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20200215102533

Matteo Berrettini

マッテオ・ベレッティーニ

 生年月日: 1996.04.12 
 国籍:   イタリア 
 出身地:  ローマ(イタリア)
 身長:   196cm 
 体重:   95kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  Hugo Boss 
 シューズ: asics 
 ラケット: HEAD Extreme MP 
 プロ転向: 2015 
 コーチ:  Vincenzo Santopadre,
       Marco Gulisano, Umberto Rianna 

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 見るからに恵まれた分厚い肉体を活かしたパワフルなサーブ、一撃の切れ味と柔らかいタッチで操る展開力を兼ね備えるストロークを武器とする成長著しいイタリア期待の大型プレーヤー。ATPにおいてNextGenキャンペーンが始まった頃の世代であるが、ベレッティーニ自身はそれに少し遅れる形で目覚ましい活躍が見られ始め本格化を果たしている。狼煙を上げたのは大会を通して圧倒的な力を発揮してツアー初優勝を飾った18年グシュタード(250)だった。以降、異なるサーフェスで着々とタイトルを積み重ねることに成功し、19年には全米での鮮烈なベスト4、ATPファイナルズ初出場など輝かしい戦績を収め、同世代で少しブレイクが遅れた分を取り戻すかのように存在感を示している。クイーンズ(500)優勝で勢いをつけると、ウィンブルドンではイタリア人男子として45年ぶりのグランドスラムシングルスの決勝の舞台に立ち準優勝に輝いた21年芝シーズンの活躍はもう一段階のスケールアップを印象づけ、トップ10の地位を確固たるものにした感がある。前面に出てくるのはパワーとスピードの豪快さであるが、その実はテクニックを駆使した緻密な戦術で勝負できるタイプであり、イタリア出身であることからもクレーコートに強さを発揮するが、持ち前のスライスがその効果を増す芝にも強く、また本人はハードコートを好きなサーフェスに挙げる。環境を問わず年間を通じて結果を残せるプレーヤーといえそうだ。元々の彼はすべてのプレーをそつなくこなすことがむしろ印象に残るプレーヤーであったところ、フィジカル強化もあいまってショットに破壊力が後から加わってきたという進化の経緯があり、これはプレースタイルに多少の違いはあれデルポトロやA.ズベレフのブレイク過程にも共通しており、大型プレーヤーが飛躍する王道と言ってもいい。

好調時には対応不能な強烈サーブ

 大きく振りかぶるようなモーションが196cmの長身をさらに大きく見せるサーブは彼の最大の武器である。最速で220km/hを超える、体重が前方へよく乗ったフラットサーブもさることながら、バウンド後に右方向へ高く弾ませるキックサーブの質が非常に高いのが大きな強み。彼が好調な時は特にサーブが対応不可能な凶器並みの武器と化す傾向があり、大会中に1度のブレークも許さないといったこともあった。その意味では十分にビッグサーバーと称して差し支えないだろう。

止めようもないパワーと柔らかいテクニックが強さの両輪を成す

 ベースラインからのストロークは硬軟を織り交ぜて展開を組み立てるのが彼のスタイル。その中で球威のあるフォアハンドの強打を深く打って押し込み、今度はサービスライン付近の浅い位置を狙う鋭いアングルショットで相手を引き離しポイントに結び付ける。フォアは比較的小さめのテイクバックだが、インパクト直前からフォロースルーにかけての振りの加速が突出しているのが特徴で、予測が当たったり相手の返球が甘いことで、動かずにしっかりと構えて腰より高い打点で打つショットにおいては止めようもない爆発的なショットを浴びせる。また、スイングがコンパクトな分だけ反撃能力も高く、追い込まれたラリーでも最後の一本がフォア側に来れば一発逆転のカウンターショットを高確率で繰り出す。バックハンドはスピンを打つ際に足運びやフォームにやや硬さが見られ、不用意に浅く弱い返球になってしまうことがあり弱点の1つだ。しかし、彼のバックにはそれを補って余りあるスライスがある。当たりが厚くアンダースピンも効いたこのショットは、攻守に彼のテニスを支えるとともに高い技術力の証である。強く切りつけてコートを滑らせる攻撃的なスライスの威力、また咄嗟にラケット面を合わせるブロック系のスライスが相手コート奥までしっかりと距離が出ることで守備も安定。また、同じ構えから浅く落とすドロップショットも有効に機能する。ラリー中にこれを選択しネット勝負に持ち込む形を得意とし、決してパワーだけでないところを十分に相手に意識させる。ただし、決め球としてドロップを使いすぎることも多く、状況判断力は改善の余地がある。

まだ成熟前もハマった時の強さはすでにトップクラス

 フットワークに不安定な部分があったり、プレー全体に粗さが残っていたり、プレーヤーとしてはまだまだ成熟前といったところだが、ハマった時の爆発力は上位陣にとっても要警戒で、各プレーが洗練されてくるとトップ10定着も狙える潜在能力の持ち主と言ってよい。ほとんどのプレーヤーは彼との対戦ではサーブとフォアの凄まじい球威に慣れることで精一杯なのだが、その対抗手段としてポジションを下げたり緩めの球を使ってしまうと、今度は多彩なテクニックで翻弄されてしまうのが非常に厄介な点。言い換えれば、あらゆるパターンに警戒心を払う必要性を相手に植え付けられる点こそベレッティーニの強さである。良い意味で大柄さを感じさせないオールラウンダーとしてツアーの主役の仲間入りは間違いない。

 

David Goffin

ダビド・ゴファン

 生年月日: 1990.12.07 
 国籍:   ベルギー 
 出身地:  ロクール(ベルギー)
 身長:   180cm 
 体重:   70kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  asics 
 シューズ: asics 
 ラケット: Wilson Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2009 
 コーチ:  Germain Gigounon 

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 スピード感溢れる展開力と堅いディフェンス力を武器に、果敢にオープンコートを突いて相手を振り切る攻撃的なストロークを持ち味とするベルギーのオールラウンダー。ラッキールーザーとして初のグランドスラム本戦出場権を得た12年全仏で4回戦進出を果たし、憧れのフェデラーからセットを先取したことで一躍脚光を浴び、世界にその名を知らしめた。翌年は左手首の怪我に苦しみ、一度ランキングを大幅に落としたものの、14年後半にチャレンジャーレベルでの3週連続優勝に続き、キッツビュール(250)でツアー初タイトルを獲得するなど驚異の25連勝を記録し、ATPのカムバック賞を受賞するとともに、本格的にトップの仲間入りを果たした。また、15年にはデビスカップで当初強国とは目されていなかったベルギーをエースとして牽引し決勝へと導く活躍を見せた。そこで得た自信と経験が以降の躍進の原動力になったことは間違いなく、特にモンテカルロ(1000)でジョコビッチに土をつけてベスト4進出、ATPファイナルズナダルフェデラーを破ってファイナリストに輝いた17年の活躍はツアータイトル2つという数字以上の価値があり、まさにビッグ4を脅かす存在の1人として期待度は上昇している。また、16年にはローマの3回戦で終始ゾーン状態を維持した彼がベルディヒを圧巻のダブルベーグルで下して話題になったこともあった。クレーコートでのイメージが強く、実際育った環境の影響もありクレーで強いが、ハードコートでも戦闘力が落ちるタイプではなく、むしろ展開スピードで勝負するプレースタイルから判断する限り、ハードの方が適性は高いようにも見える。運動神経の良さが生み出す動きの速さと、弱点のない技術力で相手の力を吸収しつつコートの奥行きを駆使して攻守を切り替える端正なテニスは、見ていて面白いと評判も高く、日本の錦織とプレーの感性が似通っているという声も多い。

クリーンにボールを打ち抜く打球センスが光るストローク

 フォアハンド、バックハンド両サイドから遜色なくクリーンに鋭くボールを打ち抜くことのできるストロークは彼の最大の武器である。円を描くようなテイクバックとインパクト後の手首の返しが特徴的なフォアは、ラケットヘッドに引っ掛けるような技術がベースにある分、クロスに放つショットが常にアングルを突いて相手を走らせることができるのが強み。どんどん外側に切れていく軌道は対戦相手に対して追いつけそうで追いつけないという感覚に陥れることができる。ボールのスピードは平均的なのだが、テンポの速さとの錯覚で相手はタイミングが取りづらく、対抗策として一歩前に踏み込んで打てるか、あるいは待ち切れるかどうかが問われているといえる。比較的スピードの遅いループ気味のスピンボールで打ち合いながら、機を見てフラット系のダウンザラインで一気にペースを上げるパターンを得意としており、一瞬でスイッチを切り替える際の判断、動きのキレ、ショットの軌道の差は見ものだ。ただし、一定以上のパワー・スピード・深さのあるショットに対してはラケットが弾かれて甘いボールを返球してしまう傾向があり、年々改善の兆しは見られるとはいえここが唯一やや非力さを露呈している弱点だ。重さのあるショットでは元々ないため、プレースメントが甘くなると相手にとっては気持ち良く上から叩けるボールとなってしまうのが彼にとっては苦しいところだが、1本目の強打をミスなく返球できるようになれば、自慢の展開力でラリーを支配する形へと持ち込めるはずだ。フォアはグリップが厚い分スライスへの対応にも難があり、持ち上げきれずにネットに掛けるシーンが目立っている。一方、彼自身が最も得意と話すバックは自由自在で、踏み込んでクロスへストレートへと十分な威力でサイドラインに吸い込まれるように美しく決まる。特にダウンザラインへのウィナーは随一の精度を誇り、打点やリズムを狂わせようとスライスを打たれてもその正確性はまったく乱れない。技術的にはボールをしっかりと引き付けた打点から繰り出すため、ハイテンポの中にも一瞬溜めがあり、これにより相手の足を完全に止めることができる。また、フォアと異なり攻め込まれても確実にクロスのコーナー付近へ鋭いショットを返し押し戻す力強さを備えている。

一瞬の隙を見逃さずにコートの中に切れ込む秀逸な動き

 各ショットにそれほどパワーがあるわけではなく、一発でエースを狙えるこれといった明確な武器はないが、その分相手のショットのコースを読んで素早く滑らかにポジションに入り、強打の威力を利用してキレのあるカウンターでコートを広く使うことで、攻撃的かつ多彩なゲーム展開を可能にしている。身体の線は細いが、コートを走り回ってもバランスを崩さず、しっかりとコントロールした鋭いボールを連続して打てるのが強みであり、また少しでも余裕があればベースラインの内側に斜めに切れ込んで、早いタイミングで次々とストレートへ打ち込んでいく度胸満点の強気なショット選択が大きな特徴であり、好調時のストロークフェデラーと肩を並べられるほどのタイミングの早さがある。ストローク戦でのポイントとして、ベースラインから大きく下げられる状況では彼の良さは出にくく、一球の甘いボールでコートの中に入ってプレーできる態勢を常に整えることが優位性を確保する鍵となっている。また、高速ペースのラリーには強い一方、自ら打たされるような対戦ではミスを重ねて敗れることも少なくない。豪快さで勝負するタイプではないだけに、全体に精度を向上させてミスの連発を避けるとともに、さらにその先ラリー中のすべてのショットが厳しいコースに入るというところまで磨き上げていきたい。

判断は良いが技術には改善の余地があるネットプレー

 ストロークで優位に立ってネットプレーで仕留める形も彼の得意とするところであり、ストローク戦で逆を突いて相手がバランスを崩したその隙を見逃さず、流れるような動きで一気に縦に詰めてボレーというパターンが多い。逆にサービスライン付近のボールの処理からネットにつく際のアプローチショットの精度には改善の余地があり、特にフォアは持ち上げるスイングにやや硬さが出る部分を克服したい。また、前に詰めるスピードやタイミングは良いが、ボレーそのものの技術力やコースの判断力に未熟さが残っているのが玉に瑕。彼のネットプレーは回転系のボレーを目の前に落とす形がほとんどを占める。もちろんドロップボレーはどんなに読まれていても相手の届かないコースにコントロールできれば問題はなく、実際極めて繊細なタッチの感覚を持っているとはいえ、構えの時点でラケットヘッドが下がるフォームは強烈なパッシングの球威に負けるリスクがあり、もう少しシンプルに弾き返すような技術に切り替えても良いだろう。

