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20200215102533

Feliciano Lopez

フェリシアーノ・ロペス

 生年月日: 1981.09.20 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  トレド(スペイン)
 身長:   188cm 
 体重:   88kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  Joma 
 シューズ: Joma 
 ラケット: Wilson Ultra 100 
 プロ転向: 1997 
 コーチ:  なし 

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 強烈なサーブと華麗なネットプレーを組み合わせたサーブ&ボレーを主体とする攻撃的なテニスを武器に積極的にネットに出てポイントを取る、主にクレーにおいて世界のトップで活躍してきた歴代のスペイン人プレーヤーとは間違いなく一線を画する異色のプレースタイルで長くトップレベルを維持するサウスポー。スペインという枠に限らずとも、パワーテニス全盛の中にあっては、キレのあるスライスを多用しスルスルとネットを奪う、言ってみればクラシカルなスタイルは非常に貴重で一見の価値がある。03年頃から台頭してトップ30に入り、以降04年ウィーン(500*)でツアー初優勝、05年ウィンブルドングランドスラム初のベスト8など速い環境での強さに定評があるビッグサーバーとして中位を維持してきたが、ベテランの域に入ってもう一段階プレーの質を高めることに成功し、14年にはトロント(1000)でベルディヒやラオニッチを下してベスト4、上海(1000)でナダルやイズナーを破ってベスト4など、以前よりマスターズでの活躍が目立つようになっている。技術的な才能に恵まれながら、勝負所で弱気になる精神面の弱さを指摘されることが多かったが、経験を重ねて試合中の状況判断や相手の精神状態が分かるようになってきたといい、近年のストローク強化によるクレーでの成績向上も助けて、30歳を超えてから自己最高の12位を記録した。最も得意とするサーフェスは実績が示すように間違いなく芝で、毎年クレーシーズンが終わり芝の時期になるとまさに水を得た魚の如く生き生きとしたプレーで上位に進出する。特に自身が“キャリア最高の一週間”と振り返った17年クイーンズ(500)での鮮烈な優勝、そしてトリプルヘッダーを乗り切る驚異のタフネスぶりを発揮し単複優勝の快挙を達成し“キャリア最高”をさらに更新した19年同大会での活躍は記憶に新しい。また、デビスカップでは長きに亘ってスペイン代表に選出されており、単複を問わないマルチな働きで04年、08年、09年、11年、19年と5度の優勝に大きく貢献している。彼の存在があるために、相手国が安易に芝や高速系ハードを選択できないという意味では影のエースと呼んでもいい。16年にはマルク・ロペスと組んだペアで全仏制覇を成し遂げており、近年はダブルスでも強豪の地位を確立している。

上体を捻ってコースを読ませない強烈なサーブ

 サーブは彼の最大の武器で、220km/hにも届く強烈なフラットサーブと左利き特有のワイドに切れるスライスサーブを巧みに使い分けて相手を大いに苦しめる。ワイドサーブも他のプレーヤーが打つような非常に回転量の多い球種とは違い、あまりスピードを落とさない類のものである。上体を大きく捻る独特なフォームは相手にコースを読ませず、強烈な威力とあいまって絶大な効果を生み出す。また、ボディを強く意識させておいて両サイドを空ける配球術もエースの多さに寄与している。サーブ&ボレーに出る確率が高いにもかかわらず、高い決定率を維持できるのはこのサーブゆえである。

面がぶれない確実なボレーが光る華麗なネットプレー

 ネットプレーはサーブと並んで彼の大きな武器で、現役の中ではネットに詰める頻度が最も高いプレーヤーの1人だ。ラリー戦の中でも前に行くフェイクを入れながら常にネットへの姿勢を崩さないため、彼との対戦は神経を擦り減らす試合になりやすい。相手のボールが少しでも浅くなるとすぐさまネットプレーに転じるが、その際バックのスライスでのアプローチが多いため、ネットとの距離をしっかりと詰めることが可能となり、相手への圧力を最大化している。この弾道の低いアプローチが深く入れば、相手は十分な体勢でパッシングショットを打つことはまずできないため、アプローチの時点で勝負ありの状況を作り出すことができるのが強みである。また、そこから繰り出すボレーの技術も高く、たとえ体が伸び切った状態でも力負けせず、強いボレーや浅く沈めるドロップボレーを難なく繰り出し、サービスダッシュでは体正面を突く鋭いリターンや足元に沈められても、得意のローボレーはコントロールが乱れない。彼のボレーは真正のボレーヤーらしくパンチ力が一番の長所で、あらゆるパスに対して面がぶれないのが凄さだ。そして何よりこうした確かな技術力に裏付けられたネット際での落ち着きが相手にとっては相当なプレッシャーとなる。ここ最近ネットプレーが減少傾向にあるのが気がかりで、以前に比べてストロークでも十分に戦えるようになったためという理由は1つ考えられるが、それによってやや彼本来の長所が薄れているような印象もあり、シングルスで苦しい時期に差し掛かっているいま、原点に回帰するのも手かもしれない。

最高級の低空高速スライスを主体とする片手バックハンド

 非常にキレの鋭いスライスを中心に多彩な球種を操るシングルバックハンドは、彼のテニスにおいて軸となるショットである。ボールを包み込むような柔らかいタッチから、スピードがあり縦方向に滑る低空高速スライスや、ゆったりとして横方向に跳ねるスライスなど、状況に応じてテンポを変えながら多様なボールをコーナーに正確に打ち分ける。特に高い打点からパワフルに打ち込むプレーを持ち味とする相手にとっては、なかなか自分のペースに持ち込めないため厄介なショットである。また、右利きのプレーヤーにとって、フォアに対してクロスに伸びてくるスライスというのはあまり慣れていない軌道で、しかもそれが継続的に放たれるため、思い通りの展開になりにくい。一方で、最近強化してきているのはバックの強打で、スライス単体の効果が薄れやすいクレーや格上との対戦でもう1つ打開策が欲しい状況では、積極的に打ち込んでいく姿勢を見せるようになってきている。ただ、1つ1つのショットの質は高いものを持っているのだが、打った後の戻りが遅く、流れるような展開を持ち味とする彼のテニスの中にあってはやや機能しにくい側面がある。ゆえに、目立つのは押し込まれたラリーを一本でひっくり返すカウンターショットやパッシングショットのウィナーだ。今後も技術向上に取り組み、使い方に磨きをかければ大きな武器にもなるだろう。

丁寧に繋ぐフォアハンド、決定力には課題

 フォアハンドは常にフルパワーの強打というよりは、トップスピンで軌道を上げて丁寧に繋ぎのラリーを行うことが多い。そして、バックのスライスも多用しながら相手のボールが浮いて浅くなるのを誘ってフォアで叩くのが1つの形である。高い打点からはフラット系で捉えるが、突出した威力があるわけではなく、精度・安定感もいまひとつ欠如しているため、このフォアの強打は課題と言っていい。

相手に自由な強打を許さない巧妙なスライス戦術

 ストロークは全体的に良い体勢で打てる状況では非常にパワーのあるショットを打つが、的確に深くコントロールされると脆さが表れる。ベースライン後方に下げられると武器がなくなり厳しくなることを彼自身が理解しているために、スライスを多用することでバランスを崩さず、高いポジションを保ってラリーを続けるという戦術をとっているといえる。したがって、戦い方はどの相手に対してもシンプルで、サーブで崩してショートポイントに持ち込むか、そうでなければスライスでボールを低く押さえて相手に自由に打たせないことがポイントとなる。

読みに任せて動きがちな守備は弱点

 守備力は彼の弱点の1つで、持ち味であるネットプレーになかなか繋げられないと厳しい状況に陥ってしまう。とりわけ目に付くのはラリー中の動きで、ラリーが長くなってくると読みに任せて先に動いてしまうことが多く、打つ直前でコースを変えられる上位陣が相手であると、この悪い癖に付け込まれてしまう。

