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20200215102533

Dominic Thiem

ドミニク・ティーム

 生年月日: 1993.09.03 
 国籍:   オーストリア 
 出身地:   ウィーナー・ノイシュタット(オーストリア
 身長:   185cm 
 体重:   79kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: Babolat Pure Strike 98 18×20 
 プロ転向: 2011 
 コーチ:  Nicolas Massu 

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 運動神経の良さを活かしてコートを激しく駆け回り、リズム感の良い大きなフォームから繰り出す凄まじい強打の球威で相手の守備壁を打ち破る攻撃志向の強いテニスを武器に、近く世界の頂点を狙うオーストリア期待のハードヒッター。14年に突如として頭角を現し、15年ニース(250)でツアー初優勝を飾ると、16年にはクレー・ハード・芝の異なる3つのサーフェスでタイトルを獲得して一気にトップ10へと飛躍を果たした。ジュニア時代から、過去にベッカーやルコントを指導し、最近ではグルビスの才能を甦らせるなど、その手腕が高く評価されるブレスニクの薫陶を受けて育ってきた逸材であり、見る者を虜にする華麗なプレースタイルはスター性も十分で、次世代の中心を担う1人として大成が待たれる。すべてのショットに全身の力を目一杯使うという自らのテニスを貫く手段として、相手との距離を長くとるためにベースラインから5m下がることも厭わないスタイルにおいては、コートをカバーする範囲も相当広がるため、瞬発系・持久系ともにかなりのフィジカルが要求されるが、それが完成した暁には無限の可能性が眼前に広がるだろう。クレーコートを滅法得意とし、すでにナダルフェデラージョコビッチ、バブリンカといった歴戦の強豪を撃破する活躍を見せるなど、「次代のクレーキング」としてツアー屈指の存在感を放っている。クレーでの強さは一段階突き抜けて際立っており、全仏における16年、17年のベスト4、18年、19年の準優勝という4年連続の好成績もそれほど意外には感じさせず、ナダルという巨大な壁を打ち砕いて新しい全仏チャンピオンが誕生するとすれば彼しかいないとの認識が共有されているほどの実力の持ち主である。一方で、元々は手を焼いていた速いサーフェスにも年を追うごとに適応し、19年インディアンウェルズ(1000)でのマスターズ初優勝、そして20年全米で成し遂げたグランドスラム初優勝はいずれもハードコートであった。最近ではハードの方が心地良いといったニュアンスの発言すら増えてきている。

屈指のパワーと回転量で放つフォアハンドは豪快の一言

 リストの強さで爆発的なインパクトを作り、ボールに強烈なスピンやスピードを与えるフォアハンドは、彼の攻撃的なテニスを支える最大の武器である。上半身の大きな捻りとダイナミックなテイクバックでボールを体の近くまで引きつけ、そこから一気に巻き上げるように振り抜く鋭いスイングから放たれるフォームは、どこか若き日のロディックを彷彿とさせ、高い打点からフルパワーで打ち抜いてコーナーに突き刺すウィナーはまさに豪快の一言。主な球種は重く弾むスピンボールで、軌道を大きく上げながらもそれが守りではなく攻めのショットとして相手を押し込んでいけるのが特徴で、ネットミスのリスクは比較的低く抑えて戦える点がクレーでの強さの要因の1つといえ、ヘビートップスピンで大きく角度をつけて長いラリーを支配し、最終的には回り込みのフォアで逆クロスのアングルに叩き込む形を得意としている。また、クロスコートのラリーからダウンザラインに展開するショットも独特な魅力を持ち、サイドアウトしそうな軌道からコート内に戻してくるようなスピンを操る。フォアの回転量はツアー屈指で、彼のように肩より高い打点から斜め上方向に打ち出してもアウトせずにコート内にボールを収めることのできるプレーヤーはそう多くはいない。一方、左右に振られてもバランスを崩さずに強いボールが打てるのも強みで、守勢から一発で形勢を覆すランニングカウンターショットでも相手を脅かす。また、フォア側のディフェンスにおいては地面ギリギリの高さからスライス面で叩く対応も見事で、スピンのカウンターに勝るとも劣らない威力がある。守備力についてフォア側に限れば現在のツアーでは彼がトップではないだろうか。課題は長所と隣り合わせに接しており、ベースライン後方からでも圧倒的なショットのキレとパワーで攻撃できる能力は脅威だが、これはあまりにリスキーで、ミスになるリスクの大きさに対して距離が長い分一本で決まる可能性も高くない。理詰めの展開を作って徐々にポジションを上げた中で、チャンスボールを確実に仕留めるようなポイントパターンが増えると、安定感も出てくるだろう。

高い打点や苦しい体勢をものともしない特異な片手バックハンド

 かなり厚いグリップと肘を曲げずに引くテイクバックから、ラケットヘッドが落ちることなくボールを上から一直線に叩くようにして繰り出される独特なシングルハンドのバックハンドは、一般的な片手バックのプレーヤーよりもやや遅れ気味で一見詰まったようにも見える打点でボールを捉えるため、懐が深くコースが読みにくいのが特徴。本来胸より高い打点では力の入りづらい片手打ちだが、彼はそのあたりで捉えることがもはやスタンダードとなっており、苦もなくパワフルなショットを放つ。クレーの試合やある程度長いラリーでは、後ろ足に体重を乗せながらトップスピンをかけて高さと深さを出していくが、粘り強い返球で浅いボールを引き出すと一転、一気に前に踏み込んで強力なフラット系のハードヒットでウィナーを狙いにいく。技術的には右足の踏み込みがとれない状況で、オープンスタンスや下がりながらの苦しい体勢からでも、斜め後ろ方向に地面を蹴り上げることで力を溜めると同時に、体の前に十分なスペースを作ってストレートへの攻撃的な展開を使えるのが非常に優れた点で、下がりながらラケットを一閃してダウンザラインへのウィナーに転換する爆発力は圧巻だ。このように空中でも軸がぶれず平然と攻撃的な打ち方ができるのは強靭な体幹があってこそであり、他のプレーヤーにはなかなか真似できないティーム固有の武器と言っていい。こうした押し込まれたラリーを制する力も十分に備えているという意味では、守りながら攻める最先端のテニスを習得しているといえる。以前は早いタイミングで捉えて相手の時間を奪うショットが少なく、強打は後方でボールを呼び込んで打つことがほとんどなため、ボールに威力はあっても相手は対応できてしまうというハードヒットにおける課題があり、下がって振り抜く強打は武器として残しつつ、思い切って踏み込んでコンパクトにダウンザラインへ流す割合をもう少し増やしたい状況がしばらく続いていた。しかし、19年以降のハードコートでの目覚ましい躍進はまさにこの点を改良したことが転機だったと言ってよく、高めのポジションを保ち、低弾道のスピードショットを繰り出す頻度を大きく上げたことで、ラリーを早い段階で仕留められる展開が増えた。ダウンザラインも今や確信に満ちた高精度を誇り、ベースライン付近でライジングの打点が腰の高さになるボールには体を伸び上がりながら捉えるタイミングを完全に掴んでいる。したがって、中途半端に深い球は対ティームで最も危険であり、深さで押し込むためには相当な深さが必要で、そうでないなら角度をとって攻めた方が得策な可能性が高い。あとは特にハードコートでの試合ではクロスコートの打ち合いでもう少し深さではなく角度がついてくるとオープンコートも作りやすくなり、結果的に攻めを早くすることが可能になるはずだ。低く滑るスライスや同じフォームからドロップショットを駆使してペースを変えるのもスムーズで、特にここ最近バック全体に占めるスライスの割合が増えているが、そのアンフォーストエラーの少なさは特筆に値する。それにより戦術的な手札も数多く備えるが、実際にそれらを効果的に使えているかといえば必ずしもそうではなく、大きくポジションを下げボールを待ったうえで放つスライスは、自らのミスを減らせることには繋がっても、相手のミスを誘発する効果は限定的であり、もう少し高い位置で捌けるような技術を習得するとより相手に圧力を加える武器になるだろう。

すべてのショットに意図、フルスイングでも芯を外さない技術力

 全体として彼のストロークで際立つのは、すべてのショットに確固たる意図が見えることで、相手がバランスを崩したと見るや早いタイミングで捉えたり、逆に押されている時にはロブに近い極端に高い軌道で形勢をイーブンに戻したり、深さを求めるショット、角度をつけて相手を走らせるショット、ポイントを締めにかかるハードヒットなど1つ1つ的確な状況判断に基づいてショットを選択できる力と、それに加えてフルスイングの中でもラケットのスイートスポットを外さない技術力の高さがラリーでの強さを生んでいる。ただ、すべてのボールをフルパワーで打ち抜くスタイルは相手を防戦一方に立たせる意味で脅威だが、それが3セットないし5セット持続できるのかという疑問がおそらく彼のキャリアを通して付き纏うことにはなるだろう。破壊力抜群のハードヒットが最大の武器とはいえ、エースでしかポイントを取れないという試合展開が上位陣との対戦で目立ち、感覚が狂うと堰を切ったようにエラーを連発して自滅するのが現状弱みとなっている。

ネット際の攻防も軽やかにこなす

 基本的にテンポは上げずに常にしっかりとボールを引き込んでストロークを放ち、パワーで相手を押し切りたいのが彼の志向だが、角度をつけたアプローチやリターンダッシュなど、あらゆる形で軽やかにネットを取ってボレーで決めることもでき、とりわけ格上相手の試合では積極的にネットプレーを試みる。アプローチショットとネットに詰める動きの連動性に乏しく、全力のスイングが終わってから脚が動き始める点は向上の余地があるが。また、基本ポジションをかなり後ろに取っていることから、前に落とす展開を使われることも多いが、フォア側もバック側も自慢の脚力で素早く追いつき巧みな処理で反撃するなど守備も堅い。こうしたオールラウンドなプレーが本来できるプレーヤーだが、自信を喪失するとベースラインに固執する局面が増え始め、ストロークでも振り抜きが緩くなってボールが抜ける傾向にある。フルスイングをしている中でエラーが嵩むのはさほど問題ないが、スイングスピードが落ちている時期は要注意だ。

規格外のスピンサーブが代名詞

 ストローク同様全身を大きく使ったフォームが特徴のサーブも武器の1つで、最速220km/hを超えるフラットサーブに加え、とりわけアドバンテージサイドで多用する、強烈な回転によって外側に高く弾ませて相手の体勢を崩す規格外のスピンサーブはティームの代名詞である。また、キック系が打ちやすい体の後ろ側へのトスからスライスやフラットを繰り出すことができ、特に予測の鋭い上位陣相手には有効な技術として機能している。回転系のサーブを得意とする分、2ndでも攻め込まれず安定してポイントが取れるのも強みである。威力の割にエースが少ないのが現状では課題で、それはスピードに頼っていることが大きな要因。どんなにスピードが速くても直線的に飛んでくるボールは上位陣にとっては返しやすいサーブに過ぎない。エースを狙う速いサーブの確率がそもそも低い点も課題といえ、クレーほどスピンサーブが生きないハードコートではその精度の悪さが露見している。決してエースを量産するタイプでは元々ないが、スピンサーブを軸に据えた配球バランスに磨きをかけつつ、相手の逆を突くうまさとラインを捉える正確性を上げて勝負所で狙ってエースを奪えるようになってくると、盤石のサービスゲームを構築できそうだ。

前後のポジションで繰り出す2種類のリターン

 リターンは主にポジションを下げて力強いショットを深く返球することが多いが、2ndに対して前に入って叩くこともできるなど、十分にレベルの高い技術を備えている。ただし、技術と戦術のバランスが噛み合っていない印象もあり、ここ最近高い位置でコンパクトに合わせるリターンを強化しようという狙いが見えるが、基本的なスタンスがベースラインから3m以上下がってラリーをするタイプである分、4球目の返球ですぐにポジションを下げてしまう癖があり、早いタイミングでの鋭いリターンで甘いボールを引き出せているにもかかわらずそのチャンスを活かし切れていないのがもったいない。また、シンプルなブロック系の増える時間帯には相手がそれを見抜いてサーブ&ボレーを使ってくる傾向も見られ、このあたりの駆け引きにもう少し狡猾さが欲しいところではある。加えて、意外にもタイブレーク突入率が高いのが気がかりな点で、リターン力とは別にブレークを奪う力という面で向上の余地を残している。加えて、リターンゲームに限らず、格下相手でも接戦のロングマッチが多いのは試合全体をマネジメントするうまさがまだ培われていないからだが、ここに改善が見られて勝ち方に貫録が出てくれば本格的にトップに定着する下地が整ったといえるだろう。

敗戦を糧にできる忍耐強いメンタリティ

 駆け出しの頃に、将来の有望株としてワイルドカードを貰ってツアーに出場するのではなく、予選を戦い抜いて自ら出場権を勝ち取ってきたことで、メンタルの強さが着実に培われているのも今後の展望が明るい理由の1つ。シーズンを通じて気持ちが切れることが少なく、調子が悪くても勝利に漕ぎつけられるのがコンスタントに結果が残せている要因だ。しばしば彼の人柄について「好青年」と表現されることがあるように、試合の中でも人の良さが顔を覗かせ、明らかに硬さが出て敗れるようなシーンもあるが、彼が素晴らしいのは敗戦を糧に次の対戦では明確に戦略を変えて戦うなど着実に成長した姿を披露するところだ。

GSチャンピオンの肩書きを提げて成熟期へ突入

 全体にフォームが大きい分、速めのサーフェスでは強打の後の対応が遅れがちな弱点がある。速いリズムの打ち合いではショットの軌道を上げきれず、彼にとってややオーバーペースとなりミスが出やすい。とはいえ、そうした弱みを露呈するのはほとんどトップ10級との対戦に限られており、メンタル的な焦りから攻め急ぎが生じてのミス増加と見ることもできる。つまり、彼のような頂点を目指すスターにとってこれは避けられないプロセスであり、経験を積む中で自然と改善されてくるだろう。チャンスになると突然手足の動きが硬くなるなど、外から見て精神面の浮き沈みがわかりやすい点は解消したいが、各ショットの猛烈な球威は十二分に上位陣を脅かしており、現段階ではむしろパワーとスピードを軸に自身特有の勢いを存分に活かしつつ、フィジカルレベルの向上に努めるとともに、戦術的には繋ぎのショットとハードヒットの緩急を操れるようになりたいところ。技術的・戦術的に課題も多く残されているが、トップにも臆することなく立ち向かう果敢なメンタリティと躍動感溢れるテニスで、ファンのみならずATPをはじめ多くの関係者も太鼓判を押す。当代の2強であるジョコビッチナダル両者にとって下の世代で最強の敵がティームであり、「予測はできても力で粉砕される」という稀有な脅威が心技体のすべてに堪える。ついにグランドスラムのチャンピオンに仲間入りし成熟期へと足を踏み入れクレバーさをも身につけたティームの活躍から目が離せない。

 

Kei Nishikori

錦織圭

 生年月日: 1989.12.29 
 国籍:   日本 
 出身地:  島根県(日本)
 身長:   178cm 
 体重:   73kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  UNIQLO 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Wilson Ultra Tour 95 
 プロ転向: 2007 
 コーチ:  Michael Chang, Max Mirnyi 

 類稀なテニスセンスがベースとなった卓越した技術力とそれらが織り成す多彩なゲームメイクを武器に世界と渡り合う日本テニス界の至宝。08年にデルレイビーチ(250*)で当時18歳ながら予選勝ち上がりからツアー初優勝を飾ると、初出場の全米では第4シードのフェレールを破る番狂わせを起こして4回戦に進出するなど鮮烈なデビューを果たしATPの新人賞を獲得。以後数年間は度重なる怪我に苦しみ、不遇の時を過ごしたが、ついに11年終盤に潜在能力を本格開花させ、上海マスターズ(1000)で準決勝進出、バーゼルではNo.1ジョコビッチから大金星を挙げると、勢いそのままに松岡修造の持つ日本人最高位を大幅に更新した。さらに14年には全米でラオニッチ、バブリンカをフルセットで下し、準決勝ではジョコビッチを圧倒して決勝に進出したほか、マスターズでベスト4以上が3大会、ATPツアーファイナルズでも初出場でベスト4を記録するなどセンセーションを巻き起こし、日本人やアジア人といった枠を完全に超越し、まさにツアーを席巻した。その後もトップ10としての実力を証明するようなハイレベルなパフォーマンスを維持し、16年にはリオ五輪で日本勢としては熊谷一弥以来96年ぶりの表彰台となる銅メダルを獲得した。精度が高く球種が豊富なストロークを主体に、ラリーをコントロールしながら徐々に自分の形に持っていき、相手の隙を見逃さずにポイントを取る、非常に頭脳的かつ計算高いプレースタイルが強さのベースとなっており、今やラリーで最も強いプレーヤーとの呼び声も高い。どんなショットも軽々しく打つ点や随所で見せるイマジネーションに富んだショットセレクションは、生まれ持った才能によるところが大きく、体格で他に劣る錦織が世界で活躍できる大きな要因となっている。ポジショニングと機動力を武器とする彼にとって、最も力を発揮しやすいのはやはりハードコートであるが、他のサーフェスに特別苦手意識は持っておらず、特にフォアの強烈なスピンボールなどはクレーとの相性が良く、さらにクレーでの試合であることを忘れさせるテンポの速いプレーは革命的と言われ、世界に衝撃を与えている。

早めのセットでボールを十分に呼び込みコースを隠すフォアハンド

 非常に厚いグリップから放たれるフォアハンドは本来の彼の最大の武器であり、多彩なショットを自由自在に操ることができる。早めにラケットを引いてセットを完了させることで、ボールを呼び込む懐の深さが生まれ、そこから振り抜くスイングスピードも極めて速いため、相手とするとコースがまったく読めない。強打で相手を押し込むことも、アングルに打って走らせることもでき、ストローク戦の主導権を巧みに手繰り寄せる。こうしたフォアの強さにはジュニア時代から定評があり、それを嫌がる相手からはバック側にボールを集められることもあるが、そうなった時こそ彼の真骨頂が表れる。回り込んでのフォア強打やそこからのフォアのドロップショット、あるいはバックのダウンザラインなど、元々多いプレーのバリエーションの中でも特にこのバック側からの攻撃はどんな相手をも苦しめる。また、チャンス時にウィナーを狙って放つフォアのジャンピングショット、いわゆる“Air-K”は彼固有の技である。ただし、相手として突くべき弱点がフォア側にあるのも事実で、外側に逃げていく軌道の強いボールへの対応でややラケットが弾かれたり打点がぶれて泳ぐようなシーンが散見され、押し込まれた時のフォアには改善の余地が残されている。