巧妙なテクニックでコースを読ませないサーブ

 200km/h前後のフラットサーブと鋭く切れるスライスサーブを主な持ち球とするサーブは、ここ最近著しく質が向上し徐々に武器へと進化している。脱力したフォームとゆったりとしたトスアップから放たれるが、実にコースが読みづらく、センター・ワイドともにラインを捉えるコントロールも抜群。特に長身ではなくスピードもさほど速くない中でエースを積み重ねていけるという点では、フェデラー並みの巧妙なテクニックでボールを操っているといえる。とはいえ、トップ10の地位を維持し、さらにもう一段階ステップアップするためには、とりわけ2ndにおいて得意のスライス系とは逆方向に弾む強力なスピンサーブを習得するなどしてサービスキープ力の向上を図ることが必須の強化ポイントとなりそうだ。その意味ではトップに向かう過程は錦織に近い部分があるといえるかもしれない。

相手の思い描く戦術を封じる的確なリターン

 強烈なサーブにも巧みなラケットワークでしっかりと面を合わせて鋭く返球するリターンのうまさは、極めて高いブレーク率を誇る要因となっている。その読みと反応はツアーでもトップクラスで、長身のビッグサーバーや多彩なサーブを持つ上位陣を相手にしてもコンスタントに得意のラリー戦に持ち込む安定感によってサーブの優位性を奪い、加えて要所で強烈なリターンエースを浴びせることで相手に心理面でかなりの圧力をかけていく。中でも光るのはワイドサーブを止める力であり、両サイドともにこのコースを的確に対応することによりサーバーが思い描く戦術を封じ込む。

充実期を迎え覚醒の予感漂う

 女子の元No.1エナンがかつてゴファンを評して「この子がダメならベルギーの男子はしばらくダメ」と話したほどの逸材であることを考えれば、彼のキャリアはここ数年でようやくスタートを切ったというところだろう。16年以降安定した戦績で常にトップ10付近に位置づけてきた事実が証明する通り、テニスの完成度はすでに非常に高く、フィジカルのレベルが上がり、攻守両面でショットの決定力に磨きがかかってくれば、混戦の様相を呈してきているATPツアーなだけに一気の飛躍もあり得る。ツアー決勝6連敗を喫していた頃は勝負弱いところも目についたが、17年後半の充実した戦いぶりで完全にその殻は破ったと言っていいだろう。覚醒の予感も漂っているだけに、今後はとりわけ大舞台でどれだけ突き抜けた結果を残せるかに注目が集まる。

 

Denis Shapovalov

デニス・シャポバロフ

 生年月日: 1999.04.15 
 国籍:   カナダ 
 出身地:  テルアビブ(イスラエル
 身長:   185cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: YONEX EZONE 98 
 プロ転向: 2017 
 コーチ:  Peter Polansky, Mikhail Youzhny 

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 運動神経の良さが前面に出たアクロバティックな身のこなしから、見ていて気持ち良いほどのフルスイングでボールを強くヒットしウィナーを量産する攻撃的かつ華やかなプレースタイルを持ち味とし、近い将来テニス界の頂点を争うようなスタープレーヤーへの大成が期待されるカナダの超新鋭レフティー。16年にウィンブルドンジュニアを制したところから彼のプロキャリアは走り始めたが、シャポバロフの名が一般に知られることになったきっかけは、17年デビスカップ1回戦において試合中に苛立ちからコート外へ打ち出そうとしたボールが主審の目を直撃してしまい失格処分を受けた出来事だった。意図的な行為でないとはいえキャリアに汚点を残しかねない重大な事故であったが、彼はこの悪夢に真摯に向き合い、まさにこの経験を糧にして成熟したプレーヤーへと急成長を遂げ、モントリオール(1000)では自国開催による大声援を背にデルポトロやナダルを撃破して史上最年少(18歳4ヶ月)でマスターズのベスト4を記録し世界に衝撃を与えた。20歳を迎えた19年にはシーズン終盤にテニスの質を劇的に洗練させ、ストックホルム(250)でツアー初優勝、パリ(1000)ではA.ズベレフやフォニーニら強豪を一蹴して決勝に進出、集中開催に変更されたデビスカップでは有力なチームメイトが軒並み故障で欠ける中で単複に大車輪の活躍を見せ、カナダを史上初の準優勝に導いている。チャンスと見るや電光石火の如く守から攻へと切り替え、迷わずどこからでもウィナーを狙っていく積極果敢なスタイルは、クレーよりも芝やハードコートへの適性が高い。また、風に靡く金髪のロングヘア―や少しサイズの大きいキャップのベルトをきつく締めて被るユニークなファッション、18年オフに趣味の一環で制作し公開したラップなどが彼のトレードマークとなっており、テニス以外の部分においてもカリスマ性を感じさせるスケールの大きさが魅力だ。

全身の力を圧倒的な球威に還元する一級品のフォアハンド

 テイクバックを高くとる左手の動きとバランスをとる右手の伸ばし方が非常に美しいフォアハンドは彼の最大の武器で、膝を深く曲げて体を沈み込ませたところから強く地面を蹴ることで下から上へのパワーを、右肩の深い捻りから常に背中側へ鋭く振り切ることで自然と上半身が大胆に回るフォームによって後ろから前へのパワーを、それぞれ最大限ボールに伝えられることが圧倒的な球威を生み出す要因となっている。厚い当たりで捉えるため非常に距離が出せるショットと言うこともでき、あまりボールが浅くなることがない。中でも得意とするのはダウンザラインへのフラット系の強打であり、ツアー屈指のパワー・スピード・伸びを誇るこのショットは一級品と呼ぶにふさわしい。打点を引きつけて打つ能力が高いため、押され気味のラリーからカウンターエースを奪える強みもある。フォアで攻める意識がかなり強い分、回り込みを使う頻度も高く、センスの良さを感じさせるリズミカルなフットワークでうまく体を逃がしながら逆クロスとストレートに打ち分ける展開は相手に脅威を与えている。やや逆クロスが外に切れるミスが目立つ点は今後の課題となってくるだろう。基本的にウィナーかエラーかといった良くも悪くも歯切れの良さを売りにしてはいるが、打ち合いの中で相手を苦しめるのはクロスコートを抉るようなパワフルなアングルショットである。あれだけウィナーを重ねていけるのは相手を外側に追い出してオープンコートを作るこの技術力あってこそといえる。

羽ばたくような鋭い振り抜きで強烈なスピンをかける片手バックハンド

 フォア同様にダイナミックなフォームから繰り出されるシングルバックハンドも魅力に富んだショットである。現代のトレンドともいえる引きつけた打点から、風を切る音が聞こえてきそうなほどのスイングスピードで強烈なスピンをかけるのが技術的な特徴で、フォアほどウィナーは多くないが、クロスに放つショットに大きな角度がつくため、十分に相手を動かせる武器として機能している。また、チャンスボールで魅せる、軽快に高く跳び上がって羽ばたくようにラケットを振り抜くウィナーはまさに一見の価値ありだ。フォームが大きい分、速いラリーではコントロールミスも散見されるが、片手打ちにとって最も重要と言われるフットワークは比較的安定している。素早く半身の構えを作り、しっかりと左足の踏み込みをとって打つ頻度が高いのがその証明であり、浅いボールに対して瞬時にコートの内側に入ってライジングで攻めに転じる感性やその際の巧みなラケット捌きは、少なからずフェデラーに近い印象がある。課題は追い込まれた時のディフェンスショットの質の向上だろう。体重を後ろにかけながらループボールで返球する独特な戦術は有効だが、スライスで凌ぐ場面を増やせれば、守から攻への切り替えの間に展開をイーブンに戻すというステップを挟むことができ、戦い方に安定感が加わるはず。そのスライスの質が低いのが明確な技術的課題で、ラケットを振りすぎるためにカット系の回転が強くかかり、あまり威力のない緩い返球になることが多かったのだが、スライスの名手と言ってもいいユーズニーがコーチに就くと、瞬く間にそのエッセンスを吸収し球質を向上させた。

質の高い数種類のサーブを持つが安定感に難あり

 凄まじい攻撃性を貫く彼のテニスを語るうえではサーブの強力さも外すことができない。決して身長は高くないが、膝のバネと体の反り返りを目一杯使い、210km/hを超えるフラットサーブ、左利き特有の切れるスライスサーブ、高く弾ませるスピンサーブなど、あらゆる球種を駆使して多くのフリーポイントを奪っていく。特に印象的なのはスピンサーブで、跳ね上がりの勢いはレフティーの中ではトップクラスと言っても過言ではなく、リターン側とすればボディー寄りに来たサーブが滑って体に近づいてくるのか、あるいは弾んで体から離れていくのか、回転と軌道を読むのがかなり難しい。ただ、ダブルフォルトの多発が武器になるべきサーブを却って弱点にしてしまっているような面があり、リードした試合の流れをしばしば急転直下させる原因となっている。1stの確率そのものや相手の予測を外す配球術などと並行して改良し、サービスゲームの安定感を手に入れたい。

元々の攻撃センスにスライスの安定感が加わったリターン

 返球確率の低いリターンは徐々に克服していかなければならない弱点だ。ブロックリターンの感覚には優れ、相手の1stにもベースライン付近でコンパクトに合わせて強烈に弾き返す技術をこの若さで習得しているのは非常に明るい材料といえる。しかし、確率重視の意識があまりにも低く、リターンミスで相手が労せずポイントを重ねることを許してしまっている。特に改善したいのは2ndに対するバックのリターンで、跳ね上がるサーブをベースライン上付近で返そうとしているが、これは片手打ちにとって最も難しい高さでの処理になりやすい。早く叩くならもう一歩前、持ち前の回転と球威を活かすなら大きく下がるのがより得策で、その間の非常に中途半端な状態であったが、19年終盤の大活躍はリターンの質改善に負う部分が大きく、強いサーブに対してラケットを差し出してスライス面で確実に返球するリターンが増え、またその精度も高まったことで、苦しんでいた姿がまるで嘘のように安定感を手に入れている。これにより今後は逆に一発はあるがミスの確率も高いフォア側への配球が幾分増えることが予想され、その時の彼の適応力にも注目だ。

積極果敢な前進が清々しいネットプレー

 サーブやストロークからの自然な動きの流れで移行するネットプレーも武器の1つで、積極的なネットアプローチから天性の柔らかいタッチで多くのボレーウィナーを生み出す。並外れたセンスがあるがゆえに自分から難しい処理にしてしまうきらいは少しあったり、あとは流し込むだけのようなフィニッシュボレーで信じられないミスが多発したりと、評価の難しい部分はあるものの、ストロークにおけるプレースメント範囲の広さは驚異的なレベルにあるだけに、ツアーレベルの強烈なパスに慣れ、ネット際でのプレー精度を高めればまさに鬼に金棒。仕掛けの早いテニスの更なる進化に向けて、このネットプレーのレベルをどこまで引き上げられるのか注目だ。

強靭な足腰が飽くなき攻撃意欲を支える

 足腰に相当な強靭さがあることがベースラインから下がっても攻撃力が落ちないという特徴に繋がっており、フィジカルの強さがあるのも大きなアドバンテージである。攻めるために無理をして前に立つ必要もないため、全体にフォームが大きいことが弱点にならないのも強みだろう。デビュー当初は華奢な見た目と裏腹にフィジカルが強いという印象であったが、現在は肩回りや腰回りの大きな筋肉が目を引くほどまで体が大きくなっており、この先トップに長く定着するために引き続き長期的視野を持ってフィジカルの完成に取り組んでほしいところだ。