実は心身のタフネスぶりこそ驚異的な武器

 リターンに難があるため、タイブレークが複数回絡む試合も少なくないが、そうした中でも耽々とチャンスを待てるメンタル的な忍耐強さも大きな強みで、これがあるからこそ長いラリーでもしびれを切らすことなく、自分の武器であるネットプレーに繋げるための粘り強いプレーが実行できる。タイブレークの多さとの関連でいえば、ファイナルセット6-6を越えていく試合を最も多く経験しているのがロペスであり、その特筆すべきタフさは02年全仏に始まって現在に至るまでグランドスラムを一度も欠場せずに連続出場を続けている事実からも窺い知ることができる。端正なルックスと颯爽としたプレースタイルから見逃されがちではあるが、彼がツアー最古参の1人として衰え知らずの活躍を続けられる理由がまさにこれだ。

パワーに技で対抗するテニスは健在、芝でのプレーに要注目

 全体的には、ビッグサーブ、展開の速い攻め、ネットプレー、スライスなど芝で勝つための要素をすべて兼備しているのがロペスの特徴で、このようなプレースタイルは現代テニスの中では稀有な存在となっている。クロス一辺倒になりがちなハードヒットのストロークをさらに改善・強化したいところだが、いずれにせよ今後も芝を中心に速いサーフェスでは常に要注目人物となってくるだろう。昨今は選手寿命が延びているとはいえ、35歳を超えた今なおトップレベルを維持している彼に対する称賛の声は多く、テニスファンとしてはパワーに技で対抗する姿を1年でも長く見ていたい。

 

Gilles Simon

ジル・シモン

 生年月日: 1984.12.27 
 国籍:   フランス 
 出身地:  ニース(フランス)
 身長:   183cm 
 体重:   70kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: HEAD Prestige MP 
 プロ転向: 2002 
 コーチ:  Etienne Laforgue 

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 読みの良さをベースにどんなボールにも追いつく粘り強いフットワークと驚異的な返球精度を誇るストロークを持ち味とする、守備的で堅実なプレースタイルながらも巧みな緩急と“ここぞ”の場面での豪快なハードヒットで相手を翻弄するベースラインプレーヤー。攻める時には強烈なフラット、守備的な局面では緩めの回転と様々なコースを使い、じっくり粘る攻守のメリハリの良さと深くボールをコントロールし続ける能力の高さで、とにかく「勝ちにくい」プレーヤーとして知られる。コーチとともに相手のことを非常によく研究し、緻密なまでに計算されたシナリオに基づいてショットを組み立てる戦略性の高さが大きな武器であり、多彩な得点パターンを持つプレーヤーをもってしても万策尽きたような状況に陥ることがしばしばあるのがシモン戦の特徴だ。07年にマルセイユ(250*)でツアー初優勝を飾るなどブレイクの兆しを見せ始め、08年後半にはマスターズでの躍進が光り、トロントでベスト4、マドリードナダルを下して準優勝に輝くなど、格上を次々と撃破する驚きのプレーを披露し、土壇場になって繰り上がりで出場権を得たマスターズカップでも勢いそのままにベスト4に入った。特にその年にフェデラーを2度破ったことで注目され、以降もフェデラーが非常に苦手とするプレーヤーとして知られている。最高6位を記録した後、一時は膝の怪我により戦線を離脱したものの、復帰後も持ち前の安定したプレーでトップ20を維持しつつ、11年ハンブルク(500)でのビッグタイトルや14年上海マスターズ(1000)での準優勝をはじめとして時折番狂わせを演じる。母国フランスでは、モンフィス、ツォンガ、ガスケの3人に実力だけでなく知名度でも追いついた伏兵シモンを加えた4人を「新四銃士」と呼ぶようになった。得意とするインドアハードでは強さが増す傾向にあるものの、サーフェスの得意不得意というものはほとんどない。スタイル的に大活躍も少ないが大崩れもしないというテニスであるため、勝てる相手には確実に勝ち、負ける相手には負けるというのが彼の戦いぶりである。

繋ぎに徹するいやらしい戦術の前に相手は手札を使い果たす

 ストロークは常に確率重視で、パワフルなショットを持っているにもかかわらず、よほどのチャンスでないかぎりウィナーを狙うことはなく、ベースライン後方にポジションを取ってフラット系のボールで繋ぎのラリーに徹する。基本的にはこの戦術を貫徹することで、スタッツ上ではウィナーが多くエラーが極端に少ないテニスを実現している。自分の力に頼らず相手のボールのスピードを利用するのがとにかくうまいのが彼の特徴だが、そうかと思えばトッププレーヤーとは思えないような遅いボールも交ぜたりとテニスの幅が広い。機動力に難のある相手に対してはネットに多く詰めて、ボレーを短くコントロールしてポイントを取っていくプレーもできる。相手からすると返ってくるボールの力を利用して展開することができないため、なかなか決定打を浴びせることができない。テニスのリズムを重要視するため、止まった状態でしっかりと構えて打つことは少なく、動きの中でボールを捉えることが多い。体重70kgと華奢にも見えるほど細身な体躯であるが、力で押されることもほとんどなく、互角に打ち合うことができる。彼を相手にしたプレーヤーたちはどうしてもオーバーパワーしたくなるようなのだが、彼の対パワーの許容範囲は案外広い。半端なパワーでは接戦に持ち込まれるのも道理であるが、しかしシモン自身の勝ちパターンも一定しないのが悩みどころだ。

美しいウィナーを逆算して組み立てるラリー戦

 フォアハンド、バックハンドともに小さめのテイクバックからのコンパクトなスイングが特徴だが、非常にリラックスした状態で体に無駄な力が入っていないため、ラケットヘッドの走りが良くなり、一見すると力感のないスイングから速いショットが繰り出されるため、相手はリズムを掴めない。そして、きっちりとポジションに入って高い打点から打ち切った時には、ボールが糸を引くような彼独特の美しい軌道を描いてライン際に伸びていく。とりわけ攻撃面において彼が得意とするのは、上半身を倒しながらライジングの早いタイミングで叩く強烈なバックのジャックナイフと、フォアの逆クロスを起点にネットで仕留める形で、これらのショットを打つためにすべてを逆算してラリーを組み立てていく。低いボールを送って浮き球を引き出したり、前後に揺さぶってみたりと様々な手段を使うが、最終的に目指しているのはトドメのショットを打つための環境づくりである。カウンターショットやパッシングショットも彼の大きな武器の1つであり、獲得するポイントの多くを占める。ラリーの中で放つ緩いストロークの印象とは一転して、状況を打開しようと攻勢に転じてきた相手の強打の力をうまく利用する形で、正確で鋭いショットを連発する。技術的には一連の動きの中で打つ前に一瞬溜めを作ることによって相手の足を止め、ウィナーを取りやすい状況を作り出している。

左右の振り回しに滅法強い俊敏なフットワーク

 あらゆる面での粘り強さを生み出しているのが、非常に広いコートカバーリングを誇る俊敏かつ躍動感溢れるフットワークである。マイケル・チャンへの憧れを口にする通り、どんなに振られても確実にコート内へ返球できるだけでなく、相手が打ちづらいコースに高精度で入れ続けられる技術力の高さは目を見張るものがある。とりわけ横の動きは素早く、左右の揺さぶりだけで彼を崩し切るのは困難を極め、前後や緩急もうまく使い分けなければダメージを与えることができない。むしろ振られた方が彼の強さが発揮されやすく、中途半端にシモンを走らせると、反撃に遭う危険性が高い。このようにスピン系とフラット系を使い分けて緩急をつけながら、相手の隙を待って反撃というスタイルは誰にとってもかなり厄介で、上位陣にも大接戦を強いることが多い。また、見た目以上にスタミナがあり、ロングマッチでもパフォーマンスが落ちにくい。後ろで打ち合えばロングラリーを強いられ、前に出てもポイントが重ねられないという点で、彼の試合では良いコンディションで試合に入ってきた対戦相手が調子を崩されるケースが非常に多い。

一発よりも確率を重視するサーブ

 200km/hのサーブを持ちながらそれは勝負所までとっておき、確率を保ちながらスライス系のサーブを多用して緩急で相手を崩していくあたりもいかにもシモンらしい特徴といえるが、そのスタイルを維持するのであればもう少し確率を上げたいという課題もある。