ツアーで最高評価を得る自在性抜群のバックハンド

 ツアーではフォア以上にその強さが高い評価を得るバックハンドは威力、安定感、自在性が非常に高い次元でバランスよく融合しており、とにかくコンパクトなスイングでボールを捉えるテンポの速さ、そしてあれほど滑らかかつ強力にコントロールし続けられるプレーヤーは他にいないと言われる配球範囲の広さを活かして、ラリーの中で常に優位に立つことができる。スピンをかけてライン際に落とすために、テイクバックでラケットヘッドをしっかりと下げて、インパクトの瞬間に一気にそれを返すことで、コースの読みにくいフォームを実現している。スクエアとオープンのスタンスや、打点の高低を問わず、悪い体勢からでも常にカウンター気味のショットで安定して深さを出したり、角度をつけて正確にアングルに打てることが最大の強みで、勝負所では彼の身長からは考えにくいようなショートクロスや、コートの内側に踏み込んでの強烈なダウンザラインなど、いわゆるスーパーショットも多いが、それ以上にフォアのアングルやデュースサイドからのワイドサーブで相手を崩した後、オープンコートのクロスにしっかりと引っ張り、正確にコントロールして平然とエースを奪ってしまうのが本当の凄さである。ただし、彼の中で最も信じられるポイントの取り方がバックのクロスコートである分、重要な場面ほどそのラリーを選択することが多く、ほとんどの相手にはそれで優位に立てるのだが、バックが強いプレーヤーを相手にしてそれがうまくいかないと苦戦する傾向はある。ドロップショットはフォアからはボールの勢いを殺してネット前に落とす球種を選択し、そのままウィナーになるケースが多いが、バックでは浅いスライスを打つような形でバウンド後に低く滑る球種を操り、拾われたボールを次で確実に決めるパターンを好む。

両サイドに確実に打ち分けるコース変更の技術

 ストローク全体を通して感じるのはコース変更のうまさであり、通常なら難しいボールにも無理をすることなく、スムーズに展開することができる。そのためラリー戦ではコートを縦に3分割した時に真ん中のゾーンへのプレースメントが極めて少ないのが特徴で、相手にカウンターのチャンスを与えない精度の高さは驚異的だ。また、相手との間の取り合いの中で、リズムを変えるために突然ループやドロップショットを交ぜて相手を崩していくあたりに、ツアー屈指の技術力を垣間見ることができる。特にグリップチェンジを完全に隠して放つドロップショットは、相手の読みを外すコース取りの多彩さもあいまって高確率でポイントに繋げる。今の彼より速いリズムでラリーを展開できるのはフェデラーぐらいで、だからこそ彼自身フェデラーを「最大の壁」と認識しているのだが、容赦なくテンポを上げて相手を振り切っていくハードコートでの戦い方はそう簡単には打ち破られない。

頻度が高まっているネットプレー

 ネットプレーでポイントを取る形も最近では増えており、隙あらばネットへという積極的な姿勢が見られる。そんな中でもポイント獲得率が高いのが特徴で、ボレーにおけるタッチの感覚は突出して良いわけではないが、予測力の高さと反応の速さが際立ち、また高い数字を記録している最大の理由はアプローチショットの質にある。明らかにドロップショットを打つ体勢から長いフォロースルーで深く滑るアプローチを打ったり、逆に強打を意識させて前に落としたりと、常に相手を惑わすトリッキーな動きを見せる。グリップの問題でフォア、バックともにハイボレーの威力が不足している点や、スマッシュの精度が致命的に低くミスが多い点、流れに任せて処理がやや雑になる傾向があるなど課題も多いが、これらを改善すれば本格的に武器としてネットプレーを使えるようになるだろう。

試行錯誤を繰り返して弱点克服を狙うサーブ

 サーブは技術面では唯一といっていい大きな課題で、更なる躍進を阻む原因となっている。ここ数年の肉体改造により、200km/h以上のスピードは出せるようになったことでエースの数は増加し、またワイドサーブからの展開でオープンコートにウィナーを奪う形も確立して安定したサービスキープは実現している点で、客観的に見れば少なくとも1stはもはや弱点とは言えないレベルに達している。それには相手の読みの裏をかく配球やコントロール、あるいはサーブ以降の巧みな処理も寄与しているが、それでもやはりパワー1つで圧倒するようなゲームが作れないことは、とりわけリターンからの攻めや揺さぶりに長ける上位陣との戦いでは厳しさを露呈し、ダブルフォルトが増えていく傾向もある。数字の上で見る以上に、彼自身の考えではサーブのフリーポイントが少ないことに対して懸念があるようで、その他の要素で楽にポイントを取る方法を模索した結果として、攻めを急ぎミスを重ねるというのが最近の主な敗因に繋がっている面がある。とはいえ、豊かな発想力で弱点克服に努める姿勢は大いに評価でき、ポイントを取りたい前のめりな気持ちが透けて見える中での使用など見直すべき点もあるが、ストローク戦を挑みづらい特定の相手に対してサーブ&ボレーを奇襲にとどまらない1つの有効な選択肢として取り入れたり、スピードを落として曲がり幅を重視したスライスサーブを使ったりという新たな試みは注目したい。2ndもスピンサーブの跳ね上がりの勢いが増したことや、足を摺り寄せないフォームへの変更によりコースを突く精度と安定感がアップしたことで平均的なポイント獲得率は高くなっているが、押され気味の展開の中で1stの確率が低下し、2ndを継続的に打つような状況では、コースが非常に甘く、容赦なく強打で叩かれてしまう。フォーム的な修正点は上半身の捻りと開きで、トスアップ時点での捻りを幾分増やすことでコースの読みづらさを高め、体の開きを抑えてパワーロスも減らしたい。また、サーブの質自体は近年飛躍的に向上しているが、相手のサーブをある程度簡単にブレークできる試合では、自らのサービスゲームもあっさりと落としてしまう傾向があり、不用意な接戦を招く原因となっている。

好調時のリターンは圧巻の一言

 逆にリターンは以前から得意とするところで、反応の良さが際立ち、ラインを捉えるようなサーブ以外はしっかりとラケットの面を作って深く返球する。好調時のリターン力は圧巻の一言で、一段と腰を低くした構えからビッグサーバーの速いボールや弾むボールなど、どんな球種にも対応するそのクオリティの高さは、リターンの技術ではナンバー1のジョコビッチをも凌駕する。特にアドバンテージサイドでワイドにキックしてくる2ndに対して、前に入ってバックハンドでストレートにエースを取る技術は天下一品だ。リーチが長くない分被エースは多く、リターンミスも含めて1stへの総合的な対応力には向上の余地があるが、届いたボールを攻撃的なリターンに転換するセンスはツアー屈指で、相手に対してかなりのプレッシャーをかけることができており、高いブレーク率に繋がっている。ツアーの中ではボディにサーブを集めるという作戦が対錦織の常套戦略となっているが、対応力に優れる彼は短期間でその弱点を克服することに成功した。また、最近になって鋭く滑らせるスライスのリターンや、叩いてそのままネットへという動きもオプションに加わり、より多彩さが増している。

ショットに余裕を生む予測力とフットワーク

 フットワークも俊敏で、対戦した多くのプレーヤーが彼の足の速さを称賛する。事実、世界での一般的な評価としては「非常にスピードが速いプレーヤー」となっている。守備局面においては予測能力の高さが光り、それが武器である回り込みフォアの強打や巧みな判断力を生み出している。この読みの良さがあるからこそ、すべてのショットに余裕をもって入ることができ、チャンスを逃さない守から攻への素早い切り替えが可能になるのである。速い展開でネットに詰めてきた相手に対しては、両サイドともに正確なパッシングショットで抜くことも、読みを完全に外して計ったように絶妙なトップスピンロブで抜いていくこともでき、ディフェンス能力にも穴はない。

真骨頂は“間”の支配力

 彼のテニスでは、ライジングで叩き返すリターンや強烈なフォア、自在性の高いバックなどの強打系統が印象には残りやすいが、それらも彼がポイントを組み立て、相手を追い込むための道具の1つにすぎない。むしろその真骨頂は“間”の支配力であり、相手のリズムと呼吸を読んで外したり、逆に押し込んでいくタイミングを見極める感覚の鋭さにある。近年彼がより上のステージを目指す過程には、ギルバートがコーチの時代に守備をしっかりと固め、確率高く勝てる土台を作り上げたうえで、そこに彼らしい独特のアイディアも絡めた速射砲型の攻撃的な展開を上乗せしていく形を模索し、それが14年に実を結ぶ形となり大躍進を生んだ。持ち前の豊富な感性や適応能力の高さと基礎を固めた堅実なプレーとのベストバランスを確立することができてくれば、一時代を築く可能性も大いにあるだろう。

接戦を計算に入れた準備がファイナルセット勝率の高さの秘訣

 メンタル面の強さもトップレベルで、ファイナルセットに突入した試合の勝率が歴代トップに位置するように、ロングマッチには滅法強い。元々比較的スロースタートなタイプであり、最近では格下相手が序盤から捨て身の攻撃を仕掛けてくるため、先行を許す傾向にさらに拍車がかかっているが、初めからフルセットを計算に入れ、試合の中で徐々に相手を分析していき、勝負所で意図してギアを上げることで、最終的に勝利に漕ぎつける強かさを持つ。ビッグ4のような格上相手でも決して萎縮することはなく、また瀬戸際まで追い込まれても最後まで試合を捨てない姿勢によって、これまでに幾度となく大舞台でのアップセットや大逆転勝ちを演じている。課題があるとすれば、勝つために自分がすべきプレーを見失ったまま最後まで立て直すことができずに敗戦を喫することが時折ある点か。1つのショット、1つの戦術が機能せずとも、彼ほどの多彩さがあれば本来焦る必要はないはずだが、それにこだわりすぎて相手との勝負を二の次にしてしまうところがあり、今後考え方を見直す余地はある。また、流れが自分側に来ている中で相手を引き離そうとした時にプレーが雑になって不用意にカムバックを許す傾向もある。加えて、もう少し相手に対して弱みを見せるような振る舞いを減らしたいのも事実。控えめな性格上、雄叫びや派手なガッツポーズで観客を巻き込みながら相手を威圧していくようなことが少ないのはある程度仕方ないとしても、そうであれば治療のためのタイムアウトも含めてネガティブな感情を曝け出すのは極力避けていきたい。

途中棄権の多さに象徴されるフィジカル面の課題

 技術的な部分ではすでにほとんど穴のないところまで成長したが、小さな怪我やそれによる途中棄権が多い点など、フィジカル面ではまだまだ課題が多い。ベストコンディションであればどんな相手とも互角以上に戦える実力を持つ一方で、大きな大会では勝ち上がる段階で体力を擦り減らしてしまい、いざトップとの戦いで余力の差が出ての敗退がやや目立つ。また、いいプレーをした翌週の大会で疲れを引きずるとパフォーマンスが落ちるのは仕方のないことではあるが、トップの風格を出すためには負け方も大事になってくる。今後は上のラウンドでも最高のパフォーマンスが出せるように、体力向上と楽な勝ち方を身につけたいところだ。

可能性は無限大、結果は上下動の激しい自信の目盛り次第

 最近のテニスは相対的にフィジカル要素の重要性が増したこともあり、昔ほど個性的なプレーが見られなくなったが、その中にあって錦織のプレーは見ていて非常に面白いと海外でも注目を集めている。実際、プレーの引き出しの多さは世界でも五本の指に入る。経験を積みつつ1つ1つのショットの完成度をより高めれば、トップ5定着が現実的な目標とさえいえ、その先グランドスラム優勝も決して夢ではない。このところメンタル・フィジカルの不安が複合的に重なった時、試合中に突然プレーが失速、乱調を来し、修正が利かなくなるシーンが頻繁に起きている。持続しない集中力がミスの頻発を生み、それがさらに自信の欠如へと発展してスイングスピードが落ち、回転が不十分でベースラインを大きく越えたり、溜めを作れず気ばかり焦って腕を振るためフレームショットになる。そして今度は確実にコートに収めようとするとスピン過多になり、相手の攻撃を誘発するという悪循環はどこかで断ち切らなくてはならない。そのために必要なのは全身から溢れるエネルギー量だが、戦術がうまくいかない時に次善の作戦を捻り出す思考力、忍耐力や気力も薄れているように映る。試合ごとに細かい部分で技術的な綻びは生じているが、全体として年々ポイントパターンは増えているだけに、今は愚直にボールを拾いクレバーな組み立てや駆け引きで勝ち上がるという原点、すなわちWinning Uglyへ回帰するのも1つの手だろう。トップ4を経験したプレーヤーであるにもかかわらず、いまだに自信のアップダウンがあるのが彼の特徴で、外から見ればいっそ過信してしまえばとも思う時もあるが彼に限ってそれはあり得ない。人格的に“超”の付くリアリスト、おまけに繊細で慎重なメンタリティの持ち主であるために、自信の目盛りは上下動を繰り返す。怪我による長期離脱を強いられた17年はその目盛りが底に近づいたが、18年に復帰して以降は細かな不安要素や自信の揺れ動きはあるものの全体基調としては右肩上がりにトップフォームに戻してきている。戦略家のダンテ・ボッティーニに加えて13年暮れより陣営に迎えたマイケル・チャンとの関係は自他ともにその相性の良さを認めており、彼のレベルを頂点へと導いてくれそうだ。ファンとしては故障の多さが心配だが、無限大の可能性を秘めた錦織圭の今後の更なる躍進に期待したい。

 

Daniil Medvedev

ダニール・メドベデフ

 生年月日: 1996.02.11 
 国籍:   ロシア 
 出身地:  モスクワ(ロシア)
 身長:   198cm 
 体重:   83kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: LACOSTE 
 ラケット: Tecnifibre T-Fight 305 
 プロ転向: 2014 
 コーチ:  Gilles Cervara 

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 俊敏な動きや地面に吸着するような粘りのあるフィジカル、非常にゆったりとしたしなやかなスイングで繰り出すショットなど、長身には似つかわしくない能力の数々を駆使してコート後方に防衛網を張り巡らせ、相手の心身の消耗を待ちながらカウンターを仕掛けていく個性的なテニスで、次世代を担う存在たちの出世レースから抜け出して王者の地位を固めつつあるロシアの急成長株。戦術の軸はあくまで相手を罠に嵌めるような受け身のスタイルではあるが、それでいて能動的に弾丸のような低弾道の高速フラットショットを連発することもできる特異な能力を持ち、彼のペースに巻き込まれるとどうにも抜け出せない展開となることが多い。有能な若手が着実に育ってきているロシアにあって彼もその筆頭格であるが、パワーが前面に出たハチャノフやショットのキレで勝負するルブレフとはまた異なる魅力を持っているのがメドベデフで、一見派手さはないが相手に対してやりにくさを覚えさせるような稀有なスタイルでトップの仲間入りを果たしている。16年前半まではフューチャーズにも出ていたが、18年初頭シドニー(250)でのツアー初優勝を機に軌道に乗ると、同年後半には決勝で錦織を圧倒して優勝した東京(500)をはじめ並の実力では止められないほどの充実した戦いぶりを見せ、19年に入っても上昇気流は止まることなく、シンシナティ(1000)でのマスターズ初優勝、全米準優勝、上海(1000)でのマスターズ連勝を含む夏場以降の6大会連続決勝はテニスもフィジカルも驚異的で、若い世代のライバルたちを一気に置き去ってトップ5へと躍り出た。20年にはATPファイナルズを制覇し、翌年にかけて対トップ10の12試合を含む20連勝を記録、21年全米では絶対王者ジョコビッチの年間グランドスラムの夢を打ち砕いてついに悲願のグランドスラム初優勝を手にするなど、恐ろしいまでの実力と実績を積み上げている。基本的にはハードコートで強いタイプで、特に速いサーフェスへの相性の良さがここまでは光っている。オンコートでの振る舞いが物議を醸すことが多く、観客に対して自分へのブーイングを自ら煽ってはそれを逆に力にして奮起するという最上級のヒールぶりを発揮している。それらの賛否はもちろん分かれるが、人格面で話題に事欠かないというのもスター性の一環と言っていいのかもしれない。

動きの良さと低い姿勢、独特な球質でラリーを支配

 ストロークの魅力は左右の動きの敏捷性と低い姿勢、変幻きわまるスイングとショットの球質の独特さにある。ベースラインから距離をとって立つ分、カバー範囲は広くなるが、動きのスピードと読みの良さ、そして腕の長さを駆使して粘りつつ、球際でしっかりと膝を折り、上体を被せることで生み出した下半身のパワーを使ってボールを相手コートにねじ込んでいくのが彼の形で、相手の強打の勢いをさらに加速させるようなショットが持ち味という意味では守備的なカウンタープレーヤーと言ってもいい。2mに迫る身長が存分に生きたスタイルとは言い難いが、バウンド後に滑っていくような球筋によって相手を十分に押し込むことができるのが強みである。ボールの深さのコントロールも常人離れの域に達しており、相手の足元を狙撃するかのような深いボールを続け、次第に相手がポジションを下げると今度はその位置に届くまでに2回バウンドしそうな地を這う弾道のボールに切り替える。長身だから低いボールが有効という固定観念が通用しないプレーヤーで、少なくとも速いラリーでは膝元の打点で処理する時が最も安定している。逆に緩めの高い軌道を使われた時に自分から打ち込むショットは課題の1つだ。彼のラリーでとりわけ際立つのは、打ち合いの中でチャンスを見つけて斜め前に踏み込む巧みな判断力で、ただでさえショットが強力な中、さらにフォアなら左足、バックなら右足でステップインし、コートの内側でボールを捌かれると相手としても対応のしようがない。他のプレーヤーに比べてミドルコートでのプレー頻度が高いのは、ベースライン後方を基本ポジションとしながらも好機を見てネットもとる、コートの上下動の多い彼ならではの特徴である。

