプレー

 ネットプレーでポイントを取る形も最近では増えており、隙あらばネットへという積極的な姿勢が見られる。そんな中でもポイント獲得率が高いのが特徴で、ボレーにおけるタッチの感覚は突出して良いわけではないが、予測力の高さと反応の速さが際立ち、また高い数字を記録している最大の理由はアプローチショットの質にある。明らかにドロップショットを打つ体勢から長いフォロースルーで深く滑るアプローチを打ったり、逆に強打を意識させて前に落としたりと、常に相手を惑わすトリッキーな動きを見せる。グリップの問題でフォア、バックともにハイボレーの威力が不足している点や、スマッシュの精度が致命的に低くミスが多い点、流れに任せて処理がやや雑になる傾向があるなど課題も多いが、これらを改善すれば本格的に武器としてネットプレーを使えるようになるだろう。

試行錯誤を繰り返して弱点克服を狙うサーブ

 サーブは技術面では唯一といっていい大きな課題で、更なる躍進を阻む原因となっている。ここ数年の肉体改造により、200km/h以上のスピードは出せるようになったことでエースの数は増加し、またワイドサーブからの展開でオープンコートにウィナーを奪う形も確立して安定したサービスキープは実現している点で、客観的に見れば少なくとも1stはもはや弱点とは言えないレベルに達している。それには相手の読みの裏をかく配球やコントロール、あるいはサーブ以降の巧みな処理も寄与しているが、それでもやはりパワー1つで圧倒するようなゲームが作れないことは、とりわけリターンからの攻めや揺さぶりに長ける上位陣との戦いでは厳しさを露呈し、ダブルフォルトが増えていく傾向もある。数字の上で見る以上に、彼自身の考えではサーブのフリーポイントが少ないことに対して懸念があるようで、その他の要素で楽にポイントを取る方法を模索した結果として、攻めを急ぎミスを重ねるというのが最近の主な敗因に繋がっている面がある。とはいえ、豊かな発想力で弱点克服に努める姿勢は大いに評価でき、ポイントを取りたい前のめりな気持ちが透けて見える中での使用など見直すべき点もあるが、ストローク戦を挑みづらい特定の相手に対してサーブ&ボレーを奇襲にとどまらない1つの有効な選択肢として取り入れたり、スピードを落として曲がり幅を重視したスライスサーブを使ったりという新たな試みは注目したい。2ndもスピンサーブの跳ね上がりの勢いが増したことや、足を摺り寄せないフォームへの変更によりコースを突く精度と安定感がアップしたことで平均的なポイント獲得率は高くなっているが、押され気味の展開の中で1stの確率が低下し、2ndを継続的に打つような状況では、コースが非常に甘く、容赦なく強打で叩かれてしまう。フォーム的な修正点は上半身の捻りと開きで、トスアップ時点での捻りを幾分増やすことでコースの読みづらさを高め、体の開きを抑えてパワーロスも減らしたい。また、サーブの質自体は近年飛躍的に向上しているが、相手のサーブをある程度簡単にブレークできる試合では、自らのサービスゲームもあっさりと落としてしまう傾向があり、不用意な接戦を招く原因となっている。

好調時のリターンは圧巻の一言

 逆にリターンは以前から得意とするところで、反応の良さが際立ち、ラインを捉えるようなサーブ以外はしっかりとラケットの面を作って深く返球する。好調時のリターン力は圧巻の一言で、一段と腰を低くした構えからビッグサーバーの速いボールや弾むボールなど、どんな球種にも対応するそのクオリティの高さは、リターンの技術ではナンバー1のジョコビッチをも凌駕する。特にアドバンテージサイドでワイドにキックしてくる2ndに対して、前に入ってバックハンドでストレートにエースを取る技術は天下一品だ。リーチが長くない分被エースは多く、リターンミスも含めて1stへの総合的な対応力には向上の余地があるが、届いたボールを攻撃的なリターンに転換するセンスはツアー屈指で、相手に対してかなりのプレッシャーをかけることができており、高いブレーク率に繋がっている。ツアーの中ではボディにサーブを集めるという作戦が対錦織の常套戦略となっているが、対応力に優れる彼は短期間でその弱点を克服することに成功した。また、最近になって鋭く滑らせるスライスのリターンや、叩いてそのままネットへという動きもオプションに加わり、より多彩さが増している。

ショットに余裕を生む予測力とフットワーク

 フットワークも俊敏で、対戦した多くのプレーヤーが彼の足の速さを称賛する。事実、世界での一般的な評価としては「非常にスピードが速いプレーヤー」となっている。守備局面においては予測能力の高さが光り、それが武器である回り込みフォアの強打や巧みな判断力を生み出している。この読みの良さがあるからこそ、すべてのショットに余裕をもって入ることができ、チャンスを逃さない守から攻への素早い切り替えが可能になるのである。速い展開でネットに詰めてきた相手に対しては、両サイドともに正確なパッシングショットで抜くことも、読みを完全に外して計ったように絶妙なトップスピンロブで抜いていくこともでき、ディフェンス能力にも穴はない。

