Alexander Zverev
生年月日: 1997.04.20
国籍: ドイツ
出身地: ハンブルク(ドイツ)
身長: 198cm
体重: 90kg
利き手: 右
ウェア: adidas
シューズ: adidas
ラケット: HEAD Gravity Pro
プロ転向: 2013
コーチ: Sergi Bruguera, Alexander Zverev Sr.
粘り強いフットワークに支えられた堅牢な守備力と、サーブを筆頭とする長身プレーヤーならではの豪快な一発の魅力を兼備した、将来のグランドスラム優勝が確実視されるドイツの若手スタープレーヤー。基本的なプレースタイルはディフェンス力に優れたカウンター系のストローカータイプで、2m近い大柄なプレーヤーでありながら機動力とボディバランスの良さを持ち味とする点では、大型化の進む近年のツアーにおいても稀有な存在といえ、頂点を目指すうえでの大きなアドバンテージになっている。さらには若手世代の象徴といえるアタッキングエリアの広いテニスの代表格でもあり、コート後方からでも平然とエースが奪えるパワーも見どころだ。大柄なプレーヤーにありがちな力に頼った打ち方ではなく、基本を守った忠実なフォームを会得しているのも特徴で、ショットに関してはすでにほとんど穴は見当たらない。14年に当時17歳にして故郷ハンブルク(500)でベスト4に入り脚光を浴びたが、その後も着実に成長を遂げて15年にはATP新人賞、16年にはトップ30入りに加えて芝のハレでフェデラーを破ったり、サンクトペテルブルク(250)では決勝で当時ツアー決勝戦11連勝中だったバブリンカを下して文句なしの初タイトルを飾った。そして20歳になったばかりの17年ローマ(1000)では決勝でジョコビッチを圧倒するなど鮮烈なマスターズ初優勝を成し遂げたことで、もはや「若手のホープ」という域を抜け出し、一躍トップを脅かす存在となった。18年にはシーズン最終戦のATPファイナルズで王者に輝いており、浮き沈みはありながらも毎年新たな実績を積み重ねている。このような結果を伴った加速度的な成長はまさしく新時代の幕開けを予感させる。肝心要のグランドスラムで思うような結果が出ないことから5セットマッチの弱さが指摘され、また本人の中に焦りも感じられるが、不動のメンタリティを叩き込むことに定評のあるレンドルに短期間とはいえ師事したことを、「勝ち方」を学び得るきっかけにしたい。ドイツ育ちでクレーコートへの適性も高い一方、より得意とするのはスピーディーな真っ向勝負の打ち合いが繰り広げられるハードコートの方であり、攻撃力に磨きがかかってくるであろう今後は芝も含めた高速系サーフェスでのビッグタイトルも期待できる。兄ミーシャもプロテニスプレーヤーで、現在までに10年以上のツアー経験を持つ兄の存在は弟「サーシャ」にとって心強いはずだ。人柄的には生粋の末っ子タイプといったところで、練習コートでの甘え上手な振る舞いや嫌みのないジョークに満ちたインタビューは、「可憐な王子様」然としたルックスもあいまって多くのファンを惹きつけてやまない。
大きな遠心力で飛ばす破壊力抜群のフォアハンド
長い腕をしなやかに使って大きな遠心力とラケットヘッドの走りでボールにスピードを与えるフォアハンドを持ち、強打の破壊力はツアーでもトップクラスを誇る。球種の変化によってメリハリのある攻守の切り替えを実現できており、後方でのラリーは自らが動かされている分、打点を引きつけたところから軌道を上げたトップスピンで対応し、優位な体勢になれば高い打点を取って一気にウィナーを叩き込む。ショットのスピードは相当なものがあるが、その中でも回転量をコントロールできるのが強みで、同じ攻めのショットでもクロス方向には重いスピンで角度をつけ、ストレートや回り込み逆クロスにはフラットに引いていく。特にクロスに引っ張る強打は激しいラリー戦の中、連続で何本打ってもコーナーの同じスポットにコントロールできるほど正確だ。ただし、外側から巻き込むようなスイングがベースにある分、逆クロス方向へのコントロールがあまり得意でなかったり、下からボールを擦りすぎてスピン過多により失速したりと、クオリティにムラがあるのがフォアの弱点であり、好不調の兆候が最もわかりやすく表れる点がバロメーターと言われる所以である。威力の面ではインパクトの際にやや上体が横に流れる癖があるため、ボールに体重が乗らず弾かれたような力のない返球になることも多く、精度の面では逆クロス系のショットが右側に切れていくミスとスライスに対してラケットにうまくボールが乗らず薄い当たりでネットに掛けるミスが目立つ。それでもここ最近は弱点克服の取り組みが結実したのか、明らかに要領を掴んだかのように滑ってくるスライスの威力を利用してウィナーに転換するシーンが増えている。