常に予測にないショットを繰り出してくるフォアハンド

 首に巻き付けるようなしなやかなフォロースルーが特徴的なフォアハンドは、打点が体に近く、かなり詰まったようにも見える打ち方でボールを捉えるが、彼にとってはそれがスタンダードで、むしろそれが懐の深さを生み、コース取りが読みにくくウィナーを多く奪える攻撃的なショットとなっている。ボールの軌道とショット選択がとにかく不思議で、中ロブのような緩いトップスピンで粘ったり、攻撃できる場面でもスライスで繋いだかと思えば、かなり後方から突然ハードヒットしてきたりと、剛柔が入り混じった「わかりにくさ」が相手の調子を狂わせる。最近特に武器としているのはサイドラインより外側に大きく振られた際に放つランニングクロスで、易々とボールに追いついてはボディバランスを保って厳しいアングルへ逆転のショットを見舞う。変化という点ではフォアからドロップショットを多用して揺さぶりをかける傾向も見られ、こうした多様なショットの出し入れで試合の形勢を変えられる力を持っており、流れが自分の方に傾くと強打の波状攻撃で相手に襲い掛かるもう1つの特徴が顔を覗かせ始める。その中では、クロスに打ちそうなボールへの入りから、直前で上半身を逃がし体の前にスペースを作る動きに切り替えることで相手の足を止め、逆クロスからストレート方向へ流し込む展開を完全に自分のパターンとしている。

打ち合いの中に緩急を与えるバックハンド

 バックハンドもフォアに負けない伸びと威力があり、体の近くまでボールを十分に呼び込んで放つ分、コースも読みにくい。低く沈み込ませた上体を必要以上に伸び上がらずスイングすることで、身体の上下動を減らし抜群の安定感を実現している。得意としているのはラリーの中で突然緩いスイングからボールの外側を削るようにスピンをかけてアングルを突き、次の一打で空いたオープンコートにダウンザラインを突き刺す形だ。また、高い打点の難しいボールに対して思い切って体を前方に傾けながらジャックナイフで叩くプレーも効果的に織り交ぜる。少し前まではやや強引なストレートへの展開でミスを重ねる場面が多く、チャンスボールの見極めが課題の1つとなっていた。技術的にもカウンター気味にラケットを合わせてのコース変更は得意とする一方で、打点直前でのステップの調整があまり優れていないためチャンスボールに対して自分から打ち込むショットは大きくタイミングを外したようなミスになりやすい弱点があったが、最近はダウンザラインへ展開する攻撃意識の高まりに伴ってそのショット精度も大きく改善し、相手に余裕を与えない姿勢が光るようになった。

鋭い嗅覚が際立つネットプレーの意外性

 ベースライン後方での粘りが身上の反面、意外にもネットプレーを多く取り入れるプレーヤーでもあり、相手のベースラインにおける武器を封じる戦略的な遂行が光る。ボレーやスマッシュが上手いタイプではなく、技術的な危うさをネットへ詰める鋭い嗅覚とダッシュ力で補っている面が強いが、ネット前の接近戦には非常に強く、今後速攻型のオプションを構築するには十分なクオリティと言ってよいはずだ。

相手を撹乱することに重きを置いた強力なサーブ

 唯一長身を活かした要素となっている強力なサーブは、一球ごとにかなりトスの位置を左右に変えるのが特徴で、相手を惑わせながらスライスサーブとフラットサーブを打ち分けることでエースを奪っていく。また、デュースサイドでサイドライン近くからワイドスライスを打ったりと立ち位置まで様々に試みることもあり、その意図や効果については疑問符が付かないこともないが、ここにも相手をとにかく撹乱することを狙う彼らしさが垣間見える。ポイント間の時間が非常に短いのも相手からすると嫌らしく、頭の整理がつかないうちにサービスキープされてしまう。特に好調時には2ndも含めてすべてのサーブが高速でラインを捉える精度を誇り、こうした時間帯は相手とすればメドベデフの調子が落ちるのを我慢強く待つほか方策はない。基本的に長い打ち合いの中から勝機を窺うタイプゆえか、あまりサーブを重視していないようにも見受けられ、全体的にコースが甘く入ることが多いためにビッグサーバーと呼べるようなポイント獲得率やキープ率が実現できていなかったが、このサーブの雑さもここ最近で解消され、少なくとも1stは試合を通してフリーポイントを量産することができるようになった。

不気味さを醸し出すツアー屈指の曲者

 技術・戦術すべてにおいて他では真似のできない独特さを持ち、さらにはどのタイミングでどの手札を切るのかという心理面が透けて見えてこない点もあいまって、非常に不気味さを醸し出すプレーヤーであり、時にはそれが裏目に出て自ら泥仕合へと嵌り込んでいくような悪癖もあるが、いずれにしてもツアーの先頭を走る強豪でありながらツアー屈指の曲者としての地位を確立していきそうだ。意地でも自分の後ろにボールを通さないしつこくまとわりつくような守備力をベースに相手の戦術と戦意を削いでいくテニスは「当代のシモン」といった雰囲気もある。相手の強烈なショットを繊細な打球感覚で緩急の変化もつけながら左右に散らす彼のテニスはかなり難易度が高く、強打をするたびにその反動でバランスを崩しているような身体の線が細い未完成のフィジカルでは操り切れていない部分もまだ多い。メンタル面でも気分屋なところがあり、良い時と悪い時の差がはっきりしていたり、時に必要以上に苛立ちを溜め込んでラケットの叩きつけを繰り返したりと若さを露呈することもある。とはいえ、その状態でもNo.1を窺う位置につける事実を踏まえれば、すべては彼の個性と片付けてしまっても差し支えないのかもしれない。今後どこまでビッグタイトルの数を伸ばし、長く頂点を争う地位に君臨していくのか大いに注目したい。

 

Andy Murray

アンディ・マレー 生年月日: 1987.05.15 
 国籍:   イギリス 
 出身地:  グラスゴースコットランド
 身長:   191cm 
 体重:   82kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  CASTORE 
 シューズ: UNDER ARMOUR 
 ラケット: HEAD Radical Pro 
 プロ転向: 2005 
 コーチ:  Ivan Lendl 

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 巧みな戦術性と重いフォアハンド、自由自在なバックハンドを中心とする多彩なストロークを基盤に、卓越した守備力を駆使して相手の攻撃をいなしながら反撃のタイミングを耽々と狙う典型的なカウンタープレーヤー。06年に文字通り無敵状態を誇っていたフェデラーが年間で敗れた2人のうちの1人が当時19歳のマレーで、シンシナティでの番狂わせはツアーに衝撃を与えたが、彼自身が現在に至るようなトップの地位を手中に収めたのは08年のことで、夏場以降のマスターズ2大会優勝と全米での決勝進出を機に、いわゆる「ビッグ4」という構図を作り出した。そこからグランドスラム初優勝の悲願までには4年を要し、ようやく成し遂げたのが12年全米のタイトルであった。そして16年にはシーズン後半の驚異的猛追の末、ATPツアーファイナルズ決勝でジョコビッチに打ち勝って名実ともにNo.1の座を奪取。29歳で初めてNo.1というのは、74年に30歳で頂点に立ったジョン・ニューカム以来の年長記録となった。元々フットワークに優れたプレーヤーで将来を嘱望され、強力なサーブやストロークを持ちながら、あまりエースを狙わずリスクの少ないプレーを中心に組み立てる「駆け引き上手」なテニスで世界のトップに上り詰めたわけだが、加えてメンタル面とフィジカル面が徐々に改善されるのとあいまって攻撃力・守備力双方に磨きがかかり、今となってはイギリス人として2000年前後に活躍したヘンマンを超える実績を残すプレーヤーにまで成長した。彼が最も強さを発揮するのはハードコートだが、フィジカルの向上に伴い元々は苦手としていたクレーでの戦闘力も上がり、相変わらずの芝での強さを含めて、結果の面で年間のアップダウンが減ったことがNo.1を常に視野に入れられるようになった直接的な要因だ。兄ジェイミーはダブルスのスペシャリストとして活躍するレフティーのプレーヤーで、アンディよりも一足先にNo.1を記録し、ATP史上初となる兄弟1位の快挙を達成している。多くのタイトルを獲得している彼のキャリアの中でも唯一無二の価値を誇るのは、12年ロンドン、16年リオにおける五輪連覇で、シングルスでは男女を通じて史上初となる2つの金メダルホルダーとなっている。

多様なスイングから重いボールを操るフォアハンド

 テイクバック時に右手首を伸ばすことで、リストを柔らかく使ったスイングを可能にしているフォアハンドは、クロスコートに強烈に振り抜く決定力抜群のハードヒットを得意としている。以前は中ロブにも似た緩いトップスピンショットや時に回転のあまりかかっていないボールでラリーを長く続け、相手の攻め疲れによるミスを誘ったり、強引なアプローチを打たせてパスで抜いたりという受け身の戦略を基本に、相手がゆっくりしたペースに付き合い始めると、一転してベースライン内側に入って早い打点でボールを叩いてエースを狙いにいくスタイルであった。しかし、過去に攻撃的なストロークでトップに君臨したレンドルがコーチに就任した12年からはムーンボールはほとんど見られなくなり、よりベースラインに近い位置でボールを強く捉える攻撃的なスタイルに変化を遂げた。ラリーの中でも多様なスイングから非常に重いボールを操るため、相手とすると対応が難しい。もちろん以前の守備的な戦略も健在で、とりわけ押し込まれたラリーをイーブンに戻すためにダウンザライン方向のコーナーへ放つループ気味のトップスピンが非常にいやらしいショットであり、攻守の切り替えの中にこれらをミックスさせてより相手を混乱させる。ただし、ハイテンポのラリーでややボールが浅くなる傾向があり、安定感の面でも相手を追い込む攻撃力の面でもバックに劣るため、相手にとってマレー攻略の糸口の1つとなっていることは否定できない。逆にこのフォアが冴え渡っている時は圧倒的な攻撃力で相手を一蹴するため、彼のバロメーターともいえる。

ウィナーの球筋が美しい最高レベルのバックハンド

 現在のツアーの中では最高レベルのクオリティを誇るバックハンドは彼の最大の武器であり、フォームや球筋の美しさは他の追随を許さない。スイングと同時に体重移動するのが大きな特徴で、これにより高い打点からボールをフラット気味に打ち込むことが可能となっている。ベースライン後方からのショットはキレの鋭いスライス回転を交えながら、徐々にラリーで自分優位な形勢を作り出す。そのスライスも同じフォームから多種多様に使い分け、相手のリズムを狂わせる。とりわけ芝では本来の武器である強打をさらに活かす効果もあるスライスの割合が近年急増している。ただし、彼はバックを打つ際にやや上半身が突っ込む癖があり、低いボールを持ち上げきれないケースがあるために、相手のスライスに対してはほとんどスライスで返球するため、あまり怖さがない点など少なからずネガティブな側面もある。ベースライン内側に入ると、フォア同様タイミングを一気に早めたカウンター気味の強烈なフラットショットを叩き込む。以前はクロスへの強打でウィナーを取ることが多かったが、ここにダウンザラインという選択肢も加わり、相手にとってはよりコースを読みにくくなっている。また、攻守の局面を問わず厳しい角度を突くアングルショットを得意とするが、意図的に芯を外してラケットの先端で捉え、勢いを殺したボールを打つことで、失速して落下し、弾んでこないショットとなるため、ネットプレーヤーは非常に手を焼く。同じスイングから強烈なパスも打てるため、その対応はさらに困難となっている。得意な腰の高さに安定的に打点を取れている時は、マレー主導の展開になりやすく、そうなると畳み掛けるようにして攻撃力抜群のスピードボールを連発する。そうさせないために相手としては、スピンボールを使って高いところで捕らせたり、スライス系のボールで膝付近の打点を強いる必要があり、最近はこの対策がプレーヤーの間で徐々に浸透している印象がある。安定感は抜群でミスはほとんど期待できないが、一方で驚くようなカウンターも基本的には飛んでこないという認識に立って、マレーのバックとの勝負ではとにかく我慢強く攻め続け、本当のチャンスボールを取捨選択しながらポイントに繋げていくというのが唯一の考え得る戦略だろう。

戦略・戦術・パワー・技術の四拍子揃った完成度の高いテニス

 ボールのコースを変えていく幅広い展開力を活かし、相手に自由に打たせない戦術性の高い配球や、パワーヒッターにはあえて打たせながら、その攻撃を凌ぎ切ることで無効化し、相手の戦意を奪いつつ反撃に転じる戦略性、正面からの打ち合いでも負けないパワー、センス溢れる繊細なタッチショットなど、テニスの完成度の高さはツアー屈指を誇る。相手を前後左右に振り回し、タイミングを早めてボールの勢いを自分のパワーに変えたり、時には自分から打ちにいってネットに詰めたり、オープンスペースを突いたりしてトドメを刺すのが彼のテニスであり、「こうすればポイントが取れる」という手本のようなテニスが強さのベースとなっている。基本的に戦い方は受け身で守備的だが、守っていてもラリーの主導権は自分の方にあり、すべてをコントロール下に置いているのが彼の凄さといえる。悪い時の傾向としては、あまり意図が感じられないようなただパワーに頼って強打をする展開に終始してしまう分、サイドラインの幅で相手に対応される攻撃が目立ってきたり、逆にうまさで攻撃をかわしていこうという志向が強すぎるあまりプレーに積極性や主体性が消えたりと、あらゆる技術・戦術を備えているからこその悩みだが試合の中でのパワーと技のベストバランスに模索の余地がある。また、基本的に相手の強打に対して守りを固めていくというスタイル上、ある程度動きながらのプレーでリズムを得るタイプであるため、軌道の高いスピンボールなどを使って力を溜めて打つような状況を作られると、逆にミスが出やすいという戦術的な弱点がある。

僅かな隙を見逃さないカウンター攻撃

 守るべき場面ではしっかり守るのと同時に、様々なボールを交ぜて相手の攻撃の起点を潰し、相手が少しでも隙を見せると、すかさず鋭いカウンターショットで逆襲する。191cmというのはツアーでは十分に長身の部類に入るが、その事実を忘れさせるような動きの良さと驚異のスタミナが生み出すこの世界最高レベルのカウンターショットやランニングショットこそが彼の真骨頂であり、相手に多大なる脅威を与える。また、ボールに強烈な回転をかけて相手の頭上を鮮やかに抜く高速トップスピンロブも最近では彼のトレードマークとなっており、相手が2m級の長身プレーヤーでも、また斜め後方に下がりながらの苦しい体勢からでも、簡単にロブウィナーを奪ってしまう絶妙なタイミングと精度の高さは驚異的である。ただし、ややそのロブで相手の上を抜くことにこだわりすぎるきらいがあり、ショット選択には改善の余地を残す。とはいえ、後ろで打ち合っていてもポイントが取れず、前に出ても強烈なパスで抜かれたり精緻なコントロールショットで足元に沈められたりと、相手にとってはなかなか勝機を見出しにくいプレーヤーといえる。

威力抜群のサーブだが弱点も露呈

 長身から生み出される高さとスピードが武器のサーブは、大きく体を反った状態から力みなく振り抜き、左手が後ろに跳ね上がるフォームが特徴で、勝負所で特に威力を発揮する。1stはデュースサイドではワイド、アドバンテージサイドではセンターへ放つ、曲がり幅がかなり大きいスライスサーブを得意とし配球の軸となっているが、そのコースを1試合通して武器として機能させるためにバロメーターになるのは、各サイドでスライス系とは逆のコースに打つ最速220km/hにも届くフラットサーブで、これが高確率で入っている時には圧倒的なサービスゲームを展開できる。逆に、エースを狙うフラットが入らないと、武器になるサーブを持ち合わせていながらキープするのに四苦八苦することもしばしば。2ndの弱さがその原因で、遅いスピード、甘いプレースメント、変化の少なさを突かれて強烈に叩かれるケースがあまりにも目立ち、またプレッシャーをかけられ続けた末にブレークポイントダブルフォルトということも多く、トップレベルとは大きく水をあけられていた。それでもスピードをなるべく落とさずに厳しいコースに入れる2ndを習得すべく我慢強く継続的に取り組んできた結果、最近は非常に質の高い2ndが随所に見られるようになり、No.1奪取の大きな原動力の一つとなった。

詰めの判断が絶妙なネットプレー

 ネットプレーは特別得意というわけではなく、プレーの安定感を求めてリスクを負ってまで実行することはないが、展開への組み込み方が効果的であり、かつ繊細なラケットタッチを持っているため、器用にそつなくこなす。とりわけバックのスライスアプローチのキレ・精度が突出しており、高い決定率を生んでいる。最近はラリーでの基本ポジションがよりベースラインに近い位置になった分、ネットとの距離が縮まったことで、結果的にボレーで仕留めるポイントが増えている。一時期、過去にダブルスNo.1の実績を持つビョルクマンをコーチに迎えたことやデビスカップでダブルスに出場する機会が増えたことの影響も少なからずあるだろうが、ネットへ詰める判断力がなんとも絶妙で、相手の予測していない場面で鋭く縦に動き出す姿は純正のネットプレーヤーと錯覚してしまうほどだ。課題としてスマッシュを筆頭に高いロブへの対処に不安定なところがあり、チャンスボールを決め損なう場面も散見される。彼の中では数少ない技術的な弱点といえ、今後の強化ポイントとしては見逃せない。ドロップショットは得意とするショットの1つで、ここ最近多くのプレーヤーが使うようになったクロスの浅いところに落とすショットは彼が先駆けと言ってもいい。特にクレーの試合で使用頻度が高く、相手の状況をしっかりと見極める判断力と強い回転を与えながら短くコントロールする正確性により決定率は高いが、なかなか決められない状況にしびれを切らして逃げたような使い方をする傾向も時折見られ、その点は見直すべきである。

ビッグサーバー攻略法を知り尽くした秀逸なリターン

 ビッグサーバーの攻略法を知り尽くしたようなリターンも大きな武器で、1stに対しては突出した返球成功確率を実現し、2ndには規格外の攻撃力を発揮する2つの強みを持つ。1stには手の届く範囲なら面をきっちり作り、ブロックリターンでまずは返球することを重視する。ある程度攻められても守り切れるという心理的余裕とそれが生み出す相手の焦り、そして何といっても相手の3球目の攻めをショートクロスや中ロブ気味の深い返球など状況を瞬時に見極めた秀逸な対応でかわす技術が光っている。また、試合の流れからコースを読む能力も高く、相手が打つ前に動くということもしばしばあるのが彼の特徴。一転して2ndになると大きくベースラインの内側に入り、とにかく早いタイミングで叩いて相手の足元に打ち徐々にラリー戦で仕留める形をとったり、時にはサイドライン際へエースを狙いにいく。高く弾むキックサーブを封じ込める、この2ndに対するリターンの凄まじい攻撃力はツアーで間違いなくトップに位置し、サーブ側の優位性は完全に失われる。マレーのリターンへの対策の立て方は、いかに1stの確率を高めるかに主眼を置くべきで、攻撃させない2ndを打つというのはほぼ不可能に近く非常にリスキーでもある。