旺盛な闘争心を絶やさないタフなメンタル

 試合開始の1ポイント目から「Come on!」と雄叫びを上げ、どんなに劣勢でも常に自分を鼓舞しながら観客とともに流れを呼び寄せる旺盛な闘争心も目を引くポイントの1つ。恐ろしいまでの躍動感で試合を支配できるのもメンタルのタフさに与る部分が大きい。苛立ちから集中力を欠くこともまだあるが、基本的に非常に明るく前向きな性格の持ち主で、間違いなく今後さらに世界中のテニスファンの視線を釘付けにしていくことだろう。

末恐ろしいポテンシャルを秘めたスター性抜群の逸材

 テニス史に残る4人の王者が同時に君臨する稀有な時代を見上げて育ってきた末恐ろしいポテンシャルを持つシャポバロフというニュースターの誕生が、いわゆる「NextGen」世代全体の飛躍を後押しする効果も大いに期待できる。タイミングや力加減を大幅に誤るような経験不足からのミスが続く粗削りな部分があったり、その他基本の部分で再徹底が必要な弱点を露呈するなど、課題はまだ山積みである。ほんの僅かな隙を見つけては一撃で仕留める戦い方は、そのためのセンスと能力がある彼だからこそ標榜できる超高難度のテニスであるが、結果を追求するためには特大の爆発力という長所を殺さない程度の「秩序」が必要だ。ファンとしては彼がいつビッグタイトルを獲るのかと気持ちが逸るが、未だ伸びしろ十分な将来のNo.1候補として長い目でその成長を見守りたい。

 

Taylor Fritz

テイラー・フリッツ

 生年月日: 1997.10.28 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  ランチョ・サンタフェアメリカ)
 身長:   196cm 
 体重:   86kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: HEAD Radical MP 
 プロ転向: 2015 
 コーチ:  Michael Russell, Paul Annacone  

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 長身から繰り出す角度のあるビッグサーブとスピンの効いたストローク強打を軸とした攻撃的なプレースタイルで、ATPがプロモーションを打つ“NextGen”世代の筆頭格として世界が期待を寄せるアメリカの新星。WTAツアー元トップ10のキャシー・メイを母に持つテニス一家の生まれで、15年に全米ジュニアを制した後にプロに転向すると、まもなくチャレンジャー大会2週連続優勝を果たし、一気に18歳にしてトップ200に名を連ねる存在になった。年を跨いでもその勢いは衰えず、16年メンフィス(250)ではツアーレベルの出場わずか3大会目にして決勝に進出。日本の錦織に敗れたことで記憶にも残るが、これはアメリカ人プレーヤーとしては88年マイケル・チャン以来の若さでの「スピード出世」となった。その後思い通りに成績が伸びない時期もあったが、プレーの成熟度を増した18年頃から再浮上の兆しが見え始め、19年イーストボーン(250)でツアー初優勝を飾った。決して遅くない時期にトッププレーヤーのレールに乗ることができたと言っていい。また、COVID-19の世界的蔓延を理由に約半年に亘ってツアーが中断した期間の鍛錬によって最も進化したプレーヤーの1人であり、21年にはインディアンウェルズ(1000)でベレッティーニ、シナー、A.ズベレフらトップ10級の相手を連続で撃破してベスト4に入る活躍を見せるなど、勢いに乗り歯車が嚙み合えば一気にグランドスラムすら獲っても不思議ではない雰囲気を醸し出しており、実際に22年には得意のインディアンウェルズ(1000)でマスターズ初制覇を達成している。

角度と独特なタイミングを武器とするサーブ

 高さが生み出す角度とクイックに近いモーションによる独特なタイミングが相手を大いに苦しめるサーブはフリッツの最大の武器である。現状ではトスアップの位置や体の開きの違いから比較的コースを読めるサーブにはなっているが、それにもかかわらずエースを量産できるのはとりわけフラットサーブに関してはある程度読まれても返球を許さない威力とラインを捉える精度があるからといえる。最近はスライスサーブやスピンサーブの質も高めてきており、1stが安定して入っている時間帯は多くのショートポイントでサービスゲームを簡単に片づけることができる。打点の高さや精度のムラなどまだまだ向上の余地は残しており、真のビッグサーバーへの進化を期待したい。

ボールの外側を削るスピン系の球種が強烈なフォアハンド

 ストロークはパワーがあるが、そこに硬さはなくむしろ力に頼らない柔らかいテクニックも備える点で、強力なストローカータイプを相手にしてもしっかりと打ち合える対応能力の高さが強みだ。それでもやはりポイントを奪ううえで武器となるのはライン際に打ち抜く強烈なフォアハンドである。肘を曲げた中で腕をしなやかに使って振り切るフォアは、ボールの外側を削るスピン系の深いショットで応戦するクロスコートの打ち合いに強く、主導権を握れば強打の中でも自分に合ったペースにコントロールしながら徐々に追い込む組み立てを見せ、決め切れる場面をしっかりと判断してステップインしフラット系のウィナーを狙う。通常時からやや打点が詰まり気味にも見えるフォームだが、パワーと長いリーチがある分だけ実際に押し込まれてもコートの外側からでも鋭い返球ができ、時折見せる形勢逆転のカウンターショットも相手に脅威を与える。

爆発力と柔らかさを兼備するバックハンド

 バックハンドは状況に応じて深く突き刺すショットとアングルに落とすショットを使い分けるが、それぞれスイングの際の左手の使い方が非常に巧みで、彼のプレーの柔らかさを象徴する技術となっている。甘いボールに対して正確なフットワークで前に踏み込んでタイミングを早める攻撃を得意とし、特にクロスに叩き込む強打の爆発力はフォアにも引けを取らない。この技術は相手の2ndに対する攻撃的なリターンにも活かされている。走らされて低い打点を強いられた時のバックが以前は課題であり、上体が前方に大きく折れて軸がぶれていたが、近年は左右への厳しい振り回しにも耐える球際のフィジカルとディフェンス時に簡単にはミスを出さない返球技術を高めたことで大きく改善した。俊敏な動きに基づく守備の安定性を手に入れたことで、結果的に持ち前の攻撃的なテニスがより高い頻度で出せるようにもなった。

多彩なポイントパターンの習得が鍵

 今のところサーブが強くリターンは不得意、攻撃は良いが守備に回ると弱いという近年のアメリカ人プレーヤーのタイプの範疇を出ておらず、彼らのようにトップ10手前までは行くがそこで頭打ちという形にならないためには、フィジカルの強化と並行してポイントに結びつけるパターンを多彩に習得しておきたい。ようやくツアーのハイレベルな戦いに慣れ、疑いの余地のない本来のポテンシャルの高さを発揮し始めたフリッツのトップへの道のりを長い目で見守っていきたい。

 

Nick Kyrgios

ニック・キリオス

 生年月日: 1995.04.27 
 国籍:   オーストラリア 
 出身地:  キャンベラ(オーストラリア)
 身長:   193cm 
 体重:   85kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: YONEX EZONE 98 
 プロ転向: 2013 
 コーチ:  なし 

f:id:Kei32417:20190922162503p:plain 身体能力の高さをベースに長身から繰り出すビッグサーブと強烈なフォアハンド、丁寧なバックハンドなど様々な武器を駆使して展開する予測不能かつ大胆不敵な超攻撃的テニスで、数々の常識を破壊してやまない稀代の天才プレーヤー。現代テニス界きっての悪童としても知られ、テニス以外の面も含めて常に話題の中心に上るプレーヤーである。2000年代に入ってヒューイット以降若手の台頭が途絶えていたオーストラリアにとって、キリオスはオーストラリアテニス復活を象徴する存在だ。彼の名が世界中に知れ渡ることになったのは14年ウィンブルドンワイルドカードでの出場ながら2回戦で9本のマッチポイントを阻止してガスケを破ると、4回戦では当時No.1のナダルを一蹴する大番狂わせを演じた。ツアー参戦実質1年目での大旋風は一気に将来のNo.1候補としてもてはやされた。また、翌年の全豪でもベスト8の好成績を残し、10代でグランドスラム2度のベスト8はフェデラー以来の快挙となった。大会の規模が大きいほど、また相手が強敵であるほど、モチベーションが上がりアップセットを狙って生き生きとプレーするのが彼の特徴で、それは格下相手にあっさりと敗れることも少なくないということの裏返しでもあり、ツアー初優勝は16年マルセイユ(250)と意外に遅くなった印象はあるが、それでもその頃からようやくコンスタントな活躍が目立つようになり、同年には東京(500)の楽天オープンでもタイトルを獲得した。世界で猛威を振るうCOVID-19の影響で各大会の開催やツアーの運営が不規則化する中、彼はますますモチベーションを失い、引退してしまうのではないかとの憶測もあったが、22年は高い人気を誇る同世代の親友コキナキスとのコンビ“Special Ks”で幸先よく全豪のダブルスを制して国内を熱狂に導くと、シングルスでもウィンブルドンで準優勝の大きな実績を手中に収めた。「キリオスは人並みに真剣にツアーを回れば他人よりも勝てる」という自他ともに認めてきた俗説を証明するかのような活躍だった。ハードコートを得意とするが、膝をそれほど曲げなくてもバランスを崩さずコート上を動き回れる類稀な身のこなしを習得しているため、滑りやすい芝やクレーでもハードヒットできるポイントにスムーズに入れることから、すべてのサーフェスで差異なく実力を発揮できる。

爆発力と奥深い技術力を兼ね備えるフォアハンド

 厚いグリップから一気にリストを返すことで極めて速いスイングスピードを実現するフォアハンドは大きな武器の1つで、コート後方からでも高い打点が取れれば爆発的な威力でウィナーを連発するのはもちろん、低い打点からは唸りを上げるような強烈なトップスピンで相手をコート外へ追い出すアングルショットも備えるなど、バリエーションが豊富なのが強みである。特に逆クロスへの強打は構えた状態で気持ちよく打たせてしまうと、ほとんど対応は不可能なほど破壊力があり、技術的にはクロス方向に打ちそうな上半身の開きから、ラケットヘッドを最後まで隠して振り抜くことができる点でコースが読みにくく、非常に完成度の高いショットだ。ネットコードに当たってコースが変わった時や、ドロップショットで前に誘き出された時の対応で見せる前向きの股抜きショットも印象的で、咄嗟の閃きだとすれば天才的と言った方がいいが、それを繰り出す頻度から見て彼自身かなり得意にしている雰囲気もあり、必要性などを考慮すると評価は難しいが、スタンドプレーの意味合いを込めてウィナーにすれば観客とともに乗っていけるという意味では大きな武器といえる。相手にしぶとく粘られ始めると、やや単発のショットのクオリティで勝負しすぎるところがあり、不必要にミスを重ねる傾向も見られるため、今後は辛抱強い理詰めの組み立てでポイントに結びつける術を身につけていきたい。また一方で、深く返ってきたボールに対して膝を曲げずに手打ちになる癖が散見される。これは技術的な弱点というよりは、どちらかといえば泥臭さを嫌い「洒落たプレーで綺麗に決めたい」という気持ちが雑な処理を引き起こしている側面が強いが、いずれにしても試合に勝つうえでは障壁ともなる余計な思いは早急に削ぎ落したい。

フォアとの軌道差が相手を苦しめるフラットなバックハンド

 バックハンドは丁寧かつシンプルなスイングでボールを運ぶように捉えるのが特徴で、荒れ球気味でミスも多いフォアに対して、バックは回転量が少なく安定感が際立つショットとなっており、フルスイングをしない分、速いテンポでのコース変更にも無理がなく、ダウンザラインへのカウンターショットなども高い精度でコントロールする。とはいえ、非常にフラットな軌道の速球をネット上ギリギリの高さを通しつつ角度をつけられるため、フォアにも劣らずウィナーが多い。また、時に勢いの死んだような打球も不規則に交ぜるため、鋭いショットがより速く見える効果もある。調子の悪い時はミスが増えるのではなくボールが浅くなる傾向にあり、重さのあるショットではない分角度がつかなくなると苦しくなる。