高い打点から突き刺すバックハンドは最大の武器
バックハンドはボールの鋭さはフォアにも劣らず、さらにミスを出す気配がない安定性や、深く肩を入れる上半身の捻りとラケットを立てて構えるフォームの特徴によるコースの読みにくさが際立つショットで、壁のようなディフェンスからの展開を活かしたい彼のテニスにあって大きな武器となっている。軌道はそれほど高く上げずにネット上低いところを通していくにもかかわらず精度が高いのは、スタンスを問わずボールに入る足運びが常に一定であることに加え、華奢に見えて実は強靭な下半身あってこそであり、とりわけオープンスタンスでの返球時に左膝が外側に逃げずに踏ん張れるあたりはジョコビッチを彷彿とさせ、実際に厳しい角度をつけられてもそれ以上の角度で返球したり、ストレートのコーナーへ切り返したりと、相手に対して十分な脅威を与えることができている。一方、前に踏み込んで高い打点からクロスの驚異的なアングルに突き刺す強烈なフラットショットを駆使した波状攻撃や、思い切りの良い2ndリターンでも見られるコートの外側からカウンター気味に繰り出すダウンザラインなど、一撃の切れ味も抜群だ。また、コート中央に返ってきたボールに対して他の多くのプレーヤーと異なり返球の早さを重視してバックで対応する特徴があり、これを逆クロス方向に流すショットが決まりだすと非常にリズムが生まれる。フォア同様に緩いスライスを集められることがこのところ多く、飛んでくるボールの威力を利用させない戦術への対抗策に苦心している。上位陣は様々な球種を駆使してズベレフのストロークをかき乱そうとする傾向にあり、スライスもその一手だが、それは中高速のペースが一定する弾丸ラリーの土俵における彼の強さを認め、実際にボールの質に脅威を感じているからにほかならない。ゆえに彼としてはさらにその上を行く形で、変化をつける余裕を与えないために、先制攻撃を仕掛けて自分のペースで戦う頻度を高める意図で、攻めの展開をより早くしている。ただし、正面からの打ち合いこそ彼の真骨頂であることを考えると、力を抑えてまでコース変更していく必要はない。実際にクロスからストレートへ流すショットが大きくロングするケースが多く、あくまで先に仕掛けて主導権を握ることを戦略のテーマに据えるべきだろう。
圧倒的な脚力を活かした守備範囲の広さ
ストローク全体を通して感じるのは何といっても動きの良さで、長身の割にはという色眼鏡を外しても圧倒的な脚力を活かした俊敏さや戻りの速さは非常に高いレベルにある。そして球際の強さで跳ね返すショットの深さは驚異的で、攻守一体のテニスを築き上げている。ベースラインから下がった位置でボールを打ち抜く守備的なスタイルが元々強さのベースにあるため、膝をしっかりと折ってショットを打つことに慣れており、長身でありながら低い打点を苦にしないというのが大きな強み。したがって、スピードで振り切ろうとする相手には粘り強さを発揮するが、逆にはじめから長いラリー勝負を意図し、スピンやスライスを駆使して繋いでくるタイプの相手にやや苦手意識があるのか、ショットの精度に狂いが生じミスが増える傾向にある。また、重要な局面で大事に行きすぎてラケットの振り抜きが悪くなることがあり、メンタル的にもアグレッシブさの持続が課題となっている。そこでフィジカルの向上と並行して球威アップを図り、ネットプレーも増やしながら徐々に攻撃的なスタイルを確立しようと模索しているのが現段階で、試合を追うごとに成長を感じさせる。
ラケットワークに危うさの残るボレー
ネットプレーは元来あまり得意ではなく、アプローチを打ってネットに詰める動きやボレーのラケットワークには明らかに危うさが感じられる。それでも積極的にネットを取って試合の中で習得しようとする意欲は高く評価でき、年々ストローク戦からネットプレーへの正しい移行、ポイントを奪うに十分な丁寧なボレーを自分のものにしている。また彼の場合、最も身近なところに兄のミーシャというボレーの手本があり、ダブルスでペアを組むことも多いだけに、そこから学び技術を盗むことにも期待したい。