球威を吸収して速い展開を許さない巧みなリターン

 ストローク戦での対応力の高さはリターンゲームでも活かされており、確実に返球するリターンで相手を苦しめる。速いボールの勢いを吸収して遅いボールに転換する感覚は彼ならではで、特にサーブから速い展開に持っていきたいプレーヤーにとって彼のリターンは厄介以外のなにものでもない。このリターンがしっかりと合っている時は気分良くプレーできる傾向にあり、ストロークでもいつも以上にミスが少なくなるという意味では、調子のバロメーターといえるだろう。

泥仕合を演じがちな守備的テニスからの脱却なるか⁉

 受け手に回って相手の攻撃に対応し、じっくりと相手を術中に嵌めていく彼のテニスは戦術的には魅力的だが、裏を返せば自分から積極的に展開するテニスではないため、引き出しが豊富な上位相手だとまったく歯が立たず、あっさりと敗れてしまうケースも少なくない。また、格下相手でも守備的なテニスをされると決め切れず、壮絶な泥仕合を演じることがある。スタミナが豊富とはいえ、なんとか攻撃力を上げて不必要なロングマッチを減らしたいところだ。ハードヒットの質は十分にトップでも通用するレベルにあり、またネットプレーもそれほど苦にはしないだけに、年齢的な衰えを考えても今後はそれを活かすために守備的展開からの打開策を模索したい。
 

Jeremy Chardy

ジェレミー・シャルディ

 生年月日: 1987.02.12 
 国籍:   フランス 
 出身地:  ポー(フランス)
 身長:   188cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: asics 
 ラケット: Tecnifibre T-Fight 305 
 プロ転向: 2005 
 コーチ:  Philipp Wagner 

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 細身ながらバネのあるフィジカルを活かした強烈なストロークが軸となったパワープレーを持ち味とする、技巧派の多いフランス勢には比較的珍しく痛快な強打のテニスが前面に出たハードヒッター。ジュニア時代にはウィンブルドンで優勝するなど、フランスの将来のエースとして期待されたが、フランス勢の悪しき伝統ともいえる、プロになってから伸び悩む傾向が彼にも当てはまり、09年シュツットガルト(250)でのツアー初優勝がキャリア唯一のタイトルと、時折トップ10級を撃破する要警戒プレーヤーの域を出ていない。とはいえ、攻撃力抜群のフォアと強力なサーブが確率良く入り、どんどんと攻め立てるテニスができている時のプレーは迫力十分で、13年全豪ではデルポトロらシード勢を立て続けに破ってベスト8、15年モントリオール(1000)では準々決勝イズナー戦でマッチポイント7本を覆してマスターズで初めてベスト4に入るなど、そのポテンシャルはやはり侮れない。サーフェス的には強打を打つための間合いをしっかりと確保できるクレーやスローハードの方が彼の力は発揮されやすい。

破壊的なフォアハンドの精度が勝敗の生命線

 最大の武器となっているのが極めて厚いグリップと大きなテイクバックから豪快に振り抜く独特なフォームを持つフォアハンド。このフォーム的な問題で、試合の中でタイミングを合わせるまでにやや時間を要するものの、当たり出すと手がつけられない破壊的な威力を備える。このフォアがシャルディのテニスの中で半分以上のウエイトを占めていると言っても過言ではなく、高い打点から常にライン際ギリギリを狙って強打するフォアが決まるか否かが勝敗を分ける生命線だ。また、ラケットの真ん中に当てるインパクトの精度が高いとは言えないが、彼はミスヒット気味でも常にフルスイングしてくるため、相手にとっては高い軌道から不規則な回転のボールがコート内に落ちて非常に厄介な荒れ球となっている。相手のブロック気味のリターンやディフェンスショットに対して、瞬時に前に入り込んで放つ強烈なドライブボレーも彼のトレードマークと言ってもいい得意なショットで、普通のプレーヤーなら一度落として打つようなボールもリスクを負って処理していく姿勢は相手にとっては脅威だ。一方、強気のフォアと比べるとバックハンドはフォームが硬く、全体的には苦手としており、スライスへの依存度が非常に高い。ただし、そのキレ自体は鋭く、うまく使えている時は低く滑るバックのスライスと鋭角にコートを抉っていくフォアの強打が絶妙なコントラストを描いて大きな効果を生む側面もある。とはいえ、ラリーの中で彼の頭にあるのは得意のフォアをできる限り多く使って相手を駆逐することであり、ゆえにたとえ逆襲に遭うリスクが大きかろうと、かなり強引にフォアの回り込みを試みる。また、そのために相手が打つ前からコースを読んでバック側に動き出したり、基本ポジションもややバック側に取っていることが多い。そうした部分での開き直りが、逆に相手にとっては怖さやプレッシャーとなっている。大振りスタイルに加え、ベースラインでのフットワークに難があるため、テンポの速い相手との対戦や風の強い状況などでは脆さが表れる点は大きな弱点となっている。

大きく跳び上がって叩きつける強烈なサーブ

 高いトスに対して大きく跳び上がって高い打点から叩きつけるようにエースを量産するビッグサーブはもう1つの武器であり、攻撃的なテニスを支えている。ややトスが不安定な点が積年の課題で、とりわけアドバンテージサイドから2ndでスピンサーブを打つ際にトスが左に流れることで、ダブルフォルトの多さや着地でバランスを崩す要因となっている。

緻密な戦術よりも正面突破を狙う痛快なハードヒットテニス

 粘り強さや技術・戦術を活かして戦うタイプではなく、あくまでサーブとフォアの爆発的なパワーにものを言わせたテニスが魅力で、ショットが入る日は勝てる、入らない日は勝てないというなんとも粗削りだがシンプルなプレーヤーであり、メンタル的にトップとの対戦で相手をリスペクトしすぎてプレーが硬くなる傾向は改善したいとはいえ、コートに収めさえすれば決まるボールをネットにかけたり、判断を誤ってポイントを落とすといったことなどもすべて彼の個性と見るべきだろう。この手のプレーヤーは名コーチの招聘など、何か1つきっかけを掴めば一気に飛躍することも多いが、下降線を辿り始めてもおかしくない年齢にある彼は果たしてどうなるだろうか。

 

John Millman

ジョン・ミルマン

 生年月日: 1989.06.14 
 国籍:   オーストラリア 
 出身地:  ブリスベン(オーストラリア)
 身長:   183cm 
 体重:   79kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  lotto 
 シューズ: lotto 
 ラケット: Tecnifibre T-Fight 320 
 プロ転向: 2006 
 コーチ:  なし 

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 厳しい振り回しにも屈しない心身両面での粘りを身上とし、コート上を前後左右に所狭しと動き回る運動量で相手を上回ることで試合全体を支配するオーストラリアのベースラインプレーヤー。これまでに肩と股関節にメスを入れ、13年には約1年に亘りツアーを離脱、その間には会社勤めも経験するなど、異色の経歴を持つ苦労人として知られる。チャレンジャーレベルで優勝回数二桁を誇り、以前は彼の粘りを振り切れるかどうかでそのプレーヤーが下部ツアーを卒業できているかを見分けられるバロメーターのような存在であったが、近年は持ち前の特級の安定感に加え、一撃の決定力が向上したこともあり、彼自身が完全にツアーレベルを主戦場とするまでにスケールアップを果たした。18年全米ではグランドスラムで自己最高となるベスト8に進出したが、中でも4回戦でフェデラーを破る大番狂わせを演じた一戦こそは「相手にプレーをさせる」ことにかけては随一という彼の真骨頂が発揮され、フェデラーが音を上げたという試合だった。分類としては守備的なストローカーとなるが、相性の良いサーフェスハードコートで、そこはさすがにオーストラリア勢といったところか。

フォームは癖があるも安定感は特級のストローク

 壁タイプのテニスを支えるストロークはやはり基本的には確率重視・低リスクのショット選択が多いのが特徴。フォアハンド、バックハンドともに顔の真横の高い位置にラケットを引いていくテイクバックや打点側に頭が大きく傾くなど、癖のあるフォームから繰り出されるのが印象的。技術的にはボールを外側から削り取るように捉えていくため、やや高めの軌道からクロスコートのアングルを突くショットを巧みに放つ。特にバックからの展開を得意とし、ショートクロスによって相手を外へ追い出すとタイミングを早めたダウンザラインでトドメを刺す。また、パワーに対する耐久性という意味でもバックのブロック力がフォアを上回る。