意外にラリーではじっくりと繋ぐタイプ

 ラリー戦での彼の戦い方を見ると、激しく動いても軸がぶれない分、意外にじっくりと繋ぎながら確実に決められるボールを待つ傾向があり、心理面で冷静さを保っている限りは大崩れしないというのが強みといえそう。ベースラインでのロングラリーを早々に切り上げてネットに速攻を仕掛ける戦術を採用したことも一時期あり、確かに持ち前のタッチセンスで操るボレーに魅力はあったが、決してネットプレーヤーではなく威力のある素直なボレーが打てないため必ずしも有効に機能していたとは言えない。また、速いリズムでストロークを展開されると持ち前の攻撃力が発揮できない場面も多く、相手に応じて攻守の割合を出し入れする判断力が向上すれば、打ち合いでも盤石なレベルに達することができるはずだ。

巨大な威圧感で相手を蹴散らすツアー最高級のサーブ

 エースを量産する迫力十分の強力なサーブは彼の最大の武器で、ツアーでもトップクラスのサービスゲームを構築しているが、特にその強さはピンチの場面で最大限発揮される。大きな前後の体重移動がパワーの源で、同じフラットサーブでも200km/h前後から220km/h超までスピードをコントロールしながら打つが、193cmの長身に加えて長い腕を持ち、さらにはトスをかなり前に上げるため大きな角度が生まれ、相手に対して巨大な威圧感となっている。攻めの姿勢は2ndになっても同様で、ダブルファーストを選択することもしばしばあり、それゆえダブルフォルトが多いというネガティブな面もあるが、リターン巧者にプレッシャーを与えるうえでは非常に有効な作戦となっている。また、コーナーをピンポイントで狙いながらも1stの確率が概して高いのも特徴で、それを担保しているのが乱れることのないバランスの良いフォームと安定したトスアップであり、力強さと精度の高さを両立できる要因だ。そしてもう1つ言及しておかなければならないのはアンダーサーブの「発明」だろう。モーションの中でラケットを下ろし上半身が前に屈んだタイミングでさらりと下から打って浅い位置に落とす。例えばナダルのようにリターンで大きく下がる相手に対しては不意を突く意味でも、また純粋にエースを奪う1つの手段としても非常に有効だ。彼がやり始めたことで徐々にツアーに流行の波が到来し、いまやアンダーサーブを奇策や卑怯な戦術と指弾する声も減ってきた。気掛かりな点があるとすれば、ポイント間にかける時間が一定しないことで、おそらく本来は短時間に抑えてテンポ良くゲームを進めたいタイプなのだろうが、最近は緊迫してくるとタイムバイオレーションをとられるシーンも見られる。集中力の継続に課題を抱える彼だけに、その1つの解消法としてルーティンを大切にするのも手ではないだろうか。

センスに基づくアイディア豊富なリターン

 リターンはまだまだ粗削りな部分が多く、スタッツの面で特筆すべき数字もないが、ビッグサーバーの高速サーブに早いタイミングでラケットの面を合わせて返球するセンス、大きく下がって打ち返した時のパワー、加えてフェデラーのSABRに近いリターンダッシュを試みてみたりという豊富なアイディアなど、技術的には高いものを備えており、結果としてブレークを奪えなくても十分に相手に脅威を与えている。

痺れるような駆け引きを楽しむメンタリティ

 彼が未来の王者の有力候補とされるのは、すべてのプレーを武器にできる多彩なテニスを持つだけでなく、トップとの対戦や大事な局面で、硬くならず最高のプレーを出せるタフなメンタルと高い集中力が評価を得ていることが理由にある。トップ5級を相手にしてもまったく物怖じすることなく、自らの勝利を信じて疑わないふてぶてしい態度とオーラは生意気にも映るほどだが、デビュー間もないウィンブルドンでのセンセーションはベッカーの再来と絶賛された。接戦の中で突出したサーブ力によりペースを譲らない、ペースを引き戻すところに凄さを感じさせ、痺れるような駆け引きを次々と挑んで相手の精神的攪乱を狙う戦略も極めて頭脳的だ。見た目の通り、エンターテイメント性を重視する派手な性格によりプレーの質は気分次第というところで、出入りに激しい部分もあるが、そうした若さも含めて彼の魅力といえる。ただし、トップに定着することを考えるならば、徐々にそうした点は払拭していかなければならず、特にリードされると急にエネルギーが底を突き、勝ちへの執着心が一気に薄れて試合を棄ててしまう傾向はいち早く治したい。また、相手との勝負とは関係のないところで苛立ちを募らせた末に、感情を爆発させ冷静さを失うのは非常にもったいない。「普通」であることを極度に嫌がり、プレーだけでなく人格や振る舞いも含めて他人とは常に違うことをしていたいという渇望は、それ自体アスリートとして決して悪いことではないが、それも結果が伴って初めて説得力を持つものである。彼自身もこのあたりの問題にどう対処していいのかわからない様子なだけに、厳しい目をもって強烈に指導できる存在があればいいのだが。まずは彼自身がコーチをつけることに対して前向きな姿勢を示してほしい。

精神面での成熟とプロ意識の向上を

 課題はポテンシャルの高さに対してフィジカルがついてきていない点で、大会に出ては一定期間休みを置くことを繰り返しているのが現状。この先数年で過酷なツアーを戦い抜く身体を作っていけるかが彼のキャリアを左右しそうだ。仮に怖いもの知らずのプレーが続けられるうちにフィジカルが完成され、ツアーで上位を賑わすようになってくれば、トップ10入りもそう遠くはないかもしれない。しかし、オンコート、オフコート問わず態度の悪さが問題になることが多く、審判や相手プレーヤー、観客への卑劣な暴言やラケットを放り投げる乱暴行為など、すべての人間に対して敬意を明らかに欠いた言動は個性というものを履き違えているとしか言いようがなく、擁護の余地がない。疲れも含めたコンディション不良で自分に対する不満を募らせたり、パフォーマンスが落ちるのは仕方のないことだが、だからといって無気力で試合を放棄する姿勢は許されない。ATPは彼に多大な期待を寄せており、だからこそ不適切な振る舞いにつき16年終盤には彼に対して出場停止という苦渋の宣告を言い渡した。このままでは特大な才能が台無しに終わってしまう可能性もあり、精神面での成熟とプロ意識の向上が求められる。

 

Milos Raonic

ミロシュ・ラオニッチ

 生年月日: 1990.12.27 
 国籍:   カナダ 
 出身地:  ポドゴリツァモンテネグロ
 身長:   196cm 
 体重:   98kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  New Balance 
 シューズ: New Balance 
 ラケット: Wilson Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2008 
 コーチ:  Mario Tudor 

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 圧倒的なサービス力にものを言わせた攻撃性溢れるテニスで台頭すると、同世代の中では最前線を走り、ビッグサーバーからオールラウンダーへと変貌を遂げる中で将来のグランドスラムタイトルも期待されるカナダのスタープレーヤー。10年東京の楽天オープンでの活躍で本格化のきっかけを掴んだこともあってか、お寿司好きを公言する日本贔屓のプレーヤーでもある。彼が最初にニュースターと称賛されたのは11年、全豪で予選から4回戦に進出して勢いに乗ると、2週間後にはサンノゼ(250)でツアー初優勝を果たすなど、年初の156位から2ヶ月で37位まで上昇させる大ブレイクを見せ、同年のATP新人賞を受賞した。13年自国モントリオール(1000)でのマスターズ初決勝進出をもってトップ10入り、以後様々な箇所の怪我に苦しむ時期もあったが、16年にさらにプレーの質を進化させてサーブに頼らないスタイルを確立すると、ウィンブルドンでは準決勝のフェデラー戦で2年前の雪辱を果たし準優勝に輝いた。サービス関連スタッツのほとんどの部門でトップを独占するビッグサーブを軸とし、思い切って回り込んで打つフォアとそれに伴うネットプレーがプレーの見どころ。彼に敗れたプレーヤーの多くが「テニスにならない」といったニュアンスの発言をするように、彼との試合では長いラリーはほとんどなく、良くも悪くもラオニッチ本位で進んでしまうため、主導権というものを握るのは非常に困難である。彼の強さが最大限に発揮されるサーフェスハードコートで、中でも北米ハードを最も得意とし、ヨーロッパシリーズよりも北米シリーズで特に成績が良い傾向がある。とはいえ、芝では彼のサーブの強さがさらに強調され、クレーでは得意のフォアで打てるケースが増えるため、ハード以外のサーフェスでも力はほとんど落ちない。また、WTAツアーで活躍するブシャールとともに近年カナダのテニス人気に火をつけた功績は高く評価される。ここ最近はプレー中も崩れないがっちり固めたヘアスタイルが彼のトレードマークとなっている。

圧倒的な威力でエースを量産する難攻不落なビッグサーブ

 ラオニッチの代名詞といえるサーブは、モーションの最初の段階でラケットのインパクト面が上を向くほど極端に薄いグリップでリストワークの可動性を高めているのが特徴だが、他の部分は割合シンプルで、トスやフォームに乱れが生じることもなく安定感がある。220km/hをコンスタントに超え、最速では250km/hにも届いたことがある破壊力抜群のフラットサーブに加え、ワイドに鋭く切れていくスライスサーブ、相手の身長よりも遥かに高く跳ね上がるキックサーブなど球種も多彩で、そのすべてが一流のクオリティを備える点で当代最高のサーブを持つプレーヤーと言ってよい。ストロークの精度に自信が増してきた最近は1stでも2ndでも高速サーブをボディにぶつけて、次のチャンスボールで決めるパターンを増やしており、返ってくることを前提に配球を組み立てるクレバーさも際立っている。これによりやや目立っていた確率の低さまで改善され、一層安定したサービスゲームを構築している。また、余裕のある場面で布石としてダブルファーストを多く使っておくことで、勝負所の2ndに対して前に入らせない大きな牽制効果を生んでいる。驚異的な決定力でエースを量産するビッグサーブはもちろん、そこから一気に仕掛けていく攻撃力の鋭さなど、サービスゲームはまさに難攻不落で、その支配力は間違いなくツアーナンバー1に位置する。逆に上位陣がその攻略法としているのは、ブロックリターンに代表されるように、ゆったりとしたボールを深くリターンすることであり、速い展開で畳み掛けたい彼はこうして考えさせられるリターンの方が苦手意識が強い。そのほか緊迫した場面では1stがネットにかかるシーンが目立つが、これは明らかに力みからくるミスであり、トップを目指すうえで壁となっているジョコビッチとマレーに勝つにはこのあたりの改善も不可欠だろう。

長い腕をしなやかに使うパワフルかつ柔軟なフォアハンド

 ストロークにおいては長い腕を活かした弧の大きさを使って、強いパワーのあるボールを飛ばそうという意思の下、テイクバックとフォロースルーが非常に大きいしなやかなスイングが特徴のフォアハンドが大きな武器となっている。完全に後ろ足重心で構え、しっかりと回転をかけることに重点を置いてスイングするが、近年は厚い当たりからインパクト後にボールを押し出す意識を高めた結果、よりショットの重さとスピードが増しており、回転とスピードを両立させるハイブリッドなフォームを手に入れたようだ。元々ラリーの中で先に相手を押し込むことができれば、バックサイドからの回り込みフォアを多用した波状攻撃を展開し、どんなに守備の強い相手からもウィナーを連発できる爆発力があったが、そこにスピードを落として逆クロスの浅いところに落とし込む驚異的なアングルショットも加わり、変化をつけるうまさも身につけた。また、低く滑ってくるスライスに対してもリバーススイングを使うなどして難なく鋭いショットに転換できる対応力や柔軟性も備えており、完成度は非常に高い。低い打点を強いられてもさほど攻撃力が落ちないのが、他の長身プレーヤーにはない強みだ。