強さの理由は凌ぎ球の質に凝縮されている

 相手の打つ方向を読んでカバーする能力はビッグ4の中でも群を抜いて優れており、この読みの良さと前傾姿勢でのダッシュが特徴的なフットワークが粘り強くチャンスを待って逆襲するカウンター戦術を可能にしている。ドロップショットなどで予測の裏をかかれ、一歩目を逆に踏み出してしまってもボールに追いつく脚力は圧巻と言うほかなく、どんなにコートを広く使って攻め立てても崩れないマレーに対して大抵のプレーヤーは手札を使い果たして敗れ去っていく。追い込まれていてもゆったりとしたスライスなどを駆使して相手に攻めさせないボールのつくり方は天下一品で、その時間を利用して自らはポジションを取り戻すため、相手とするとどうしても無理を強いられる展開になりやすいのが特徴であり、このような球速を落とす凌ぎ球の質の高さに彼の強さの理由が凝縮されていると言ってもいい。また、普通なら諦めてもおかしくないスマッシュを何度となく懸命にラケットに当てて高いロブを返球することで、相手に数本余分に打たせる。相手からすれば決して常に難易度の高いスマッシュを強いられるわけではないが、時間と体勢に余裕があっても、というより余裕があるからこそコースを読まれるのではという余計な考えが脳裏をよぎりがちになる。実際にスマッシュをカウンターでエースにしてしまうシーンもあるが、それ以上に相手として堪えるのは試合を通してこの姿勢を貫かれることであり、次第にプレッシャーが積み重なって大事なポイントでミスを誘発されてしまう。ただ、滑るコートでのフットワークには問題点があり、厳しいボールに対してハードヒットで返球する際、スライドをあまり使わないため、打球後一歩余分に踏み出してしまう傾向があり、わずかな差でラリーの勝敗が左右されるトップレベルの試合ではややその弱点が露呈しやすい。しかし、だからこそクレーでは守る時はループボールやスライスを軸に遅いボールで徹底的に守り、一方で攻めの展開は早くするという緩急やメリハリ重視の方面で強化した結果が、15年以降のクレーシーズンの躍進に繋がったともいえる。

ベースラインからの離れすぎに注意

 相手の隙をじっくりと窺うためベースラインの3m以上後ろにとっていたラリーの基本ポジションを、最近では1m程度に止め、より攻撃性を重視した戦い方を選択しており、長年指摘の対象とされてきた守備的戦術の殻をようやく破りつつある格好だ。ただし相手に攻め込まれる展開になってくると、どんどんベースラインから離れていってしまう癖はまだ完全には拭い切れていない印象で、今後も継続して取り組むべき課題であることに変わりはない。

相手のリズムを崩す攻守のメリハリ

 マレーのテニスは基本的に確率重視で、とにかくメリハリの効いたテニス。もちろんどのプレーヤーもある程度はやっていることだが、彼の場合ベースラインを境にして忠実に、しかも極端なほどにメリハリをつける攻防分離型のテニスを実行している。打ち合いが始まれば少し下がってスライスを交ぜながら受け流し、チャンスと見るや一気にペースを上げて強打を叩き込む。その鋭い攻守の切り替えに相手はリズムを崩して不必要にミスを出す、といった形で好循環を生み出していくのが彼の勝ちパターンだ。また、頭上を越された時に放つアイディアに富んだショットの数々や、細かなプレーにおける技術力の高さはまさに天才的で、少なからずフェデラーに通ずる部分もある。

レンドル効果が最も大きな変化を生んだメンタル面

 メンタル面においてはトッププレーヤーにしては未熟な部分が残っており、納得のいかないプレーやちょっとした外部の環境に苛立ちを募らせ、冷静さを失うこともある。メンタル的に落ちる時間がやや長い点も懸念材料で、数ゲームで留めておきたいところを1セット、場合によってはその試合中立ち直れないケースもある。また、相手のレベルに合わせたプレーをしてしまうところがあり、好調なプレーヤーの勢いを止めるうまさがある一方で、相手の不調に付け込めず、ミスに付き合う形で泥仕合を演じてしまうことも。ナダルフェデラージョコビッチ相手に実力では互角かそれ以上で渡り合えるのだが、重要な大会での対戦になるほど劣勢の展開になるのはこのあたりが関係している。とはいえ、レンドルによって叩き込まれた“勝者のメンタリティ”は着実に効果を発揮しており、12年ロンドン五輪での金メダル獲得や全米制覇、そして何より13年に成し遂げた地元イギリス人としてフレッド・ペリー以来77年ぶりのウィンブルドン優勝はまさに精神面での成長を感じさせるものであった。その過程で今まで一番欠けていた自分のプレーに対する信念が生まれたことで、内面的にも強さに磨きがかかった印象だ。彼の場合、感情の起伏が激しいことが必ずしも弱みであるとは感じさせず、ポイント間での独り言の多さや、ポイントを奪い「Come on!」「Let’s go!」と吠えて自らを鼓舞することによって、試合の雰囲気を自分のものにするのはある意味強かさの一部ともいえる。普通であればあれだけ頻繁にプラスにもマイナスにも感情を露にすればスタミナ切れの心配も出てくるはずだが、常人離れした体力でその懸念を吹き飛ばしている。

復活への道は困難も彼なら不可能を可能にできる

 集中力の低下が招くプレーのムラを筆頭とするメンタル面の不安定さや、守備的なスタイルなど課題もあるが、それらを克服し、好調時のプレーを長く持続させることができるようになれば、さらにグランドスラムでの優勝を増やしていく可能性は十分にある。一度レンドルとの関係を解消して以降は腰の手術からの回復に時間を要した影響もあり、ポジショニング、ショットの選択などが明らかに積極性を欠き、守備的な戦い方にシフトしてしまったことで、上位陣との対戦でかなり苦しくなっていたが、モレスモを新コーチに招聘した新しい陣営の体制が噛み合い始めた15年には再び輝きを取り戻し、「ビッグ4」から彼を除いた「上の3人」に変化しつつあったツアー内の認識を完全に覆した。そして再びレンドルとタッグを組み、独走状態で難攻不落と思われたライバルのジョコビッチをトップの座から引きずり下ろした。追われる立場になって真価が問われる状況となったが、過酷なツアーの中で肉体が悲鳴を上げて股関節の故障が深刻化すると、以降は長期に亘る戦線離脱を余儀なくされ、ついには19年全豪で引退を示唆する涙の会見を開くまでに至り、テニス界を驚かせた。それはいかに復帰への道が困難を極めるかを物語って余りあるものであったが、彼自身決して完全に諦めたとは発言しておらず、実際にその直後には金属の人工股関節を入れる手術を受けて夏にはツアーに出場、シーズン終盤にはアントワープ(250)で劇的な優勝を飾った。完全復活を果たしたわけではなく、いつ戻れるという保証もないが、ビッグ4の一端を担うスターとして意地もあるはず。体にメスを入れ、鞭を打って闘うマレーの姿を、ファンとしては優しく見守りつつ、一方でやはり再び頂点を争うことも期待したい。

 

Novak Djokovic

ノバク・ジョコビッチ

 生年月日: 1987.05.22 
 国籍:   セルビア 
 出身地:  ベオグラードセルビア
 身長:   188cm 
 体重:   77kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: asics 
 ラケット: HEAD Speed Pro (18×19) 
 プロ転向: 2003 
 コーチ:  Goran Ivanisevic 

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 正確無比かつ凄まじく伸びるストロークを主体とする攻撃的なテニスを展開しつつ、真骨頂であるスピードや並外れた体の柔軟性を駆使したコートカバーリングにも非常に優れ、“勝つ”ことにおける無駄をすべて削ぎ落としたような洗練された完成度の高いテニスを持ち味とするセルビアの英雄。史上最長のランキングNo.1在位期間(373週)を誇り、未だ衰えを見せず円熟味を増した実力と並々ならぬ記録への野心を携えて、グランドスラムの最多優勝を主眼にあらゆる記録の塗り替えを目論む。引き出しの多さを活かし相手によってプレーを変えられる強みを持つが、戦術的に常に一貫しているのは相手の最も得意なプレーを潰しにかかることであり、心理面で優位に立つ強かさが際立っている。06年頃から頭角を現し、07年には全米準優勝やマイアミとモントリオールでのマスターズ優勝など、若手らしい勢いと成熟した質の高さが共存したテニスで瞬く間にフェデラーナダルを脅かす存在となり、以降常に彼らに次ぐ「第3の男」として君臨し続けていたが、一方で暑さへの弱さや途中棄権の多さなどから脆さも指摘されていた。しかし、11年にグルテンフリーの食事療法により呼吸障害を克服したことでフィジカル面が飛躍的に向上し、動きに躍動感が生まれ、守備面の強化はもちろん攻撃面でもバリエーションを増やし、年初からの驚異的な連勝記録(41)を打ち立て、ウィンブルドン初優勝とともに遂に念願のNo.1の座を射止めた。そうして勝利を積み重ねていくうちに自信をつけ、どんな場面でも自分自身を信じ続けるハートの強さを身につけたことが、向かうところ敵なしの状態を生んだ。また、グランドスラム3大会とマスターズ6大会での優勝という15年に見せた凄まじい強さは11年を上回る歴史的快挙で、ビッグ4の一角というよりジョコビッチ1強時代という図式を作り出し、フェデラー同様に主にナダルの壁に阻まれ続け王手をかけてから5年を要したが、16年にはようやく全仏のタイトルを獲得して男子史上8人目のキャリアグランドスラムを達成すると同時に、それは年を跨いだグランドスラム4大会連続優勝でもあり、いわゆる「ノール・スラム」を成し遂げた。ハードコートを最も得意とし、グリップの効いた環境でのフットワークや身のこなしは歴代最高の呼び声も高いが、どのサーフェスでも特別何かを変えることはせず自らのプレースタイルを貫く点で、ある意味“サーフェス”というものを超越した戦いを手に入れた感もある。190cm近い長身でありながら、170cm台のプレーヤーのような自在さとスピードで手足を動かせるのが絶大な強みである。また、いとも簡単にベーグルでセットを取ってしまう好調時の集中力の持続性はまさに異次元のレベルにあり、特にビッグマッチになるほど試合開始に集中力のピークを持ってきて一気に流れを手繰り寄せるロケットスタートは見慣れた光景となっている。

強靭な体軸から放たれる球質が多様なフォアハンド

 フォアハンドはフォロースルーの大きさでショットの長さをコントロールするのが特徴で、体に巻き付くようなしなやかなスイングでボールを捉える。大きく背中側にラケットを引いて体の後ろに隠し、ギリギリまで引き付けてから一気に振り出すため予測が難しく、また体の回転と腕のスイングが必ずしも連動しているわけではないため、体の開きだけで判断するとクロスに打つように見えて、実はストレートに打っていることが多々ある。強靭な体軸を活かして放たれるショットは球質が多様で、バウンド後に低く伸びるフラット系の直線的な弾道と高く弾むスピン系の山なりの弾道を局面に応じて同じフォームから巧みに打ち分ける技術によって相手を惑わす。キャリアを振り返ると、若手時代には能動的なラリー展開の中でフラット系のショットが中心であったが、最強へと上り詰める過程では相手の攻撃を受け止めて跳ね返し長い打ち合いで崩す形へと変化し、フォアの球種は後ろ足に体重をかけて打つ強烈かつ複雑なトップスピンのかかったショットを軸に据えるようシフトした。もちろん相手の返球が甘くなれば持ち前のフラットショットでウィナーを取るケースは依然多く、攻撃面でも着実に進化を遂げてきた。最近では、鉄壁のディフェンス戦術は不動のまま、一方で不必要にポイントを長引かせない狙いから再び淀みのない直線的なスピードボールが増えた印象もあり、主導権を握って攻撃しているはずの相手がジョコビッチの攻守が完全に一体化したテニスによってスピードで振り切られるという現象が起きる。また、フォアにおいてはサービスラインの遥か手前に落ちるアングルショットからの展開が際立つ。クロスへのショットはボールの外側を確実に捉えて打つため、バウンド後にさらにコート外へと逃げるような軌道を描く。これを他のショットとほとんど変わらないスイングから何気なく繰り出すことで、苦しい体勢で打たせて相手の攻撃の芽を摘みながら、自らは楽にオープンコートに打ち込んでポイントを取るのが、彼の中で計算された1つの勝ちパターンとなっている。

精密機械の如く乱れることのない世界最高のバックハンド

 世界最高とも称されるバックハンドは試合を組み立てるうえで軸となるショットで、あらゆる状況下でも非常にコンパクトなスイングで強烈なショットを広角に打ち分ける。守から攻へのトランジションが生命線となる彼のテニスにおいて、このバックハンドは特に重要なショットで、圧倒的な守勢からでも一本のカウンターでライン際に切り返してポイントを奪うことができる。攻撃の局面では右足をクローズドに踏み込み肩をしっかり入れるため、構えの段階でダウンザラインを相手に強く意識させるが、ベースになるのは鋭く上体を回転させてクロスに引っ張るショットで、高い打点からまさに突き刺すようなショットを連発して簡単に相手を追い込んでしまう。球筋がフラット系であるにもかかわらず、ミスをほとんど出さない安定性があり、クロスへは信じられないようなアングルに持っていくことができる。また、自身が最大の武器と語るダウンザラインは抜群の決定力を誇り、決まり出すと手がつけられない。一方、このショットが調子のバロメーターと言われるのは、悪い時はミスを恐れてか置きにいくためスピードが出ず、有効なショットとして機能しないからである。相手の厳しい攻撃にも手首の返しと柔らかい関節をうまく駆使して強いボールを打つことができるため、守備的なスライスはほとんど使わない。スライスは確実性という点ではやや不安定な面があり、そのキレには波があるが、強打の多い彼のバックにあって時折放たれるスライスはそれ自体が相手を翻弄する効果的なアクセントとなっている。

相手をベースライン後方に釘付けにするストローク

 彼のショットは、フォアは鞭のようなスイングに、バックは上半身の捻りに隠れて、ラケットヘッドが遅れて出てくるため、相手にコースを読みにくくさせ、反応を遅らせるというメリットがある。そのうえ、どのショットも深くライン際にコントロールされるため、対戦相手はベースライン後方に文字通り釘付けにされ、ポジションを高く保つジョコビッチのペースで終始ラリーを進められてしまう。その正確性は強引に前に出て打つことさえ許さないほど。速い展開にも遅い展開にも的確に対応できる点は彼の長所の1つであるが、中でも高く跳ねるスピン系のボールを上からフラットで叩いて厳しいコースに打ち続ける技術は、現在のツアーの中では間違いなくナンバー1である。強風や相手の巧みなスライスにより思うように強打ができない状況になると苦戦するのが課題といえ、得意のアングルショットやドロップショットも強打あってこその戦術であり、いわゆる技だけで崩し切るほどのうまさは持ち合わせていない。また、元々が守備的なプレーヤーであるからか、どちらかと言うと構えて打つ余裕のあるショットでミスを連発して不調に陥っていくタイプで、相手が繋ぎ重視のスタンスで攻めて来てくれない時に調子が狂い始める傾向がある。相手とすればこの小さな弱点を見抜き、遅い展開の中でループ系のボールを辛抱強く配球することがジョコビッチ対策としては有効だ。

常軌を逸した守備力と反撃能力

 堅固なディフェンスから流れを作り出すだけあって、フットワークも非常に粘り強く、彼のセールスポイントである精密なショットはすべてこのフットワークに支えられている。どんなに左右に振られても決してバランスを崩さず、できる限りオープンスタンスで踏ん張って返球し、さらに次のボールにも対応しようとするのが特徴だが、それを実現する秘訣がポジショニングと内股である。深いボールが来ると判断したら瞬時にポジションを下げることで、時間とスペースを確保して力負けすることなく体重を前にかけられる環境を整え、そしていざボールを打つ際には膝が外側に流れないため、下半身の力をキープしたまま最後までラケットを振り切ることができ、厳しい状況からでもパワフルに打ち返すことができる。このスライディングとその後の戻りの速さが、驚異のコートカバーリングと反撃力の真髄となっている。ダッシュした体を一気に止めるため、身体への影響が懸念されるが、そこは彼独特の体の柔らかさと脚力でカバーしている。さらには前後の球際にも強く、ドロップショットの処理も低い姿勢をキープする分正確性が高い。以前は機動力を活かして、どこに打たれてもボールを拾い、そこからの組み立てで戦っていたが、今は守備的なポジションからでも一気に攻めに切り替えるテニスを構築している。それを可能にしているのが、どんなに後方に下げられても精密機械のように相手コートのベースラインに乗せるボールの深さである。つまり、彼のディフェンスの凄さは返すだけでも難しいウィナー級のショットをオープンスペースの深いところに鋭く返球することで、連続して相手に良いショットを打たせないことである。ネットに出てきた相手の横を低い弾道で鮮やかに抜くのはもちろん、相手の足元にピンポイントで落とす技術も身につけ、より磐石で究極のディフェンスを確立している。とりわけバックサイドは深いボールが来ても守るのではなく、スライドしながらオープンスタンスでフラット系のカウンターで攻撃に転じるケースが多く、その威力・精度は同じく神懸かり的なカウンターショットを繰り出すナダル以上のものがある。フォアサイドからも強烈なカウンターを繰り出すことがあるが、バックに比べて幾分脇が開きやすいため対パワーの許容度がやや低く、フォーストエラーが増える傾向にある分、独特なワイパースイングでストレート方向にループボールを打って形勢を戻すプレーを多用する。したがって、あくまでバックとの比較における安定性の面に限った話ではあるが、対ジョコビッチの勝機の1つはサーブも含めてこのフォア側への攻撃が挙げられるだろう。もう1つ彼の能力で見逃してはならないのが常軌を逸した読みの良さ、そして恐らくはそれを実現する眼の良さである。打球のコースに先回りして返球する場面が相手のサーブ時やチャンスボールを打ち込む際にしばしば見られる。構えて打つショットほどコースを読まれるという相手にとっては戸惑いを通り越して恐怖を感じる武器といってもいいだろう。ジョコビッチのディフェンスはいわば「知能を備えた壁」といったところか。芝をやや苦手とするのは、彼の特徴であるこのスライドと開脚を駆使した“Stop&Go”のフットワークの機能性が落ちるのが1つの要因である。