心技体すべてが持ち前の粘り強さとリンク

 最大の武器は何といっても試合を通して落ちないしぶとさと、その根底にある旺盛な闘争心と強靭な肉体といえよう。オープンスタンスで踏ん張った際に体の軸が乱れないため、相手の連続した速い攻めに対しても対処でき、さらには強烈なカウンターショットを見舞うことを可能にしている。打点の高低などの変化に対しても膝を曲げたり小さく跳び上がったりして柔軟に対応する。相手からすると主導権を握って展開しているようでいつの間にかミルマンの土俵に引き込まれているといった感覚に陥るはずだ。

"問題児"の多いオーストラリアにあって彼は尊敬の対象

 近年オーストラリアからは有望な若手が次々と輩出されているが、中堅層は彼が引っ張っていると言ってよい。テニスに取り組む姿勢、派手さは求めず一球入魂で勝負に徹する戦いぶりは”問題児”の多い同国ではとりわけ尊敬の対象だ。更なる実力アップのためにはサーブとリターンの質を高め、簡単にポイントを重ねる確たるパターンを習得したい。彼の次なる目標はツアータイトル、19年には東京(500)で準優勝に輝いており実力は確か。いつどこで達成されるか注目だ。

 

Fernando Verdasco

フェルナンド・ベルダスコ

 生年月日: 1983.11.15 
 国籍:   スペイン 
 出身地:  マドリード(スペイン)
 身長:   188cm 
 体重:   90kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  adidas 
 シューズ: adidas 
 ラケット: HEAD Speed Pro 
 プロ転向: 2001 
 コーチ:  Diego Dinomo, David Sanchez,
       Quino Munoz 
 

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 ツアーでも五本の指に入ると言われるほどの高い完成度を誇るフォアハンドを軸に、ミスを恐れることなくハードヒットでひたすら攻める攻撃的なプレースタイルを貫いて、長くツアーのトップレベルで戦うスペインのレフティー。04年にバレンシア(250*)でのツアー初優勝により本格化して以降、安定した力で中位をキープしていた彼だが、その才能が大きく開花したのは09年で、全豪でベスト4を記録したことをきっかけに自信をつけると、同年は主にハードコートで、翌年はモンテカルロ(1000)での決勝進出や続くバルセロナ(500)でのタイトル獲得などクレーでの強さを見せつけ、トップ10定着を実現した。相手のオープンコートに絶え間なく配球していく展開力に富んだ攻撃が強さのベースだが、最大の魅力は目にも留まらぬ豪打の連続である。本人はハードが好きと話すこともあり、時折爆発力を発揮して上位に進出するのはハードコートが多いのだが、最も安定して好成績を残しているのは他のスペイン人同様にクレーである。デビスカップではナダルフェレールの存在がある分出番は限られたが、主にダブルス、そして勝負所ではシングルスでも貢献し、08年、09年、11年に優勝を経験している。ここ数年のベストマッチの1つに数えられる09年全豪準決勝では、同胞のナダルと当時の大会最長試合記録となる5時間14分の死闘の末に敗れたが、7年の時を経て実現した16年全豪1回戦での再戦では4時間41分の激闘を制しこれ以上ないドラマチックなリベンジを果たした。

"fearhand"の異名を持つ最高レベルの強烈フォアハンド

 スピード・キレ・精度すべての要素において世界最高レベルで、“fearhand”と形容されたこともあるフォアハンドは彼の最大の武器である。体を一度沈み込ませ、伸び上がりながら腕を一直線に伸ばしてボールを捉える独特なフォームは、体全体に溜め込んだ力を一気に解放してボールに伝えることができる。基本的にはライジング気味の強打で攻めることが多いが、状況に応じて2種類の強打を使い分けている。強烈なフラットドライブは彼が最も多くのポイントを生み出すショットで、100mphを優に超えるその爆発的なパワーでウィナーを連発する。しかし、このショットは非常にリスクが高く、ミスも多くなるため、ラリーではミスを軽減すべくリバーススイングから重いスピンショットを駆使する。ナダルのフォアとのマッチアップにおいて、同じスピンで互角に渡り合える数少ないプレーヤーで、特に得意とするクレーコートでは、トップクラスの回転量を活かしたアングルショットで相手を苦しめる。2つのどちらを打つにしても打点が高く、早いタイミングでボールを捉えられるため、相手に余裕を与えず畳み掛けるように攻めることができるのが大きな強みである。魅力的なのはこれらを非常に広角に展開していけることで、強烈なキック力を伴う唸るようなトップスピンをクロスの厳しいアングルへ打って相手を走らせながらオープンコートを作り、ストレートから逆クロス方向へのフラット系の強打でそこ突くのが彼の形。また、相手のウィナー級のショットを大きなストライドでフォア側に走りながら逆に矢のようなウィナーで返す豪快なカウンターショットは驚愕の威力と美しい軌道を誇り、彼のトレードマークといえるショットであるとともに、簡単には彼のフォア側に展開できないという心理的な脅威も相手に与えられている。年齢から来るフィジカルの低下により最近は、そのショットの精度が落ちたというよりも打つ機会自体が減ってきているのが懸念材料ではあるが。また、全体にボールとのタイミングや距離感を掴めずにミスヒットになることが多いのは、打点に入った後に足が止まるのが早いのが原因で、早くボールへの準備に入るのは良いとして直前のステップの微調整を怠らない意識を高めたい。

クロスとストレートの思考が定石と異なるバックハンド

 バックハンドもフラット系とスピン系を使うが、より精度が高いのはスピンショットである。打点を遅らせてやや低い打点から打つことで、フォアにも匹敵するスピン量があり、また相手のタイミングを外すことができるため有効である。このショットをダウンザライン方向に多用し、機を見て弾道の低いフラット系でクロスに突き刺す形を得意とする。通常はクロスで作りストレートで決めるのが定石だが、その逆をパターンに持つのは、右利き相手のバックサイドを突いて崩す意図が強い左利きの彼ならではといえる。ただ、両手打ちの割には高い打点の対応に難があり、とりわけ決めのショットに安定感を欠くことも少なくない。より強烈なフォアで攻めることをテーマに、バックからは低く滑るスライスを多用するスタイルを試した時期もあったが、現在はカウンター気味に展開するクロスコートの質が向上したため、隙あらばコーナーを突くという意識が高まっている。

サーブは確率と破壊力を両立するも、DFという致命的な弱点も

 サーブは重く跳ね上がるキレが凄まじいスピンサーブや、左利き独特のワイドへ切れるスライスサーブを軸に、1stの確率が平均で70%近くというツアー屈指の高い数字を残している。ワイドサーブで相手を外に追い出して、次の1球で決める形は彼の十八番で、これにある程度対応できないと彼のサービスゲームを破るのは難しい。ブレイクを果たした09年以降は、試合の要所で220km/hにも届く威力抜群のフラットサーブを組み込み、サーブ一本でポイントを取る局面も増えた。また、2ndで入れにいくサーブを打たないことも大きな特徴で、1stと2ndの差が少なく相手にとっては脅威であるが、それゆえに緊張した場面ではダブルフォルトも非常に多くなる。エースを計算できる強烈なサーブがあるにもかかわらず、露骨に1stの確率を重視するのもダブルフォルトの多発が元凶と言ってよく、2ndの精度に対する心理的な不安を払拭したいところだ。さらには、突如サーブのリズムを崩して1stが入らなくなり、大きくフォルトしたりラケットの真ん中に当たらず叩きつけたりということが頻繁に起こる。そして、それが1セット続いてしまうこともしばしばあり、これらがすべての長所を帳消しにしてしまう致命的な弱点となっており、質の高い球種を複数兼ね備えていながら、彼のテニスの中でサーブが勝敗を決するうえで長く足を引っ張る要素となってきた。