スライスで凌ぎながら攻撃の機会を窺うバックハンド

 バックハンドはフォームにやや硬さがありラケットヘッドの返りがスムーズでないためミスが多く、特にバリエーション豊富なボールを確実にバックに集められて、回り込めない状況を作られると良さを消されてプレーが崩れることがある。できる限り高頻度で得意なフォアで打つために、基本ポジションをややバック側に取っていることが多いが、クロスラリーでバックサイドを執拗に意識させられた末に、広く空いたフォア側へストレートに流されるとほとんど反応できないのが現状で、ベースラインでのポジショニングは長所でもあり同時に短所でもある。それでも最近の改善は目覚ましく、相手との間合いの中で一度タイミングを掴みさえすれば、クロスにもストレートにも強烈なウィナーを取れ、また相手の回り込みフォアの逆クロスをバックでストレートに切り返す能力も習得している。ここ最近はスライスの割合を増やして自らのバランスを保ちながら、浅いボールにはすかさずスライスアプローチで攻勢をかけるのが彼の形だ。相手としては以前までなら得意なフォアも含めて打たせておけばミスを出してくれていたが、今のラオニッチに勝つためには少なからず自分から攻める必要があり、そのためには彼のフォア側に先制攻撃を仕掛けてバランスを崩すことが1つの鍵といえ、過去の対戦の印象に引きずられて単にバックに集めてしまうと決定打にならないどころか先にネットに出てプレッシャーをかけられてしまう。

アプローチからボレーへの流れが滑らかなネットプレー

 サンプラスに憧れた少年時代を過ごしただけあって、ラリーの中でも常にネットを窺う姿勢を見せる。現在のツアーで前に出るタイミングが最も早いプレーヤーの1人であるという事実は、まさに彼のネットプレーに対する自信の裏付けと言ってもいいだろう。実際、柔らかいタッチも強く叩くボレーもしっかりとこなすなど、ボレーの技術は高いレベルにある。足元のボールに対してはローボレーよりも一度落としてハーフボレーでの処理がうまいという特徴を持つ。スマッシュも得意なプレーの1つで、ロブで頭上を抜かれることもほとんどない。しかし、上位は彼のサーブ以外にはそれほど脅威を感じておらず、彼自身もそのことを自覚しているせいか、あまりに強引な形でネットについてしまう癖がある。もう少し自らのストロークに自信を持ち、しっかりとした形を作ってネットに詰めたいところだ。また、ネットへ出る際のアプローチショットと前への動きの連動性が高いのが1つ特徴で、非常にスムーズにネットにつけることも高いポイント獲得率に寄与している。

守備力とリターンの目覚ましい改良がトップ5への原動力

 弱点は例によってフットワークとリターンということになる。機動力こそ水準レベルのものを持っているが、ワイドに振り回されると、徐々にフットワークに綻びが生まれ、結果逆を突かれた時にまったく反応できないケースが目立つ。ただし、14年頃よりフォア側からは強烈なカウンター、バック側からは低く滑るスライスと、球質は異なるが両サイドともに返球力が上がり、全体的な守備力がアップしたことでプレーに安定感が生まれ、一気にトップ5を窺うポジションまで飛躍した。明らかにフィジカルレベルを高めた16年にはそのディフェンス面での粘り強さや動きの素早さがさらに向上し、結果として打点に余裕を持って入れるようになったため、持ち前のハードヒットの精度やその炸裂する頻度が上がって、攻撃力にも大幅に磨きをかけた。同様にリターンの改良も数字で見て明らかとなっており、以前は一定レベル以上のサーブを打たれるとブレークどころかポイントすらまともに取れないことも多く、相手に対してリターンゲーム一点に集中力をぶつけやすい環境を与えてしまっていたが、コースの予測能力を高めた近年はスライスリターンも交ぜながら全体的に高い返球率を実現できており、また読みとタイミングが完璧に合うと厳しいサーブでも逆にエース級の返球を見せることも多くなっている。彼のサーブの強さとそれに伴うタイブレーク勝率の高さを考えれば、リターン力アップによって与えられる相手へのプレッシャーは計り知れず、実際のところ、ストロークの脅威が増してこそではあるものの、このリターンがトップ3への最大の原動力となったといってもいい。

真面目な性格が表れる淡々とした戦いぶり

 あまりガッツポーズなどは見せずにポーカーフェイスを貫く戦いぶりは、心の動きが読みにくくメンタル的に安定していると肯定的に捉えることもできるが、一方で気迫を前面に出して相手を威圧していくようなシーンが見られないという点で、物足りなさを感じるといえなくもない。非常に真面目な性格のため仕方のない部分はあるとはいえ、もう少しメンタルに派手さがあってもいいのかもしれない。そのあたりは16年シーズンにコーチであった元No.1のモヤや臨時アドバイザーのマッケンローの助言もあって、だいぶ雄叫びを上げるような場面も増えてきており、本人も意識的に感情を出すよう努めているようだ。

飽くなき成長意欲と吸収能力は一流の証

 速いボールをネット上低いところを通して相手を押し込んでいくのが基本的なスタイルで、大抵の相手はそれで押し切ることができるのだが、トップ10級を倒すためにはプレー傾向を読まれやすいやや一本調子なベースラインからのストロークを改良し、球種そのものも含めた崩しのバリエーションを増やしたいところだ。13年後半、それまで約3年間コーチを務め、ラオニッチの基礎を築き上げたブランコと別れ、新たに元No.3のルビチッチをコーチに迎えた。名目としてはバックハンドの改善ということで、確かにバックの安定感は増した印象があるが、それ以上に長年世界のトップで戦った彼の影響力は大きかったようで、短期間でテニスの質が上がった。16年にはモヤやマッケンローに指導を請うなど飽くなき成長意欲は同世代の中でもずば抜けており、健康体を維持できるならばビッグタイトル獲得も時間の問題といえそう。ただ、サーブ頼みからの脱却を図った結果、強力なストローカーとの対戦でビッグサーバーには似つかわしくない大差での敗戦が増えているのは気がかりだが、それも更なる進化の途上における生みの苦しみと見るべきか。また、下の世代からの突き上げも激しさを増す中でどうしても故障癖を克服できずにいるここ数年は、やや絞り切れていないフィジカルの影響もあるのか動きが鈍く、結果的にベースラインから離れて粘る、彼の強さが発揮されない守備型寄りの戦い方をとらざるを得ない厳しい状況に映る。将来的にはライバルでもある錦織とともにテニス界を牽引していってほしい存在なだけに、ファンとしては大小の故障の多さがキャリアに影を落とすことのないよう願いたい。最近はスターの風格も出てきており今後まだまだ期待していいプレーヤーだ。

 

John Isner

ジョン・イズナー

 生年月日: 1985.04.26 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  グリーンズボロ(アメリカ)
 身長:   208cm 
 体重:   108kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  FILA 
 シューズ: FILA 
 ラケット: Prince Beast Pro 100 Longbody 
 プロ転向: 2007 
 コーチ:  なし 

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 208cmというツアートップクラスの長身から繰り出すビッグサーブと強烈なフォアハンドを軸とした展開の速い攻撃を武器に、スター不在と言われる現在のアメリカテニスを牽引する大型プレーヤー。年齢の割にプロでのキャリアが少ないのは、ジョージア大学の学生を経てのプロ転向だったためで、彼の世代では珍しい大卒プレーヤーだ。これまでのキャリアでは、ワイルドカードで出場した07年ワシントン(250*)で1回戦から5試合続けてファイナルセットタイブレークを制して決勝に進んだ驚異の勝ち上がりや、09年全米でのロディック撃破、そしてなんといっても10年ウィンブルドンでの11時間5分、ファイナルセット70-68という天文学的な数字が並んだテニス史上最長試合のマウ戦など、ファンの記憶に残る印象深い試合をいくつも演じている。本格的にトップに定着したきっかけは12年インディアンウェルズ(1000)で、準決勝でジョコビッチを圧巻のサービス力によって粉砕し、マスターズ初の決勝となった一戦ではフェデラーに敗れるも、これによりトップ10の扉を開いた。13年シンシナティ(1000)や16年パリ(1000)でも格上を次々と破る快進撃でタイトルにあと一歩まで迫りながらいずれもビッグ4の前に屈していたが、18年にはマイアミ(1000)でついに悲願のマスターズ初優勝を成し遂げた。前週のインディアンウェルズ(1000)ではソックと組んだダブルスでチャンピオンに輝いており、変則「サンシャイン・ダブル」の達成ということでも話題になった。また、このグレードにおける最年長記録更新となった32歳11か月での初戴冠は、長くマイアミマスターズを開催してきたクランドンパークの最終章を飾るにふさわしい文字通りメモリアルなタイトルとなった。すべてのプレーにおいて主にその身長により生み出される唯一無二の“角度”が魅力となっており、相手が誰であれ1ポイントが勝敗を決するような戦いに持ち込めるビッグサーバー特有の強みを存分に発揮している。歴代のアメリカ人プレーヤーの典型に違わず、彼もネットプレーを積極的に織り交ぜた攻撃的なプレースタイルで、球足の速い遅いよりもバウンドの高いハードコートを最も得意とし、北米ハードの大会でポイントを荒稼ぎする傾向にある。また、他のプレーヤーと調子のピークが少し違うのも彼の不思議な特徴であり、荒れ気味の大会で気づけば優勝争いにイズナーが絡んでいるということが少なくない。

満点評価を遥かに超える絶対的なビッグサーブ

 イズナーの絶対的な武器であるサーブは、最速253km/hを記録したことがあるスピードは当然だが、その高さで常軌を逸した角度とバウンド後の跳ね上がりを実現できるため、2ndでも軽くエースを狙いにいけるのが他のプレーヤーにはない特徴で、少なくとも相手のバランスを崩すことにかけて彼の右に出る者はいない。220km/hを超すフラットサーブは高い打点からまさに叩き落とすイメージでエースを量産する。もとより備える角度に抜群のキレが加わるキックサーブは絶大な効果を生み、相手からすると分かっていても綺麗に返球することは非常に難しい。これで相手の体勢を崩し、高い打点からの強打あるいはドロップショットなどで早めに攻勢をかけていくのが彼の形だ。ビッグサーバーたる所以はもちろんエースの数だが、確率もトップクラスで大きく崩れることが少ない安定感も特筆すべき点である。相手からすればたとえコースが読めても、非常に高く弾むため深くリターンできず、強力な攻めに遭ってしまう。また、ピンチの場面でのサーブに対する集中力は驚異的で、2ndでも200km/h以上のスピードでラインに乗せることができ、いくら彼が超ビッグサーバーとはいえタイブレークにもつれ込むセットがこれほど多いのは、こうしたタフなメンタルがあってこそだ。サーブ一本で相手の体勢を崩し、力のないリターンを誘う場合が多いため、サーブ&ボレーに出る頻度やその決定率も高い。ただ、リターン巧者や守備力の高い相手との対戦では、3球目の攻めが単調になってパスで抜かれるケースも多く、今後はサーブからの攻めのバリエーションを増やしたいところだ。なお、ボールをつく前に股の後ろからボールを通すという実に面白いルーティンを持っている。

