Jannik Sinner
生年月日: 2001.08.16
国籍: イタリア
出身地: サン・カンディド(イタリア)
身長: 188cm
体重: 76kg
利き手: 右
ウェア: NIKE
シューズ: NIKE
ラケット: HEAD Speed MP
プロ転向: 2018
コーチ: Simone Vagnozzi, Darren Cahill
長身痩躯と長い四肢を非常にしなやかに使う天性の身体能力とボールをクリーンに捉えて精緻に打ち分ける技術力を基盤に攻守一体のスピード感溢れるストローク戦を展開して相手を追い詰める、10代にして完成の域に限りなく近いテニスに到達したイタリアの超新星プレーヤー。プロ転向1年目の18年には当然の如くキャリアの助走段階にあった彼だが、19年前半にチャレンジャーレベルで結果を残し後半にツアーレベルに参戦するといきなり爪痕を残す活躍を披露し、そして8選手中最年少での出場となった年末のNext Gen ATPファイナルズを衝撃的な勢いで優勝して脚光を浴びた。その実力を裏書きするかのように20年にはツアーに定着し、全仏でゴファンにA.ズベレフとトップ10級の相手を見事に撃破して初出場にしてベスト8進出を果たした。21年に入っても成長は止まず、マイアミ(1000)の準優勝やワシントン(500)の優勝など実績を積み上げ、早くもトップ10まで上り詰めている。ボールを打つ低い姿勢や球際での強烈な踏ん張り、また滑らかかつ能動的なラリー展開を持ち味としスピード勝負には滅法強い特徴を持つため、インドアなどの速いハードコートで最も強さを発揮するが、一方で既に見られるクレーでの上位進出が彼の総合力の高さや弱点の少なさを存分に証明していると言っていい。
洗練された動きで鋭いボールを打ち続けるストローク
両サイドから球持ちの長さを感じさせる鋭いショットを絶え間なく打ち続けるストロークはシナーの最大の魅力である。しっかりと膝を折ることで下半身を安定させているのが特徴で、跳び上がって躍動感とともにパワーを出すというよりは、頭の高さが動かないことで安定性を確保するという強みを残しつつ、地面から貰う力を打球時の前後の体重移動を使って効率的にボールに伝えていく。この柔軟な身のこなしと打球センスがオープンスタンスからの質の高いカウンターショットや比較的高いポジショニングでの高速ラリーを可能にしており、防戦に立った相手に形勢回復の余地を与えずに畳み掛ける強みとして表れている。若手にありがちなドタバタとした印象が彼には全くなく、その洗練された動きはNextGenの中で異彩を放つ。決して技術的に不器用なプレーヤーではないが技や緩急で勝負するタイプでもなく、絶え間なく速いテンポでハードヒットを浴びせて相手を悶えさせるのが彼の強みであるため、その展開をうまく躱されると様相が怪しくなる。強いて課題を指摘するならばこのあたりになってくるか。
凄まじいボールの伸びで相手を押し込むフォアハンド
フォアハンドはコンパクトなテイクバックに対して巻き込むようにしなりを効かせた大きなフォロースルーが目を引く。球筋がフラット系のショットには凄まじい伸びがあり、加えてとにかくプレースメントが深いため、相手はしばしば万全なスイングすらままならないほどに食い込まれる。特に好調時にはそれが試合を通して継続するのが脅威だ。クロスの打ち合いからストレートに切り替えて奪うウィナーはトレードマークの1つで、一時代前にフォアの爆発力で鳴らしたベルディヒを彷彿とさせる随一の美しさを誇る。決定打という意味では浅い返球に対してコートの内側に切れ込んで一撃を狙う嗅覚が光り、コースが甘いとはいえ威力のあるボールに対して衝突が起きそうな場面でも的確なフットワークを中心に早い準備によって逆クロスのショートアングルへ打ち込むパターンも多い。