メンタルの弱さはベルダスコの代名詞

 上位との対決やブレーク直後の自らのサービスゲーム、大事なポイントなどプレッシャーのかかる試合や局面で、過度の気負いから本来のプレーが出せずに終わってしまうメンタルの問題は深刻で、それまでの躍動感がまるで嘘のようにフットワークに乱れが生じ、気持ちだけが先行しミスを連発してしまう。これにより勝てる試合、取れるセットを幾度となく落としており、こうした精神面の弱さや詰めの甘さが接戦に弱い大きな原因となっている。ベルダスコといえば肝心な場面でガタガタと崩れるプレーヤーという屈辱的な認識は一日も早く返上したいのだが。

強引な突破力から多彩な武器を駆使した頭脳的なテニスへのシフト

 ベルダスコのテニスにはあらゆる面で彼の強気な性格が反映されており、調子の良い時には奇跡的ともいえるフォアで圧倒的な攻撃ができるが、リズムが得られないと強引さが災いしてエラーとなる確率が極めて高く、相手は辛抱強く彼のミスを待った方が得策となる。ここ最近は足の故障あるいは若干感じられるオーバーウェイトの影響からか、強かった時に比べてフットワークに陰りが見られ、打点がやや低くなることでテンポも落ち、プレーに無理が生じるという悪循環に陥ったままなかなか不調を抜け出せず、ランキングも下降線を辿るばかりであった。しかし、13年はシングルスでの巻き返しを名目にマレーロと組んだダブルスでかなりの結果を残し、とりわけブライアン兄弟などを一蹴してATPツアーファイナルズを制したことは大きなインパクトを与えた。元々単複で十分な実績を残しているプレーヤーだが、本人曰く芝など球足の速い条件の方が勝てる試合が近年増えてきたのは、ダブルスでポイントをショートカットする術を身につけたかららしい。以前のような躍動感は薄れ、スタミナの衰えも隠せないが、地力そのものはいまだ落ちておらず、最近ではクロスへのスピンとストレートへのフラットの緩急をより明確にし、ドロップショットやネットプレーなども織り交ぜた巧みなコンビネーションで崩すという頭を使った戦術的なテニスにシフトしている。波に乗ればどんな相手でも倒してしまう力を持っているだけに、まだまだ老け込まずトップ返り咲きを目指してほしい。

 

Frances Tiafoe

フランシス・ティアフォー

 生年月日: 1998.01.20 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  ハイアッツビル(アメリカ)
 身長:   188cm 
 体重:   86kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  NIKE 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: YONEX VCORE Pro 97 
 プロ転向: 2015 
 コーチ:  Wayne Ferreira 

 生まれ持った身体能力の高さを活かして豪快に叩き込むフォアハンドのパワーショットを中心とするダイナミックなプレーと、柔らかいタッチや確かな戦術眼で相手を翻弄するプレーの2つの異なる軸を持った個性的なテニスで沸かすアメリカ期待の星。13年に史上最年少の15歳でオレンジボウルを制した逸材であり、豊作と言われるこの世代の中でプロ転向後のブレイクレースでは周囲に先を越された印象もあったが、躍動感溢れる動きからパワーとスピードで相手を圧倒するテニスのインパクトは特大。17年全米1回戦でフェデラーをフルセットの土俵際まで追い詰めた試合は記憶に新しいが、その一戦も含めて確かな自信を掴むと、20歳になって間もない18年序盤のデルレイビーチ(250)でツアー初優勝を飾った。19年全豪ではアンダーソンやディミトロフなどの強豪を下してグランドスラム初のベスト8を記録している。元6位のフェレイラがコーチに就任した20年以降はあらゆる面でプロ意識が向上したことで、高いレベルのプレーを安定的に発揮できるようになっている。ナダルからの金星を経てベスト4に進出した22年全米の鮮烈な活躍はまさにその賜物であった。全体的に癖の強い技術でボールを扱うこともあり、上位陣にとっては比較的弱点を炙り出しやすいプレーヤーには見えるものの、彼の醸し出す猛獣が襲い掛かるような雰囲気はそうした戦術を無力化してしまうほどの威圧感があり、危険な存在であることは間違いない。条件的には構える余裕がとれるスローハードとの相性が良いが、巧みな技術力を自らのテニスに落とし込めるようになったここ最近は芝も含めた高速環境でも強さを発揮している。ユーモア溢れる発言や茶目っ気たっぷりの仕草も彼の豊かな個性を表す要素で、オンオフを問わず注目していたい存在だ。

驚嘆のどよめきに包まれる凄まじいパワーのフォアハンド

 脇を開けてラケットを引きインパクトの瞬間まで面が下向きのまま出てくるテイクバックの軌道や、手首を掌屈させてボールを捉える打ち方に大きな特徴があるフォアハンドはティアフォーの最大の武器で、ウィナーを量産していきたい彼のテニスにおいて生命線となるショットである。中でも得意とするのはクロスコートであり、強烈なトップスピンで相手を後方に押し込み、高い打点が取れた段階でフルパワーの強打で仕留めるのが彼の形だ。しっかりと構えてウィナーを狙った際の凄まじいボールの威力には、常に観客から驚嘆のどよめきが沸き起こる。以前は深いボールで攻め込まれライジングでの対応を強いられると浅い返球が連続してしまう傾向にあり、先手を打てなければ厳しいといういかにもアメリカ人らしい特徴があった。かなりグリップが厚いことが原因で相手の攻撃を跳ね返す守備力、あるいはリズムや球種の変化への対応力に難がある点が課題とされていたのだが、むしろ近年は速い打球へのライジング対応の良さが意外性を伴った武器として機能している。複雑な動きのあるスイングでなぜあれほどのショットが打てるのか一見不思議であり、もちろん彼特有のラケットワークの感性が為す技ではあるが、技術的には握りが厚い分だけ打点が手元に差されてもブロックが利くところに強みがあると言えそうだ。さらに洗練されて自由度を高める方向で改善された時の姿が楽しみである。

フラット面でコンパクトに返球するバックハンド

 大胆さが持ち味のフォアとは異なり、バックハンドはコンパクトなスイングで面を合わせて丁寧に運ぶように繋いでいくのが基本のスタンス。打ち合いの中にスライスを多く交ぜるのも特徴で、過度なペースアップを抑え、自分優位なラリーに持ち込むうまさを持ち合わせている。元々はスピードが若干遅いサイドスピン系の球種が多く、スライスを攻撃に活かすビジョンは描きにくかったのだが、最近はボールを鋭く切るような非常に回転量と推進力を両立したスライスに進化している。また、最近はフラットを打つ際の振りのキレが増し打球が鋭くなったことで、正面突破的なクロスへの強打からタイミングを早めてオープンコートを突くダウンザラインまで攻撃のバリエーションが豊富になっている。それにより緩いスライスとの緩急差も大きくなって、バック側からアドバンテージをとる場面も増えており、フォアの一撃以外のポイント源を構築しつつあるのは成長の証といえる。

柔らかいストップボレーで魅せるネットプレー

 抜け目なく相手の隙を見極めてポイントを締めにかかるネットプレーも十分に計算の立つ得点パターンである。非常に柔らかいタッチで目の前に落とすストップボレーは天才的だ。ただし、スマッシュ含めハイボレー系統は危うさが残るうえ、全体に感覚任せなところがあり、足の動きを疎かにしたりボールから目を切るのが早かったり、明らかに横着をした結果としてのミスも散見される点は改善したい。

球種の変化とピンチでの強さが光る戦略的なサーブ

 トスアップと同時にラケットを担ぎ上げるフォームが特徴のサーブも武器の1つである。220km/hに迫る爆発的な威力でエースを奪う場面が印象には残りやすいが、1stからワイドに切れるスライスサーブや高く弾むスピンサーブを多用するため、球速の緩急をかなりリターン側に意識づけることが可能となっており、簡単には的を絞らせないのが強みだ。1stの確率が高いタイプではないが、それだけにブレークポイントを決まってエースで切り抜けるピンチでの強さは際立っている。現状でポテンシャルを発揮しきれているかといえばそうではなく、確かに実際にはエース量産型のプレーヤーではないが、それでももっとフリーポイントを増やし、サービスゲームの質を高めることは十分に可能なはずで、その意味では優先的に取り組みたい課題と言っていいだろう。