必要なすべてのスキルを備えたリターン

 驚異の正確性でサーブ側の優位性を一瞬にして奪い去るリターンは、広いスタンスと低い姿勢で構え、どんなサーブに対してもポジションを下げず早いタイミングで返球するため、相手の時間を完全に奪うことができるのが強み。時にスライスで、時にフラット系で、ラインに乗るようなサーブ以外はとにかく相手コート内に収め、サーブのプレースメントが少しでも甘くなれば、たとえそれが200km/hを超えるようなサーブでも難なくエースにしてみせる。絶対的なボディバランスにより、相手がどんなにボールの高さや角度を変えても、体が泳ぐことなく強いリターンを返してくるが、中でも際立つのはリーチの長さで、やっと届いたような逃げていくワイドサーブをショートクロスに切り返す形がしばしば見られる。戦術的には、無理をしてまでリターン1つでポイントを奪おうとはせず、基本的にはコートの中央、つまり相手の足元に深く強いボールを返球し、自分有利な形勢を作り上げていく。特にビッグサーバーに対してはいかに早い段階でイーブンな打ち合いに持ち込めるかが攻略の鍵となるが、彼は4球目の返球ですでに相手の攻撃の流れをリセットさせる恐ろしい能力を持っている。勝負所でのコースの読み、ボールに飛びついた時のバランスの良さ、バランスを崩された時の面だけで返球する感覚は天下一品で、これらあらゆる力の総合が相手に巨大なプレッシャーを与える原因だ。

技術的な穴が見つからない盤石なサーブ

 サーブは以前、安定感がなくそこからプレーが崩れていくことがあったが、肘の角度など細かなフォームの修正により現在は精神面とともに改善され、完全に武器といえる程にまで進化している。彼のサービスゲームはまさに穴がないという表現が当てはまり、不得意な球種やコースというものがまったくないため、1stから200km/h前後の強力なフラットサーブとスライスサーブ、スピンサーブを織り交ぜて、相手に的を絞らせない。ストローク戦でほとんど主導権を取れるため、確率が落ちるリスクを背負ってまでエースを狙う必要はないが、それでも進化の過程でワイドへの精度が増したことで狙ってエースを取れるようになり、またブレークピンチでは最も得意とするセンターへの切れ味抜群のスライスサーブ一本で乗り切ることが多い。数年前までは彼のサーブといえばトスの左右幅が10cm台とほぼ無に等しくコースが読めなかったが、ここ最近は右側へのトスを増やしつつ、そこから定石と異なるフラットを打ったり、逆に真上のトスからスライスを打ったりと、リターン側を惑わせる意図が明確に感じられる。陣営に迎えたイバニセビッチの効果だろうが、クイック気味にフォームを改良したことや一段と足の蹴りが強くなり球威が増したこともあいまって、過去にはなかったエースを量産する試合が激増している。加えて、近年のサービスゲームで特筆に値するのはサーブ&ボレーの多用。ボレーを含めネットプレーが決して得意でない彼が今なおステップアップを模索してサービスダッシュを基本オプションに組み込もうとする挑戦にまず驚かされたが、短期間でそのクオリティは目覚ましく上昇し、ライバルたちは未だ有効な対抗策を見つけることができていない。2ndの質の高さはトップレベルでも群を抜いており、ほとんど1stと変わらないスピードを維持しつつ、非常に深くサービスライン際にコントロールできるため、リターンから一方的に攻め込まれることは極めて少ない。技術的な特徴としては、強烈な縦回転をボールに与えて相手に決定的なリターンを打たせないことが挙げられ、自分が攻めるためにオープンスペースを空けるという意図よりは、3球目で即座にニュートラルな状況に戻すことを意識している印象がある。年々サーブのクオリティは進化を遂げており、最近は特にトップとの対戦で1stの確率を80%近くまで高めて付け入る隙を与えない集中力が光っている。他方で、1stで簡単にポイントを取る能力を高めたことは、意外な副作用も生んだように見える。すなわち、自覚の有無はさておき、テニスにおけるサーブ依存度が高くなったことで、入りが悪くなった時に必要以上の焦りが生じ、ラリー戦でらしからぬミスを出す傾向である。相手としてはこうした僅かな綻びをどうにか突いていきたい。

タッチショットの感覚は武器である一方で課題も

 ベースラインからの打ち合いで試合を支配する展開が多い一方で、このところはラリーの中で相手の隙を見つけるやいなや自らネットに詰めていく意識が高まっている。ネット際では非常に予測能力が高く、シンプルかつ繊細なラケットタッチも年々洗練されてきている。ネットプレーにおける課題はポジショニングと足運びの不安定さにあり、ボレー自体の技術は良いのだがアプローチからネットに付く一連の動きには改善の余地がある。一方で、彼の場合は守備の局面でも感覚の鋭さが発揮できるのが強みで、ネットに出てきた相手の頭上を鮮やかに抜くトップスピンロブは、両サイドともに傑出した技術力を備える。最近その使用率が高まっているのは間違いなくネットプレーを増やしたフェデラーへの対抗策というのが理由だが、これにより相手に下がる動作をさせて体力の消耗を狙っている。また、バックサイドから放つドロップショットは、ベースラインからでもネットに近い位置からでも強烈なバックスピンの効いたボールをストレートにクロスにと自由自在にネット際に浅く落とせるため、使用頻度が高いにもかかわらず相手に読まれることは少なく決定力が高い。元々ドロップショットを非常に好んでいることもあり、以前はとても感覚が良いとは言えない日でも試合序盤から惜しげもなく放っていたが、現在は自分の方に流れが来ている時に多用する傾向が見られる。速いボールに対するボレーや大事な場面でのスマッシュにはまだまだ改善の余地があることも確かで、今後No.1の座を維持しつつ、更なるレベルアップを図るためには見逃せない点である。

「打倒フェデラー&ナダル」を形にした最強テニス

 フェデラーナダルに後塵を拝し続けていた時期は、自分は不運な存在だと自嘲気味に語っていたが、一方では彼らを倒すためには何が必要か、自分の何が武器になるのかを考え抜き磨き上げてきた。圧倒的な機動力でボールを追いかけ、ただ拾うだけでなくカウンターで切り返す守備力と反撃力は、フェデラーの多彩な攻撃を想定してのものであり、高く跳ね上がるボールを全身で押さえつけてウィナーにしてしまう強力なストロークは、ナダルを相手に戦うための能力であろう。テニス史上に残る王者2人に勝つために作り上げられたこれらの要素に、彼本来の持ち味でもある発想の豊かさと読みの鋭さ、強烈な集中力がプラスされる彼のテニスは今やどこにも隙がなく、結果はほぼ彼のコンディション次第となっている。

常人の理解を超越するメンタルコントロール

 メンタルの強さはもはや人間離れしていると言っても過言ではない。生来の情熱的な一面も作用して試合中感情を露にすることは少なくないが、それで崩れることはなく、むしろそうしてイライラを一息に吐き出すことで、頭の中をリセットしすぐに次に切り換えることができる。どんな状況でも自分のプレーさえすれば勝てるという信念を持てているからこそ、表面的には喜怒哀楽がはっきり表れても、メンタルの根底は決してぶれることがない。このメンタルの安定性とコントロール力が、彼の強さの原動力となっていることは言うまでもない。疲れが溜まってくると明らかに覇気や集中力を欠いた姿を垣間見せることがあるが、それでも近年では試合の中で何とか立て直し、勝ち切れるようになったところに成長を感じる。その強さは瀬戸際まで追い込まれた状況でこそ発揮され、開き直って攻撃的になった時の彼の勢いは誰にも止めることはできず、これまでにビッグマッチで幾度となく記憶に残るような大逆転勝ちを演じている。勝負所でギャンブルに近い思い切ったプレーができるのも大きな魅力の1つだ。ただ、緊張した場面ではサーブ前にボールをつく回数が10回を超えることも珍しくなく、デビスカップでは対戦国の観客から野次を飛ばされたこともある。

人物像はフェアなエンターテイナー

 時折ラケットを破壊したりウェアを引き裂くことがあるが、それを除けば非常にコートマナーが良く、相手のビッグプレーには拍手を送り、審判のジャッジに誤りがあれば自ら相手にポイントを譲ったり、試合に負けても笑顔で相手の勝利を称えたりという清々しい姿が世界各国での高い人気に繋がっている。ファンの間では「ノール」の愛称で親しまれる彼は、エンターテイナーとしても一流で、ファンサービスも旺盛なため、練習コートは常に大賑わい。優れた観察力からエキシビションなどでは、マッケンロー、サンプラスフェデラー、ヒューイット、ナダルロディックシャラポワらのモノマネで観客を喜ばせる。

 それでも総合的な実力は頭一つ抜けている

 11年には間違いなくテニス史に残る記録ずくめの華々しいシーズンを送り、翌年以降もまさしく王者と呼ぶにふさわしい安定した戦いを見せつつ、テニス自体は進化を続けている。あまりに完璧なテニスでNo.1へと上り詰めたため、サーブでフリーポイントを増やしていく以外にこれ以上の上積みが難しいのが不安材料とされていたが、どうやらその心配はなさそうで、年々ベースアップを図りつつも、パワーテニスからより理詰めの展開を使うクレバーなテニスにモデルチェンジを施すことで、ハイレベルな“省エネテニス”を実現している。14年からは更なる向上を目指して、絶大な信頼を置くバイダに加え、サーブやボレーの技術、アグレッシブな思考などを学び得ようと元No.1ベッカーを陣営に迎え入れた。ライバル達も確実に力を伸ばしてきたツアーの状況ではあるが、特定のパワー系プレーヤー相手に受け身になる以外に弱点が皆無に等しいジョコビッチのテニスは、やはり現状で頭一つ抜けていると言わざるを得ない。16年は他を寄せ付けない強さを誇った充実のシーズン前半から一転、全仏制覇で燃え尽きたのか、テニスの調子というよりは明らかにメンタル的に試合に入り込めない時期が続き、さらに左手首の故障も重なって最終盤にはマレーにNo.1の座を明け渡した。冷静に考えればそれまでの数年の成績がむしろ異常だったと見るべきだが、彼の口から久しく聞いていなかった弱気なコメントが出てきたことが心配された。勤続疲労による種々の怪我が深刻化していた中、陣営の総入れ替えなども含めて何とか精彩を取り戻そうともがいていたが、18年前半までの間は悪い流れを断ち切るどころかさらに深い沼に落ちていく一方で復調の兆しは見えなかった。しかし、彼のことを最もよく知るバイダがコーチに戻ったことをきっかけに状況は一変、ウィンブルドン優勝で復活の狼煙を上げると、以降は他を引き離す勢いで勝ち続け、瞬く間にNo.1返り咲きを果たした。21年にはグランドスラム3大会を制して通算優勝回数を20の大台に乗せた。各種記録の更新など名誉への渇望を公言して憚らないジョコビッチであり、コンディションさえ維持できればテニスの実力からいって今後も彼はビッグトーナメントでタイトルを獲得・ディフェンドし、数々の記録を塗り替え、当然のように「G.O.A.T.」論争の主軸に立っていくことになるだろう。

 

Rafael Nadal

ラファエル・ナダル

 生年月日: 1986.06.03 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  マヨルカ島マナコル(スペイン)
 身長:   185cm 
 体重:   85kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Babolat AeroPro Drive Original 
 プロ転向: 2001 
 コーチ:  Carlos Moya, Marc Lopez 

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 強靭な左腕から繰り出す強烈なスピンショットや驚異的なコートカバーリングで激しいラリーをことごとく制する稀代のベースラインプレーヤーにして、シングルスグランドスラム歴代1位となる22勝の金字塔を打ち建てたテニス界の盟主。No.1の座を手中にしてからもなお更なる進化を求め、周囲の声に素直に耳を傾けながら様々な点の改良に取り組む姿勢は世界中で愛され、ファンからは「ラファ」の愛称で親しまれている。初出場の05年全仏を19歳の若さで制覇し、サンプラス以来の10代グランドスラム優勝者となると、全仏では圧倒的な強さで無敗のまま4連覇、また10年からさらに5連覇を果たした実績が証明するとおり、クレーでは無類の強さを発揮する。バウンドが高く球足の遅いクレーコートは、ナダルの強烈なトップスピンや俊敏なフットワーク、またそれを支える疲れ知らずのスタミナが最大限に活かされるサーフェスであり、05年から07年にかけてクレーで81連勝を記録するなど抜群の安定感を誇っている。クレーでの試合ではベースラインよりかなり後方で構えるが、どんなに強く速い攻撃にも屈することはなく、スライドを活かした鉄壁のディフェンスと鋭いカウンターで試合を支配する、スペインの系譜を引き継ぎつつそれを大幅にアップデートしたようなプレーヤーである。ただし、好調時の彼を止めるのはどのサーフェスであっても非常に困難で、10年には全米優勝により男子史上7人目のキャリアグランドスラムを達成し、08年北京五輪での金メダルと合わせて現役の男子では唯一の「ゴールデンスラマー」となった。基本的にプレースタイルは守備型で、相手の攻めに対応しつつ勝機を見出すタイプであるが、速いサーフェスでの強さを追い求めてポジションをベースライン付近に上げることを試みるようになって以降は、自らの展開力を攻撃面で活用できるようになり、元来苦手としていたハードコートでの戦闘力が格段に上がった。コーチには叔父のトニ・ナダルがついており、フルタイムの帯同には区切りをつけたものの幼少期から現在に至るまでその関係は途切れることなく続いている。

規格外の回転量を誇るフォアハンドの「エッグボール」

 「エッグボール」と形容される強烈なトップスピンのかかったフォアハンドは、スイングスピードが極めて速く、攻撃・守備の双方で大きな武器になっている。規格外の回転量を誇るトップスピンショットは、そのほとんどが頭の後ろ側に振り切るリバーススイングから繰り出され、ベースライン後方からでも厳しいアングルを狙って相手を走らせながらじわじわと追い込み、確実に決められるオープンコートを作ってウィナーを狙う。特に相手のショットの些細な隙を見逃さず、世界一の技術・スピードを擁する回り込みのフットワークを駆使して、バック側のボールをフォアで逆クロスもしくはストレートに放つショットは彼が最も得意とするもので、この形の攻撃を跳ね返せるプレーヤーはツアーでも数少ないというほど凄まじい決定力を誇る。基本的にナダルと対戦する際はできるだけ多くショートポイントを重ねていきたいという考え方が普通だが、長いラリーを嫌ってオーバーパワーしようとフォアのクロスに目一杯強打してきたところを華麗にストレートへカウンターを放って一本で展開を逆転しウィナーを取る形は、相手の戦意さえも奪ってしまう必殺パターンだ。さらに、コート外からポール回しのごとく、強烈なスピンにより極めて特異なカーブ軌道を描いてライン上にのせる技術は誰にも真似できない芸当である。スライスへの対応が非常に良いのも強みの1つで、滑ってくるボールの勢いをさらに加速させ、そのまま前方への動きに繋げていくことができる。したがって、ナダル相手に安易にスライスを打ってしまうと優位に進めていたラリーもひっくり返される危険性が高い。ベースラインの後ろから打つムーンボールに近いトップスピンと、一転して踏み込んで攻撃のスイッチを入れるこのショットとのコンビネーションは必見だ。彼のショットは基本的にはスピン系のショットが多く、フラット系のショットにスピードでは劣るため、ウィナーの数はそれほど多くないが、バウンド後非常に高く重く跳ね上がることで相手のミスを誘うため、結果としてポイントに繋がるケースが多くなる。試合序盤は高く跳ね上がるショットに対応していた相手も、時間とともに体力を奪われ、ポジションも下がることになってしまう。すると彼は、待っていたとばかりに角度のついたショットを放ち、浮いてきた返球をコートの中に入って叩き込む、あるいは短く前に落として決めるというのが確立されたパターンだ。特に片手バックハンドの相手の場合は、弱点である高い打点にこのショットを集めミスを誘発させる。ナダルが対フェデラーの対戦成績で大きく勝ち越しているのはこのためである。ただ、両手バックハンドの相手には高く跳ねるボールを上から叩かれて、この作戦が通用しないことも多くあったため、ハードコートでは彼にしては回転量を減らした低めの弾道での攻撃やスライスを多用して対抗するようになっている。また、左右に大きく振られた際に度々放つ中ロブ気味のスピンショットも非常に有効で、自分が中央に戻る時間を稼ぐだけでなく、相手に強いショットを打たせないという効果もある。一方で、問題となっているのは、調子が落ちると増えてくるスピン過多や薄い当たりによる短いボールで、こうなると相手に対して上から叩く格好のチャンスボールを与えることになってしまう。近年の低迷の最大の要因がフォアの不調で、ミスの多発、返球コースの甘さ、決めのショットの精度など、すべてのレベルが落ちてしまっていた。全体的にボールに体重が乗らず、本来重さを武器にしてきたはずが逆に軽いショットになっていたが、継続的に取り組んできた厚い当たりで捉えて背中側に振り切るフォームが、試合の中で自信を持って使えるほどの完全習得に至った17年には輝きを取り戻し、クレーコートシーズンを席巻する原動力となった。コンパクトなスイングでテンポを速めて状況の打開を図る手もあったが、やはり行き着いたのはしっかりと構えて前方に力をかける打ち方であり、ナダルらしさを消さずに復調するための道だった。とはいえ、以前よりも攻撃する意識そのものは明らかに高まっており、そのための手段として守る時は徹底的にポジションを下げて拾い続け、相手の攻め疲れを待ってからベースラインにより近い位置で叩く、極端なメリハリを武器としている。いずれにしても持ち前のフォアの威力を甦らせた彼の努力はまさに称賛に値する。