爆発的な威力で相手を怯ませる攻撃的なストローク

 ストロークではフォアハンドを得意とし、特に高い打点が取れた時の逆クロス方向へのフォアが最大の武器であり、その爆発的な威力でウィナーを多く奪うが、その他にもネットに出るための正確なアプローチやドロップショットなど強打一辺倒になることは少ない。とりわけドロップショットで浅く落として接近戦に持ち込み、次の球を長いリーチを活かしたボレーで決める形は1試合の中で何度も見られる。また、回り込んで打つ頻度が高く、多少強引にでもフォアを選択し、武器である逆クロスに叩き込む。一方、その強引さが裏目に出て、打てないボールで無理に打っていき、ミスを重ねることも多々あり、勝負球の見極めが課題の1つとなっている。フットワークを向上させ、フォアで打つ回数を増やせれば、ストローク戦での戦闘力が格段に上がるだろう。彼のフォアにおいて印象に残るのは当然一撃のパワーだが、相手とするとそれ以外の緩めのトップスピンが意外に厄介で、速いテンポで前後左右に振り回していきたいところに高く弾む球種で粘られると、逆に焦りが出てミスを重ねてしまうこともある。バックハンドも強く叩いてウィナーを取ることが可能で、特に近年はダウンザラインのクオリティを高めることに成功し意外性のあるショットとして機能しているが、基本的な思考としてはスライスも交えながらとにかく丁寧に深く返球しようという繋ぎの意識の方が強い印象だ。

ボールの勢いを殺す柔らかいタッチが光る器用なネットプレー

 ネットプレーの器用さにも定評があり、多くのポイントをボレーで生み出す。彼のスタイル上非常に重要な意味を持つ要素なだけありそのクオリティは高く、鋭いパッシングショットでも確実に勢いを殺す柔らかいタッチや、対応できる範囲の広さが売りである。長身でありながら彼のような繊細なラケットタッチができるプレーヤーはなかなかいない。足元に沈んでくるボールの対応さえ良くなれば、トップに肩を並べられるだけの資質はある。ただ、タッチ系のボレーではなく強く弾いて深さを出すハイボレーには課題があり、パンチ力には向上の余地がある。また、頭上を越えていくロブに滅法弱く、自慢の長身を活かせていないのは、ボディバランスがあまり優れていないためで、本来スマッシュで強く叩きたいボールを叩き切れず、弱く返してチャンスボールを供給してしまうケースが多い。元来サーブ、ストロークともに体の開きがやや早い癖があり、とりわけフォアのクロスやスマッシュで比較的パワーロスが大きくなってしまっており、技術的な課題と言うこともできる。

打点周りに不安定さが拭えないフットワーク

 守備力という面では様々な問題があるが、中でもフットワークは彼の最大の弱点である。出だしの一歩目を置く位置を誤るシーンが多く、しっかり構えて打てそうな場面でボールに近づきすぎて窮屈な対処となり相手を助けてしまうのが大きな課題だ。とりわけ弱いのは前後の動きで、ドロップショットへの反応と対応に難がある。大柄なため俊敏性の部分にはある程度目をつぶるとしても、厳しいコースのボールを何とか返球しようというメンタル的な粘り強さや執念が著しく欠如している点で、守備力の弱さに拍車をかけており、更なる上位進出を目指すためには、守備力の総合的なレベルアップが必要不可欠である。

確実性には課題も積極性で脅威を与えるリターン

 リターンも大きな弱点であり、トップの中ではその数字が断トツで悪い。そのため一度ブレークすればセットを取る確率が高くなる一方で、一度ブレークされると盛り返せず落とすことが多い。とはいえ、相手の2ndに対して思い切って前に踏み込む積極性を見せている時のリターンは、相手に大きな脅威を与えることができているだけに、まずはリターンの確実性を高めたいところだ。サーブの強さは現役で一・二を争うレベルであり、彼の勝敗を直接的に左右するタイブレークの勝率も歴代トップクラスを誇るが、リターンが少しでも向上すれば相手に与えられるプレッシャーもさらに増すだろう。

大事な場面での勝負勘の鋭さ

 もう1つ彼のプレーにおいて特筆に値するのは決断力だ。試合のここぞという勝負所でそれまでとはショットのコースを変えたり、基本的には攻撃一辺倒の中で相手の心理を読んで守る戦術を使ったり。選択が必ず吉と出る保証はないが、彼は比較的思い切った作戦変更がハマることの多い印象がある。勘の鋭さといったところか。

好調時のプレーは誰にも止められない

 タイプとしてビッグサーバーであることに間違いはないが、過去の同じようなプレーヤーにはなかった武器を備えているのも事実である。他にはない破裂音のような爆発的なインパクトで捉えるショットがコーナーに入ってきたら相手としては止める術がなく、さらに厄介なのは得意のサーブとフォアだけならともかく、年間に数試合あるいは数大会リターンとバックも完璧にタイミングが合ってウィナーを連発してくる日があり、この日に彼と当たったならば不運としか言いようがない。サーブ、リターン、ストロークどの要素においても先手を打って、自分の球威で押していく展開を作れないと厳しいのが現状だが、基本技術の高さを基盤とする正統派のプレーを身につけていることを考えれば、判断力を中心とした少しの上積みでトップ10定着も十分に見えてくる。

 

 

Fabio Fognini

ファビオ・フォニーニ

 生年月日: 1987.05.24 
 国籍:   イタリア 
 出身地:  サンレモ(イタリア)
 身長:   178cm 
 体重:   79kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  EMPORIO ARMANI 
 シューズ: K-SWISS 
 ラケット: Babolat Pure Drive 
 プロ転向: 2004 
 コーチ:  German Gaich 

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 イタリア勢の伝統に違わず、堅い守備から秀逸なテクニックで角度をつけたストロークを放ってチャンスを作り、確実にポイントを重ねていく堅実なスタイルと、凄まじいハードヒットの応酬を挑んでいく果敢なスタイルの二面性を持った才能溢れるストローカー。強さのベースは安定したストローク力だが、そこに抜群のテニスセンスに基づく数々の天才的なショットが加わって、非常に見る者を沸かせるテニスをする。性格的には明るく、むしろやや派手なタイプなのだが、テニスは泥臭く勝利を拾いにいける根性タイプのプレーヤーなのが興味深いところで、接戦を楽しんでいる雰囲気がある点も魅力の1つである。実績が示すとおりクレーコートを最も得意としており、イタリア人男子として13年ぶりにグランドスラムシングルスでベスト8に進出したのが11年全仏、初のビッグタイトルを獲得したのも13年ハンブルク(500)でクレーだった。15年にはナダルに対してクレーで2連勝、また全米では壮絶なフルセットの死闘の末破るなど、同一シーズンににナダルを3度撃破した史上4人目のプレーヤーとなる快挙を成し遂げている。その全米での試合は同時に、グランドスラムで初めて2セットダウンからナダルに土をつけたという勝利でもあった。成績面では意外に乏しい彼であったが、19年にはモンテカルロ(1000)で「まさか」のマスターズ初優勝を飾り、めでたく才能に見合った箔付きプレーヤーになったと表現していいだろう。その他のサーフェスでの成績は凡庸で、強豪と呼べるレベルには達していないが、本人曰く嫌いなサーフェスはないらしく、テニスのスタイルからも今後の戦力アップはまだまだ期待できる。15年全豪では同胞のボレッリと組んでダブルス優勝を果たすなどダブルスでの実績も十分で、デビスカップでは重宝される存在だ。また、ツアーきっての色男としても知られ、その自覚もある彼はプレーヤー間ではロッカールームで最も鏡の前に立っていることで有名なのだとか。今となってはイタリアNo.1プレーヤーとなったが、あまり大きな野心は持っていないようで、あくまでもマイペースでツアーを楽しむ実力者というのがフォニーニの素顔に近い。

力の抜けた状態から切れ味抜群のショットを放ち続けるストローク

 彼の最大の武器であるストロークは、まるでウォーミングアップかのように全身の力が抜けた状態から放たれる。フォアハンド、バックハンドともに高く跳ねるボールの処理がうまく、小さめのテイクバックから相手のボールとタイミングをとりつつ、キレのあるクリーンなボールを打ち抜く。特に得意なフォアはどんな状況でも上半身の軸がまったくぶれることがなく、ツアー屈指のスピードショットを高精度で広範囲にコントロールできる。また、足元で弾む相手の深いショットを一層コンパクトなスイングで切り返して攻撃に繋げるライジングショットは、比類ないセンスの高さを示すテクニックの1つである。早い構えで長い溜めを作ることで相手の動き出しを遅らせるのがうまいバックも安定感と攻撃力が高い次元で融合されており、クロスのアングルからダウンザラインまでウィナーを量産する。ひとたびリズムを掴めば、両サイドからレーザービームの如く強打の連続攻撃を仕掛けてくるため、相手としては文字通り防戦一方に立たされてしまう。ただし、基本的には長いラリーを続ける中でチャンスを見出していくスタンスで、守から攻への切り替えが抜群にうまく、メリハリのあるストロークを持ち味とする。ベースライン後方からは高めの軌道で相手コートの深い位置にコントロールし、自由に打ち込ませない。逆に、浅く返ってきたボールを高い打点から叩くのが彼のスタイルである。時間の作り方も巧みで、自分が体勢を崩されかけた時にはゆったりとしたスライスやループボールを意図的に使って、ラリーをイーブンに戻すことができる。ドロップショットを得意とし、フォア、バック両サイドから正確なコントロールができる。とりわけフォアのドロップショットはラリーで優位に立っていない状態からでも一本で形勢逆転を狙えるほど質が高い。

才能と技術力はツアートップクラス

 テニスの才能と技術の高さはツアーでもトップクラスで、それは他のプレーヤーにはない独特なショット選択や、どんなに難しい体勢でもいとも簡単にラケットの真ん中で綺麗に捉えてウィナーにしてしまう点から見てとれる。ネット際のボールの処理のうまさもその1つで、自分から意図して前に詰めた場合だけでなく、相手のドロップショットなどによって引き出された場合でも、難しい返球を飄々とやってのける。何をやってくるかが読めない自由奔放さは安定感に欠ける一方で、気を良くすると一転非常に危険なプレーヤーと化す。相手としては試合の中でいかに彼に気持ち良くプレーさせないかがポイントとなってくる。

スピーディーかつ軽やかなフットワーク

 フットワークもストローク同様、それほど丁寧に行っている印象はないが、届きさえすれば面を合わせる感覚だけでどこにでもコントロールできる彼にとっては問題にはならず、突出した足の速さを活かしたコートカバーリング力はむしろ武器といえる。また、攻撃面においても軽やかさは回り込みフォアを多用できる点で大きなアドバンテージとなっている。

一層の飛躍を阻むサーブの弱さ

 サーブは彼の最大の弱点であり、更なるレベルアップを図るうえでは改善が不可欠である。プレースメント重視のサーブを打つが、特別正確性が高いわけでもなく、確率が高いわけでもない。スタッツが物語る通り、相手に対してほとんどプレッシャーを与えられていないのが現状であり、特にサービスゲームのキープ率が著しく悪い。とはいえ、最速210km/hを超えるフラットサーブは持っているだけに、もう少しパワーで押していくサーブを増やしていきたい。

いかにも天才らしい気分屋なメンタリティ

 メンタル面は未熟な部分が多く、非常に出入りの激しいプレーの原因となっている。あまりにプライドが高いのか、自分の思い通りに試合展開が進まないと、すぐに集中力を切らして試合を投げるような態度をとったり、審判にケチをつけたり、ラケットを放り投げたりといった悪態をつくのが日常茶飯事で、そうした粗暴な言動による罰金処分で話題に上ることも多い。プレーにおいてはとりわけサーブが雑になり、ダブルフォルトやフットフォルトを連発して自滅する傾向がある。また、ゾーンに近い状態でも大事な場面で一瞬の気の迷いからミスを出してしまう点もメンタルの弱さの顕れである。天才らしい特徴といえばそれまでだが、心の部分の改善が更なる飛躍への鍵となっていることは言うまでもない。テニスのレベルは限りなくトップ10に近いものを持っており、また結果だけに囚われないとにかく見ていて楽しいテニスで今後もツアーを賑わせてほしい。

 