両サイドから脅威を与えられるリターン

 スタッツとして表れてくる数字の面では凡庸ながら、リターンによって相手に与えるダメージも大きいものがある。リターンの際、ストローク時とは異なるフォアの薄い握りで待つ。これは確実なブロックリターンを企図しているためであるが、要所でフォア側の一点張りを的中させると同じグリップのまま目にも留まらぬフラット強打のエースを浴びせることもあり脅威となっている。また、2ndに対して中に踏み込んでジャックナイフ気味にバックで叩くリターンの質も一級品。その勢いでネットラッシュをかけるが、返球自体が良いのでエースになることが多い。

緻密さを習得して「当たれば強い」の評価を卒業したい

 戦術の幅を広げることによって真のトッププレーヤーに階段を上がった感のあるティアフォー。それでも根が気分屋なだけに、自分のパターンでポイントが取れているうちは良いのだが、それが通用しないとプレーの雑さや執着心の薄さばかりが目立つようになり、メンタルとともに崩れてしまう悪癖は残る。陽気さを伴った種々の「奇行」に観客は喜ぶかもしれないが、相手プレーヤーへの敬意に欠けるのではないかという度の過ぎた振る舞いが物議を醸すこともある。試合を通して冷静に強かに戦術を組み立てることができるとさらに強くなれる素地はあると見え、「当たれば強い」という評価を卒業するためにプレーの緻密さを追求し、より自分の強みを常に出せるテニスを確立できれば、将来的にトップ10やビッグタイトル獲得も見えてくるはずだ。

 

Pablo Cuevas

パブロ・クエバス

 生年月日: 1986.01.01 
 国籍:   ウルグアイ 
 出身地:  コンコルディア(アルゼンチン)
 身長:   180cm 
 体重:   78kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LACOSTE 
 シューズ: asicas 
 ラケット: HEAD Prestige MP 
 プロ転向: 2004 
 コーチ:  Facundo Savio  

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 ベースライン後方にポジションを取り、バウンド後に勢いが増すような球威のあるボールを攻守に出し入れし、空間とタイミングを巧みに利用して徐々に優位に立ちながら長いストローク戦でポイントを重ねていくウルグアイの職人クレーコーター。これという目立った大きな武器はないが、粘り強い守備と堅いストロークに対しては明確な弱点も見出しがたく、幅の広い攻撃パターンも備えており、勝ちにくい試合巧者タイプの筆頭格といえる。09年にトップ50入りを果たすも、その後右膝の怪我が深刻化し、一時は現役の続行さえ危ぶまれた時期も経験したが、約2年のブランクを経て復帰するとツアー初優勝を含めた大飛躍を遂げ、自らがかねてより目標に掲げていたトップ30へと一気に駆け上がった。さらに、16年リオデジャネイロ(500)では準決勝でナダルから大金星を挙げた末にタイトルを手にしている。チャレンジャーレベルではほとんどクレーの大会に参戦してツアーに上がってきた経歴を持ち、それだけでも彼がクレーに特化したプレーヤーであることの証明だが、キャリア通算のクレーでの勝率は6割近くに上り、これは彼ほどのランクに位置するプレーヤーの中では突出した数字となっている。ダブルスでも実績を残しており、08年にはオルナとの南米ペアで全仏を制している。また、もう1つ彼を語るうえで絶対に外せないのは、ペールと並ぶツアーにおける「トリックショットの宝庫」であること。股抜きや背面打ち、その他のフェイクショットも多数備える。明らかに必要のない場面で放つこともあり、スタンドプレー的な側面も強いが、その技術とセンスは抜群の一言で、後ろ向きに走った時にどんな技が飛び出してくるのかが読めない、見る者を大いに沸かせるプレーヤーの一面も持っている。

面がぶれない力強さと駆け引きのうまさでラリーを支配

 攻守に安定感が際立つストロークは彼の最大の武器で、両サイドともに強打を広く深くコントロールしつつ、スピン系の非常にキックの効いたボールで相手の体勢を崩し、大きな角度をつけて相手を走らせながらじわじわと追い込んでいくプレーを得意とする。相手の仕掛けを待って逆にカウンターチャンスをものにしていくのが主なスタイルだが、相手の強打をタイミングで合わせる対応力とそれをオープンスペースに確実に跳ね返しながら自分の展開に持っていく能力に秀で、ラリーの支配力は高いものを持つ。一方で、一撃で仕留めるショットスピードも備え、サーブやリターンからの早い展開でチャンスを見つけて力強いウィナーを次々と相手コートに突き刺したり、あるいは相手の予測しない場面で強打を繰り出したりという駆け引きのうまさも彼ならではといえる。小柄だがフォアハンドはジャンプしながらネットより高い打点でボールを捉えることで、フラット系の伸びのあるショットとなり、彼のテニスの中では決定打として大きく機能している。シングルハンドで放つバックハンドはフォロースルーでの手首の解放を抑えめにすることで、安定性を確保しているのがフォーム的な特徴。クロスに打つ際にボールの外側を削るように捉えるため、スピンが効いてサービスライン付近に落ちる鋭角なショットとなりやすく、相手に対して長い距離を走る対応を強いることができる。また、弾んでくるボールに対して伸び上がりながらライジングで捉えて展開していくのが特徴で、以前はそこで少し打点が詰まったり、深いショットに対して当たりが悪くなることがあったが、最近はその技術に磨きがかかり、非常にインパクトがクリーンになったことで攻撃力の切れ味に向上が見られる。フォア、バックに共通している強みはラケットの面がほとんどぶれないことで、握りの強さと振りのコンパクトさが相手のパワーを逆手に取った展開力を生み出している。

トータルバランスに優れたサービスゲーム

 バリエーション豊富なサーブも相手に対して難しい対応を迫ることのできる武器の1つで、デュースサイドでは200km/hを超える速いサーブを軸に、アドバンテージサイドではワイドに跳ねるキックサーブを軸にしつつ、勝負所では裏をかいた配球でエースを奪うなど、トータルバランスに優れたサービスゲームを展開する。また、ダブルスでのキャリアが先行していたこともあり、積極的にサービスダッシュを試みるのも特徴で、ネット際で見せるテクニックも水準以上のものを持っている。

玄人好みのクレー巧者テニスで隠れた強豪としての地位を確立

 今やジョコビッチや錦織の活躍により、クレーでもフラット系でどんどん打ち込むスタイルがテニス界を席巻しているが、彼のようにトップスピンを軸にして丁寧かつ執拗な組み立てと微妙な駆け引きの中でポイントを取っていく古典的なクレー巧者タイプが上位を賑わしている事実もツアーの中では見逃せない。彼のテニスはプレースタイルから各ショットのフォームに至るまで、全仏優勝の実績を持つアルゼンチンのガウディオに瓜二つだ。基本的に活躍の場はクレーに限られるが、それもスペシャリストらしいクエバスの特徴の1つと言うべきだろう。ただし、近年は彼自身ハードコートでも勝てるテニスの形へとシフトしているような印象もあり、クレーで培った高い軌道で相手を押し込むテニスに、展開のスピードが加わったことで、上位陣にとって危険度は増したといえる。勝利を目の前にして硬さが顔を出すメンタルは改善したいが、いずれにせよ今後もベテランらしいプレーで隠れた強豪としての地位をさらに確立していきそうだ。

 

Sam Querrey

サム・クエリー

 生年月日: 1987.10.07 
 国籍:   アメリカ 
 出身地:  サンフランシスコ(アメリカ)
 身長:   198cm 
 体重:   95kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  FILA 
 シューズ: FILA 
 ラケット: Babolat Pure Aero Plus 
 プロ転向: 2006 
 コーチ:  Scott Doerner 