年々完成度に磨きをかけるフラットなバックハンド

 フラットドライブ系で被せるように打つことが多いバックハンドは、フォアに比べて軌道は低いがミスは少なく安定感があり、加えてドロップショットなども含め非常に器用なプレーで相手を揺さぶることもできる。とりわけ高い打点からクロスへ突き刺すフラットショットは年々その完成度に磨きをかけており、コートの内側に踏み込んで早いタイミングで展開できる分、ここ最近の彼のテニスにあってはフォア以上に決定打として機能している印象すらある。レフティーだが本来は右利きという特性が、右腕の力強くかつ自在なスイングを生み、一発逆転のカウンタークロスコートを可能としているといえる。バックのレベルアップによって、最も得意とする回り込みフォアに頼る必要がなくなったため、バランスを崩して不用意にオープンコートを空けるようなシーンも少なくなっている。ただ、グリップの関係で打点が一般的なプレーヤーよりも前になることから、ややクロス一辺倒になりがちで、それが読まれ出すとなかなかポイントに繋げられなくなるのも事実であり、ストレート方向にも厳しい攻撃を増やせるよう改善したいところではある。バックサイドに来た浅いボールに対しては、自分が攻める形を作るための布石としてキレのあるスライスを使うことが多く相手を翻弄するが、これはあくまで強打あってのものであり、遠めのボールに対して踏み込まずスライスに頼るのは消極的に映り、あまり良い傾向ではない。また、相手の強い攻撃を凌ぐ場面で使うスライスはボールを切る意識が強すぎるあまりミスに繋がるケースが多く、安定感にはまだまだ向上の余地がある。調子の良い時と悪い時でバックハンドの深さや角度が顕著に異なるため、彼の調子を見るうえでは重要なショットといえる。

神懸った一発逆転カウンターショット

 彼が得意とするカウンターショットは、超人的なフットワークや鋭い読みによる広範なコートカバーリングが基盤となっている。スライドを駆使しつつ、一瞬の間にラケットの面を合わせる能力や手首を返す能力に秀でているため、相手から放たれたライン際への鋭いショットもしくはアングルショットのような、いわゆるエース級のショットに対して、それ以上に厳しいコース・角度へ逆にエースを取ることができる。ドロップショットへの対応も天下一品で、しばしばギリギリで追いついたボールを逆にドロップショットで目の前に落とす形で相手を手玉に取る。また、下がりながらでも鋭く厳しいコースにコントロールできるため、守備面における弱点は皆無に等しい。一見不可能とも思われる体勢から相手の届かないコースへ逆襲する異次元のパッシングショットは、まさにナダルを象徴するショットであり、1試合の中で幾度となくこのような難易度の高いショットを決めて観客を魅了する。ただ、近年は芝での試合となると膝に抱える故障をかばう影響か、フットワークや球際での踏ん張りに力強さが消え、ステップがぎこちなくなってきており、ウィンブルドンでの早期敗退を繰り返す要因となっている。

ポイント獲得率の高いネットプレー

 カウンターショットやストロークの印象が強すぎるあまり、ベースラインプレーヤーという見方をされがちだが、ダブルスや芝での実績が証明しているように、ボレーにおいても一流の技術を備えている。フォアのダウンザラインからネットに詰めてバックのドロップボレーで対角に落とす形は、分かっていても止められない得点パターンである。サーフェスが芝の試合ではクレーの場合とは別人のように積極的にネットへ出て、ボレーでポイントを重ねていく。他のサーフェスではネットプレーの頻度こそそれほど多くないものの、ネットへ出た時のポイント獲得率は非常に高い。中でも際立つのはネットへのつき方で、相手の状況を瞬時に判断し、絶妙なタイミングで素早く前に出ていく。これによってネット際での中途半端なプレーを減らし、十分な体勢でボレーを打つことができている。

重く曲がる複雑な回転で攻撃を許さないサーブ

 サーブは球速こそフラット系でも200km/h前後であるが、1stの確率がとにかく高いうえに、複雑な回転は読みにくく、非常に重く曲がるため、対戦相手は攻勢に転じることが難しい。エースを狙うというより相手に攻撃させないことに重きを置くサーブは、ハードよりもむしろクレーで絶大な効果を発揮する。このサーブに対してリターンで攻撃していけるか否かが対ナダルを占ううえで1つの鍵となる。特にアドバンテージサイドからワイドに逃げていく左利き独特のスライスサーブは、急激な変化により相手をコート外へ追い出せるため非常に有効である。このサーブが配球の軸であることは間違いなく、基本的には相手もワイドに予測を張っているのだが、一転してブレークポイントを握られるとセンターに速いサーブを打ってエースで切り抜けるのが彼の切り札でもあり、ピンチの場面では相手との非常に痺れるコースの駆け引きが見られる。重要なポイントが回ってくることの多いアドバンテージサイドで絶対的なパターンを持っている点で、決してビッグサーバーではないとはいえ、難攻不落と表現しても言い過ぎではないという感覚がある。最近は、とりわけトップとの対戦でボディサーブを配球の軸に据える新たな傾向が見てとれ、両サイドを空ける工夫が感じられる。デュースサイドからのサーブにおいてはバリエーションが不足している点で、相手に対して容易な予測を許してしまっており、ある程度ワイドを意識づけられるようなフラット系のサーブをオプションに加えることが課題とされてきたが、ここ数年のサービスゲームの進化がまさにそれを証明する結果となった。左右にコースを散らすことで甘いリターンを引き出せるようになり、またそれに伴い3球目攻撃の質も劇的に高めることに成功した。一時期、弱点を克服するべくサーブの練習に多くの時間を費やし、1stは210km/hをしばしば超えるようになったが、肩の故障や自身のプレースタイルに適していないなどの理由で再び元来のスタイルに落ち着いている。

相手の戦術を無力化する目一杯後方からのリターン

 リターンの強さもトップクラスであるが、とりわけそのポジションが特徴的だ。相手の1stはともかく、2ndでもベースラインからかなり離れた位置に構え、まずはしっかりとスピンをかけて返球することを優先させるが、同時にこのポジショニングにより相手の距離感を損なわせ、サーブの感覚を狂わせる効果もある。エースなど派手な面は少ないが、相手からするとなかなかサーブによるフリーポイントが計算できないため、非常にいやらしいリターンといえる。技術的な強みは、小さなテイクバックによりサーブのスピードに負けないようタイミングを合わせつつ、一方でしっかりと振り切ってボールを押し出すことでリターンを完全に自分のショットに転換して相手を押し込める点で、仮に返球が少し浅くなってもストローク同様ナダルのショットを上から叩くのは容易ではない。一方、最近はテニス全体を攻撃的にシフトする過程でリターンもベースライン内側に入って叩き、場合によってはそのままネットへという形も試みている。

情熱と神経質

 “鋼のメンタル”の持ち主としても知られ、屈強なフィジカルとともに彼の強さを根底から支える重要な要素だ。フェデラーが常に冷静に淡々とプレーするのに対して、ナダルは声を上げてショットを打ち、派手なガッツポーズや雄叫びを上げることで自らを鼓舞して能力を引き出すタイプであり、まさに「心は熱く、頭は冷静に」を体現しているプレーヤーといえる。その豪快なイメージとは裏腹に、ベンチ前のペットボトルの向きを揃えたり、サーブを打つ前に汗によるウェアの張り付きや髪を直したりするなど、神経質なまでに細かく彼独自のルーティンをこなしている。それゆえにポイント間が長くなりタイムバイオレーションをとられるのも見慣れた光景だが、基本的に審判とのやりとりで冷静さを失うことはほとんどない。また、トップアスリートにしては珍しく弱気な発言で自らの弱みを晒すことも多いが、逆にそうすることで巧みにプレッシャーを退けて自分を解放し、いいテニスができやすい環境を作り出している。

劇的な復活からGS最多優勝記録を更新、さらに先を見据える

 プレースタイル上、肉体にかかる負担は相当なもので、これまで様々な箇所の怪我により戦線を離脱したが、その度に新たな一面を見せて華麗な復活劇を遂げてきたナダル。しかし、14年夏場以降の不調はこれまでにはなかったような性質のものと言わざるを得ず、いわゆるスランプ状態に陥っていた。元々試合の中で心の中の動きがプレーに表れてくるタイプであったが、勝てない時期が続いたことによりその兆候が悪い方向へと加速し、ブレークポイントなどの大事な場面で緊張のあまり硬くなり、ボールがまったく飛ばなくなったり、通常のラリーの中でもフレームショット気味の打ち損じが非常に多くなった。絶対的な体力があるためにそれに頼りすぎて守備に回るきらいがあるという積年の弱点が、年齢的には下降線を辿り始めてもおかしくない時期に差し掛かって顕在化し、すべてにおいて彼のテニスを支えてきたフットワークに衰えが見られるために、ショットの球威・精度に狂いが生じ、ひいてはラリー支配力が低下してしまい、かつては無敵状態にあったクレーにおいてさえ絶対的な存在ではなくなってきた。したがって、ストロークにしろリターンにしろ一本目のショットから確実に深さを出し、次で仕留めるといった速い展開に切り替えるべきという指摘も多く聞かれた。彼自身もこのことは十分に自覚し、着実に前進している姿は見せており、特に否応なしに積極性が要求されるトップ10級との対戦では新しいスタイルが実を結び始め、むしろ失うものは何もないといった心意気で猛然と攻めてくる格下が相手になる大会序盤の戦い方を見直す余地があった。以前はいくらでも相手に攻めさせておいてカウンターで勝つということができたが、神懸ったパスが鳴りを潜めるなど守備範囲とカウンター能力が落ちている以上、相手の攻撃を受けきる形で勝ち星を拾っていく従来のスタイルはもはや苦しくなってきており、打たれた強いショットにどう対処するかではなく、その武器を打たせないためにどうするかということに思考を転換したい。彼自身はこの苦しい時期でも、コーチを変えるべきなどといった環境変化を促す外部からの声には基本的に耳を貸さない姿勢を貫いていたが、17年より全幅の信頼を置く同郷の偉大な先輩にして元No.1でもあるモヤを陣営に迎えると状況は一変。16年終盤を休養に充てたことも功を奏し、2年以上抜け出せないでいた不調がまるで嘘だったかのように王者の威厳が戻り、全仏ではライバルたちを寄せ付けない圧巻のパフォーマンスで10度目の戴冠、いわゆる「ラ・デシマ」の偉業を達成した。以降も大きな舞台、とりわけ全仏では誰も寄せ付けない破格の強さを維持し、22年全豪ではグランドスラム2連続優勝に向けて死角なしと見られたメドベデフを決勝で2セットダウンから大逆転で下し、遂にフェデラーの持つグランドスラム最多優勝記録を塗り替えた。故障がちな点は気になるものの、精神面でもプレーの面でもアグレッシブさを維持できれば、タイトル数の更なる上積みも現実的な目標となってくるが、トップ争いに下の世代が絡むようになり、さらに過酷となったツアーの中でいかに彼が存在感を示していくのか大きな注目が集まっている。

 

Roger Federer

ロジャー・フェデラー

 生年月日: 1981.08.08 
 国籍:   スイス 
 出身地:  バーゼル(スイス)
 身長:   185cm 
 体重:   85kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  UNIQLO 
 シューズ: On 
 ラケット: Wilson Pro Staff RF97 
 プロ転向: 1998 
 コーチ:  Ivan Ljubicic, Severin Lüthi 

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 正確無比なサーブ、一撃で仕留めるリターン、ベースラインからの高速ライジングアタック、華麗なネットプレー、それら無限の武器を駆使し、対戦相手を畏怖させるほどの超攻撃型プレースタイルで、35歳を過ぎた今なおトップに君臨する史上最高のテニスプレーヤーとの呼び声も高いスイスの英雄。01年ウィンブルドン4回戦で8度目の戴冠に向けて死角なしと言われたサンプラスを破ったことで知名度を上げると、02年ハンブルクでのマスターズ初優勝でトップ10入りを果たし、03年のウィンブルドン初優勝を機に長きに亘る絶対王者時代を築き上げた。驚異的なペースでメジャータイトルを積み上げていった彼にとって唯一全仏が獲れずに苦しんだが、過去4年その夢を阻み続けたナダルが早期敗退を喫した09年大会を七難八苦に耐え抜いて制覇し、悲願の男子史上6人目となるキャリアグランドスラムを達成している。また、14年にはついにデビスカップのタイトルも獲得し、残すビッグタイトルはオリンピックの金メダルのみとなった。フェデラーが史上最強と呼ばれる所以は、大舞台での勝負強さと究極の完成度を誇るオールラウンドなテニスにある。非常に自然で鮮やかなフォームから放たれるショットはいずれも強烈で精度が高く、球種や角度でリズムに変化をつけたストローク戦や、ネットプレーを多く織り交ぜた創造性豊かで多彩なゲームメイクによって相手を駆逐する。動き自体のスピードにやや衰えが見える最近は、時には相手に気持ち良く打たせないような巧みな配球術で勝っていく、ベテランらしい老獪さも垣間見せており、サーフェスや対戦相手などによってこれらの戦術を使い分ける器用さは他の追随を許さない。ラリーが続けにくいならサーブとリターンの一発で主導権を握り、その次のボールで決めてしまう。一方、ロングラリーでも相手を崩すための手札を数多く持ち、自らはバランスを崩さない。これをトップのレベルで実行するのは恐ろしく難易度が高く、彼ならではといえるだろう。とはいえ、あくまで彼が標榜するのは「展開の速いテニス」であり、その実現のための技術・戦術をキャリアを通して追求してきた。体力の消耗を最小限に抑えて速攻の嵐で襲い掛かる戦略から、”Federer Express”という異名も持つ。技術面・フィジカル面・メンタル面いずれにおいても欠点はほとんどなく、その強さはとりわけ芝とハードコートで際立つが、特定のサーフェスを苦にすることはなくすべてのサーフェスで輝かしい成績を残している。インドアでの強さにも定評があり勝率が一層跳ね上がるが、その一方で豊富な経験からか風を利用した戦い方にも秀でるなど異常コンディションへの順応性も高い。

超速の中で七色の手札を操る圧倒的な技術力

 ストローク戦ではフォア、バックともにあくまで強打という姿勢を貫き、パワーとスピードの凄まじい迫力で相手の守備壁を粉砕することも、緩急やコース、球種などに変化をつけてミスを誘い出すこともできる硬軟自在な引き出しの多さと、それらの手札をトップスピードの中で切っていける技術力の高さが最大の魅力。息を呑むショットの鋭さ、僅かな隙を逃さない洞察力によって相手に休むことを許さない高速テニスに対して、とりわけ初対戦のプレーヤーは面食らってしまい、為す術なく敗戦ということも少なくない。バックの良し悪しに目が行きがちだが、やはり何といっても生命線はフォアのフィーリングだ。最近はバックのハードヒットの割合を増やしつつ、スライスをより戦術的に使用することで、相手には効果的な反撃を許さず、自らがコートの内側に入ってボールを叩く展開に持ち込んでいる。前後左右高低緩急を幅広く使った動きのあるテニスが、トップの中でも群を抜いて見ていて面白いとの評判を得る。

世界最高の完成度を誇る美しいフォアハンド 

 流れるような美しいフォームから放たれるフォアハンドは彼の最大の武器で、パワー・精度・バリエーションなど、あらゆる面で世界最高の完成度を誇る。ラケットを薄く握り、極力リラックスした状態から上半身の開きを抑え、インパクトの瞬間にのみパワーを集約させて打つ技術に長けており、身体で力むのではなく手首のスナップと飛び出すボールを追い越すかのようなイメージさえある驚異的なラケットヘッドの走りでボールにスピードをつける点が美しさの要因とされる。厚い当たりでスピードを出すフラット系のショットが主な持ち球だが、それでも実はかなりの回転量があるため、吸い込まれるようにライン際でボールが落ちるのが特徴である。その完成度は誰もが認めるところで、それゆえに徹底したバック攻めが対フェデラーの常套戦略となっている。特にクロスのラリーから斜め前に切れ込んで放つストレートと、向かってくるボールに対して身体を逃がしながら絶妙な距離感で捉える回り込みの逆クロスは抜群の決定力を誇る。逆に、回り込みフォアを安易にストレートに引っ張ってクロスのオープンコートにカウンターを取られるのが悪いパターンだ。一発の切れ味に加えて、強打の応酬の中で突然柔らかいインパクトに切り替えて厳しいアングルを突いて崩したり、フォアサイド深くから鋭いスライスによるディフェンス、いわゆる「スカッシュショット」を放ったりと頭脳的なショットセレクションも光る。また、追い込まれた相手が中ロブ気味のボールで返球したと見るや、忍び寄るようにポジションを上げてドライブボレーを叩き込むパターンは、一瞬の隙も逃さない洞察力とリスクの高いダイレクト返球を平然とこなす技術力あってのものである。最近では状況によってリバーススイングを多用することで一段と展開のスピード感が増し、さらにこれまで以上に鋭く重い強打を打つ意識を高めて攻撃性に磨きをかけている。ただし、不必要にラケットを振り上げてしまう場面が増えているのが気がかりでもあり、それが腕力の低下なのか動体視力の衰えなのか原因は定かではないが、明らかに距離感を誤って手打ち気味の軽いインパクトになり勢いのない弱い返球になるシーンが散見される。手首の故障による一時的な影響であればいいが、恒常的な弱体化であるとすれば彼のキャリアにとって厳しさは増してくるだろう。

驚異の進化を遂げた攻撃力抜群のシングルバックハンド

 リストを柔らかく使うシングルバックハンドも独特の美しさを持つ武器であり、スピネーションを最大限に使うことで強烈なスピン回転を可能にし、強力な球威を保ったまま広範囲に打つことができる。以前はベースラインよりも後ろで打っていたが、近年は深いショットに対してもほとんどハーフボレーのようなタイミングで捉えて展開していく能力を新たに習得した。これは左足重心でも押し込まれず、身体の内側にまで打点を引き込んで強打や厳しいアングルショットでいとも簡単に切り返す、常識外れの技術に支えられている。非常にリスクが大きく、不調時にはミスヒットを連発することもあるが、感覚良く打てている時はフォアにも劣らない威力と精度で圧倒的な支配力を見せる。バラエティーに富んだ球種を繰り出せるのが片手打ちの利点と自負するように、右と左の肩甲骨がつきそうなほど振り抜きの良いトップスピン、変幻自在のスライス、スピードで相手にトドメを刺すフラットを繰り出す。クロスラリーでスピンとスライスを駆使して高さと角度に変化を与えることで相手を揺さぶり、決定力の高いフォアに回り込んで先に展開する基本の形だが、最近は前に入り込みバウンド後の上がりばなを確実に胸の高さで捉えて叩き下ろしていくショットのクオリティが飛躍的に向上したことで、バックのハードヒットを完全に武器として使えるようになり、クロスの打ち合いを早々に切り上げ次々とダウンザラインに攻撃を仕掛けていくような戦術にシフトした。また、今まではスライスで逃げていた場面でも良い意味で少し無理をして踏み込み、クロスの鋭角にフラット系の高速ショットでウィナーを突き刺すシーンも増えており、ベースラインからの単純なストロークウィナーの数ではフォアを上回ることも多くなっている。こうした進化に通底するのは、ショットのスピード上昇と低弾道化であり、より強く叩くことで攻撃力アップを実現するとともに、回転を少し減らしフラットにボールを押す意識を高めたことは安定感向上にも寄与している。一方で、彼本来の持ち味である多様な回転で相手のペースを狂わせるスライスはツアーでも唯一無二の完成度を誇り、時には戦略としてバックハンドの5割近くをスライスにして相手の武器を封じ込める。技術的には、縦に低く滑る攻めのスライス、サイドスピンを効かせてチャンスを作るスライス、長い滞空時間とバウンド後のブレーキが特徴の時間を稼ぐスライスなど、多種多様な球種を状況に応じて使い分ける。高い軌道を描くトップスピンと地を這うようなスライスによって縦の変化に富んだ彼のバックは対戦相手からすれば非常に捉えにくく感じるはずだ。以前は片手打ち特有の弱点である高い打点への集中攻撃を受けてプレーを乱されることが多かったが、ナダルに執拗にこの弱点を突かれて苦しんでいた時代の不安定さはもはやなく、このところはバックに集めすぎるとむしろ彼のペースに持ち込まれる可能性が高くなっている。今の彼の威圧的な攻撃力を止めるためには、ややボールへのフットワークに乱れが生じやすく、またフィジカル的にも最も負担のかかるフォアサイドへの振り回しを使ってバランスを崩すのが有効な対抗策だ。