Stefanos Tsitsipas

ステファノス・チチパス

 生年月日: 1998.08.12 
 国籍:   ギリシャ 
 出身地:  アテネギリシャ
 身長:   193cm 
 体重:   90kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: Wilson Blade 98 (18×20) 
 プロ転向: 2016 
 コーチ:  Apostolos Tsitsipas 

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 長身を活かした強力なサーブ、長い腕をしなやかに使いキレのあるスピードボールを操るストローク、相手の隙を確実に突く巧みな判断力を軸とする戦術的かつ攻撃的なテニスでツアーに若手旋風を巻き起こす1人として注目されている急成長株のオールラウンダー。ボールを当てる感覚にずば抜けて優れ、後ろから厚く叩くのはもちろん、意図的にラケット面を斜めに当ててコースを変えるなど、高等技術を簡単にこなす稀代のプレーヤーだ。ジュニア時代にはNo.1を記録したこともある才能の持ち主であるが、ギリシャ人としてはATP史上初めてトップ100に入ったプレーヤーで、これからのキャリアでは同国のテニス史を築き上げていくことになるだろう。17年終盤に本格化の兆しが見え始めると、18年バルセロナ(500)でクレーの強さは屈指を誇るティームを下すなどの活躍によりツアー初の決勝に進出した。そして20歳になる直前に迎えた同年のトロント(1000)ではティーム、ジョコビッチ、A.ズベレフ、アンダーソンを連続で撃破してマスターズ準優勝に輝くと同時に、それは1大会の中で4人のトップ10から勝利を挙げた史上最年少プレーヤーとなる快挙でもあった。ラリーの中でコートの内側に踏み込み、タイミングを早めて相手を振り切る元来のプレースタイルはハードや芝で生きるタイプといえるが、18年はフィジカルの強化も伴い基本ポジションを下げて粘り強く応戦する中で持ち前の球威と展開力を活かす、明らかにクレー向きのスタイルに寄せたところにブレイクを見た。その土台固めが完全に功を奏し、飛ぶ鳥を落とす勢いそのままに19年全豪ではベスト4に駆け上がる活躍で無限の潜在能力を覗かせた。4回戦でフェデラーの3連覇を阻止した一戦は様々な共通点から、01年ウィンブルドンで若武者フェデラーが王者サンプラスを撃破したあの4回戦と重ねて「世代交代の象徴」と見る向きも強い。同年は夏場に勝てない時期も経験したが、終盤にかけて復調すると、初出場となったATPファイナルズで並み居る実力者を次々と退けてキャリア最大のタイトルを獲得した。21年全仏で初めてグランドスラム決勝の舞台を踏み絶対王者ジョコビッチの前に2セットアップから敗れて涙したが、トップの牙城を襲うに限りなく近い能力を証明し続けている。また、テニスプレーヤーとして活動する傍ら、自身のYouTubeチャンネルで観光の様子を紹介するエンターテイナーとしての顔も併せ持ち、非常に楽しみながら世界を転戦している雰囲気がなんとも微笑ましい青年だ。一方で、時に傲岸不遜な振る舞いや行き過ぎた悪態をついて、相手や観客の顰蹙を買うこともしばしば。そうした必ずしも優等生タイプではないところが人気の獲得に繋がるのか、はたまたツアーのヒール役としての地位が確立していくのかは今後注目したい

独特の感性が一撃の切れ味に還元されたフォアハンド

 向かってくるボールを体全体で受け止めるようなオープンスタンスに特徴はあるが、テイクバックからフォロースルーに至るラケットの動きは非常にシンプルで、いかなる状況でも当たりの厚い強力なショットを繰り出すことのできるフォアハンドは彼の最大の武器である。テイクバック時点でインパクト面がすでに開いているフォームは決して回転量を上げやすい類ではないが、打点の下からラケットを入れるスイング軌道や状況に応じた多様なフォロースルーなど、彼独特の感性がショットの至る所に散りばめられている。スピンの効いた球種により攻守に渡って我慢強く展開を作る強みを持つが、一方で力みのない鋭い振りでボールを加速させる能力はセンスの高さを思わせ、一撃の切れ味も要注目。特にフォアクロスのラリーにおけるボールの勢いが突出しており、守りながらも相手を押し込むことができる。また、回り込んだ際に逆クロスよりもストレートに一気に引っ張ってウィナーを奪う形を得意としている。外側から巻き込むスイングをしてしまうと左に切れていきやすい高難度のショットだが、彼の場合はボールを真っすぐに押し込む技術があるため精度が高く、相手にとっては落ち着いてラリーをさせてくれない点で脅威である。

立体的でダイナミックな展開を作るシングルバックハンド

 薄いグリップから柔らかいフォームで肘を抜きボールを下から上へこすり上げるクラシカルな技術に、後ろ足体重でもハードヒットで返球する現代的なエッセンスがバランス良く融合したシングルバックハンドは、高い軌道のトップスピンで深さと角度を自在にコントロールした立体的でダイナミックな組み立てと崩しを可能とする完成度の高いショット。ガスケやティームと並んでツアートップクラスに位置する回転量を活かした距離の長いクロスコートの打ち合いは相手にとって脅威だ。ライン際で急激に落ち、強烈に跳ね上がってくるショットにより相手の自由なコース変更を制限すると、自らのタイミングで確実にダウンザラインへの攻撃を仕掛けていく。基本的に外側からボールを巻き込む技術がベースにある分、ストレートへのウィナーが数として多いタイプではないものの、その手札を切った時の決定率は極めて高い。また、スライスでのかわす判断も巧みで、相手を崩して自分で決めるパターンまで持っていける我慢強さもあるため、とにかく簡単にポイントを落とさない。ただし、スライスは技術的には大きな欠点を抱えており、右足を踏み込んで打つことが得意でないため体重が乗らず、どうしてもチップ系の弱い球になってしまう点は大いに向上の余地がある。そのほか攻撃面では決めにかかったショットで少し力んで打点が詰まり威力を失う場面があるのが現状では課題といったところか。

ボールへの正対姿勢が無駄の少ない身のこなしを支える

 テニスの進化を体現したプレーヤーであることを彼から感じるのがベースラインでの身のこなしだ。ボールスピードの上がった現代は、ボールに対してクローズドに踏み込む動きが場合によっては無駄で隙を生むが、そこを彼は基本的にボールに対して常に正対してすべてのショットを放つ。それでいてライジングなどの主体的な攻撃的な打ち方にも対応する。将棋の桂馬の動き方に喩えたいような前身の動きを伴いながらベースラインの内側へ斜めに切れ込んで攻め込む得意なショットはこの能力あってこそで、前後の盛んな動き直しやチャンスを見逃さない嗅覚もあいまって、獰猛なまでに機動的な攻撃テニスを遂行する。守備においてもオープンコートを作らせない堅実な動きが光り、無闇にランニングショットをしないため、仮に1つ1つのショットが多少甘くても、体勢が整っている分だけ攻め切られない。見栄えが良いかは別としても、間違いなく効率的といえる。また、勝負における強みという意味ではフォア、バックともにラリー中のショットの球筋が必ずしも綺麗すぎないことも挙げられるだろう。やや暴れ気味の複雑な回転を意図的に操って相手のペースを乱している。

思いきった判断と丁寧な処理が光るネットプレー

 万能型のテニスを支える要素としてはネットへの積極性も見逃せない。特定の形を作ってネットに詰めるというよりは、相手が隙を見せた瞬間に素早く動き出すイメージで、その思い切った判断力に長ける。アプローチショットも秀逸で、必ずしも速いボールを選択しないことで、ネット前の良い立ち位置を確保するとともに、相手にラケットを合わせる強烈カウンターを打たせない効果もある。ボレーはラケットの引きを極力抑えた非常に丁寧なタッチで主に短く落としてポイントを締める。

全球種を高度に操るサーブ

 高い打点から叩き落とすサーブも彼の武器の1つで、特に綺麗なフラット軌道で最速220km/hを超える高速サーブを得意する。コースとしては両サイドともにワイドを生命線としており、相手に対して十分な意識づけをしておいて、大事な場面でセンターを使うのが彼の傾向だ。パワーだけでなく、十八番としているワイドスライスの入る厳しい角度やその驚異的な精度、スピンサーブの跳ね上がりも水準以上で、なかなかリターン側に的を絞らせない。ただし、トスがやや後ろに上がる分体重が後ろに残りフォア側へのリターンに対応が遅れる点や、ラケットを深く担ぎ過ぎる点、着地後に右足が前方に跳ねてくることからも分かるように上半身が回り過ぎる癖がある点など、技術的に改善の余地が大きいのも事実である。多数の課題を残しながらにして数字上では強力なサービスゲームを築いているのは凄さでもあるが、それらが解消されると更なるスピード上昇も含めたレベルアップも期待できる。

激昂して冷静さを欠く場面と時間は減らしたい

 試合の中でアップダウンの激しいメンタル面は評価が難しいところ。流れを掴んだ時の相手を置き去りにして突っ走る集中力の高さは称賛に値する反面、思い通りのプレーができないと陣営や審判も含めいろいろなものに激昂する場面も見られる。それをすることで一度に怒りを吐き出せているならば少なくともパフォーマンス上は問題ないのだが、彼は数ゲームからセット単位で明らかに冷静さを欠くこともしばしばで、プレーの選択やチャレンジ権の乱発など分かりやすく崩れる傾向がある。また、重要な一戦で有利に進めながら試合の締めで意気込み過ぎて却って肩に力が入ることも多い。タイムバイオレーションの警告を頻繁に受けるのも不安定な精神面が原因だろう。感情を出すこと自体は悪いことではないが、それがメンタルから来る疲労感にも繋がっていることを考えると、総合的にはやはりもう少し落ち着くべきと言わざるを得ず、要改善点の筆頭に挙げておきたい。

技術と力技、攻撃と守備、すべてを備えたスタープレーヤー

 脱力感のある無理のない技術力を駆使してコートを広く使い、確実に相手の弱点を突いてポイントを重ねていくテニスはすでに成熟度が高く、パワーが封じられたら技術と戦術を使うことができ、逆に揺さぶりが効かなければ力技で突破することができる。後方ではフィジカルで耐え凌ぎ、コート内側ではリズムで躍動。すべてを兼ね備えた紛れもないスタープレーヤーであり、一方で同時にまだまだ若手らしい勢いを存分に活かせるいま、一気にトップを窺おうかという位置まで来ている。若い世代の活躍が目立つ近年のツアーだが、中でも10代のうちにトップレベルに食い込むことに成功したチチパスの潜在能力は特筆に値する。長い目で彼の成長を見守っていきたいところだ。

 

Alexander Zverev

アレクサンダー・ズベレフ

 生年月日: 1997.04.20 
 国籍:   ドイツ 
 出身地:  ハンブルク(ドイツ)
 身長:   198cm 
 体重:   90kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: HEAD Gravity Pro 
 プロ転向: 2013 
 コーチ:  Sergi Bruguera, Alexander Zverev Sr. 