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 長身を活かした強力なサーブで相手を崩し、アプローチを打ってネットで仕留める、いわゆるアメリカンスタイルのネットプレーや、強く打ち抜くパワー系のストロークによる攻撃力を武器に、近年低迷するアメリカ勢を懸命に牽引するベテランビッグサーバー。期待の大型プレーヤーとして注目を浴びる中でデビューし、キャリア序盤は08年地元ラスベガス(250*)でのツアー初優勝や10年メンフィス(500)でのビッグタイトル獲得など比較的順調にトップ20までランキングを伸ばしてきたが、故障に泣かされたこともあり、燻る存在に落ち着いてしまった感はある。とはいえ、ウィナーの多い派手なプレースタイルは、ハマるとトップ10級をも破る力を持っている。ウィンブルドンで2年続けてNo.1を撃破した活躍が記憶に新しく、16年は3回戦でジョコビッチを破って、彼のグランドスラムにおける連続ベスト8記録に終止符を打ち、17年には準々決勝でマレーをフルセットで下す金星を挙げ、自身42度目のグランドスラムで初のベスト4を記録している。また、17年アカプルコ(500)では大会を通してゾーンに入ったようなパフォーマンスを継続し、ゴファン、ティーム、キリオス、ナダルといった強敵を次々と打ち砕き、文句の付けようがない鮮烈な優勝を飾った。ハードコートを最も得意とし、とりわけアメリカ国内で行われる大会で好成績を残している。

決まり出したら止まらないサーブの爆発力

 2m近い長身から叩き落とすようなビッグサーブは彼の最大の武器で、エースの数や1stポイント獲得率はツアー屈指の数字を誇る。最速230km/hを超えるフラットサーブを得意とし、センターにもワイドにも速いサーブで相手を圧倒しフリーポイントを量産する。彼のサーブの爆発力を知るうえでは、07年インディアナポリスでのブレーク戦でATP記録となる10連続エースを叩き込んだ事実がまさに象徴的だろう。ダブルフォルトが多く、1stとは打って変わって威力が貧弱な2ndの質にトップとの差を感じるが、そこを改善できればさらに高いサービスキープ率を実現できるはずだ。

大胆なフォアの一発をどれだけ活かせるかがストローク戦の鍵

 ひたすらにコーナーを狙ってボールが潰れるほどのハードヒットを繰り出していく破壊力抜群のフォアハンドも大きな武器の1つで、攻撃的なテニスにあって生命線となるショットである。直線的な軌道のウィナーを量産するが、ボールを引きつけて上半身を捻るため出所が見づらく、スイングスピードが非常に速いため、スピードボールでありつつしっかりとスピンが効いているのが特徴である。浅いボールに対して左足でステップインして打った時の威力は相当なものがあり、ビッグサーブとのコンビネーションで多くのポイントを生み出す。また、ストローク戦の中でもチャンスボールと見るや高い打点をとって大胆にストレートに叩き込む豪快さは相手に脅威を与える。手首の強さがあるため、やや不十分な体勢からでも強引にボールを叩いて相手コートにねじ込む力があり、ギャンブルともいえるこうしたショットが入ってくると相手としても対処のしようがない。バックハンドも一発は備えるものの、ややフォームが硬く、対応力に問題を抱える点を本人も自覚しているせいか、リスクを承知のうえでかなり広範囲をフォアでカバーし攻撃に繋げようとする傾向がある。ただし、そのフォアにしろ、確実に深く打たれたり、低く滑るボールを多用されると、持ち前の攻撃力が半減してしまう弱みがある。また、相手に守りを固められた時にそれを打破するための武器を現状では持っておらず、サーブ頼みのスタイルから脱却を図るうえでは、強打に何かプラスアルファが欲しい。その中でここ最近新たなオプションとして確立しつつあるのは、バックで踏み込んで放つアプローチ気味のショットがそのまま鋭角を抉ってウィナーとなるパターンだ。自由度が低いと思われていた小さなスイングが逆に生きているのがこのショットで、ネットへ詰める動きとの連動性が非常に高く、多くのプレーヤーがクエリーといえば長い溜めからのビッグショットという固定観念を持っていることもあいまって意外性は抜群だ。対戦相手とすればクエリーとの試合では凄まじいスピードとパワーを受け止める力があることが絶対条件であるものの、そのうえで速い展開を作って前後左右に振り回し、ミスを引き出すことができればそれほど難しい相手ではない。

近年の躍進は多面的なテニスの習得の賜物

 ポイントの組み立て方やサーブとフォアで一気に攻め立てるプレースタイルの系統は、同胞でしばしばダブルスでペアも組むイズナーとほとんど共通している。一発の怖さでやや劣る分、大柄な割に優れる機動力や粘り強さ、安定感といった部分で上回るというのが彼のテニスだが、それはあくまでイズナーとの比較のレベルの話で、本質的には勝つ時は気持ちよく勝ち、負ける時は意外にあっさりといういかにも最近のアメリカ人らしいプレーヤーといえる。とはいえ、近年の躍進はバックハンドやネットプレーなど本来の持ち味とは異なる部分の向上により多面的なテニスへとシフトしてきたことが大きな要因であることは間違いない。潜在能力は高く、年齢的には成熟期に入るため、今後の数年間がキャリアを分ける正念場となりそうだ。

 

Adrian Mannarino

アドリアン・マナリノ

 生年月日: 1988.06.29 
 国籍:   フランス 
 出身地:  ソワジー・ス・モンモレンシー(フランス)
 身長:   180cm 
 体重:   79kg 
 利き手:  左 
 ウェア:  lululemon 
 シューズ: NIKE 
 ラケット: Babolat Pure Aero 
 プロ転向: 2004 
 コーチ:  Erwann Tortuyaux 

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 キレのある回転系のサーブを左右に散らし、小気味良い動きと下半身の粘り強さを活かして根比べの打ち合いを愚直にものにする、相手の心を折るような戦い方を持ち味とし、芝やハードコートといった速いサーフェスを中心に強さを発揮するスピードタイプのレフティープレーヤー。数年前までチャレンジャーツアーを中心に回る中で幾度となくタイトルを獲得し、しっかりと実力の基盤を固めたうえでツアーレベルへと徐々に主戦場を移してきた経緯を持つが、相手のショットを利用して跳ね返すボール処理のうまさをベースに、パワーよりキレとテクニックで勝負する彼のテニスは、今のツアーにはなかなか見られないタイプであるため、上位陣もひとたび戦術を間違いマナリノの土俵ともいえるスローペースに引き込まれると、大いに手を焼かされるような存在だ。18年までに通算6度のツアー決勝を戦いながら一度も勝てず、準優勝10回の無冠で悲運のキャリアを終えた同胞のベネトーと同じレールに乗ってしまった雰囲気も出ていたが、19年スヘルトーヘンボス(250)でついにツアー初優勝を飾った。17年に大きな飛躍を果たした日本の杉田が同年に重要な大会において3度対戦しいずれも接戦を繰り広げた相手として、また東京(500)の楽天オープンで決勝まで勝ち進んだ活躍もあり、日本での知名度も上がっている。Twitterで自身が使用するものと同じモデルのラケットを探しているとファンに呼びかけたり、お気に入りのウェアを1年以上に亘りどの大会でも着用したりと、思考や性格も含めてとにかく不思議なプレーヤーだ。右脇腹には“Behind every tear there’s hope.”というタトゥーが刻まれている。