ライジングショットを可能にする天性のタッチ感覚

 「ゴッドハンド」とも称される天性のタッチ感覚を持ち、幅広い打点に対応する能力で精密かつ多彩なショットを生み出している。山なりの軌道でベースライン際に緩く返球するスライスのディフェンスは他に類を見ない空間察知能力の賜物といえ、またバックサイドからのスライス系のロブや信じられない手首のフリックで逆襲するカウンターショットに見られるように、追い込まれた状態でもラケットに届きさえすれば面を合わせるだけでどこにでもコントロールし、ピンチを一瞬にしてひっくり返す。一方で、どのショットの際にも打球後まで打点に目線を残すのが特徴で、上体の開きを抑える効果があるとともに、しばしば最高の模範に推される要因の1つでもある。ボールの上がり際を叩く攻撃力抜群のライジングショットはまさに巧みなラケットタッチによるもので、彼はストロークの大半をショートバウンドで捉えるため、速いテンポで打ち返すことで相手に考える余裕すら与えることなく畳み掛けることができる。ストロークにおいてボールスピード自体で彼を上回るプレーヤーは少なからずいるが、テンポの速さを含め実際に相手に与える圧力で彼の右に出る者はいない。現在ツアーで最強の守備力を持つジョコビッチにスピード勝負を挑める唯一のプレーヤーであるという事実がその証明だ。長期の休養期間を経て復帰した17年頃からは、ライジングで打っているにもかかわらず返球が直線的ではなく、手首を柔らかく使い強烈なトップスピンにより角度をつけてエースを取ることもできるようになった。今まで以上に卓越した技術の習得により立体感を増した新しいテニスの開拓を後押ししているといえよう。また、ドロップショットも得意なテクニックの1つで、技術的には球足の長いアプローチを匂わせるように前進しながら打てる点や、スライス面でしっかりと上からラケットを振りつつ強いショットの威力を吸収できる点が特徴で、虚を突く判断力もあいまって相手を完全に欺くことができるため、まるで一瞬時が止まったかのような印象さえ与える。それゆえ成功率はフォア、バックともに高く、相手が前の動きに難があると見れば1試合の中で何度も放つ。頭上を越された時など非常時に見せる“Tweener”もまたフェデラーを象徴するショットで、これまでに幾度となく伝説的なポイントを生み出してきた。ボールキッズとのやりとりなどポイント外での巧みなラケット捌きも隠れた見どころの1つである。

低迷からの再浮上を期して手に入れた鮮やかかつ力強いネットプレー

 ネットプレーにも非凡さが発揮され、その質の高さは現役プレーヤーの中では一・二を争うレベルにある。自らの攻めの展開で積極的にネットを突くことはもちろん、相手の一瞬の隙を見計らってボレーカットに入る場面も多く、ネットに詰める縦の動きのスピードが突出している。絶妙なタッチで相手を翻弄するハーフボレーやドロップボレーは天性の才能によるところが大きく、強烈なパスを短く落とす柔らかいタッチは誰にも真似できない。また、ファーストボレーから次、その次とネットとの距離を徐々に詰めていくことで相手へのプレッシャーを増していくが、鋭いパスに対する反応に自信を持っていなければできることではない。当然相手とすれば頭上が狙い目ではあるのだが、バックのハイボレーや下がりながらのスマッシュなども力強くかつ鮮やかにこなす。ボレーではしっかりとアンダースピンをかけてボールを浮かさないのが特徴で、その技術をベースに強く弾き返すことも繊細なコントロールもできる。14年からはデビュー当時のプレースタイルであったサーブ&ボレーを基本オプションとして再び使うようになり、よりフェデラーらしさが発揮されるようになっている。ネットプレーを劇的に増やしたことは、ストローク戦で優位性を確保することにも一役買っており、ネットへ先に仕掛ける展開を作ることで、バックハンドに集められて相手に展開されるという、これまで苦しめられてきたパターンの頻度が激減した。相手からのストレスを減らしながら、自分から主導権を握るテニスを新たに手に入れたのだ。

特有の対ネットプレー戦略

 一方でネットプレーヤーを相手にした時の対応も実に秀逸だ。アプローチショットに対してコートの中で待ち構えることがまず極めて特殊で、予測の良さと準備の早さを兼ね備える彼にしか実行できない戦法。そこから瞬き一つ許さないライジングで、あるいは少しスライスアプローチが浮いてきた場合にはバウンドさせずに打つことすらあるパスは、相手のネット前でのスプリットステップを完全に狂わせる。特にバックハンドは直線的なスピードボールではなく、やや軌道の高いスピンボールを使うため角度がつきやすく、また相手は一瞬目線が上がりタイミングを外されてしまうため、効果的なボレーを打つことができない。ストロークで不利になっても、自らネットに仕掛けたり浅めのスライスで相手をネットに誘き出してポイントを稼ぐという選択肢が残っているのが彼の強みの1つといえるだろう。

限りなく読みづらい正確無比なサーブ

 サーブも同様に美しく無駄のないフォームから精緻なコントロールを武器に相手を追い込む。短いポイントで一気に畳み掛ける攻撃性を貫くうえでその生命線となるのがサーブの質であり、サービスポイントが多いのはもちろんだが、サービスダッシュも含めた3球目の速攻で決める「サーブ+1」戦術の名手としてあらゆるパターンを備えることで、いわゆるビッグサーバーにも引けを取らない高いサービスキープ率を実現している。身長やスピードは平均レベルで決定的な威力こそ持たないが、的を絞らせない巧みな配球と勝負所で狙ってエースが取れるのが強み。トスアップの段階でコースや球種が読めないというのはトップレベルでは当然の技術だが、彼の場合どのサーブを打つにしてもインパクト後ボールが飛び出すその一瞬までフォームに差が表れないと言われ、これこそが対応が至難となる最大の要因である。一方で最近は、意図的にトスの位置や打点のタイミングを変えて相手を惑わす狙いも見てとれ、更なるバリエーション増加を模索しているようだ。1stは200km/h前後のフラットサーブと170km/h台のスライスサーブが中心となるが、常に回転やスピードに微妙な変化を与えることでリターンミスを誘うことができる。デュースサイドからのサーブには絶対の自信を持ち、凄まじいキレを誇るワイドへのスライスサーブを多用して相手に意識させ、大事な場面では逆にセンターフラットでエースを奪う。アドバンテージサイドはセンターラインを僅かに掠めるような速めのスライスサーブを得意としている。とりわけ大事な場面で圧巻の質の高さを発揮する2ndも大きな武器で、ポイント獲得率は常にツアーのトップに位置しており、多彩な球種と幅広い配球範囲を活かし、並のプレーヤーならダブルフォルトのリスクを懸念して狙えないような際どいコースにコントロールできる。特に強烈な斜めの回転をかけて横方向に高く弾ませるキックサーブを得意とし、2ndであっても相手の体勢を崩しオープンコートを空けると、3球目でフォアに回り込んで即時攻撃というのが彼の目指す理想型であり、サーブに対して最大限の集中を保てている時には、どんなにリターンの良いプレーヤーを相手にしても、1st・2nd問わずストローク戦に持ち込むことさえ許さない威圧感がある。また、サービスゲームを短い時間で片付けられている時の彼は気持ちの面で乗っていくことができ、プレー全体のリズムが良くなる傾向がある。逆に、1stが連続して入らなくなるのが崩れる時の兆候であり、1試合の中で確率に波がある点が唯一相手としては付け入る余地のある隙といえる。また、サーブの調子を見るうえでバロメーターとなるのがアドバンテージサイドからのワイドフラットで、このコースが高い精度で打てている時はしっかりと高い打点から叩くように打つことができている証明である。

確実性重視の中にも豊富なバリエーションが光るブロックリターン

 リターンにも隙はなく、ビッグサーバーの高速サーブにも素早く反応し、かつコンパクトなスイングで的確に対応する。ブレーク率自体はトップの中ではそれほど高くないが、セットを奪うには1つのブレークで十分な彼の場合、試合を通して感覚が合っていることよりも、むしろ1ゲームにまとまって良いリターンを繰り出せるかが勝敗の鍵を握る。本来強力なサーブをどう返すかという受け身の側面が強いはずのリターンだが、彼はすでにリターンの一打で主導権を握れるのが大きな強み。その最たる例がバックサイドからスライス系のボールを浅く低い位置に落として難しい対応を強いり、次の一球で即座に仕留めるパターンだ。同じ短いフォロースルーからインパクトの瞬間の押し・切りを自在に操る“捌きの妙”により生み出される長短のスライスリターンを多用するが、しっかりとタイミングが合えば面を合わせて強烈に突き刺すようなフラット系のリターンをしていくこともあり、後者を軸にできている時には相手とすると手がつけられない。10年夏にアナコーンに師事して以降、またエドバーグとコンビを組んでからはそれ以上に、2ndに対するリターンの攻撃意識が高まり、フラットに叩いてエースを狙う、チップ&チャージでネットに出て圧力をかける、一気に決めにいくドロップショットを放つといった場面も増えた。とりわけ相手のスピンサーブの回転をそのまま利用するドロップショットはまさに対応不可能な妙技だ。15年にはSABR(Sneak Attack By Roger)と名付けられた、2ndに対してサービスライン付近まで猛烈に前進し、ショートバウンドで捕ってネットに詰めるという半ば反則的なリターン戦術を編み出し、相手のサーブに特大の脅威を与えている。近年のリターン力の向上は目覚ましく、SABRという分かりやすい武器だけでなく、以前は良いプレーの流れに水を差すことの多かった簡単なリターンミスはほとんどなくなり、特に休養明けの17年からはリターンポジションを大幅に上げてバックハンドで強く叩く技術に磨きをかけている。ミスを軽減し確実性を増しつつ、それでいてタイミングを早めて攻撃性も上げていくことで、試合全体の流れをテンポアップさせ、極力ロングマッチを避けるというベテランらしい狙いも見てとれるが、その意図を考えられないほどのハイレベルで実現しているのが今のフェデラーといえるだろう。課題とすれば本人も自覚しているところだが、ブレークポイントを獲り切ることができない点で、どうしても積極性と慎重さのバランスが噛み合わない。

流麗なフットワークが颯爽としたすべてのプレーの根底

 彼自身が自らの最大の武器に挙げるフットワークは軽やかだが力強く、一歩目の反応の早さや展開の先を読む予測力もあいまって、自分が攻撃している時は激しく動き回っても決してバランスを崩さない。マッケンローに「ピンが落ちる音が聞こえるほどに静か」とまで言わしめた流麗なフットワークは、彼の魅力である颯爽とした一連の動きの基盤となっているため、調子のバロメーターと言ってもいいだろう。劣悪なコートコンディションでも滑ったり転倒することがほとんどなく、怪我が少ないのもこのしなやかなフットワークがあればこそだ。特にサーブを打った後バック側を狙われたリターンに対して、コートの内側に留まったうえに回り込んでフォアで処理するフットワークはまさしく世界一のスピードだ。細かくステップを踏みつつ、打点に入る最後の一歩を跳ぶように広くとるのも大きな特徴の1つ。一見するとナダルのような球際の力強さやマレーのような素早さは感じないが、逆に凄みを感じないことこそが魅力ということもできる。強いボールを打ち込まれてもベースラインから下がらず、むしろ前に入って対応するのが特徴であり、凌ぎ切る守備ではなく攻撃的な守備を意識している。こうしてコーナーを突くボールに対して一直線に近づくことで自らの移動距離を短縮すると同時に相手の時間も奪う、「先に仕掛ける」ことを徹底的に追求した中で辿り着いた超攻撃的なプレーの象徴ともいえる。また、ラリー中に決して休まないことが相手への圧迫感を極限まで高める要因であり、コートのかなり後方に押し込まれても粘り強い守備で1本甘い返球を引き出すと繋ぎを挟むことなく瞬く間にアプローチショットを放って攻めに転じていく。「気がついたらフェデラーがネットにいた」とは文字通り実態を映した表現と言ってよい。年齢から来るフットワークの衰えはもはや隠せず、とりわけフォア側のオープンスペースの対応力には低下が目立つが、その不足分を補うべくベースライン上を平均台に乗っているかのように走る、とにかくポジションを下げないテニスを完成させたことで、展開そのものは格段に高速化した。

実はフィジカルこそが超一流

 大きく取り上げられることはそう多くないが、フィジカル面の強さも超一流で、彼が長年世界のトップでプレーし続けられる最大の要因となっている。勝っている試合でも相手より走行距離のデータが長く出ることが多く、誰よりも素早い動きでコートを駆け回る豊富な運動量が試合を支配するベースにあるのは今も昔も変わらない。プロツアーに出始めた98年から現在に至るまで数ヶ月単位の長期離脱がほとんどなく、また一度も途中棄権をしたことがないという事実がそれを物語るとともに、「一旦コートに出たら最後まで戦う」という王者としての信念も感じられる。豊富な経験から自分の身体と相談しながらトレーニングを積む調整法も知り尽くしているようだ。

ポーカーフェイスの裏には並外れた負けず嫌い精神

 メンタル面の強さもフェデラーを語るうえでは特筆すべき要素である。基本的にプレー中はポーカーフェイスを貫き、常に冷静な判断力を備え、大事な局面での集中力の高さが大舞台での勝負強さに繋がっている。近年はフラストレーションを露にすることもあるが、逆に重要な場面ではポイントごとに雄叫びを上げて自らを鼓舞するなど、いまだに衰えない勝利への飽くなき闘志の表れという意味でポジティブに捉えるべきだろう。セット間でのメンタルのブレが少なく、たとえ接戦でセットを落としても素早く頭を切り換えて、逆に次のセット序盤でギアを上げることで流れを一気に自分の側に引き込む強かさを持つ。駆け引きのうまさという意味では大事なポイントで意図的にラリーのペースを落とせるところに凄さが表れている。普通は欲しいポイントでは攻めを急ぎがちで、攻撃型のフェデラーであれば尚更だが、相手の緊張を見抜きあえてプレーをさせることで甘い返球を引き出したりする。そうかと思えば、あるゲームでは急にネットプレーを増やしたりと、色々な攻撃を見せることで相手を困惑させる。最近は試合の締め方に不安定な部分があり、勝利を確信したようにプレーが軽くなって不用意に相手にカムバックを許すシーンが散見される点は解消したい。本来は頑固な気質の持ち主で、キャリア初期は試合中に癇癪を起こしたりするなど、冷静さを保つのが難しいプレーヤーであったが、地道なメンタルトレーニングの積み重ねによって改善されている。戦術として相手の得意なコースにあえてボールを集めて、そこを打ち破ることでポイントを重ね、心理的に優位に立とうとする姿勢には、彼の頑固な一面が見え隠れする。また、普段の人柄が良い意味でプレーには影響しないのが強さの秘訣ともいえ、ネット際の接近戦で容赦なく相手の体めがけて打ち込んだり、実力差のある相手を無慈悲なまでに退けるあたりに勝負師の姿を見ることができる。彼が30代半ばになってなおトップレベルを維持し、情熱を失うことなく戦い続けられるのは、彼自身が話すように単純にテニスへの愛情があり、ツアー生活を楽しめているということだけでは到底説明がつかず、誰よりも勝利に貪欲で「やられたらやり返す」負けず嫌いの精神が、表向きには出さないが裏での相当なトレーニング量を生んでいるからだろう。

紳士的な人柄が世界中での絶大な人気を支える

 ファンによる人気投票で17年連続トップという揺るぎない事実が表す通り、観客を虜にする華麗なテニスに限らず、謙虚で紳士的な態度や常に進化を追求する向上心は、世界中どこに行ってもファンから絶大な人気を誇り、あるいは地元のプレーヤー以上の声援を受けるなど、アウェイな雰囲気になることは滅多にない。あまりに熱狂的なファンが相手のミスに歓声を上げるといった場面が物議を醸すことすらあるほどだ。