また、逆クロスは攻撃の起点としても機能し、次のショットをもう一度回り込みフォアで待ち構えて今度はストレートに引っ張り、返球されれば最後はネットで仕留めるという重層的な形も得意にしている。加えて、フォア側に追い出された際に長いリーチを活かしてストレートに目にも留まらぬ速さで切り返すカウンターウィナーも印象に焼き付く。基本的にはテンポの速いラリーを好むが、一方で力を溜めて高い打点から打ち下ろしていく強打の能力も高く、ループ系の多用で守りを固められても突破するだけのパワフルさも持ち合わせている。課題は打ち過ぎてミスを重ねることが時折あることで、ラインを割る幅が大きいわけではないのだが、僅かにボールが抜けてロングするミスが続きアンフォーストエラーの数が嵩み始めると危険信号だ。
トップクラスの回転量と球速を両立するバックハンド
バックハンドは強打力、対応力、正確性においてフォアに優るとも劣らない完成度を誇り、一般的には彼の最大の武器と言われる。男子には珍しく後ろ側の左腕の肘を直角近くまで曲げてボールを捉えるのがフォーム上の特徴で、その点も含めて非常にスムーズにラケットヘッドを回せることが、難しい処理を苦にしない安定性あるいは両手打ちではトップクラスの回転量とショットスピードの両立を生み出す要因だろう。深いショットで相手を押し込んだり、相手の警戒が薄れたことを察知すると、その一球を逃すことなく即座にダウンザラインへウィナーを繰り出す。あらゆるタイミングで滑らかにコース変更できるのが突出した点であり、開脚で体を一気に止めボールの威力をブロックして反撃するカウンターショットにも活かされている。腰より下で捉えることが彼にとってベストな打点であり、常に正しい位置に素早く体を置く予測力の高さが強みではあるが、逆にライジングのタイミングを逸して胸あたりで捕らされた時のバックは少し精度が落ちる傾向が見てとれる。
水準以上のネットプレーも備える
流れるような自然なテニスにあってネットプレーもコースの読み、反応の速さ、ボレーのタッチのいずれも十分なクオリティを備える。ただし、スマッシュの不安定さが解消されていないのが弱点であり、攻撃性の強いプレースタイルだからこそ優先的に取り組みたい。体力向上の名目を兼ねてダブルスに積極的に出場するのもありだろう。
戦術的な試行錯誤の途上にある伸びしろ十分なサーブ
サーブもまだまだ進化途上で伸びしろの大きな要素だ。トスの高さに負うフォームのクイック度合い、フラット系と回転系の割合、エース狙いか3球目以降の組み立て重視か、このあたりの試行錯誤を続けている段階である。数字を見ても現時点で武器と呼べるレベルには至っていないが、主に戦術的な調整であり、200km/hを超えるフラットサーブや大きく跳ね上がるキックサーブを習得していることから技術的な綻びはほとんどない。噛み合ってくればそう簡単にはブレークを許さないサービスゲームを構築できるはずだ。
数年以内のビッグタイトル獲得も夢ではない逸材
近年著しい興隆の様相を見せるイタリアテニスの代表格として国内はもちろん世界が注目する逸材こそシナーである。年齢に似合わない落ち着いた雰囲気、良い意味で派手ではない性格、テニスに対する姿勢などを見ると、大きな期待の反動が生じる懸念も必要なさそう。最近ではプレー面での冷静沈着ぶりは維持しながらも、ポイントを取るごとに拳を突き上げたり雄叫びを上げたりと努めて闘志を表に出すエネルギッシュな姿も好感を与えている。依然として頂点には偉大なベテラン勢が君臨するATPツアーではあるが、そのすぐ下は世代を問わず混戦模様。やや故障が目立つ懸念はあるが、経験を重ねながら同時にフィジカルとスタミナの向上を図っていけば、数年以内のビッグタイトル獲得も決して夢ではない。