角度とスピードが突出した強気なサーブ
高い打点から打ち下ろす角度が相手を苦しめるサーブも持ち味で、220km/hを超えるフラットサーブのパワーで押し込んでいく。また、リターン側にとってこの上なく厄介なのがとりわけデュースサイドでワイドに切れていく高速のスライスサーブ。長身ならではの縦横の角度がエースの量産を生み出し、2ndでも強気の配球で容易な返球を許さない。スピン系の球種で相手のボディを狙うサーブも含めて、2ndは深さとスピードが際立っている。1stの確率も概して高く、ラインを捉える強烈なサーブが安定して入ってくる試合で彼からブレークを奪うのは困難を極める。ただし、続けて入らなくなる時間帯があり、プレッシャーのかかる局面でのダブルフォルトの多さも目に付く。特に19年頃は1試合に二桁のダブルフォルトを記録することが日常茶飯事となり、自信を喪失してテニス全体も極度の不調に陥るという悪循環に嵌ってしまった。明らかにそれは本来の姿ではなく、時が解決してくれるのを待つ手もあるが、元々ネットに掛けるフォルトが多かったことからも、いま一度フォーム等を見直してしっかりとスピンをかける取り組みも必要かもしれない。いずれにしてもさらに盤石なサービスゲームを手に入れるには総合的なレベルアップが必要だ。
反応の速さとリーチの長さが融合したリターン
リターンの強さも彼のテニスにおける重要な要素の1つで、サーブよりもリターンで勝ち星を拾っている印象の試合も多くある。大柄な体格には似つかわしくない反応の速さと、逆に長身ならではともいえるリーチの長さが融合しているのが彼のリターンの特徴で、厳しいコースを突くサーブでも非常にクリーンに返球できる。このあたりもズベレフが過去にはいなかった新種のプレーヤーであることの証だ。
強みにも弱みにもなる勝ち気の強さ
非常に気性は荒く、ラケット破壊などの好ましくない行為も頻繁にあるが、それはメンタルの弱さというよりも並外れた勝ち気の強さが原因で、怒りの感情が外に出てはいても試合を諦めることは基本的にないのが彼の特徴である。ポイントを取って雄叫びを上げるといったポジティブな面は維持しつつ、もう少し冷静に試合を運べるよう徐々に落ち着きを身につけたいところだ。また、プレー選択に迷いが生じ考え込む雰囲気が出始めると、シンプルに強い打球を打ち続けるという彼の最大の強みが薄れるため、彼に限っては戦術は二の次にしても一球入魂の姿勢を大事にしてほしい。
戦術的思考が身につけば鬼に金棒
テニス一家の生まれでジュニア時代の実績なども考えればプレッシャーも大きいはずだが、プロ転向後のこれまでのキャリアは順調の一言。線の細さが否めなかったフィジカル面もトレーナーと共に中長期的に筋力を増やすメニューに取り組んできたことで、ツアーでも打ち負けないパワーや持久力を徐々に積み上げている。トップへの駆け上がりが予想以上にハイスピードかつセンセーショナルだっただけに、スライス多用をはじめとしたズベレフ対策の研究も上位陣の間では着々と進んでおり、最近は自分のテニスをさせてもらえない状況で戦い方がちぐはぐになる脆さも覗かせている。フィジカルの強化には引き続き重点を置くとともに、種々の技術的課題が改善され、さらには相手の弱点を突いたり、武器に対して柔軟に対応するなど、戦術的な思考を身につけることができればまさに鬼に金棒。精度が犠牲にならないバックの強打の迫力はツアーNo.1、サーブとフォアの出来が結果の成否を左右するというタイプだが、そのサーブとフォアが乱れない大会では誰も敵わない圧倒的な強さを誇る。21年に開催された東京五輪での金メダル獲得はまさにその好例であった。ATPでは16年より“NextGen”と銘打って次世代の奮起に大きな期待をかけたが、その嚆矢となった彼とキリオスはやはり存在感において頭一つ抜けていると言ってよく、長くテニス界を牽引するビッグ4も彼らとの対戦では危機感にも似た緊張感と、それゆえの本気度をもって挑戦を受けている雰囲気がひしひしと伝わっていた。ビッグ4も全員が30代に突入したが、ズベレフにはその後の時代を担うスターとしてはもちろんだが、彼らの衰退を待つまでもなく自ら壁を越えて引導を渡すような姿を見せてほしい。同世代の中で切磋琢磨しながら日々階段を駆け上がる彼の将来は必見だ。