丁寧にコースを突いて長いラリーを愚直に挑む超曲者なストローク

 ストロークはフォアハンド、バックハンドともに極端にショートテイクバックで相手のショットの球威を吸収しながら、丁寧にコーナーを突いて崩していくのが彼のスタイル。スイングをコンパクトにすることでコースを相手に読ませず、またベースライン付近の立ち位置からテンポの速いライジングで展開していくことを可能とし、パワーの欠如をタイミングで補っている。以前はどちらかと言えば淡白なプレースタイルで、自ら先に仕掛ける展開を作れなかったり、攻めを確実に受け止められて長いストローク戦を強いられるとあっさりとミスを出すことが多かったが、現在はむしろその真逆といってよく、厳しい攻撃に対して低い姿勢で延々と食らいつき、安定した返球能力を駆使して相手のミスを誘発させるスタイルへと劇的な変貌を遂げている。しつこさを戦い方の軸に据えるプレーヤーにとって安易なストレートへの返球は振り切られる可能性を高める要因にもなるが、その中でラリーの応酬が始まるとほとんどをクロスのそれも深いところにに持っていけるのが彼の凄さ。あまり回転をかけない技術面での特性もあいまって、バウンド後にボールが滑っていく分、守りながらも相手を押し込むこともできるのが強みとなっている。元々技術的には守備型に適した特徴を備えており、薄いグリップながらかなり打点を引き付けて手首の返しでボールを捉える独特なフォアはまさしくその例といえるだろう。左利きのフォア側から飛んでくるボールとしては軌道が非常に特異で、相当なスピードも出るため、クロスへのカウンターで相手を振り切ることができる。また、微妙な打点の調節を上半身の屈み具合と腕の曲げ伸ばしで行う独特な特徴もあり、フットワークは早い段階で足をぴたりと止めるのが彼流である。バックも同様にクロスに深く鋭く伸びていくフラット系のショットを得意としており、これを起点に相手の浮き球を誘い出し、ポジションを前に上げるチャンスを巧みに生み出す。また、より高い打点から叩くために、ジャックナイフも多用して相手を押し込む姿勢を見せる。対マナリノにおいてはいかに浮き球を誘い出せるかが重要で、シンプルにオーバーパワーを狙うのか、フォア側に遅いスライスを集めてカウンター戦術を機能不全に陥れるか、その手段は人それぞれであろうが、低い弾道の打ち合いではなかなかポイントを重ねていくことは難しい。

スライスとフラットの打ち分けが印象に残るサーブ

 左利きの利点を活かしたサーブも武器の1つで、とりわけアドバンテージサイドからのサーブは簡単にコースを読ませない。センターマークからやや離れた位置に立つことで、より厳しい角度へのプレースメントを実現しているワイドへのスライスサーブは非常に印象深く、このサーブへの対応の良し悪しがマナリノとの対戦の鍵になっている。また、それを相手に強く意識させて勝負所ではセンターへ200km/hを超えるフラット系のサーブでエースを取ることもできる。

受けながら相手を崩すカウンターテニスの真髄

 これといって目立った成績を残して現在のランキングまで到達したわけではないため、あまりよく知られる存在ではないが、逆にそれだけ安定した力で掴み取ったのが今の位置と言うことができる。タイミング、プレースメント、球速を自在に操って、受けながら相手を崩すカウンターテニスの真髄ともいえる彼のプレーは必見。実力的には遠く及ばないものの、技術的には彼自身憧れの存在と話す元No.1のリオスとの共通点が多く、最終的なテニスの理想形はそこといえそうだ。ストロークを磨くことによって、感覚の鋭いボレーに繋げる形をもっと増やせれば、真の意味でのトップレベルで渡り合う才能は十分に備えているプレーヤーであり、今後がまだまだ楽しみだ。

 

Daniel Evans

ダニエル・エバンズ

 生年月日: 1990.05.23 
 国籍:   イギリス 
 出身地:  バーミンガムイングランド
 身長:   175cm 
 体重:   75kg 
 利き手:  右 
 ウェア:  LUKE 
 シューズ: adidas 
 ラケット: Wilson Pro Staff 97 (18×20) 
 プロ転向: 2006 
 コーチ:  Sebastian Prieto 

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 キレのあるバックハンドのスライスを軸にラリーを組み立て、俊敏な動きで流れるような展開を作り出すイギリスのオールラウンダー。デビュー当初はイギリス国内で最も有望な若手として期待されていたが、同時に彼自身のテニスに対する意識の低さが指摘の対象となることも多く、家族やコーチや協会からも見放されかけた時期もあった。近年はようやくプロ精神が芽生え始め、本来の才能に努力が積み重なって、初のトップ100入りを果たしている。後にチャンピオンに輝くバブリンカをフルセットまで追い詰めた16年全米や、チリッチを下す番狂わせを演じた17年全豪の活躍により、彼のポテンシャルは大きな脚光を浴びていたが、その矢先にコカインの陽性反応で1年間の出場停止処分が科せられ、再びキャリアは振出しに戻ることに。性格の根本部分はそう簡単に変わらないと痛感させられる出来事だったが、復帰後はさすがの実力を発揮していち早くトップレベルに返り咲いている。三十路を迎えてテニスの成熟度に精神面が追いついてきた印象のある近年は完全に30位付近に定着し、21年にはメルボルン(250)で念願のツアー初タイトルを手に入れた。日本では、当時トップ10を視野に捉え始め期待も膨らんでいた錦織が13年全米の1回戦で惨敗を喫した相手として、またはメーカーとの契約が切れていた17年全豪において現地のユニクロでまとめて調達したウェアを着用していた微笑ましいプレーヤーとして、記憶しているファンも多いはずだ。

スライスの散らしから多彩な展開に持ち込む綺麗なテニス

 ストロークでは多様な回転とコースを打ち分け、思い切った判断でネットプレーも果敢に織り交ぜていく彼のプレーに対して抱く第一印象は、非常に綺麗なテニスであるということ。高い位置に肘から引いていくフォームが特徴のフォアハンドは崩しと決めの局面で軸となるショットで、クロス、逆クロスに角度をつけていくスピン系のコントロールに優れ、パワフルな一発で仕留めるような武器を持たない分を、オープンコートを作り出す巧みなアングルショットと次をボレーで処理するコンビネーションで十分に補っている。また、フォアは強烈なカウンターショットも得意としており、外側に追い出された位置から反撃するストレートは特に相手にとって脅威である。そのほとんどをスライスで返球していくシングルバックハンドは、彼の奥の深い組み立てを実現するうえで最も重要なショットと言っていい。クロスからストレート、深いところから浅いところまで正確に鋭く滑る攻撃的なスライスを散らして、相手には高い打点を取らせないことで決定打を許さず、逆にチャンスボールを誘い出してネットも絡めた自らのペースに引き込んでいく。ただし、リターンも含めてややスライスの割合が高すぎる部分もあり、フォアに回り込まれるケースも目立つ。少なくとも上位相手には自分から攻める展開を作らなければ勝てないことを考えると、もう少しバックの強打を増やしてもいいかもしれない。決してスピンが苦手なわけではなく、十分に時間のある場面や思い通りの形に持ち込めた場面で放つ強打は非常に伸びがあり、相手のバランスを崩すことに成功している。相手次第でスピン主体の戦術も身につければ、得意のスライスがより生きる効果もあるだろう。

小柄のハンディを補って余りあるパワフルなサーブ

 小柄のハンディを背負っていながら、全身を大きく使ったダイナミックなフォームから繰り出す強力なサーブを備えていることも彼の特徴で、200km/hを超えるフラットサーブに加えて、とりわけアドバンテージサイドで多用する外に大きく跳ねるキックサーブを持つため、2ndの質が高いのが大きな強みである。2ndでも強気に打っていくため、大事な場面でのダブルフォルトも多いが、これはどちらかといえばメンタルの問題といえる。

試合中の浮き沈みが激しいメンタル

 テニスのうまさという点ではトップ50に定着してもおかしくない実力を持っているが、やはり弱点は一にも二にも精神面の不安定さである。試合中のメンタルの浮き沈みが極めて激しく、頭に血が上った状態ではプレー全体が雑になり、それまでの試合展開を壊してしまうこともしばしば。警告をとられない軽く叩きつけるものも含めるとラケットを放り投げる回数が最も多いプレーヤーの1人と言ってもよく、若手と呼べる年齢ではすでにないだけにそろそろ落ち着きを手に入れてほしい。

マレーに続くイギリスNo.2争いをモチベーションにしたい

 バックのスライスによるペースダウンとフォアで攻撃のスイッチを入れるペースアップの緩急で、瞬く間に相手を翻弄する魅力的なテニスを持つエバンズ。年齢的にはベテランに差し掛かっていくが、フィジカルを維持さえすれば技巧派の彼の最盛はまだこの先にあるはずだ。マレーの献身により今やデビスカップで常に上位を争うようになったイギリスだが、シングルスの2番手は固定されておらず、その枠は若手のエドマンドやノリー、ベテランのウォードと熾烈な争いとなっている。それも1つのモチベーションとして今後さらに躍進を遂げてほしい正統派タイプのプレーヤーだ。