究極の攻撃的戦術はまだまだ洗練される

 近年は年齢的な問題で疲れが残ったまま次の試合となると大きくパフォーマンスを落とすなど、ごまかしが利かなくなっているのは事実で、大会または試合を通して集中力を保ち続けることが難しくなってきている。単純なスタミナという面でも不安があり、勝ち上がりの中でロングマッチを強いられると、その大会の優勝は厳しいと言わざるを得なくなっている。しかし、好調時であれば全盛期以上の迫力でどんな相手も圧倒できる力を持っており、特に躊躇なくリズムを早められるハードコートでの強さは今でもツアー随一だ。逆に、クレーでの戦いを中心にベースライン後方での打ち合いを余儀なくされる条件では、アンフォーストエラーが増える厳しい状況が浮き彫りになっており、そのあたりは打開策が必要か。13年には怪我の影響もあり年間を通して不調を抜け出すことができず、様々な連続記録が途切れたことでついに斜陽かと思われたが、思い切ったラケット変更や自身の憧れであるエドバーグのコーチ招聘といった環境変化を新たなモチベーションとして14年には再び華麗なプレーを取り戻した。その過程においては、長い打ち合いで先にミスが出る状況を打破しようと、守りを固めるという考え方を捨て、攻撃一辺倒のテニスを構築することでトップに返り咲いたが、盟友ルビチッチを陣営に迎えてからはもう一度ストロークの強化に努め、エドバーグが遺したネットプレーとのベストミックスに向けて微妙にテニスをチューニングしている。16年は年頭に膝に負傷を抱え、シーズンの半分以上を棒に振るという彼にとっては初と言っていい苦しい戦線離脱を強いられた。それまでに数多の限界説を払拭してきたとはいえ、年齢が年齢なだけに完全復帰を疑問視する声もあったが、その不安をかき消すかの如く、復帰戦となった17年全豪では決勝のナダル戦を含む4人のトップ10、3つのフルセットマッチを見事に勝ち抜き、35歳にして5年ぶりにグランドスラムタイトルを手にした。「王の帰還」を思わせる頂点奪回は多くの人々のノスタルジックな感動を喚起したが、それが一過性の輝きではないことをアピールするように、3月の北米マスターズ2連戦も制し11年ぶりとなる「サンシャイン・ダブル」を達成、ここで思い切ってクレーコートシーズンはスキップして得意の芝に照準を合わせると、ウィンブルドンでは圧倒的な強さでセットを落とさず前人未到8度目となる優勝の快挙を打ち立てた。これにより「G.O.A.T.」論争には終止符が打たれたとの見方もあるが、いずれにしてもまだまだ健在どころか年々進化を遂げ、今がキャリアで最も速く、強く、美しいテニスをしている印象さえあるフェデラーが今後さらに究極の攻撃的戦術を洗練させ、さらにビッグタイトルを積み重ねる姿をすべてのテニスファンが期待している。

 

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順位 選手名 国籍 生年月日 身長 体重 タイトル 最高位
1 Carlos Alcaraz スペイン 2003.05.05 183cm 74kg 6 1
2 Rafael Nadal スペイン 1986.06.03 185cm 85kg 92 1
3 Casper Ruud ノルウェー 1998.12.22 183cm 77kg 9 2
4 Stefanos Tsitsipas ギリシャ 1998.08.12 193cm 90kg 9 3
5 Novak Djokovic セルビア 1987.05.22 188cm 77kg 91 1
6 Felix Auger-Aliassime カナダ 2000.08.08 193cm 88kg 4 6
7 Daniil Medvedev ロシア 1996.02.11 198cm 83kg 15 1
8 Andrey Rublev ロシア 1997.10.20 188cm 75kg 12 5
9 Taylor Fritz アメリカ 1997.10.28 196cm 86kg 4 8
10 Hubert Hurkacz ポーランド 1997.02.11 196cm 81kg 5 9
11 Holger Rune デンマーク 2003.04.29 188cm 77kg 3 10
12 Alexander Zverev ドイツ 1997.04.20 198cm 90kg 19 2
13 Pablo Carreno Busta スペイン 1991.07.12 188cm 78kg 7 10
14 Cameron Norrie イギリス 1995.08.23 188cm 82kg 4 8
15 Jannik Sinner イタリア 2001.08.16 188cm 76kg 6 9
16 Matteo Berrettini イタリア 1996.04.12 196cm 95kg 7 6
17 Marin Cilic クロアチア 1988.09.28 198cm 89kg 20 3
18 Denis Shapovalov カナダ 1999.04.15 185cm 75kg 1 10
19 Frances Tiafoe アメリカ 1998.01.20 188cm 86kg 1 17
20 Karen Khachanov ロシア 1996.05.21 198cm 87kg 4 8
21 Roberto Bautista Agut スペイン 1988.04.14 183cm 75kg 11 9
22 Nick Kyrgios オーストラリア 1995.04.27 193cm 85kg 7 13
23 Lorenzo Musetti イタリア 2002.03.03 185cm 78kg 2 23
24 Alex de Minaur オーストラリア 1999.02.17 183kg 69kg 6 15
25 Diego Schwartzman アルゼンチン 1992.08.16 170cm 64kg 4 8
26 Borna Coric クロアチア 1996.11.14 188cm 85kg 3 12
27 Daniel Evans イギリス 1990.05.23 175cm 75kg 1 22
28 Grigor Dimitrov ブルガリア 1991.05.16 191cm 81kg 8 3
29 Miomir Kecmanovic セルビア 1999.08.31 183cm 75kg 1 28
30 Francisco Cerundolo アルゼンチン 1998.08.13 185cm 80kg 1 24
31 Alejandro Davidovich Fokina スペイン 1999.06.05 183cm 80kg 0 27
32 Tommy Paul アメリカ 1997.05.17 185cm 82kg 1 28
33 Sebastian Korda アメリカ 2000.07.05 196cm 79kg 1 30
34 Maxime Cressy アメリカ 1997.05.08 198cm 84kg 1 31
35 Botic van de Zandshulp オランダ 1995.10.04 191cm 85kg 0 22
36 Yoshihito Nishioka 日本 1995.09.27 170cm 64kg 2 36
37 Alexander Bublik カザフスタン 1997.06.17 196cm 82kg 1 30
38 Reilly Opelka アメリカ 1997.08.28 211cm 102kg 4 17
39 Albert Ramos-Vinolas スペイン 1988.01.17 188cm 76kg 4 17
40 Emil Ruusuvuori フィンランド 1999.04.02 188cm 79kg 0 40
41 John Isner アメリカ 1985.04.26 208cm 108kg 16 8
42 Jack Draper イギリス 2001.12.22 193cm 85kg 0 41
43 Sebastian Baez アルゼンチン 2000.12.28 170cm 70kg 1 31
44 Arthur Rinderknech フランス 1995.07.23 196cm 86kg 0 42
45 Lorenzo Sonego イタリア 1995.05.11 191cm 76kg 3 21
46 Adrian Mannarino フランス 1988.06.29 180cm 79kg 2 22
47 Brandon Nakashima アメリカ 2001.08.03 188cm 84kg 1 43
48 Jenson Brooksby アメリカ 2000.10.26 193cm 83kg 0 33
49 Andy Murray イギリス 1987.05.15 191cm 82kg 46 1
50 Alex Molcan スロバキア 1997.12.01 178cm 73kg 0 38
51 Corentin Moutet フランス 1999.04.19 175cm 71kg 0 51
52 Gael Monfils フランス 1986.09.01 193cm 85kg 11 6
53 David Goffin ベルギー 1990.12.07 180cm 70kg 6 7
54 Filip Krajinovic セルビア 1992.02.27 185cm 75kg 0 26
55 Fabio Fognini イタリア 1987.05.24 178cm 79kg 9 9
56 Marc-Andrea Huesler スイス 1996.06.24 196cm 86kg 1 56
57 Pedro Cachin アルゼンチン 1995.04.12 185cm 77kg 0 54
58 Jaume Munar スペイン 1997.05.05 183cm 76kg 0 52
59 Aslan Karatsev ロシア 1993.09.03 185cm 85kg 3 14
60 Benjamin Bonzi フランス 1996.06.09 183cm 82kg 0 44
61 Marcos Giron アメリカ 1993.07.24 180cm 77kg 0 49
62 Pedro Martinez スペイン 1997.04.26 185cm 76kg 1 40
63 Mackenzie McDonald アメリカ 1995.04.16 178cm 73kg 0 48
64 Quentin Halys フランス 1996.10.26 191cm 85kg 0 64
65 Constant Lestienne フランス 1992.05.23 180cm 77kg 0 61
66 J.J. Wolf アメリカ 1998.12.21 183cm 77kg 0 56
67 Daniel Elahi Galan コロンビア 1996.06.18 191cm 72kg 0 67
68 Richard Gasquet フランス 1986.06.18 183cm 79kg 15 7
69 Mikael Ymer スウェーデン 1998.09.09 183cm 75kg 0 67
70 Laslo Djere セルビア 1995.06.02 188cm 82kg 2 27
71 Thiago Monteiro ブラジル 1994.05.31 183cm 78kg 0 61
72 Bernabe Zapata Miralles スペイン 1997.01.12 183cm 79kg 0 72
73 Ilya Ivashka ベラルーシ 1994.02.24 191cm 86kg 1 40
74 Roberto Carballes Baena スペイン 1993.03.23 183cm 77kg 1 71
75 Federico Coria アルゼンチン 1992.03.09 180cm 73kg 0 52
76 Oscar Otte ドイツ 1993.07.16 193cm 79kg 0 36
77 Kamil Majchrzak ポーランド 1996.01.13 180cm 78kg 0 75
78 Christopher O'Connell オーストラリア 1994.06.03 183cm 78kg 0 78
79 Tomas Martin Etcheverry アルゼンチン 1999.07.18 196cm 82kg 0 72
80 Dusan Lajovic セルビア 1990.06.30 183cm 83kg 1 23
81 Jiri Lehecka チェコ 2001.11.08 185cm 81kg 0 59
82 Joao Sousa ポルトガル 1989.03.30 185cm 74kg 4 28
83 Soonwoo Kwon 韓国 1997.12.02 180cm 72kg 1 52
84 Jordan Thompson オーストラリア 1994.04.20 183cm 82kg 0 43
85 Cristian Garin チリ 1996.05.30 185cm 85kg 5 17
86 Ugo Humbert フランス 1998.06.26 188cm 73kg 3 25
87 Marton Fucsovics ハンガリー 1992.02.08 188cm 82kg 1 31
88 Roman Safiullin ロシア 1997.08.07 185cm 75kg 0 88
89 Facundo Bagnis アルゼンチン 1990.02.27 183cm 82kg 0 55
90 Gregoire Barrere フランス 1994.02.16 183cm 80kg 0 80
91 Nikoloz Basilashvili ジョージア 1992.02.23 185cm 79kg 5 16
92 Taro Daniel 日本 1993.01.27 191cm 84kg 1 64
93 Thanasi Kokkinakis オーストラリア 1996.04.10 193cm 84kg 1 69
94 Daniel Altmaier ドイツ 1998.09.12 188cm 80kg 0 53
95 Tallon Griekspoor オランダ 1996.07.02 188cm 75kg 0 44
96 Ben Shelton アメリカ 2002.10.09 193cm 88kg 0 96
97 Tomas Machac チェコ 2000.10.13 183cm 74kg 0 97
98 Vasek Pospisil カナダ 1990.06.23 193cm 88kg 0 25
99 Zhang Zhizhen 中国 1996.10.16 193cm 87kg 0 97
100 Alejandro Tabilo チリ 1997.06.02 188cm 75kg 0 64
102 Dominic Thiem オーストリア 1993.09.03 185cm 79kg 17 3
109 Jiri Vesely チェコ 1993.07.10 198cm 94kg 2 35
110 Steve Johnson アメリカ 1989.12.24 188cm 86kg 4 21
121 Pablo Andujar スペイン 1986.01.23 180cm 80kg 4 32
124 Fernando Verdasco スペイン 1983.11.15 188cn 90kg 7 7
125 Federico Delbonis アルゼンチン 1990.10.05 193cm 90kg 2 33
131 Jack Sock アメリカ 1992.09.24 191cm 88kg 4 8
147 John Millman オーストラリア 1989.06.14 183cm 79kg 1 33
148 Stan Wawrinka スイス 1985.03.28 183kg 81kg 16 3
150 Jan-Lennard Struff ドイツ 1990.04.25 193cm 92kg 0 29
179 Benoit Paire フランス 1989.05.08 196cm 80kg 3 18
188 Mikhail Kukushkin カザフスタン 1987.12.26 183cm 72kg 1 39
199 Dominik Koepfer ドイツ 1994.04.29 180cm 79kg 0 50
235 Peter Gojowczyk ドイツ 1989.07.15 188cm 83kg 1 39
237 Lloyd Harris 南アフリカ 1997.02.24 193cm 80kg 0 31
269 Pablo Cuevas ウルグアイ 1986.01.01 180cm 78kg 6 19
276 Juan Ignacio Londero アルゼンチン 1993.08.15 180cm 70kg 1 50
305 Pierre-Hugues Herbert フランス 1991.03.18 188cm 75kg 0 36
307 Ernests Gulbis ラトビア 1988.08.30 191cm 85kg 6 10
380 Lucas Pouille フランス 1994.02.23 185cm 84kg 5 10
462 Bernard Tomic オーストラリア 1992.10.21 196cm 91kg 4 17
582 Kyle Edmund イギリス 1995.01.08 188cm 83kg 2 14
827 Feliciano Lopez スペイン 1981.09.20 188cm 88kg 7 12
907 Thomaz Bellucci ブラジル 1987.12.30 188cm 82kg 4 21
914 Yuichi Sugita 日本 1988.09.18 175cm 72kg 1 36
1519 Mischa Zverev ドイツ 1987.08.22 191cm 88kg 1 25
- Milos Raonic カナダ 1990.12.27 196cm 98kg 8 3
- Kei Nishikori 日本 1989.12.29 178cm 73kg 12 4
- Hyeon Chung 韓国 1996.05.19 188cm 89kg 0 19
- Guido Pella アルゼンチン 1990.05.17 183cm 79kg 1 20
- Jeremy Chardy フランス 1987.02.12 188cm 75kg 1 25
- Simone Bolelli イタリア 1985.10.08 183cm 83kg 0 36
- Nicolas Mahut フランス 1982.01.21 191cm 82kg 4 37
- Horacio Zeballos アルゼンチン 1985.04.27 188cm 84kg 1 39

 

【引退選手】 ※項目名をクリックで並び替えできます

順位 選手名 国籍 生年月日 身長 体重 タイトル 最高位
- Roger Federer スイス 1981.08.08 185cm 85kg 103 1
- Andy Roddick アメリカ 1982.08.30 188cm 88kg 32 1
- Lleyton Hewitt オーストラリア 1981.02.24 178cm 77kg 30 1
- Juan Carlos Ferrero スペイン 1980.02.12 183cm 73kg 16 1
- Marat Safin ロシア 1980.01.27 193cm 88kg 15 1
- Tommy Haas ドイツ 1978.04.03 188cm 84kg 15 2
- David Ferrer スペイン 1982.04.02 175cm 73kg 27 3
- Juan Martin del Potro アルゼンチン 1988.09.23 198cm 97kg 22 3
- Nikolay Davydenko ロシア 1981.06.02 178cm 72kg 21 3
- David Nalbandian アルゼンチン 1982.01.01 180cm 79kg 11 3
- Ivan Ljubicic クロアチア 1979.03.19 193cm 92kg 10 3
- Tomas Berdych チェコ 1985.09.17 196cm 91kg 13 4
- Robin Soderling スウェーデン 1984.08.14 193cm 87kg 10 4
- Jo-Wilfried Tsonga フランス 1985.04.17 188cm 93kg 18 5
- Tommy Robredo スペイン 1982.05.01 180cn 75kg 12 5
- Kevin Anderson 南アフリカ 1986.05.18 203cm 94kg 7 5
- Gilles Simon フランス 1984.12.27 183cm 70kg 14 6
- Mardy Fish アメリカ 1981.12.09 188cm 82kg 6 7
- Mikhail Youzhny ロシア 1982.06.25 183cm 73kg 10 8
- Radek Stepanek チェコ 1978.11.27 185cm 76kg 5 8
- Jurgen Melzer オーストリア 1981.05.22 183cm 80kg 5 8
- Marcos Baghdatis キプロス 1985.06.17 178cm 82kg 4 8
- Janko Tipsarevic セルビア 1984.06.22 180cm 80kg 4 8
- Nicolas Almagro スペイン 1985.08.21 183cm 86kg 13 9
- Juan Monaco アルゼンチン 1984.03.29 185cm 81kg 9 10
- Sam Querrey アメリカ 1987.10.07 198cm 95kg 10 11
- Paul-Henri Mathieu フランス 1982.01.12 185cm 74kg 4 12
- Viktor Troicki セルビア 1986.02.10 193cm 86kg 3 12
- Alexandr Dolgopolov ウクライナ 1988.11.07 180cm 71kg 3 13
- Jarkko Nieminen フィンランド 1981.07.23 185cm 78kg 2 13
- Ivo Karlovic クロアチア 1979.02.28 211cm 104kg 8 14
- Philipp Kohlschreiber ドイツ 1983.10.16 178cm 70kg 8 16
- Andreas Seppi イタリア 1984.02.21 191cm 78kg 3 18
- Florian Mayer ドイツ 1983.10.05 191cm 82kg 2 18
- Michael Llodra フランス 1980.05.18 191cm 80kg 5 21
- Gilles Muller ルクセンブルク 1983.05.09 193cm 89kg 2 21
- Martin Klizan スロバキア 1989.07.11 191cm 85kg 6 24
- Julien Benneteau フランス 1981.12.20 185cm 79kg 0 25
- Santiago Giraldo コロンビア 1987.11.27 188cm 75kg 0 28
- Paolo Lorenzi イタリア 1981.12.15 183cm 78kg 1 33
- Yen-Hsun Lu 台湾 1983.08.14 180cm 74kg 0 33
- Carlos Berlocq アルゼンチン 1983.02.03 183cm 81kg 2 37
- Steve Darcis ベルギー 1984.03.13 175cm 78kg 2 38
- Aljaz Bedene スロベニア 1989.07.18 183cm 73kg 0 43
- Sam Groth オーストラリア 1987.10.19 193cm 100kg 0 53

序に代えて

ATP Playersへようこそ!
著者のKei-3と申します。

 

テニスに興味を持って約15年、そしてこの10年弱にわたり誰に見せるでもないのに黙々とコツコツと趣味で書き溜めてきたATP選手名鑑、その数100人以上。
これまでにもブログの形で公開する考えを持っては持ち前の怠惰を発揮しては断念してきましたが、Twitterにてテニスの交流の輪も広がってきたこともあり、このままお蔵入りにしては勿体ない、自分がただの変態に終わってしまう(笑)との思いに至ったので、今後はちょこちょこと「成果発表」をしていこうと思います。

 

ご覧になる際、以下についてはご容赦いただきたく予めお願いを申し上げます。

  1. プロフィールは定期的に更新をしているつもりですが、漏れや誤りが含まれている可能性はあります。
  2. 各選手の使用ラケットは(固有スペックは全く別であることを承知のうえ)公式情報を主に参考にしています。
  3. 能力値はテニス歴0年の僕の独断と偏見で評価をしています。
  4. 近況に関する記述は作成時点のものであり、必ずしも現時点で同じ状況とは限りません。

というよりも、皆様より意見、感想、指摘を賜りたい動機で公開を決めたので、むしろ自由気ままにどんどんコメントをいただければ幸いです。
また、更新情報はTwitterより発信するため、ぜひTwitterをフォローしてください。

 

どうぞよろしくお願いします。