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 粘り強いフットワークに支えられた堅牢な守備力と、サーブを筆頭とする長身プレーヤーならではの豪快な一発の魅力を兼備した、将来のグランドスラム優勝が確実視されるドイツの若手スタープレーヤー。基本的なプレースタイルはディフェンス力に優れたカウンター系のストローカータイプで、2m近い大柄なプレーヤーでありながら機動力とボディバランスの良さを持ち味とする点では、大型化の進む近年のツアーにおいても稀有な存在といえ、頂点を目指すうえでの大きなアドバンテージになっている。さらには若手世代の象徴といえるアタッキングエリアの広いテニスの代表格でもあり、コート後方からでも平然とエースが奪えるパワーも見どころだ。大柄なプレーヤーにありがちな力に頼った打ち方ではなく、基本を守った忠実なフォームを会得しているのも特徴で、ショットに関してはすでにほとんど穴は見当たらない。14年に当時17歳にして故郷ハンブルク(500)でベスト4に入り脚光を浴びたが、その後も着実に成長を遂げて15年にはATP新人賞、16年にはトップ30入りに加えて芝のハレでフェデラーを破ったり、サンクトペテルブルク(250)では決勝で当時ツアー決勝戦11連勝中だったバブリンカを下して文句なしの初タイトルを飾った。そして20歳になったばかりの17年ローマ(1000)では決勝でジョコビッチを圧倒するなど鮮烈なマスターズ初優勝を成し遂げたことで、もはや「若手のホープ」という域を抜け出し、一躍トップを脅かす存在となった。18年にはシーズン最終戦ATPファイナルズで王者に輝いており、浮き沈みはありながらも毎年新たな実績を積み重ねている。このような結果を伴った加速度的な成長はまさしく新時代の幕開けを予感させる。肝心要のグランドスラムで思うような結果が出ないことから5セットマッチの弱さが指摘され、また本人の中に焦りも感じられるが、不動のメンタリティを叩き込むことに定評のあるレンドルに短期間とはいえ師事したことを、「勝ち方」を学び得るきっかけにしたい。ドイツ育ちでクレーコートへの適性も高い一方、より得意とするのはスピーディーな真っ向勝負の打ち合いが繰り広げられるハードコートの方であり、攻撃力に磨きがかかってくるであろう今後は芝も含めた高速系サーフェスでのビッグタイトルも期待できる。兄ミーシャもプロテニスプレーヤーで、現在までに10年以上のツアー経験を持つ兄の存在は弟「サーシャ」にとって心強いはずだ。人柄的には生粋の末っ子タイプといったところで、練習コートでの甘え上手な振る舞いや嫌みのないジョークに満ちたインタビューは、「可憐な王子様」然としたルックスもあいまって多くのファンを惹きつけてやまない。

大きな遠心力で飛ばす破壊力抜群のフォアハンド

 長い腕をしなやかに使って大きな遠心力とラケットヘッドの走りでボールにスピードを与えるフォアハンドを持ち、強打の破壊力はツアーでもトップクラスを誇る。球種の変化によってメリハリのある攻守の切り替えを実現できており、後方でのラリーは自らが動かされている分、打点を引きつけたところから軌道を上げたトップスピンで対応し、優位な体勢になれば高い打点を取って一気にウィナーを叩き込む。ショットのスピードは相当なものがあるが、その中でも回転量をコントロールできるのが強みで、同じ攻めのショットでもクロス方向には重いスピンで角度をつけ、ストレートや回り込み逆クロスにはフラットに引いていく。特にクロスに引っ張る強打は激しいラリー戦の中、連続で何本打ってもコーナーの同じスポットにコントロールできるほど正確だ。ただし、外側から巻き込むようなスイングがベースにある分、逆クロス方向へのコントロールがあまり得意でなかったり、下からボールを擦りすぎてスピン過多により失速したりと、クオリティにムラがあるのがフォアの弱点であり、好不調の兆候が最もわかりやすく表れる点がバロメーターと言われる所以である。威力の面ではインパクトの際にやや上体が横に流れる癖があるため、ボールに体重が乗らず弾かれたような力のない返球になることも多く、精度の面では逆クロス系のショットが右側に切れていくミスとスライスに対してラケットにうまくボールが乗らず薄い当たりでネットに掛けるミスが目立つ。それでもここ最近は弱点克服の取り組みが結実したのか、明らかに要領を掴んだかのように滑ってくるスライスの威力を利用してウィナーに転換するシーンが増えている。

高い打点から突き刺すバックハンドは最大の武器

 バックハンドはボールの鋭さはフォアにも劣らず、さらにミスを出す気配がない安定性や、深く肩を入れる上半身の捻りとラケットを立てて構えるフォームの特徴によるコースの読みにくさが際立つショットで、壁のようなディフェンスからの展開を活かしたい彼のテニスにあって大きな武器となっている。軌道はそれほど高く上げずにネット上低いところを通していくにもかかわらず精度が高いのは、スタンスを問わずボールに入る足運びが常に一定であることに加え、華奢に見えて実は強靭な下半身あってこそであり、とりわけオープンスタンスでの返球時に左膝が外側に逃げずに踏ん張れるあたりはジョコビッチを彷彿とさせ、実際に厳しい角度をつけられてもそれ以上の角度で返球したり、ストレートのコーナーへ切り返したりと、相手に対して十分な脅威を与えることができている。一方、前に踏み込んで高い打点からクロスの驚異的なアングルに突き刺す強烈なフラットショットを駆使した波状攻撃や、思い切りの良い2ndリターンでも見られるコートの外側からカウンター気味に繰り出すダウンザラインなど、一撃の切れ味も抜群だ。また、コート中央に返ってきたボールに対して他の多くのプレーヤーと異なり返球の早さを重視してバックで対応する特徴があり、これを逆クロス方向に流すショットが決まりだすと非常にリズムが生まれる。フォア同様に緩いスライスを集められることがこのところ多く、飛んでくるボールの威力を利用させない戦術への対抗策に苦心している。上位陣は様々な球種を駆使してズベレフのストロークをかき乱そうとする傾向にあり、スライスもその一手だが、それは中高速のペースが一定する弾丸ラリーの土俵における彼の強さを認め、実際にボールの質に脅威を感じているからにほかならない。ゆえに彼としてはさらにその上を行く形で、変化をつける余裕を与えないために、先制攻撃を仕掛けて自分のペースで戦う頻度を高める意図で、攻めの展開をより早くしている。ただし、正面からの打ち合いこそ彼の真骨頂であることを考えると、力を抑えてまでコース変更していく必要はない。実際にクロスからストレートへ流すショットが大きくロングするケースが多く、あくまで先に仕掛けて主導権を握ることを戦略のテーマに据えるべきだろう。

圧倒的な脚力を活かした守備範囲の広さ

 ストローク全体を通して感じるのは何といっても動きの良さで、長身の割にはという色眼鏡を外しても圧倒的な脚力を活かした俊敏さや戻りの速さは非常に高いレベルにある。そして球際の強さで跳ね返すショットの深さは驚異的で、攻守一体のテニスを築き上げている。ベースラインから下がった位置でボールを打ち抜く守備的なスタイルが元々強さのベースにあるため、膝をしっかりと折ってショットを打つことに慣れており、長身でありながら低い打点を苦にしないというのが大きな強み。したがって、スピードで振り切ろうとする相手には粘り強さを発揮するが、逆にはじめから長いラリー勝負を意図し、スピンやスライスを駆使して繋いでくるタイプの相手にやや苦手意識があるのか、ショットの精度に狂いが生じミスが増える傾向にある。また、重要な局面で大事に行きすぎてラケットの振り抜きが悪くなることがあり、メンタル的にもアグレッシブさの持続が課題となっている。そこでフィジカルの向上と並行して球威アップを図り、ネットプレーも増やしながら徐々に攻撃的なスタイルを確立しようと模索しているのが現段階で、試合を追うごとに成長を感じさせる。

ラケットワークに危うさの残るボレー

 ネットプレーは元来あまり得意ではなく、アプローチを打ってネットに詰める動きやボレーのラケットワークには明らかに危うさが感じられる。それでも積極的にネットを取って試合の中で習得しようとする意欲は高く評価でき、年々ストローク戦からネットプレーへの正しい移行、ポイントを奪うに十分な丁寧なボレーを自分のものにしている。また彼の場合、最も身近なところに兄のミーシャというボレーの手本があり、ダブルスでペアを組むことも多いだけに、そこから学び技術を盗むことにも期待したい。

角度とスピードが突出した強気なサーブ

 高い打点から打ち下ろす角度が相手を苦しめるサーブも持ち味で、220km/hを超えるフラットサーブのパワーで押し込んでいく。また、リターン側にとってこの上なく厄介なのがとりわけデュースサイドでワイドに切れていく高速のスライスサーブ。長身ならではの縦横の角度がエースの量産を生み出し、2ndでも強気の配球で容易な返球を許さない。スピン系の球種で相手のボディを狙うサーブも含めて、2ndは深さとスピードが際立っている。1stの確率も概して高く、ラインを捉える強烈なサーブが安定して入ってくる試合で彼からブレークを奪うのは困難を極める。ただし、続けて入らなくなる時間帯があり、プレッシャーのかかる局面でのダブルフォルトの多さも目に付く。特に19年頃は1試合に二桁のダブルフォルトを記録することが日常茶飯事となり、自信を喪失してテニス全体も極度の不調に陥るという悪循環に嵌ってしまった。明らかにそれは本来の姿ではなく、時が解決してくれるのを待つ手もあるが、元々ネットに掛けるフォルトが多かったことからも、いま一度フォーム等を見直してしっかりとスピンをかける取り組みも必要かもしれない。いずれにしてもさらに盤石なサービスゲームを手に入れるには総合的なレベルアップが必要だ。

反応の速さとリーチの長さが融合したリターン

 リターンの強さも彼のテニスにおける重要な要素の1つで、サーブよりもリターンで勝ち星を拾っている印象の試合も多くある。大柄な体格には似つかわしくない反応の速さと、逆に長身ならではともいえるリーチの長さが融合しているのが彼のリターンの特徴で、厳しいコースを突くサーブでも非常にクリーンに返球できる。このあたりもズベレフが過去にはいなかった新種のプレーヤーであることの証だ。

強みにも弱みにもなる勝ち気の強さ

 非常に気性は荒く、ラケット破壊などの好ましくない行為も頻繁にあるが、それはメンタルの弱さというよりも並外れた勝ち気の強さが原因で、怒りの感情が外に出てはいても試合を諦めることは基本的にないのが彼の特徴である。ポイントを取って雄叫びを上げるといったポジティブな面は維持しつつ、もう少し冷静に試合を運べるよう徐々に落ち着きを身につけたいところだ。また、プレー選択に迷いが生じ考え込む雰囲気が出始めると、シンプルに強い打球を打ち続けるという彼の最大の強みが薄れるため、彼に限っては戦術は二の次にしても一球入魂の姿勢を大事にしてほしい。

戦術的思考が身につけば鬼に金棒

 テニス一家の生まれでジュニア時代の実績なども考えればプレッシャーも大きいはずだが、プロ転向後のこれまでのキャリアは順調の一言。線の細さが否めなかったフィジカル面もトレーナーと共に中長期的に筋力を増やすメニューに取り組んできたことで、ツアーでも打ち負けないパワーや持久力を徐々に積み上げている。トップへの駆け上がりが予想以上にハイスピードかつセンセーショナルだっただけに、スライス多用をはじめとしたズベレフ対策の研究も上位陣の間では着々と進んでおり、最近は自分のテニスをさせてもらえない状況で戦い方がちぐはぐになる脆さも覗かせている。フィジカルの強化には引き続き重点を置くとともに、種々の技術的課題が改善され、さらには相手の弱点を突いたり、武器に対して柔軟に対応するなど、戦術的な思考を身につけることができればまさに鬼に金棒。精度が犠牲にならないバックの強打の迫力はツアーNo.1、サーブとフォアの出来が結果の成否を左右するというタイプだが、そのサーブとフォアが乱れない大会では誰も敵わない圧倒的な強さを誇る。21年に開催された東京五輪での金メダル獲得はまさにその好例であった。ATPでは16年より“NextGen”と銘打って次世代の奮起に大きな期待をかけたが、その嚆矢となった彼とキリオスはやはり存在感において頭一つ抜けていると言ってよく、長くテニス界を牽引するビッグ4も彼らとの対戦では危機感にも似た緊張感と、それゆえの本気度をもって挑戦を受けている雰囲気がひしひしと伝わっていた。ビッグ4も全員が30代に突入したが、ズベレフにはその後の時代を担うスターとしてはもちろんだが、彼らの衰退を待つまでもなく自ら壁を越えて引導を渡すような姿を見せてほしい。同世代の中で切磋琢磨しながら日々階段を駆け上がる彼の将来は必見だ。