真骨頂は“間”の支配力

 彼のテニスでは、ライジングで叩き返すリターンや強烈なフォア、自在性の高いバックなどの強打系統が印象には残りやすいが、それらも彼がポイントを組み立て、相手を追い込むための道具の1つにすぎない。むしろその真骨頂は“間”の支配力であり、相手のリズムと呼吸を読んで外したり、逆に押し込んでいくタイミングを見極める感覚の鋭さにある。近年彼がより上のステージを目指す過程には、ギルバートがコーチの時代に守備をしっかりと固め、確率高く勝てる土台を作り上げたうえで、そこに彼らしい独特のアイディアも絡めた速射砲型の攻撃的な展開を上乗せしていく形を模索し、それが14年に実を結ぶ形となり大躍進を生んだ。持ち前の豊富な感性や適応能力の高さと基礎を固めた堅実なプレーとのベストバランスを確立することができてくれば、一時代を築く可能性も大いにあるだろう。

接戦を計算に入れた準備がファイナルセット勝率の高さの秘訣

 メンタル面の強さもトップレベルで、ファイナルセットに突入した試合の勝率が歴代トップに位置するように、ロングマッチには滅法強い。元々比較的スロースタートなタイプであり、最近では格下相手が序盤から捨て身の攻撃を仕掛けてくるため、先行を許す傾向にさらに拍車がかかっているが、初めからフルセットを計算に入れ、試合の中で徐々に相手を分析していき、勝負所で意図してギアを上げることで、最終的に勝利に漕ぎつける強かさを持つ。ビッグ4のような格上相手でも決して萎縮することはなく、また瀬戸際まで追い込まれても最後まで試合を捨てない姿勢によって、これまでに幾度となく大舞台でのアップセットや大逆転勝ちを演じている。課題があるとすれば、勝つために自分がすべきプレーを見失ったまま最後まで立て直すことができずに敗戦を喫することが時折ある点か。1つのショット、1つの戦術が機能せずとも、彼ほどの多彩さがあれば本来焦る必要はないはずだが、それにこだわりすぎて相手との勝負を二の次にしてしまうところがあり、今後考え方を見直す余地はある。また、流れが自分側に来ている中で相手を引き離そうとした時にプレーが雑になって不用意にカムバックを許す傾向もある。加えて、もう少し相手に対して弱みを見せるような振る舞いを減らしたいのも事実。控えめな性格上、雄叫びや派手なガッツポーズで観客を巻き込みながら相手を威圧していくようなことが少ないのはある程度仕方ないとしても、そうであれば治療のためのタイムアウトも含めてネガティブな感情を曝け出すのは極力避けていきたい。

途中棄権の多さに象徴されるフィジカル面の課題

 技術的な部分ではすでにほとんど穴のないところまで成長したが、小さな怪我やそれによる途中棄権が多い点など、フィジカル面ではまだまだ課題が多い。ベストコンディションであればどんな相手とも互角以上に戦える実力を持つ一方で、大きな大会では勝ち上がる段階で体力を擦り減らしてしまい、いざトップとの戦いで余力の差が出ての敗退がやや目立つ。また、いいプレーをした翌週の大会で疲れを引きずるとパフォーマンスが落ちるのは仕方のないことではあるが、トップの風格を出すためには負け方も大事になってくる。今後は上のラウンドでも最高のパフォーマンスが出せるように、体力向上と楽な勝ち方を身につけたいところだ。

可能性は無限大、結果は上下動の激しい自信の目盛り次第

 最近のテニスは相対的にフィジカル要素の重要性が増したこともあり、昔ほど個性的なプレーが見られなくなったが、その中にあって錦織のプレーは見ていて非常に面白いと海外でも注目を集めている。実際、プレーの引き出しの多さは世界でも五本の指に入る。経験を積みつつ1つ1つのショットの完成度をより高めれば、トップ5定着が現実的な目標とさえいえ、その先グランドスラム優勝も決して夢ではない。このところメンタル・フィジカルの不安が複合的に重なった時、試合中に突然プレーが失速、乱調を来し、修正が利かなくなるシーンが頻繁に起きている。持続しない集中力がミスの頻発を生み、それがさらに自信の欠如へと発展してスイングスピードが落ち、回転が不十分でベースラインを大きく越えたり、溜めを作れず気ばかり焦って腕を振るためフレームショットになる。そして今度は確実にコートに収めようとするとスピン過多になり、相手の攻撃を誘発するという悪循環はどこかで断ち切らなくてはならない。そのために必要なのは全身から溢れるエネルギー量だが、戦術がうまくいかない時に次善の作戦を捻り出す思考力、忍耐力や気力も薄れているように映る。試合ごとに細かい部分で技術的な綻びは生じているが、全体として年々ポイントパターンは増えているだけに、今は愚直にボールを拾いクレバーな組み立てや駆け引きで勝ち上がるという原点、すなわちWinning Uglyへ回帰するのも1つの手だろう。トップ4を経験したプレーヤーであるにもかかわらず、いまだに自信のアップダウンがあるのが彼の特徴で、外から見ればいっそ過信してしまえばとも思う時もあるが彼に限ってそれはあり得ない。人格的に“超”の付くリアリスト、おまけに繊細で慎重なメンタリティの持ち主であるために、自信の目盛りは上下動を繰り返す。怪我による長期離脱を強いられた17年はその目盛りが底に近づいたが、18年に復帰して以降は細かな不安要素や自信の揺れ動きはあるものの全体基調としては右肩上がりにトップフォームに戻してきている。戦略家のダンテ・ボッティーニに加えて13年暮れより陣営に迎えたマイケル・チャンとの関係は自他ともにその相性の良さを認めており、彼のレベルを頂点へと導いてくれそうだ。ファンとしては故障の多さが心配だが、無限大の可能性を秘めた錦織圭の今後の更なる躍進に期待したい。